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公害の歴史と環境基本法:環境と公害の基礎知識1

環境と公害の基礎知識
更新日:2016年7月15日(初回投稿)
著者:株式会社プリティクション郷事務所 兼 化学工学会SCE・Net 郷 茂夫

明治以降、日本の産業は飛躍的な発展を遂げました。しかしその華々しい発展の背後では、有害な廃棄物の漏出などにより、重篤な公害問題が発生していたことも歴史の事実です。そして戦後の高度成長期になると、公害問題はさらに深刻化していきました。

この基礎知識では2回にわたり、主に法規制の観点から、公害問題の歴史と環境への取り組みについて解説します。1回目は、日本の公害問題と規制法令の変遷、および環境基本法について取り上げます。

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1. 公害の定義

環境基本法では法令用語としての「公害」を、次のように定義しています。

公害とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下および悪臭によって、人の健康または生活環境に関わる被害が生ずることをいう。

ここで定義されている7つの公害(大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下、悪臭)を、「典型7公害」といいます。一方、地震や台風のような自然現象を原因とする被害、建築物による日照障害、電波障害や風害は公害に含まれません。また、福島第一原子力発電所の事故も、現在は公害とは認定されていません。

2. 日本の公害問題と規制法令の変遷

日本の公害問題は、明治以降の急激な近代産業の発展に伴い発生し、拡大しました。日本の公害の原点といわれる「足尾銅山鉱毒事件」(栃木県)は、明治11年(1878年)ころ発生しました。鉱毒ガスや、鉱山排水に含まれる鉱毒水など有害物質の垂れ流しが渡良瀬川を汚染し、流域の水田稲作が大きな被害を受けました。多くの人的犠牲に及んだにもかかわらず、当時、科学的な分析はほとんど行われず、公害の内容は十分明確にはされませんでした。

戦後の経済復興・高度成長期の昭和30年代~40年代には、大きな公害事件が次々と発生しました。これらの公害が原因で生じた疾病(水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく、第二水俣病)を「4大公害病」と呼びます(表1)。被害の発端から原因究明、陳情、公式認定、訴訟、補償までに非常に長い期間を要し、まさに悲劇と苦難の歴史であったといえます。

表1:4大公害病の概要
名称(発生地域) 発生年代 原因、症状、経過など
水俣病(水俣湾地域、熊本県) 1956年公式発見、1968年公害病認定 公害病の原点となった事件。化学工場排水中の有機水銀が湾内の魚介類に蓄積し、この魚介を食した地域住民に起こったメチル水銀による中毒性中枢神経疾患。1963年、メチル水銀に汚染された魚介類を食したことが原因との公式発表。1968年、公害病の国の公式認定。その後長い訴訟が続き、1995年、政府が解決案を提示し、翌年和解に転じた。(図1水俣公害の発生経路と因果関係を参照)
イタイイタイ病(神通川流域、富山県) 1920年代から表面化、1968年原因認定 鉱山の鉱滓(こうさい)から染み出したカドミウムが稲作田を汚染し、米食を経て人体に取り込まれ、慢性中毒症が発生した。イタイイタイ病として注目されるようになったのは1950年代からで、1968年にカドミウムが原因と公式認定された。その後、長期の訴訟があり、2013年に全面解決合意書が締結された。
四日市ぜんそく(四日市市の石油・化学コンビナート周辺地域、三重県) 1967年訴訟開始、1972年勝訴 1960年代から発生が認められる。石油・化学コンビナートの稼働によりコンビナートの煙突から排出される硫黄酸化物 SOxが広く住宅地域に拡散して、ぜんそく症状を引き起こし、近接地域住民の慢性閉塞性肺疾患が多発した。
第二水俣病(阿賀野川流域、新潟県) 1968年公害病認定 熊本県水俣病と同様に、アセトアルデヒド製造工場の排水中の有機水銀に侵された食物を摂取したことにより、中枢神経疾患が発生した。1965年、発生が公式確認された。

1970年代になると、企業は公害防止対策に10兆円を超える多額の資金を投資し、問題解決に取り組みました。1980年代には、大気および水質については「もはや公害は克服された」といわれるまでに改善されました。今でも、過去の汚染流域の土壌から有害物質が検知されることはあるものの、旧来型公害の発生をほぼ抑えることに成功したのです。

図1:水俣公害の発生経路と因果関係

図1:水俣公害の発生経路と因果関係(出典:水俣市立水俣病資料館 一般向け研究資料など)

