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目指すは3Dプリンターの半導体版!?ミニマルファブ ・プロジェクトリーダー原 史朗氏インタビュー

ジーンズで半導体を作る生産革命!~ミニマルファブ原 史朗氏インタビュー~

産業技術総合研究所 原 史朗氏

半導体は、何千億円もの投資で巨大工場を作り、空気がキレイなクリーンルームで生産する。そんな現在の概念を覆す新しい半導体生産システム「ミニマルファブ」が、ミニマルファブ技術研究組合により開発されています。

使用するシリコンウエハは0.5インチ。幅30cmの製造装置を並べ、わずか5億円で製造ラインを作るというもの。ウエハは密閉ケースで運ぶので、なんとクリーンルームが要りません。まさに、3次元プリンターの半導体版のような世界が、日本の研究者や企業によって、実現しようとしています。

そこで、ミニマルファブの生みの親である、原 史朗氏にお話をお伺いしました。原氏は、産業技術総合研究所ファブシステム研究会代表であり、ミニマルファブ技術研究組合のプロジェクトリーダーです。ミニマルファブとは一体何なのでしょうか。

1. ミニマルファブとは?

茨城県つくば市にある産業技術総合研究所の一室を訪れると、モノトーンで統一されたミニマルファブの装置がズラリと並んでいました。装置は全て同じ外観をしていて、タッチパネルの操作画面もほとんど同じ。

しかし、それらの中身を見ると、それぞれが異なる工程に特化していました。半導体デバイスの製造は、成膜、リソグラフィー、エッチングなど複数の工程を経ます。1つの装置が1つの工程を担い、多いもので600回以上の工程を繰り返します。半導体デバイスは、このようにして完成します。

工程の順番に並ぶミニマルファブたち

工程の順番に並ぶミニマルファブたち

訪問したTech Note編集部は、幸運にもリソグラフィー工程を体験させてもらうことになりました。ウエハの入った容器を装置にセットして、緑色のスイッチを押すと、あっという間に処理が完了。私たちはこの間、クリーンスーツを着ることも、ウエハに触れることもありませんでした。半導体生産は重厚長大。そんな従来のイメージとは、あまりにも異なる体験です。

この赤い容器(シャトル)に0.5インチウエハが入っている

この赤い容器(シャトル)に0.5インチウエハが入っている

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2. だれもが半導体をつくれる時代に

――なぜ、半導体製造装置が「幅30cm」なのでしょうか?

装置を操作する原氏

装置を操作する原氏

原 史朗氏(以下、原氏):私は、巨大化した半導体産業が大きな需要を満たすばかりで、多品種少量、つまり小さな需要に答えられないことに、大きな問題を感じていました。例えば、宇宙開発です。放射線対策を施した信頼性の高いチップ数個を生産するのに、現状ではユーザーがウエハ1枚分のコストを負担しています。

このような状況に風穴を開けるために、ミニマルファブを考えました。大手半導体メーカーは、どうしても大きな市場に注力します。一方で、ミニマルファブの登場は、多品種少量へのハードルを下げます。新規参入を促し、潜在的な新しいニーズを満たすことができるのです。

私は、長い時間をかけ、装置とウエハサイズの小型化について、コンセプトの検討を重ねました。多品種少量のニーズを満足するウエハサイズと、装置の物理的な制約。その最適な落としどころが、総投資額が約5億円で済み、0.5インチウエハを幅30cmの装置で処理する、このミニマルファブだったのです。大まかに言うと、ミニマルファブは現在の半導体製造装置と比べて、設置面積は1/100、ウエハサイズは1/1,000、総投資額は1/1,000になります。

――ミニマルファブの普及により、どんなインパクトがありますか?

