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土木計画学とはインフラ政策学である:土木計画学の基礎知識1

土木計画学の基礎知識

更新日:2021年9月29日(初回投稿)
著者:京都大学 大学院 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡

土木計画学とは、土木計画という取り組みをより良いものにするための学問体系です。そして、土木計画というものは土木という私たちの営みを計画し、それを戦略的、計画的に進めていくという行為を意味します。本連載では、6回にわたり土木計画学の基礎知識について解説します。第1回は、土木計画学とは何かを説明するにおいて、まず土木というものが一体何なのかを説明しましょう。

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1. 土木とは「インフラを通して環境を整えていく営み」である

土木というと、少々専門的というか行政的な言葉で、日常用語ではあまり使うこともないのではないでしょうか。一般には「自然の中で私たちが暮らしていくために必要な環境を整えていくことを通じて、私たちの社会を存続させ、改善していこうとする社会的な営み」と定義されています。

例えば、私の住む京都は、794年に平安京が造られる前まではまばらに人々が住む荒れた土地であり、そこには街と呼ばれるものはありませんでした。それはむしろ、特に人の手が入っていない、単なる自然環境空間でした。しかし、時の朝廷(政府)が平安遷都を決め、この土地を切り開いてさまざまな建物を建てられる空間を造り(土地造成)、その上に碁盤状の道路(街路整備)や、排水、上水のための水路(上下水道整備)を造りました(図1)。同時に、人々が憩うための公園(造園)や、この地と余所(よそ)の地とをつなぐ道路(幹線道路整備)を造り、京の都と呼ばれる街を造りました。さらに、その中心を流れる鴨川が大雨で洪水を起こすと町が甚大な被害を受けることになるため、それを避けるための堤を造るといった対策(堤防整備)を講じました。

図1:平安京の全体模型(引用:ウィキペディア)

図1:平安京の全体模型(引用:ウィキペディア

また、その後も京都の人々や時の政府(朝廷や幕府、近代政府など)は、この街をより住みやすくするため、そしてこの地の経済社会をさらに発展させるために、高瀬川や琵琶湖疎水を整備し(運河整備)、路面電車や地下鉄(公共交通整備)や、水路を使って蹴上げ(階段の一段の高さのこと)に水力発電所を造り(電源開発)、さらには東海道線や東海道新幹線を整備し(鉄道整備)、名神高速道路や第二京阪道路を整備していきました(高速道路整備)。

そして、全ての時代を通して、このように整備した構造物(土木構造物あるいは社会資本、社会基盤、あるいは、一般的にいわれるインフラ)は、時間の経過とともに劣化・老朽化していくことから、それらを使い続けるために手入れし続け、状況を見て修理・修繕をしていくことが必要となります(管理、および、維持・補修)。

このように、1,300年前にはほぼ自然のままの空間だった京都盆地に、さまざまな手法で手を加え、インフラを造り維持補修しつつ、そこへさらなるインフラを重層的に造っていくことで、京都の町を徐々に発展させ、経済のみならず京の文化を花開かせることとなっていったのです(図2)。こうしたインフラを通して、京都盆地の自然空間を発展させていく取り組みこそが、土木と呼ばれる営みです。

図2:平安京の代表的な建物、平等院鳳凰堂

図2:平安京の代表的な建物、平等院鳳凰堂

2. 土木計画とは、「インフラ政策」という言葉に置き換えられる

土木とは、このように私たちの暮らしの環境を根こそぎ造り上げていこうとする取り組みであり、私たちの日常生活、あるいは経済や社会のありさま全てを、根底から変えてしまう程に甚大な影響をもたらす社会的な営みです。

身近な例でいえば、私たちの家庭は住環境に凄(すさ)まじい影響を受けます。例えば、まだ仕事も何も決まっていない、学生結婚をした1人の男性を考えてみましょう。彼は結婚を決めた瞬間から、幸せな家庭を思い描き希望に胸膨らませて、さまざまな人生設計を思い描くことでしょう。さらには、どうやって生活費を稼ぐのか(共働きなら互いがどう稼ぐのか)、その暮らしや仕事のためにはどこの土地の、どういう家に住むのかを考えるでしょう。その時、真っ先に経済的条件や妻と将来の子供たちの安全・安心を考えるのと同時に、週末にどうやって余暇を過ごすか、そのために周辺にはどういう公園や自然があるのか、場合によっては神社や仏閣などの文化的環境を考えるかも知れません。つまり彼は、家族の住まう環境について考えます。そして、20代、30代、40代をどう過ごすのか、分からずともおぼろげに想定しながら、その環境をどう整えていくのかの計画を、多かれ少なかれ想定します。彼は、そんな将来構想のイメージを踏まえて、具体的な生活環境を整えていくことになります。

この生活環境を整えるという、新しい家庭にとって何よりも大切な第一の取り組みこそが、その男性にとっての「土木」なのです。私たちが一般にいう土木とは、個人が生活環境を整えるのと同様に、国・政府が社会全体の環境を整える取り組みです。そして、この男性が将来の明るい面も暗い面も想定し、どういう風に生活環境を整えていくのかを考えるように、社会全体の土木を構想し計画していくことこそ、土木計画と呼ばれるものなのです。かつて桓武天皇を中心に平安遷都を行った朝廷も、室町幕府も、江戸幕府も、明治政府も、そして、戦後の自民党政府もみんな、京都の町をどう造るのかという土木を行うにあたって、将来をイメージする計画を立てたのであり、それこそが「土木計画」と呼ばれる営みなのです。

さて、例に挙げた男性にとっての土木では、その計画の中心に位置するものは「どの場所を選び、どういう家に住むのか」という1点です。これは、平安京の例でいうなら「どこに都を造るのか、そこにどういうインフラを造るのか」ということになります。経済や社会、教育といったさまざまな取り組みは、その環境に全て依存・制約されるからです。従って、土木計画というものは、インフラをどのように整えるのかを考えるという取り組みそのものになっています。そして一般に、インフラを整えるのは公的主体、すなわち政府であり、政府が行う行為は一般に政策と呼ばれるため、行政や学術分野において土木計画と呼ばれる取り組みはインフラ政策と言い換えることができます。つまり、土木計画のための学問体系は、インフラ政策を支えるための学問体系なのです。かくして、土木計画学とはインフラ政策学と言い換えることができるのです。

いかがでしたか? 今回は、土木とはいかなる営みであるかを、インフラ整備の重要性を通して解説しました。次回は、土木計画学、すなわちインフラ政策学における最適化の思想について解説します。お楽しみに!

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