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脱炭素化の基礎知識

脱炭素化の基礎知識
著者:東京大学 教養学部 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

「我が国は、までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわちカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」。菅義偉首相が、の所信表明演説でこう表明して以降、TVや新聞、ネットなどでは連日のように脱炭素化に関する報道がされるようになりました。脱炭素化とは、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素など温室効果ガスの排出を防ぐために、石油や石炭などの化石燃料からの脱却を目指すことです。世界が脱炭素化に向けて動き出す中、本連載では全6回にわたり脱炭素化について紹介します。第1回は、なぜ脱炭素化が必要なのかということをテーマに解説します。

第1回:なぜ脱炭素化が必要なのか

1. 地球温暖化問題とパリ協定

なぜ今、脱炭素化、二酸化炭素CO2など温室効果ガスの排出削減を進めなくてはならないのでしょうか。その根本には、地球温暖化(気候変動)問題があります。1750年頃に起こった産業革命以降、人類は石炭や石油などの化石燃料を大量に消費する社会に移行しました。工業化の進展により、CO2やCH4、一酸化窒素N2O、フロンガスなどの温室効果ガスが大量に大気中へ排出され、地球の平均気温は産業革命以前の水準より約1℃上がったと推定されています。このままのペースで温暖化が進行すれば、21世紀末の世界の平均気温は、からの平均よりも、最大で4.8℃上昇すると予測されています。

温室効果ガスの中では、CO2の占める割合が76%と最も日本が3.4%と世界第5位の排出国になっています。日本のCO2排出量のうち、燃料の燃焼をはじめ電気や熱の使用に伴って排出されるエネルギー起源のものが9割以上を占めています(図1)。

地球温暖化は気温の上昇だけでなく、海面上昇や世界的な異常気象の水準・頻度を押し上げるリスクが指摘されています。「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では、河川の氾濫などにより死者数が200人を超える甚大な災害となりました。気象庁気象研究所の報告書では、この豪雨被害は、気候変動の影響で総降水量が6.5%増えた可能性があり、今後も気候変動等の影響により、……

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2. IPCC「1.5℃特別報告書」のインパクト

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)とは、国際的な専門家でつくる、気候変動を評価する主要な機関です。2050年カーボンニュートラルの流れが加速したきっかけは、IPCCがに発表した、「1.5℃特別報告書」(図2)によるインパクトが大きいといえます。菅首相の所信表明演説にもあったカーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いて実質ゼロにすることを意味しています。

図2:IPCC、1.5℃特別報告書(Global Warming of 1.5℃)

図2:IPCC、1.5℃特別報告書(Global Warming of 1.5℃)

この報告書では、「産業革命以降、人間活動は約1.0℃の温暖化をもたらし、現在の進行速度では、早ければからの間に世界の平均気温が1.5℃上昇する可能性が高い(図3)。1.5℃未満に抑制するためには、世界で排出されるCO2排出量をまでに比で45%とし、2050年頃には森林などの吸収分や回収技術によって、……

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3. 脱炭素化を促すESG投資

1.5℃特別報告書は、各国のカーボンニュートラル表明を強力に後押しすることとなりました。加えてもう1つ、脱炭素化を促したのは、世界の金融機関や機関投資家によるESG投資の拡大です。ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素も考慮した投資のことです。金融機関が、企業のESG要素への配慮を厳しくチェックし、サステナブルな投資案件に積極的に投資(インベストメント)する一方、地球温暖化の要因となる石炭や石油への投資撤退(ダイベストメント)に動き出し、投資先の脱炭素化を促しています。近年、CO2を多く排出する石炭火力発電への逆風が強まっています。このように、……

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第2回:欧州の脱炭素化への戦略

前回は、なぜ脱炭素化が必要なのかをテーマに解説しました。時点で、日本を含む124カ国と1地域が、2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量が実質ゼロ)の実現を宣言しています。までのカーボンニュートラルを宣言した中国も含めると、世界全体の約3分の2を占める国と地域が脱炭素化を表明したことになります。今回は、いち早く脱炭素化戦略を打ち出したヨーロッパの動きについて紹介します。

