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化学工業の特徴と役割~産業を支える縁の下の力持ち~:化学工業の基礎知識1

化学工業の基礎知識1:化学工業の特徴と役割~産業を支える縁の下の力持ち~
更新日:2015年12月10日(初回投稿)
著者:公益社団法人化学工学会 SCE・Net 山﨑 徹

皆さんは、化学工業にどのようなイメージをお持ちですか? 海岸沿いの大きな工場群を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、自動車やエレクトロニクスのように、どのような工業分野か、すぐにイメージできる人は少ないかもしれません。

液晶テレビやスマートフォンといった製品と異なり、化学工業は消費者向けの製品をあまり製造していません。むしろ、それらの材料となり、間接的に消費者に渡る製品が多くあります。実は、化学工業は、われわれの生活を支える「縁の下の力持ち」なのです。

そこで、化学工業とはどのような工業であり、全製造業の中でどのような特徴を持つのかを解説します。本連載では「化学工業」と「化学産業」という表現が混在します。ここでは同じ意味として受け止めて構いません。

1. 化学工業とは

化学工業とは、ある物質に化学反応を施し、より価値の高い物質に転換する工業です。たとえば、ナフサ(原油を蒸留分離したもの)を分解するとエチレンが得られます。これを重合(化学反応)させるとポリエチレンという高分子物質が得られ、フィルムや成型加工品として利用されます。この一連の工程が、化学工業ということになります。

重合して得られるポリエチレンは、粒子状のペレットです。これを、密度や融点などの物性に応じて溶融します。そして、型にはめると容器やコンテナー、文具や雑貨などの製品となります(図1)。

いわゆるプラスチックの成型加工は、化学反応を伴いません。そこで、広い意味で化学工業を捉えると、以下のようになります。

  • 化学反応を施し、より価値の高い物質に転換する工業
  • 化学物質の性質、機能に関する知識を活用して、ある物質をより高い価値を持つ状態に変換する工業(薬品類の配合や樹脂の成型など)
  • 生物の機能を利用して有用物を生み出す工業(バイオテクノロジー)

図1:化学工業の例

図1:化学工業の例

化学工業は製造業です。これは、日本標準産業分類(総務省告示)に従った分類です(表1)。化学工業の中身には次のようなものがあります。

  • 化学肥料、カセイソーダや塩素などの無機化学、石油化学などの基礎化学
  • せっけん、合成洗剤、塗料、化粧品、火薬、香料などのスペシャリティ・ケミカルズ
  • 医薬品、農薬など

本稿では、この分類における化学工業、プラスチック製品製造業、ゴム製品製造業の3つをまとめて化学工業とみなし、統計上の数値などを紹介していきます。

表1:産業の分類(日本標準産業分類より)表1:産業の分類(日本標準産業分類より)

2. 化学工業の特徴

化学工業はプロセス産業

化学工業はプロセス産業と呼ばれます。これは、他の製造業が加工組立産業と呼ばれるのと対極的です。

  • プロセス産業
    例:化学産業、窯業、ガラス産業、紙パルプ産業、鉄鋼業、金属産業
  • 加工組み立て産業
    例:自動車、エレクトロニクス

ここで、設計について考えてみます。設計とは、製品を規定する情報のことで、機能設計、構造設計、工程設計の3つに分けることができます。

この概念でプロセス産業を定義すると、プロセス産業は工程設計の比重が大きな産業といえます。例として、エチレンなどを生産する石油化学を考えてみましょう。製品は化学物質そのもので、機能設計の余地は乏しいです。よって、生産工程をどのように設計するかで、製品のコストが左右されます。

これに対し、加工組み立て産業は、製品にどのような機能を持たせるかが製品の価値を決めます。そういう意味で、工程設計より機能設計の比重が大きな産業といえるでしょう。

化学工業は装置産業

化学工業は、装置産業でもあります。つまり、大型の設備や施設などによって、製品やサービスを生産する産業です。

装置産業の特徴は、スケールメリットです。生産能力を増加しても、装置の導入費用(設備費)は比例的に増加しません。一般に、生産能力の2/3乗に比例するといわれています。エチレンプラントが日本に初めて建設された当初、規模は年産数万トンでした。その後、10万トン、30万トン、100万トン(海外含む)と大きくなりました。技術の進歩と相まって、スケールメリットによる低コスト化が進んだのです。

