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なぜ脱炭素化が必要なのか:脱炭素化の基礎知識1

更新日:2021年5月18日(初回投稿)
著者:東京大学 教養学部 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

「我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」。菅義偉首相が、2020年10月の所信表明演説でこう表明して以降、TVや新聞、ネットなどでは連日のように脱炭素化に関する報道がされるようになりました。脱炭素化とは、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素など温室効果ガスの排出を防ぐために、石油や石炭などの化石燃料からの脱却を目指すことです。世界が脱炭素化に向けて動き出す中、本連載では全6回にわたり脱炭素化について紹介します。第1回は、なぜ脱炭素化が必要なのかということをテーマに解説します。

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1. 地球温暖化問題とパリ協定

なぜ今、脱炭素化、二酸化炭素CO2など温室効果ガスの排出削減を進めなくてはならないのでしょうか。その根本には、地球温暖化(気候変動)問題があります。1750年頃に起こった産業革命以降、人類は石炭や石油などの化石燃料を大量に消費する社会に移行しました。工業化の進展により、CO2やCH4、一酸化窒素N2O、フロンガスなどの温室効果ガスが大量に大気中へ排出され、地球の平均気温は産業革命以前の水準より約1℃上がったと推定されています。このままのペースで温暖化が進行すれば、21世紀末の世界の平均気温は、1986年から2005年の平均よりも、最大で4.8℃上昇すると予測されています。

温室効果ガスの中では、CO2の占める割合が76%と最も高く、地球温暖化への影響度が大きいガスです。現在、世界のCO2排出量は、中国の28.2%を筆頭に、アメリカ14.5%、インド6.6%、ロシア4.7%となっており、次いで日本が3.4%と世界第5位の排出国になっています。日本のCO2排出量のうち、燃料の燃焼をはじめ電気や熱の使用に伴って排出されるエネルギー起源のものが9割以上を占めています(図1)。

地球温暖化は気温の上昇だけでなく、海面上昇や世界的な異常気象の水準・頻度を押し上げるリスクが指摘されています。「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では、河川の氾濫などにより死者数が200人を超える甚大な災害となりました。気象庁気象研究所の報告書では、この豪雨被害は、気候変動の影響で総降水量が6.5%増えた可能性があり、今後も気候変動等の影響により、豪雨が頻発化・激甚化する恐れがあると指摘しています。翌年の2019年には「令和元年台風15号」、「令和元年台風19号」が発生し、この年の損害保険の支払額は、前年に続く1兆円規模の経済的損失をもたらしました。こうした世界各地で頻発する異常気象の状況は、気候変動から気候危機といわれるまでになっています。

2016年11月に、187の国・地域が参加するパリ協定が発効しました。パリ協定は、2020年以降の温暖化対策に関する国際的な枠組みです。世界共通の長期目標として、平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑え、さらに、1.5℃までに抑える努力を追求するといった指針が盛り込まれています。また、各国が削減目標を2023年から5年ごとに実施状況を確認し、さらに深堀りして削減目標を高める検討を行うことになっています。

2. IPCC「1.5℃特別報告書」のインパクト

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)とは、国際的な専門家でつくる、気候変動を評価する主要な機関です。2050年カーボンニュートラルの流れが加速したきっかけは、IPCCが2018年10月に発表した、「1.5℃特別報告書」(図2)によるインパクトが大きいといえます。菅首相の所信表明演説にもあったカーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いて実質ゼロにすることを意味しています。

図2:IPCC、1.5℃特別報告書(Global Warming of 1.5℃)

この報告書では、「産業革命以降、人間活動は約1.0℃の温暖化をもたらし、現在の進行速度では、早ければ2030年から2052年の間に世界の平均気温が1.5℃上昇する可能性が高い(図3)。1.5℃未満に抑制するためには、世界で排出されるCO2排出量を2030年までに2010年比で45%とし、2050年頃には森林などの吸収分や回収技術によって、実質ゼロに削減する必要がある。メタンなどのCO2以外の排出量も大幅に削減される必要がある」と指摘しました。この報告により、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収・回収量を実質同量とするカーボンニュートラルを目指す機運が高まりました。2021年1月20日時点で、日本を含む124カ国と1地域が、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明しています。

図3:観測された地球全体の気温変化と定型化された人為起源の排出および今後の予測(参考:IPCC SP1.5 図SPM.1)をもとに筆者加筆

図3:観測された地球全体の気温変化と定型化された人為起源の排出および今後の予測(参考:IPCC SP1.5 図SPM.1)をもとに筆者加筆

3. 脱炭素化を促すESG投資

1.5℃特別報告書は、各国のカーボンニュートラル表明を強力に後押しすることとなりました。加えてもう1つ、脱炭素化を促したのは、世界の金融機関や機関投資家によるESG投資の拡大です。ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素も考慮した投資のことです。金融機関が、企業のESG要素への配慮を厳しくチェックし、サステナブルな投資案件に積極的に投資(インベストメント)する一方、地球温暖化の要因となる石炭や石油への投資撤退(ダイベストメント)に動き出し、投資先の脱炭素化を促しています。近年、CO2を多く排出する石炭火力発電への逆風が強まっています。このように、金融機関が石炭火力発電所への新設などに経済的支援を行わないという方針を表明するようになった背景にも、ESG投資の流れがあります。

2020年は、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し、経済活動が大きく停滞しました。この影響で、2020年のCO2排出量は前年に比べ5.8%減少したと、今年3月IEA(国際エネルギー機関)が発表しました。経済回復に当たっては、単に今までと同様の排出量水準に戻すのではなく、環境や社会に配慮しながら持続的に成長を目指す企業への積極的なESG投資が注目されています。新型コロナウイルス感染拡大からの経済復興に当たり、温暖化防止などの環境対策を重視して進める「グリーンリカバリー」の潮流も、ヨーロッパを中心に生まれ、世界に拡がりつつあります。

いかがでしたか? 今回は、なぜ脱炭素化が必要なのかについて、その背景を紹介しました。次回は、世界が打ち出している脱炭素化戦略を、EU加盟国、特にドイツを中心に解説します。お楽しみに!

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