企業の後を追うかたちで、国や地方自治体も公害対策の手を打ってきました。公害防止に関わる法令がどのような経過をたどって成立してきたかを、表2に示します。ただし、ここには載せていない法令も数多くあることに留意ください。また、下線を施した法令は、環境関連の基礎知識(連載第1回と第2回)で解説する予定です。

表2:公害防止に関わる法令の成立過程(分類別)
分類 年次 法令の制定と特記事項
水俣病(水俣湾地域、熊本県) 1965年以前 公害に関わる大きな問題が発生するたびに、保健機関、大学、病院、関係省庁などが対応に当たっていた。
1965年 衆参両院に「産業公害対策委員会」発足。初めて公害対策が政治テーマとなった。
1967年 公害対策基本法制定
1970年 公害関連14法案が一挙成立(「公害国会」といわれた)
公害対策基本法改正(「経済との調和」条項の削除。これは公害防止より経済成長優先思想を、法令上も打ち消したことを意味した)
1971年 公害防止管理者法制定(横断的な組織規定法令である)
1993年 環境基本法成立(公害対策基本法は廃止され、引き継がれた)
行政・体制 1971年 環境庁発足、総合的環境行政のスタート
2001年 環境省発足、環境対策に対する権限強化
環境影響評価 1997年 環境影響評価法(環境法全体に関連する横断的な領域の法令,2011年に大幅改正)
大気関係 1962年 ばい煙の排出の規制に関する法律(ばい煙規制法)制定
1968年 大気汚染防止法制定
1969年 大気汚染の一部の成分、硫黄酸化物に関わる環境基準の成立
1972年 大気の汚染に関わる環境基準の全体の設定
2006年 VOC規制の始まり
2009年 微小粒子状物質PM2.5による大気の汚染の環境基準追加
水質関係 1958年 工場排水規制法制定(環境領域で初めての立法)
1970年 水質汚濁防止法の制定、水質汚濁に関わる環境基準設定
1980年 排水の総量規制の始まり(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)
1982年 湖沼の窒素およびリンの環境基準の設定
1989-1990年 水質汚濁防止法改正(地下水への浸透規制などの追加)
1994年 水質有害物質環境基準の大幅改訂
土壌関係 1991年 土壌の汚染に関わる環境基準の設定
2002年 土壌汚染対策法(2009年改正)

3. 環境基本法の主な施策

環境基本法は、日本の環境行政の目標や、環境の保全についての施策体系の基本的方向性と基準を定める法律です。環境に関わる法律の多くは、環境基本法を最上位とする法体系を採用しています。また環境政策の範囲は、環境省が主管する狭義の環境政策だけでなく、他省庁の主管や環境省との共管(PRTR法:化学物質排出移動量届出制度 など)で企画・立案・推進される広義の環境政策も含んでいます。

ここでは、環境基本法の分野横断的な主要施策ついて解説します。水質、大気、廃棄物・リサイクル、化学物質などに関わる個別の環境保全については、今後の環境関連の基礎知識で解説します。

環境保全の基本理念(法3~5条)
以下の3つ理念が掲げられ、政策の範囲が地球規模の広がりを持つことを示しています。
・環境の恵沢の享受と継承をすること
・環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築をすること
・国際的な協調による、地球環境保全の積極的推進を図ること

環境基本計画の設定(法15条)
およそ5年に1回、環境保全施策の総合的・計画的推進を図るため、基本計画の設定と改定がなされます。2012年に決定された第4次環境基本計画では、前年の東日本大震災や福島原発放射性物質の放出事故を踏まえた環境汚染対策を定めています。目指すべき持続可能な社会の姿を、「低炭素・循環・自然共生の各分野を統合的に達成すること、その基盤として安全を確保すること」と位置付けています。

環境基準の設定(法16条)
環境基準は、大気、水質(地下水を含む)、土壌、騒音およびダイオキシン5分野の、広範囲の地域や水域の全体(局所ではない)における環境汚染程度の目標として定めた具体的数値です。環境基準についての概括的な理解として以下があります。
・環境汚染の改善目標(いわば努力目標)を示し、広範囲の公害対策の数値目標である。
・維持されることが望ましい基準である(直接的な罰則は無い)。
・最大許容限度や受忍限度ではない。
・その基準を超えると直ちに健康被害などの影響を及ぼすものではない。

また科学技術の進歩とともに、環境基準値は常に科学的判断が加えられ、必要な改定が行われなければならないとしています(環境基準値については、環境庁ウェブサイトを参照)。