原氏:私は、個人がインターネットで必要な半導体を発注し、手に入れることが出来る時代が来ると考えています。これはすでに、プリント基板などで実現しているモデルで、半導体でも可能なはずです。

ファウンドリーがミニマルファブを導入し、プロセス技術を開発します。すると、その情報は商品としてインターネットに公開されます。また、回路設計会社は、ミニマルファブ向けの回路設計を行い、同様に商品として公開します。ユーザーは、自分が作りたい半導体に合わせ、それらの情報を組み合わせて発注するのです。

それぞれの設計会社やファウンドリーには、得意分野があるでしょう。設計情報がインターネットに公開されていれば、多数のユーザーによって、それらが格付けされることになります。これによって、ユーザーは適切な組み合わせを判断し、選択することが出来ます。ミニマルファブというインフラをベースにして、「食べログ」のような世界が、半導体産業にもたらされるのです。

3. ターゲットは1万個以下

――なぜ、0.5インチウエハなのでしょうか? 1インチではダメなのでしょうか?

原氏:0.5インチのウエハサイズは、1万個以下の多品種少量ニーズを満たす最適な大きさです。これは、綿密なマーケティングに基づいた結果で、1インチの場合、ロットあたりの生産数が多すぎると判断しました。さらに、0.5インチは後工程の簡略化も可能にします。このあたりは、民間の技術者とも議論を重ねているところです。

1インチだと、実装時にダイシング(ウエハ上に多数形成したチップを切断する工程)をしなければなりません。しかし、0.5インチならば、そのままプリント基板に実装する選択肢が出てくると考えています。ミニマルファブは、新しい半導体市場を生むだけでなく、半導体を製品に組み込む手法も変えてしまう。私は、ミニマルファブで半導体の世界を作り直したいのです。

0.5インチウエハなら、そのまま半導体デバイスにパッケージできる

0.5インチウエハなら、そのまま半導体デバイスにパッケージできる

――ミニマルファブは、現在の半導体、例えばFPGAと競合しないのでしょうか?

原氏:ミニマルファブは、新しい市場を切り開く構想です。小ロットが必要なお客さんに選択肢を提供するのがミニマルファブで、そこに棲み分けという発想はありません。また、ロジック、アナログといった用途の限定は一切ありません。主戦場は全ての分野です。ただし、デバイスの生産数は1万個以下として明確にターゲットを絞っています。

FPGAの弱点は、発熱、動作速度、高単価、多大な開発時間です。現状では多品種少量でよく利用されますが、私はFPGAが最適解だと思いません。例えば、動作が遅く、電力消費が大きいFPGAは宇宙開発に向きません。選択肢が他に無いため、ユーザーは仕方なく利用している側面があるのです。

よって、ミニマルファブとFPGAは競合しません。同じ機能を作るのに、前者はハード的なアプローチを、後者はソフト的なアプローチをするのであって、両方が提供できることはユーザーの利益になります。両者があることで、相補的な役割を果たすことが出来ると考えています。

よく「CPUやメモリを作らないのか?」という話をもらいます。もし、インテルがミニマルファブで多品種少量の生産をするとしたら、私は大歓迎の立場です(笑)

――量産する場合、ウエハ搬送ロボットが必要になるのでしょうか?

原氏:現在、自動搬送システムを開発中です。多品種少量といっても、単価が安いチップは自動搬送を導入しないと採算が合いません。ショットキーバリアダイオードがその例です。しかし、高価なデバイスはオペレーターが直接搬送するのが良いでしょう。自動搬送するのは、逆にリスクだからです。

脱着可能な自動搬送装置(試作)。ウエハの入ったシャトルを、バケツリレーのように運ぶ。ミニマルファブは、研究から量産まで、全てをこなせるよう設計されていた

脱着可能な自動搬送装置(試作)。ウエハの入ったシャトルを、バケツリレーのように運ぶ。ミニマルファブは、研究から量産まで、全てをこなせるよう設計されていた

 ――2016年現在、ミニマルファブはどのような状況でしょうか?

