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AI誕生から第2次AIブーム(知識推論型AI):AIの基礎知識1

AIの基礎知識

更新日:2020年6月11日(初回投稿)
著者:慶応義塾大学 理工学部 管理工学科 教授 山口 高平

AI(Artificial Intelligence:人工知能)は、未来に実現可能な技術ではなく、既に、私たちの身近に存在する技術です。自ら学習しプロ棋士をも圧倒する将棋ロボットや、日常会話の微妙なニュアンスにも対応する翻訳ロボット、また、私たちが使うパソコンやスマートフォンにもAI技術は搭載されています。本連載では、6回にわたり、60年以上の歴史を有するAI技術の変遷、およびその適用可能性と限界について紹介します。第1回は、ダートマス会議におけるAIの誕生から、80年代のエキスパートシステム、第2次AIブームの知識推論型AIまでの流れについて解説します。

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1. AI技術の変遷

表1は、AIの誕生から1960年代の第1次AIブーム、1980年代~1990年代半ばの第2次AIブーム、2010年からの第3次AIブームまでの変遷を表します。

表1:AI技術の変遷

表1:AI技術の変遷

2. 第1次AIブームと第1次AI停滞期

1956年8月に、アメリカのニューハンプシャー州のダートマス大学で開催されたダートマス会議で、人の知的な振る舞いを実現するソフトウェアの研究をAI(Artificial Intelligence:人工知能)と呼ぶことが決まり、1960年代に第1次AIブームが起こりました。第1次AIブームでは、以下のAI基礎技術が提案されました。

・汎用問題解決方法として提案された手段-目標解析(初期状態を目標状態に近づけるオペレータを選択する方法)

・導出原理(拡張された三段論法)に基づく定理証明

・刺激反応モデルによる対話システムELIZA(イライザ)

・ロボット行動計画STRIPS(ストリプス)

また、機械学習について、アルゴリズムを与えなくてもコンピュータが自律的に問題解決パターンを見つけて問題解決能力を向上する仕組みと定義し、最初のニューラルネットワークである単純パーセプトロン(直線で分離できる線形分離問題のみに適用可能)が提案されました。

しかし、その後、AI基礎技術では実用問題は解けないことが分かり、1970年代は第1次AI停滞期となりました。この課題を解決するために、人の知識をコンピュータ内で表現・利用・獲得するための新しいAI研究分野として、知識工学が提唱されました。その実践例として開発されたのが、感染症診断システムMYCIN(マイシン)です。MYCINの診断精度は約65%まで向上し(専門医の精度は80%)、AIは実用問題にも適用可能であることが示されたのです。また、知識工学が提唱されたことで、AI技術は知識推論型AIと、データ学習型AIに大別されるようになりました。

3. 第2次AIブーム牽引技術1:ES

MYCINの成功を受け、専門家のように振る舞える知的システムを、ES(Expert Systems:エキスパートシステム)と呼ぶようになりました。ESは、第2次AIブームの牽引(けんいん)役となります。ESの最大の特色は、知識ベースと推論エンジンを分離したことにあります。専門家の持つ専門知識は、過去の経験に基づくため修正されることが多く、専門知識と、その利用方法である推論方法を、プログラム中に混在させて記述すると、専門知識の修正がプログラムレベルではさまざまな箇所に波及し、修正コストが大きくなります。このことから、専門知識をシステム化する場合、知識ベースと推論エンジンを分離することが鍵となりました。

しかしながら、ESの出現当時は、この開発方法の重要性が理解されず、知識ベースと推論エンジンを分離する意義はどこにあるのか? という質問を、産業界からよく受けました。この質問は、ESを適用するべき問題の特性を理解していないことに起因しています。すなわち、システム化される問題は、整構造問題(Well-Defined Problem)と、悪構造問題(Ill-Defined Problem)に二分されます。整構造問題は、処理手順が明確であり、修正が頻繁に起こらないため、従来のプログラミング言語での開発が可能です。一方、悪構造問題は、処理手順が不明確で、修正が頻繁に起こるため、プログラミング言語で開発すると修正維持コストが大きくなります。そのため、知識ベースと推論エンジンを分離するES開発方法論が適しているのです。

ES開発の方法論が理解されるようになると、ESに対する産業界の関心が高くなり、コンピュータ、鉄鋼、建設、電力、石油、化学、機械、ビジネスなど、さまざまな産業界で、診断、スケジューリング、設計支援などのESが開発されました。その数は、全世界で約5,000、日本国内では約1,000にも及び、ESは第2次AIブームの牽引者となりました。

4. 第2次AIブーム牽引技術2:第5世代コンピュータ

1980年代になると、産業界において、知識ベースと推論エンジンから構成されるESに大きな関心が寄せられるようになりました。その一方で、1982年には、日本最初のAI研究プロジェクトとして、述語論理に基づく推論を高速実行する並列推論マシンとそのOSを構築するという、第5世代コンピュータ(Fifth Generation Computing Systems:FGCS)の研究開発が開始されました。

それまで、ほとんどのAI研究がアメリカやヨーロッパ発であった状況下で、日本が大規模な国家プロジェクトとしてFGCSを立ち上げたことは世界からの注目を集めました。FGCSプロジェクトは、1982年から1992年までの11年間続き、国から570億円もの研究資金が投入されました。最終的には、1,000台規模の並列推論マシンと並列論理型言語KL1を核とするFGCSプロトタイプシステムが完成し、1秒間に5億回の演繹(えんえき)推論(導出原理)を実行できる世界最高速推論マシンを完成させました。

FGCSは学術的・技術的・人材育成には貢献したものの、産業界への貢献は小さかったと評価されています。確かに、FGCSは大規模並列推論エンジンによる推論高速化に貢献しました。しかし、大規模知識ベースの開発への貢献は希薄でした(図1)。アメリカのAIプロジェクトCYC(サイク)では、百科事典レベルの大規模な知識ベースを研究開発し、今もなお継続されています。しかし、FGCSでは、そのような試みはなされませんでした。

図1:第5世代コンピュータFGCS

図1:第5世代コンピュータFGCS

大規模知識ベースがあれば、推論エンジンによりさまざまな知識が連携され、その効用も見えてきます。一方、小規模知識ベースの場合、その効用は分かりません。また、大規模知識ベースが開発されても、推論エンジンが脆(ぜい)弱であれば、結果もまた然りです。知識情報処理システムという巨大な車を前進させるには、知識ベースと推論エンジンの両輪のバランスが重要であったといえます(図2)。

図2:知識情報処理システム

図2:知識情報処理システム

いかがでしたか? 今回は、AIの誕生から、第2次AIブームの知識推論型AIまでを紹介しました。次回は、第2次AIブーム(機械学習)を取り上げます。お楽しみに!

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