産業内・産業間取引の大きい産業

化学工業は、業界内で何段階もの分業が行われています(図2)。化学製品というと、皆さんは家庭で使われる化粧品や洗剤のような消費財を思い浮かべることでしょう。しかし、実際には中間投入財(原材料として他の財を作るために使われる製品)がほとんどです。つまり、業界内で中間投入される比率が非常に高いことも特徴です。

図2:化学工業における製品の流れ

図2:化学工業における製品の流れ

この分業体制は工場の配置からも分かります。例えば、ナフサを分解して石油化学一次産品(注1)を生産する工場の周辺には、誘導品(注2)を生産する、資本のつながりのない企業の工場が集まっています。これらは、パイプであたかも1つの工場のようにつながっており、いわゆるコンビナートを形成しています。

注1:エチレンやプロピレンなどのオレフィン、ベンゼンやキシレンなどの芳香族
注2:ポリエチレン樹脂やエチレングリコールなどの化学品、テレフタール酸やポリエステル樹脂など

3. 製造業における化学工業の位置づけ

統計的な数値から、製造業の中で化学工業がどのような位置にあるか調べてみたいと思います。

自動車産業に次ぐ製品出荷額

製造業の製品出荷額を比較すると、自動車を中心とする輸送用機械がトップを占めています。化学工業は40兆円前後を占め、エレクトロニクスと2位を争うところに位置しています(図3)。化学工業は一つ一つの製品では目立たないかもしれません。しかし、まとめてみると有数の製造業であることが分かります。

図3:製造業の製品出荷額の推移

図3:製造業の製品出荷額の推移

トップクラスの付加価値額

付加価値とは、企業あるいは産業が生産活動により新たに生んだ価値です。具体的には、製品出荷額から原材料投入額、減価償却費などを差し引いた額です。国内のあらゆる産業の付加価値額の総計をGDPと呼びます。付加価値額で見ると、化学工業は自動車やエレクトロニクス産業と1、2を争う大きな産業です(図4)。

図4:製造業の付加価値額の推移

図4:製造業の付加価値額の推移

化学工業は、自動車やエレクトロニクスのように目立つ産業ではありません。しかし、日本のGDPに大きく貢献していることに注目してください。また、付加価値額を出荷額で割った付加価値率は非常に高く、全製造業の中でもトップレベルにあります(図5)。

図5:製造業の出荷額に対する付加価値率

図5:製造業の出荷額に対する付加価値率

化学工業は知識集約産業

化学各社は、売上高に対して6~7%を研究開発に費やしています。これは、自動車やエレクトロニクスとトップグループを形成しています(図6)。従業員1万人当たりの研究者の数を見ても、化学工業はエレクトロニクスに次いで多く、自動車と合わせてトップスリーを形成しています(表2)。以上から、化学工業は、研究を重視した知識集約産業であるといえます。

図6:製造業の売上高研究開発比率

図6:製造業の売上高研究開発比率

表2:製造業の従業員に対する研究者の割合表2:製造業の従業員に対する研究者の割合

図6を見ると、化学工業の中でも、医薬品製造業の売上高研究開発費比率が16~17%と突出して高いです。医薬品メーカーは、社会的にも経営的にも、新しい薬効を持った新薬の開発を常に期待されています。よって、売上げに対して多大な研究開発費を投入することを余儀なくされています。これが化学工業の売上高研究開発費比率を押し上げている一因です。

また、化学工業全体が、基礎化学品の分野から電子情報材料や機能性樹脂など、付加価値の高い機能化学品(スペシャリティ・ケミカル)の分野に軸足を移しつつあります。そのため、研究開発投資の割合が大きくなる方向にあることは間違いありません。

化学工業は資本集約産業

製造業の中でみると、化学工業の設備投資額は、自動車に次いで2位の大きさです。2012年の投資額は製造業全体の11.3%を占めました(図7)。設備投資額は社会全体や業種ごとの景気動向に影響を受けることを考慮しても、装置産業である化学工業は、資本集約産業といえるでしょう。

 図7:業種別の設備投資額の推移
図7:業種別の設備投資額2012年度(データ引用:日本化学工業協会「グラフで見る化学工業2014」)

皆さん、いかがでしたか? 化学産業が意外と大きな存在であることが分かったと思います。本連載では、化学工業の基礎知識を解説していきます。どうぞご期待ください。

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