原氏:2012年に、ミニマルファブの装置を用いてMEMSカンチレバー(微小な片持ち梁)の製作に成功しました。2013年にはトランジスタの製作にも成功しています。

我々は、全ての半導体の生産工程を、ミニマルファブにすることを目指してきました。これにより、クリーンルームが不要になります。しかし、一度に全ての工程に必要な装置は用意できません。そこで、ユーザーには既存の装置を徐々に置き換えるかたちで導入していただきました。全ての装置の完成を待っていたら、いつまでも市場に出せないとの思いからです。

一番初めに完成したのはリソグラフィー装置です。2014年に大手メーカーに導入していただきました。徐々に各工程をカバーする装置が増え、2015年には、全てのトランジスタの製作工程をミニマルファブで行えるようになりました。

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4. 技術力のある中小企業と連帯

――ミニマルファブ技術研究組合は、主に国内の中小企業で構成しています。大手企業の協力は難しかったのでしょうか? また、海外の企業と協業する予定は?

原氏:半導体メーカーからは、どこも利用したいという引き合いがあります。やはり、多品種少量を生産したい需要はあるのです。しかし、大手半導体製造装置メーカー大変反応があり興味を持っているのですが、開発をやろうとしません。

彼らは、顕在市場、つまり自社の製品群と相乗効果が見込める分野へ優先的に参入するように仕事を展開してきました。ミニマルファブの狙う、潜在的な少量多品種市場に対して、なかなか踏み出せないのだと思います。

海外の企業との協力は考えています。しかし、まだその段階ではありません。私は、このミニマルファブを本当に事業化したいと思っています。あるところで突出した技術力を持っている中小企業でも、規格の制定や海外への展開は難しいのが現状です。

だから、ここで欧米諸国と規格争いをしたくないのです。海外へは、全ての規格が完成してから輸出する予定です。世界中のユーザにとって規格が統一されていることは良いことです。日本が半導体産業の新しい規格を作っていくことが重要です。

5. ミニマルファブの原点は学生時代に

――原先生は、学生時代にSiCの表面・界面の研究をされています。そこからミニマルファブを立ち上げるまでに至った経緯には、何があったのでしょうか?

原氏:私は、学生時代から研究者を目指していました。確かに、現在は純粋に物理学をやっているかというと、そうではありません。しかし、私は常にクリエイティブなことをしていれば良いと思い、活動しています。ミニマルファブの構想は、非常にクリエイティブだし、純粋に物理学を追求した先に、ここまでたどり着いたという経緯があります。

90年代の初め頃でしょうか、精力的に最先端の研究を進めるにつれ、重箱の隅をつついていると感じるようになりました。国内で私の研究を理解する人が居なくなったのです。以来、Siの研究に転身し、歩留まりの問題に取り組みました。

歩留まりには、素子がそもそも使えるか使えないかという問題「デジタル歩留まり」と、その合格品の性能にもばらつきがある問題「アナログ歩留まり」の2つがあります。「アナログ歩留まり」の例として、DRAMとCPUを考えてみましょう。

2種類の歩留まり(引用:局所クリーン化の世界)

2種類の歩留まり(引用:局所クリーン化の世界)

――ここから、インタビューはまるで大学の講義のような展開に…

DRAMを製造して、各セルに必要なリフレッシュタイムが正規分布的に現れたと想像してください。同一性能の製品として売り出すとすると、低性能なセルにリフレッシュタイムを合わせることになります。例え、リフレッシュタイムの平均値が数秒オーダーだとしても、実際は数マイクロ秒オーダーに設定する必要があるのです。セルのばらつきは、非常に大きな問題です。

同様にCPUの場合も、ウエハ1枚から取れる各チップの動作周波数が、正規分布的に現れると想像してください。チップごとのばらつき、つまり「アナログ歩留まり」を改善することが、企業にとって非常に重要な問題であると、分かると思います。

チップごと、セルごとのアナログ歩留まり(引用:局所クリーン化の世界)