1. 成長戦略「欧州グリーンディール」

、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、持続可能な欧州連合(EU)経済の実現に向けた「欧州グリーンディール(European Green Deal)」を発表しました。欧州グリーンディールは、環境問題への対応策であるとともに、成長戦略でもあります。2050年までに気候中立(温室効果ガス排出実質ゼロ)を実現する目標を掲げ、運輸、エネルギー、建設、鉄鋼、化学、農業などの、あらゆる産業分野の脱炭素化戦略が盛り込まれています(図1)。

図1:欧州グリーンディールのイメージ図

図1:欧州グリーンディールのイメージ図

ECは、までに、欧州グリーンディールに基づく指令や制度改革案を提示する見通しです。主な規制改革としては、EU排出量取引指令注1や炭素国境調整メカニズム注2、再生可能エネルギー指令、エネルギー効率指令、自動車のCO2排出規制などがあります。

注1:EU排出量取引(EU ETS): EU域内とEU近隣国を含む31カ国での取引市場。温室効果ガスの排出量の上限を割り当て、その排出枠を超えないように、他の国などと排出枠の取引(トレード)を行う制度。現在、EU-ETS参加国の全温室効果ガス排出量の約45%がEU-ETSの対象活動によってカバーされている。
注2:炭素国境調整メカニズム(CBAM):EU域外からの輸入品がEUと同等の温室効果ガス排出規制を遵守していない場合、輸入品に関税を課す仕組み

欧州グリーンディールにおける主な地球温暖化対策として、ECは、欧州気候法案を発表しました。この法案は、EU域内での温室効果ガスの排出量をまでに実質ゼロとする目標に、法的な拘束力を持たせたものです。実質ゼロは、欧州連合(EU)の国別の条件ではなくEU全体の目標であり、一部の国で大幅な削減ができた場合、域内の他の国が一部規制を減免される可能性があります。2050年気候中立を実現するために、……

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2. グリーンリカバリーで脱炭素化

欧州連合(EU)が欧州グリーンディールを発表した後、程なくして、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済活動が停滞しました。国際エネルギー機関(IEA)は、、感染拡大の影響で「の世界のCO2排出量は、前年比5.8%減少した」と発表しました。結果として、一時的なCO2排出削減となりましたが、世界的に経済活動の回復に伴い排出量は再び増加しつつあります。こうした状況の中、ヨーロッパ各国では、欧州グリーンディールとは別に、「グリーンリカバリー」の考え方が広がっています。

EUは、大きな経済的打撃を受けたEU域内の国々を支援するため、EU名義で加盟国共同の債券を発行して、総額7,500億ユーロ(約97兆円)の復興基金を市場から調達する方針です。復興基金のうち約3分の1は、気候変動対策となる事案に充てられます。

グリーンリカバリーは、……

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3. 脱炭素化の柱の1つ、水素の利用拡大

欧州委員会(EC)は、、ヨーロッパ各国の気候中立に向けた「欧州水素戦略(EU Hydrogen Strategy)」を発表しました。水素は、利用時にCO2を排出せず、原料や燃料、貯蔵手段として、運輸や電力、建物など多岐にわたる分野で利用できます。水素戦略も欧州グリーンディールの一環であり、脱炭素化を目指す上で重要な役割を果たすことが期待されています。

しかし、現状では、EUでは水素のほとんどは化石燃料から生産され、EU域内でも水素利用が普及しているわけではありません。ヨーロッパの水素戦略では、水素の生産を脱炭素化するために、再生可能エネルギー由来の電力を使って水を電気分解して水素(グリーン水素)を生成する仕組みの開発が進められており、将来的に利用拡大を図っていく計画です(図2)。

図 2:欧州の気候中立に向けた水素戦略(A Hydrogen Strate-gy for a climateneutral Europe)一部抜粋(参考:欧州委員会(EC))