環境基本法の環境基準とは別に、公害規制法では「排出基準」が設定されています。排出基準は、個々の工場や事業場などから排出される地点(局所)における汚染物質などの許容限度を定めたものです。この許容限度を超える場合、罰則などの強制的措置が取られます。

公害防止計画の策定(法17、18条)
公害防止計画は、現に公害が著しく、またはその恐れがあり、かつ公害の防止施策を総合的に講じる必要がある地域について、環境大臣の許可を得ることなく,都道府県知事が作成する公害防止のための地域計画です。現在、21地域が指定されています。

環境保全の支障防止のための規制措置(法21条)
国は、環境保全の支障防止のため、大気汚染や水質汚濁などの原因となる物質の排出に関し、事業者などの順守すべき基準を定めること、および公害を防止するために必要な規制措置を取らなければならないことが定められています。大気汚染防止法や水質汚濁防止法は、環境基本法より先に施行されてきた法律で、それ以前の公害対策基本法との関連を引き継いでいるわけです。

監視体制の整備(法29条)
厳しい環境基準があるだけでは、環境保全の施策を推進することはできません。環境状況を的確に把握することが必要です。そのために、大気、水質などの常時監視、巡視、観測、測定、分析、立ち入り検査のための設備や体制の整備・実施が定められています。

国内の川や湖、海湾などには、9,000地点以上の公的水質監視箇所が分散して設置されています。また、市街や主要道路、工場近辺などに設置された大気の公的観測局は、2,000カ所に及びます。さらに、各事業所が自身の監視・測定を行っており、報告義務があります。その数は、数万カ所に及びます。公的監視は常時監視であり、多くの測定項目の確定データが1時間おきに公表されています。この監視・測定・公表体制が、環境施策の基礎となっていることを忘れてはなりません。

環境影響評価の推進(法20条)については、次回、詳しく解説します。

4. 環境基本法の留意すべきコンセプト

ここでは、環境基本法の留意すべきコンセプトとして、国や地方公共団体、国民が担う責務や、環境保全の費用負担原則などについて解説します。

図2:環境基本法では、国民が担う責務も規定されている

図2:環境基本法では、国民が担う責務も規定されている

各主体の責務(法6~9条)
環境基本法は、環境の保全に関して、国、地方公共団体、事業者のそれぞれに責務を課しています。また、国民の責務(日常生活に伴う環境への負荷低減に努めること、国や地方の環境保全施策に協力すること)も定めています。ただし「責務」として定められているこの規定は、違反に対して直接の罰則を科すものではありません。

環境の保全上の支障を防止するための経済的措置(法22条)
環境の改善や保全にはお金がかかります。環境基本法では、環境負荷活動を行う者(主に事業者)に対し、その負荷を低減するための取り組み(公害防止施設を整備する費用など)について、経済的助成を定めています。補助金交付、税制上の優遇措置、低金利融資、賦課金の減免などがあります。

環境保全に係る費用負担についての取り決め(法37、38条)
環境基本法は、以下のケースでの環境保全の費用負担方法について、原因者負担と受益者負担を定めています。

公害または自然環境の保全上の支障を防止するために、国や地方の公的事業主体が実施する事業について、その事業の必要性を生じさせた者に費用の一定部分を負担させることができると定められています。これが原因者負担です。もちろん、特定事業者が規制値基準を超過して汚染物質を排出した場合、改善に関わる事業所内の費用および排出先の処理費用などは、その事業者の全額負担であることは、言うまでもありません。

また、国または地方が実施した自然環境の保全のための事業により、著しい利益を受ける者に対し、ある限度範囲で、その事業の費用を負担させることができると定められています。これが受益者負担です。下水道整備費の受益者負担金(分担金)などが挙げられます。

放射性物質による大気、水質汚染等の防止(法13条)
福島原発事故以前は、放射性物質による環境汚染の防止については、原子力基本法その他の関連法令(経産省、文科省の管轄)によることが環境基本法でも定められていました。しかし、事故後に放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法が制定され、2012年にその条項は削除されました。現在、放射性物質による環境の汚染防止の措置(オフサイトの除染など)は環境省の管轄です。また、「環境放射能」の監視も環境省の管轄です。

以上、日本の公害問題と規制法令の変遷、および環境基本法について解説しました。次回は、公害防止組織と環境影響評価に関する2つの法律(「公害防止管理者法」と「環境影響評価法」)と、近年における環境問題の多様化について解説します。お楽しみに!

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