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欧州の脱炭素化への戦略:脱炭素化の基礎知識2

脱炭素化の基礎知識

更新日:2021年6月23日(初回投稿)
著者:東京大学 教養学部 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

前回は、なぜ脱炭素化が必要なのかをテーマに解説しました。2021年1月20日時点で、日本を含む124カ国と1地域が、2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量が実質ゼロ)の実現を宣言しています。2060年までのカーボンニュートラルを宣言した中国も含めると、世界全体の約3分の2を占める国と地域が脱炭素化を表明したことになります。今回は、いち早く脱炭素化戦略を打ち出したヨーロッパの動きについて紹介します。

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1. 成長戦略「欧州グリーンディール」

2019年12月、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、持続可能な欧州連合(EU)経済の実現に向けた「欧州グリーンディール(European Green Deal)」を発表しました。欧州グリーンディールは、環境問題への対応策であるとともに、成長戦略でもあります。2050年までに気候中立(温室効果ガス排出実質ゼロ)を実現する目標を掲げ、運輸、エネルギー、建設、鉄鋼、化学、農業などの、あらゆる産業分野の脱炭素化戦略が盛り込まれています(図1)。

図1:欧州グリーンディールのイメージ図

図1:欧州グリーンディールのイメージ図

ECは、2021年6月までに、欧州グリーンディールに基づく指令や制度改革案を提示する見通しです。主な規制改革としては、EU排出量取引指令注1炭素国境調整メカニズム注2、再生可能エネルギー指令、エネルギー効率指令、自動車のCO2排出規制などがあります。

注1:EU排出量取引(EU ETS): EU域内とEU近隣国を含む31カ国での取引市場。温室効果ガスの排出量の上限を割り当て、その排出枠を超えないように、他の国などと排出枠の取引(トレード)を行う制度。現在、EU-ETS参加国の全温室効果ガス排出量の約45%がEU-ETSの対象活動によってカバーされている。
注2:炭素国境調整メカニズム(CBAM):EU域外からの輸入品がEUと同等の温室効果ガス排出規制を遵守していない場合、輸入品に関税を課す仕組み

欧州グリーンディールにおける主な地球温暖化対策として、ECは2020年3月、欧州気候法案を発表しました。この法案は、EU域内での温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標に、法的な拘束力を持たせたものです。2050年実質ゼロは、欧州連合(EU)の国別の条件ではなくEU全体の目標であり、一部の国で大幅な削減ができた場合、域内の他の国が一部規制を減免される可能性があります。2050年気候中立を実現するために、2020年9月には、2030年の温室効果ガスの排出削減目標を40%から55%以上の削減(1990年比)に引き上げることを発表しました。

EU域内で再生可能エネルギーの導入が順調に進んでいることも、排出削減目標を引き上げた背景になっています。1990年比55%以上の野心的な削減目標を2030年までに実現するためには、エネルギー効率と再生可能エネルギーの割合をさらに高める必要があります。欧州グリーンディールの一環として、ECは2020年11月に、洋上再生可能エネルギー戦略を発表しました。EU域内の洋上風力発電を、これまでの12GW(ギガワット)から、2030年までに最低でも60GW、2050年には300GWへと拡大を目指しています(表1)。ヨーロッパは洋上風力発電市場のおよそ9割を占め、世界をリードしています。風車の大型化などにより発電コストが大幅に低下し、補助金ゼロの事例も出てきます。さらなる洋上風力発電の導入拡大により、脱炭素化に弾みをつけたい考えです。

表1:洋上風力発電の各国の政府目標(参考:IEA、Offshore Wind Outlook 2019などをもとに資源エネルギー庁追記)

表1:洋上風力発電の各国の政府目標(参考:IEA、Offshore Wind Outlook 2019などをもとに資源エネルギー庁追記)

2. グリーンリカバリーで脱炭素化

欧州連合(EU)が欧州グリーンディールを発表した後、程なくして、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済活動が停滞しました。国際エネルギー機関(IEA)は、2021年3月2日、感染拡大の影響で「2020年の世界のCO2排出量は、前年比5.8%減少した」と発表しました。結果として、一時的なCO2排出削減となりましたが、世界的に経済活動の回復に伴い排出量は再び増加しつつあります。こうした状況の中、ヨーロッパ各国では、欧州グリーンディールとは別に、「グリーンリカバリー」の考え方が広がっています。

EUは、大きな経済的打撃を受けたEU域内の国々を支援するため、EU名義で加盟国共同の債券を発行して、総額7,500億ユーロ(約97兆円)の復興基金を市場から調達する方針です。復興基金のうち約3分の1は、気候変動対策となる事案に充てられます。

グリーンリカバリーは、新型コロナウイルス感染症による影響からの経済復興策に、気候変動対策を融合させた考え方です。具体例としては、経営困難に陥ったエールフランスに対して、仏政府は70億ユーロ(約9,100億円)の緊急融資を行うための条件に、列車など代替手段がある国内路線を縮小することや、CO2排出量の少ない機体へ更新することなどを求めました。このように、経済復興と併せて気候変動対策を推進していくのが、グリーンリカバリーの特徴です。

3. 脱炭素化の柱の1つ、水素の利用拡大

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