図 2:欧州の気候中立に向けた水素戦略(A Hydrogen Strate-gy for a climateneutral Europe)一部抜粋(参考:欧州委員会(EC))

水素戦略を推進していくため、官民協働プラットフォームである、欧州クリーン水素アライアンス:European Clean Hydrogen Allianceが設立されました。今後、……

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第3回:中国の脱炭素化戦略

前回は、脱炭素化への戦略をいち早く打ち出したヨーロッパの動向を紹介しました。今回は、中国の脱炭素化戦略について解説します。地球規模で脱炭素化を進めるには、中国の取り組みが不可欠です。

1. 2060年カーボンニュートラルを目指す

近年、中国は急速な経済発展を遂げており、現在ではアメリカに次ぐ世界第2位の国内総生産(GDP)大国です。国内総生産のうち名目国内総生産とは、実際に市場で取り引されている価格に基づいて推計された値です。中国国家統計局は2021年2月28日、中国の名目国内総生産が、前年比3.0%増の14兆7300億ドルとなったと発表しました。グローバル企業におけるサプライチェーンの生産拠点として世界の工場と呼ばれた中国は、世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国となり、その排出量は世界全体の約3割を占めています(図1)。

図1:世界の二酸化炭素排出量(引用:経済産業省、資源エネルギー庁、エネルギー基本計画の見直しに向けて、P.81)

習近平国家主席は、2020年9月の国連総会で「2030年までにCO2排出を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成するよう努める」と表明し、各国が国連に提出する国別削減目標(NDC:Nationally Determined Contribution)を引き上げる意向を示しました。

そして、同年12月にイギリス・フランス・国連の共催で行われた気候野心サミットにおいて、習近平主席は「2030年に、GDP当たりのCO2排出量を65%以上(2005年比)削減する」ことを表明しました。中国が温暖化対策に長期的な数値目標を表明したのは、初めてのことです。

中国政府は、2015年5月に発表した経済施策「中国製造2025」で、2049年(中国建国100周年)までにイノベーション主導型国家を建設し、製造大国から製造強国への転換を目指すことを表明しました。中国製造2025では、インターネットと製造業の融合を積極的に推進していく方針で、次世代情報技術、省エネ・新エネルギー車、電力設備など10の重点分野を掲げています。これらの技術は、脱炭素化につながるものが多くあります。

また、国家エネルギー局が中心となり、……

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2. 非化石エネルギーの導入拡大

中国における脱炭素化戦略の柱の1つは、再エネです。世界各国の再エネ導入容量・太陽光導入容量と比べても、他国の追随を許さない勢いで、2018年実績でも国内の太陽光発電と風力発電(陸上・洋上)の導入容量は世界一となっています(図2)。また、太陽光パネルの製造量も世界一、さらに風力発電タービンの製造もヨーロッパと肩を並べるようになり、世界における再エネ産業の盤石な基盤を築いています。

図2:各国の再エネ導入容量と太陽光導入容量(参考:経済産業省、資源エネルギー庁、2020年11月)

中国は、非化石エネルギーである原子力発電についても、積極的に導入拡大を図る考えです。中国は、フランスやロシア、アメリカ、日本など海外の原子力技術を導入しながら、国内の原子力機器メーカーの技術力を高めてきました。2020年末時点で、……

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3. 新エネルギー車(NEV)の推進

中国では、電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を新エネルギー車(NEV:New Energy Vehicle)と定義し、補助金などの振興政策によって世界最大のNEV市場に成長しています。その背景には、従来のエンジン車では日本やアメリカ、ヨーロッパの自動車メーカーに追いつくのが難しいという現実があるため、政策的にBEVシフトを推進しているともいわれます。

年間2,500万台前後の販売台数を誇り、世界最大の自動車市場となった中国で、新エネ車の年間販売台数は、2011年の0.8万台から、2019年には120.6万台へと拡大しました。各国のBEVとPHVの累計販売台数と公共用充電器数を比較すると、中国は2018年末までに累計230.6万台、公共充電器数は27.5万基と、他国を大きく引き離しています(表1)。