チップごと、セルごとのアナログ歩留まり(引用:局所クリーン化の世界)

私は、実験を重ねる中で、「アナログ歩留まり」の改善には、パーティクル(半導体に欠陥を生じさせる、微小なゴミ)の低減ではなく、酸素の低減をはじめとした環境物質の制御が有効である、と考えるようになりました。一方で、現在の半導体工場の状況を考えてみましょう。クリーン化されているとはいえ、ウエハはどうしても外気にさらされます。酸素の影響は免れません。

ガス遮断による性能揺らぎの消滅(引用:局所クリーン化の世界)

ガス遮断による性能揺らぎの消滅(引用:局所クリーン化の世界)

以上の点から、私はウエハから常にガスを遮断する必要があると考えました。ここから、0.5インチウエハを密閉する容器(シャトル)を発案するに至ったのです。おかげで、ミニマルファブはクリーンルームが不要になりました。開発は困難を極め、今の形になるのに3年以上かかりました。しかし、自分がやってきたことが本質的だと分かっていたので、前に進むことが出来たのです。

開封した状態の0.5インチウエハ用シャトル。開閉に電磁石を用いる

開封した状態の0.5インチウエハ用シャトル。開閉に電磁石を用いる

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6. 今後の展望

――ミニマルファブを製造する、新しい半導体製造装置メーカーが誕生するのでしょうか? 海外への展開は?

原氏:私自身は、新しくベンチャー企業をやろうとは思っていません。日本の環境で新しく起業するには、リスクが大きすぎます。中村修二氏には「米国でやるべき」と何度も言われてしまいました(笑)。だから、体力のある企業と一緒に仕事をします。

ミニマルファブのビジネスモデルは、2つあります。1つは、先進国の多品種少量モデル。2つ目は、新興国の産業育成に貢献することです。例えば、ベトナム。彼らは、自国で消費する半導体を中国などの他国に依存したくないと考えています。ベトナムはインテルの後工程工場の誘致に成功していますが、前工程の工場は不透明です。そして、彼らは使える予算も少ない。

そこで、ミニマルファブに注目が集まりました。今春、現地から日本に技術者を派遣してもらい、人材の育成に取り組みます。人を育てるのが一番の近道でしょう。最近では、タイからも引き合いが来ています。数年後には、海外にミニマルファブを販売する予定です。「夢のある話」ではなく、すでにリアルな事業として動き出しているところです。

――最後に、テクノロジーリーダーの1人としてTech Noteの読者に一言、お願いします。

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原氏:志を曲げないでほしいです。大事だと思っことを、やりきってほしいですね。ミニマルファブも、私が大事だと思ったことをやりきっただけ。そうすると、人間は結構何でもできるところがあります。実は、何かをダメだと諦めているのは、いつも自分です。他人が決めているわけじゃない。他人がダメだと言うときも、大抵、自分の顔にダメだと書いてあるもの。すると、他人はそれを読み取って、ダメだと言うんです。

日本社会はボトムアップ。実は、やりたいと思って一生懸命実行していることは結構そのままやらせてくれるんですよ。私は、自分で何でもできると思っている訳ではありません。でも、他人が1個やるところを、私は20個やってきた。そうすればできてしまう。一方、はじめに何か発明してがんばっていたら、賛同者が現れ、そしてリソースの投入で何とかなることもある。技術者はあきらめてはいけないんです。不格好でも、やり続けること。そうすれば、道は必ず開けます。

――なるほど。ミニマルファブの今後にも、期待しています。本日は、ありがとうございました。

ミニマルファブ技術研究組合(茨城県つくば市)

平成24年設立。「革新的製造プロセス技術開発(ミニマルファブ)」の採択を受けた国家プロジェクトとして、現在は25の民間企業が参画。産官学およびファブシステム研究会会員企業と連携し、21世紀のあるべきファブシステムを創造するための諸活動を行っている。

詳細は、こちら をご覧ください。

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