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自然の驚異から安全を確保する考え方:航空機の安全対策の基礎知識3

航空機の安全対策の基礎知識

更新日:2021年6月4日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、旅客機の事故から、自動化システムの問題点や課題を学びました。今回は、未知の突風で墜落した航空機の事故を例に、自然の驚異から安全を確保する考え方を説明します。

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1. 雷雨下の着陸で墜落したイースタン航空66便

1975年6月24日午後5時5分、イースタン航空66便、ボーイング727-225型機は、ニューヨークのJFK国際空港への着陸時に高度が低下し、22L滑走路の手前にあった誘導灯に激突しました。機体は大破炎上し、乗員乗客124名中112名が死亡、12名が救出されたものの、うち3名は1週間後に病院で亡くなるという大事故になりました(図1)。

 図1:滑走路手前の誘導灯に激突した墜落現場(引用:Wikidedia、イースタン航空66便着陸失敗事故)

図1:滑走路手前の誘導灯に激突した墜落現場(引用:Wikidedia、イースタン航空66便着陸失敗事故

事故当日、空港周辺は雷雨による豪雨と強風に見舞われていました。イースタン航空66便の10分前に着陸したDC-8型貨物機からは、途方もないウィンドシアに遭遇したという報告が管制官になされました。ウィンドシアとは、風向きが急変する状況をいいます。飛行機は、翼に対向する気流(翼に対する相対的な対気速度)により揚力を発生させることで、高度を保ちます。そのため、風向きが向かい風から追い風に急変すると、翼の揚力が急激に低下し、機体が急に高度を落とすことがあります。

管制官は、DC-8型貨物機からウィンドシアに遭遇したという報告を受けたものの、空港の風速計に強風の記録がなかったため、イースタン航空66便に着陸を許可しました。急激な高度の低下に気付いた乗務員は、墜落の直前に「離陸推力!」と叫び、エンジン推力を上げて機体を上昇させようとしました。しかし、誘導灯への激突を食い止めることはできませんでした。

2. パイロットミス説を覆した藤田教授の仮説

事故調査では当初、パイロットミス説が有力でした。事故調査委員会は、天候が悪かったためパイロットは滑走路を目視で捉えることに注力し、対気速度の低下に気付くのが遅れたのではないかと考えたのです。こうした状況で、イースタン航空はシカゴ大学の藤田哲也教授に、独自の調査を依頼しました。ウィンドシアの報告があったにもかかわらず、空港の風速計では問題となるような強風は記録されなかったことを不審に考えたためでした。

藤田教授はトーネード(竜巻)の研究で著名な気象学者です。現在の九州工業大学を卒業後、同大学で物理学助教授となり、1945年に長崎の原爆被害調査に参加します。彼は、原爆の圧力波が地上で放射状に広がり、木々を倒していたことに注目しました。そして、雷雲から下降気流が発生し、地上で気流が周囲に広がるという仮説を立てました。1953年、雷雲が作る下降気流の研究により東京大学で博士号を取得。その後、渡米し、シカゴ大学の教授となりました。

藤田氏の著書「ある気象学者の一生」によると、着陸失敗したイースタン航空66便のデータレコーダーを調べた結果、「事故の原因は単なるパイロット・エラーではなく、飛行機を落としたのは、雷雲から下降してきて、地面に激突し、放射状に広がった強風らしい」と推定しました。

図2のように、下降気流が周囲に広がる状況下で、飛行機が降下する場合を考えてみましょう。当初、飛行機は向かい風を受けます。しかし、下降風は周囲に広がるため、中心部を過ぎると風向きが急変し、追い風を受けるようになります。これがウィンドシアの原因です。風向きの変化により、飛行機は揚力を失い、墜落の危機に陥ります。

図2:マイクロバースト(上図、参考:FAA)とそれに遭遇した航空機(下図、参考:NASA(Making the Skies Safe from Windshear)を基に著者が制作

図2:マイクロバースト(上図、参考:FAA)とそれに遭遇した航空機(下図、参考:NASA(Making the Skies Safe from Windshear)を基に著者が制作

飛行機が高度を上げるには、操縦かんを引き、機首を上げる方法と、エンジンの推力を上げ、加速することで揚力を獲得する方法があります。前者は短時間に高度を上げることができるものの、急激な機首上げは翼の失速を招きかねません。

イースタン航空66便のパイロットは、後者を選択しました。高度が低い場合、失速は直ちに墜落に陥るため、パイロットがエンジンの推力を最大にして高度を上げようとしたことは適切だったといえます。ただし、ジェットエンジンはファンやタービンを回転させることで推力を得るため、スロットルを操作し、燃料流量を増加させても、推力が上がるまでには時間がかかります。そのため、パイロットの操作にもかかわらず十分な高度上昇が得られず、誘導灯に激突したと考えられます。

藤田教授は、こうした局所的な下降風をマイクロバーストと名付けました。マイクロバーストの範囲は限定的で、短期に収まるため、空港の風速計ではその発生を捉えることができなかったと考えられます。事故調査委員会は、イースタン航空66便の事故原因として、気流の変化にパイロットが対応できなかったことを認めました。

藤田教授の主張は認められたものの、マイクロバーストが直接に観測できたわけではなく、その仮説に異議を唱える気象学者もいたそうです。藤田教授は自ら軽飛行機に乗り、マイクロバーストが発生する証拠を捉えるべく探し回り、ついに強い下降風で局地的に穀物が倒された現場を見つけ出しました。

3. マイクロバーストを検知する空港の対策

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4. さらに進んだ対策は機体搭載型のウィンドシア警報装置

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5. レーザを利用した究極のウィンドシア警報装置

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