表1:各国におけるEV/PHVの累計販売台数と公共用充電器数(2018年実績)(参考:経済産業省、製造産業局自動車課「自動車を取り巻く現状と電動化の推進について」P.20より抜粋) 
NEVの普及に向けた支援策として、NEVの購入税免除や補助金の支給、またナンバープレート発行の規制緩和(交通渋滞や大気汚染対策である、都市でのナンバープレート発行制限の緩和)などが実施されてきました。NEV業界には多くの企業が参入しましたが、振興NEVメーカーの補助金依存が国際競争力を削(そ)ぐのではないかという懸念から、2019年6月末には地方政府の補助金が廃止され、中央政府の補助金も半減されました。その結果、弱小メーカーの淘汰(とうた)が進んだ一方、NEVの販売台数は大きく減少してしまいました。

このため、中央政府は、……

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第4回:アメリカの脱炭素化戦略

前回は、中国の脱炭素化戦略について解説しました。今回は、アメリカの脱炭素化戦略を紹介します。アメリカは、世界第2位の二酸化炭素排出国(中国の28.2%に次ぐ14.5%)です(第3回、図1)。それでも、地球温暖化(気候変動)をはじめとする環境分野では、各種の先進的な技術開発や取り組みを進めています。ジョー・バイデン大統領は、2021年1月20日の就任初日、トランプ前政権が離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」復帰に関わる大統領令に署名し、2月19日には復帰を果たしています。さらに4月22、23日にアメリカが主催した「気候変動サミット(Leaders’ Summit on Climate)」では、2030年の温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出削減について、野心的な目標を打ち出しました。

1. GHG排出量2040年までに50~52%削減(2005年比)

バイデン大統領(図1)は、気候変動サミットにおいて、2030年までにアメリカの温室効果ガス排出量を2005年の水準から50~52%削減すると宣言しました。オバマ元大統領が掲げていた公約は「2025年までに2005年比26~28%減」であり、それと比較しても大幅な削減目標のアップとなりました。バイデン政権は、地球温暖化対策を国家の最重要課題と位置付け、遅くとも2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指しています。

図1:ジョー・バイデン大統領

気候変動サミット1週間前の4月16日、バイデン大統領は菅首相とワシントンで日米首脳会談を行いました。そこで、日本とアメリカが目指す2030年の温室効果ガス排出削減に向けて、「気候変動に関するパートナーシップ協定(U.S-Japan Climate Partnership on Ambition, Decarbonization, and Clean Energy)」を締結しました。両国のイノベーション(技術革新)を促進し、再生可能エネルギー(再エネ)や水素、高性能蓄電池、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)、カーボンリサイクル(CO2排出量を減らすため、CO2を炭素資源として回収し、多様な炭素化合物として再利用すること)などの技術開発への協力を約束しています(参考:The White House, U.S-Japan Climate Partnership on Ambition, Decarbonization, and Clean Energy, April 2021)。

バイデン政権の主な脱炭素戦略として、以下の3つのことが挙げられます。バイデン大統領は、……

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2. 電力部門は2035年CO2排出実質ゼロ

アメリカの発電電力量に占める電源割合(2018年)は、石炭火力28%、天然ガス火力34%、石油火力1%、原子力19%、水力7%、再エネ(水力以外)11%で、石炭や天然ガスなどの火力発電が約6割を占めています。EIA(エネルギー省エネルギー情報局)が発表した電源別の発電量の推移を見ると、1990年から2020年の30年間で風力発電と太陽光発電の発電量は増加しています(図2)。

図2:アメリカの電源別発電量の推移(1990-2020年)(参考:EIA/U.S. Energy Information Administrationのデータをもとに筆者加筆)

図2:アメリカの電源別発電量の推移(1990-2020年)(参考:EIA/U.S. Energy Information Administrationのデータをもとに筆者加筆)

また、2000年代以降、今まで困難であった頁岩(けつがん:シェール)層からの石油や天然ガスや石油の採掘が可能になったことで、アメリカのエネルギー産業や世界のエネルギー市場に大きな影響をもたらしました(シェール革命)。そのため、発電分野で石炭から天然ガスへの燃料シフト(転換)も進み、温室効果ガスの削減が見込まれています。しかし、2035年までに電力部門のCO2排出実質ゼロを目指すためには、さらに脱炭素化を加速する必要があります。

バイデン政権は、2035年までに発電を炭素フリーにするため、再エネや大型蓄電池といったエネルギー貯蔵技術の導入拡大を進める方針です。その一方で、化石燃料に対しては規制を強化していく見通しです。また、石油・ガス開発に使われる連邦所有地のリース契約を一時停止するなどの見直しを行っており、化石燃料への補助金の削減や化石燃料の使用に罰則を盛り込む法案も検討しています。

雇用回復を重視するバイデン大統領は、積極的なインフラ投資によって成長戦略を実現していきたい考えです。バイデン大統領は、5月28日、2022会計年度(21年10月~22年9月)の予算教書を公表し、歳出規模は戦後最大の6兆110億ドル(約660兆円)を連邦議会に求めました。8月10日には、……

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3. イノベーションへの積極的な支援

バイデン政権は、イノベーション(技術革新)の支援にも積極的です。「ARPA-E(Advanced Research Projects Agency-Energy:エネルギー高等研究開発局)」を通じて、十分に成熟していないものの、変革をもたらす低炭素エネルギー技術に1億ドル(約109億ドル)の資金を提供する予定です。ARPA-Eは、2007年に設立された連邦エネルギー省の新規部門で、エネルギー分野でのハイリスク・ハイリターン型の研究開発への支援を行っています。予算規模は、毎年総額3億ドル(約330億円)程度ですが、バイデン政権は脱炭素関連の技術を加速させるため5億ドル(約550億円)の予算要求をしています。

また、環境技術イノベーション推進のために、新たに「ARPA-C(Advanced Research Projects Agency-Climate:気候高等研究計画局)」を立ち上げるために2億ドル(約220億円)の予算を要求しています。ARPA-Cの対象として、……

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第5回:日本の脱炭素化戦略

前回は、アメリカの脱炭素化戦略について解説しました。今回は、日本の脱炭素化戦略を紹介します。菅義偉前首相(2020年9月16日~2021年9月30日)は、2020年10月26日、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しました。また2021年4月22日、政府の地球温暖化対策推進本部の会合で、2030年度に、「温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と新たな温室効果ガスの削減目標を発表しました。2015年7月、日本が国連に提出した「2013年度に比べて26%削減する」という目標に対し、政治主導で大幅に引き上げたものとなりました。

1. 日本の温室効果ガス排出量の推移

日本が目指すカーボンニュートラルは、二酸化炭素(CO2)だけに限らず、メタン、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスを含む温室効果ガスを対象としています。2020年12月、2019年度の温室効果ガス排出量(速報値)が公表され、2019年度の総排出量は12億1,300万トンで、前年比2.7%減となり、2013年比14.0%減から6年連続の減少となりました(図1)。温室効果ガスが前年度から減少した要因として、電力の低炭素化に伴うCO2排出量の減少や、省エネなどが挙げられています。このように、温室効果ガス排出量は減少傾向にあるものの、あと9年でさらに32%削減しなければなりません。これはかなり厳しい目標であり、目標実現に向けた具体的な政策をできるだけ早く打ち出し、実行に移していく必要があります。

図1:日本の温室効果ガス排出量(引用:環境省、2019年度速報値、P.2)

図1:日本の温室効果ガス排出量(引用:環境省、2019年度速報値、P.2

ちなみに、日本の温室効果ガス排出量の85%を占めるのは、エネルギー起源のCO2の排出です。エネルギー起源CO2は、主にエネルギー転換部門(発電)、産業部門(製造業)、運輸部門(旅客・貨物)、業務その他の部門、家庭部門からの排出となります(図2)。2019年度のCO2排出量は、2013年比で16.0%(2億1,060万トン)減少しています。

図2:日本のCO<sub>2</sub>排出量(引用:経済産業省、資源エネルギー庁、令和2年10月13日、P.81)

2. 長期目標と革新的環境イノベーション戦略

2016年11月、187の国や地域が参加する2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」が発効しました。2019年6月11日、政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、長期戦略)を閣議決定しました。2050年までに80%の温室効果ガス(GHG)排出削減(当時の目標)という長期目標の実現に向けて大胆に施策に取り組み、長期戦略の最終到達点として脱炭素社会を掲げています。日本の考え方や取り組みを世界に共有し、1.5℃の努力目標を含むパリ協定の長期目標の実現に貢献することを明記しました。

2020年1月には、長期目標に基づき、2050年までの具体的な行動計画「革新的環境イノベーション戦略」が策定されました。同戦略は、
1:エネルギー転換(再エネ主力電源化、低コストな水素開発など)
  GHG削減量:約300億トン~
2:運輸(車、航空機、船舶の電化や燃料の脱炭素化の技術開発など)
  GHG削減量:約110億トン~
3:産業(カーボンリサイクル技術によるCO2の原燃料化など)
  GHG削減量:約140億トン~
4:業務・家庭・その他・横断領域(スマートシティの実現など)
  GHG削減量:約150億トン~
5:農林水産業・吸収源(農林水産業の再エネ活用など)
  GHG削減量:約150億トン~
の5分野16技術課題などについて、……

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3. グリーン成長戦略で2050年カーボンニュートラルを目指す

2020年12月25日、政府の成長戦略会議は「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、グリーン成長戦略)を策定しました。経済全体の脱炭素化を目指す上では、電力・非電力部門あわせて10.6億トン(2018年度実績)排出しているエネルギー起源CO2を減らさなくてはなりません。グリーン成長戦略では、省エネや電源の脱炭素化、非電力部門のCO2排出源単位の低減、非電力部門の電化、大気中のCO2を減らすネガティブエミッション技術など、これらの技術を総動員してトータルでカーボンニュートラルを目指していく方針です(図3)。

図3:2050年カーボンニュートラルのイメージ

化石燃料の脱炭素化については、火力発電所の高効率化と並行して、水素やアンモニア、カーボンリサイクル(第4回、第1章参照、経済産業省は2019年6月「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を公表)を進めていきます。水素(H2)は、火力発電や工業炉、自動車や鉄道、航空機などからのCO2排出削減に向けて、世界的に技術開発が活発化しています。日本は「水素基本戦略」(2017年12月26日)を世界で初めて策定し、水素社会の実現に向けた取り組みを進めてきました。IEA(国際エネルギー機関)の世界水素需要予測では、2070年時点では、再生可能エネルギー由来(CO2フリー)水素が約6割、化石燃料由来(グレー)水素が約4割になる見込みであるとはいえ、少なくとも今後10年は、グレー水素が供給の大きな割合を占めることが予想されています。そうした中、2021年8月ENEOSは横浜旭水素ステーション(神奈川県横浜市旭区)において、ステーション内に設置した太陽光発電設備からの電気や自社グループから調達した再エネ電気を利用し水を電気分解して製造するCO2フリー水素の販売を開始しました。水素ステーション内で商用目的でのCO2フリー水素の製造・販売は国内初の取り組みで、燃料電池車(FCV)などに供給します。

このように脱炭素化に向けて水素利活用が期待されますが、課題もあります。国内には水素を運ぶパイプラインがないため、海外から輸送するにしても液化しなくてはなりません。液化温度が-253℃と超低温で運ぶとなるとコストが膨大になる可能性があります。国内で水素の普及を図るためには、輸送用には30円/Nm3、発電用には20円/Nm3まで下げるなど、政府は2030年には今のコスト水準の1/3程度まで下げることを目指し、低コスト化に向けた技術開発を支援しています。

一方、アンモニアは窒素と水素からなる無機化合物(NH3)で、……

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