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破壊工学の基礎知識

破壊工学の基礎知識

著者:NDI Japan 代表 谷村 康行

機械的な製品開発に携わる技術者であれば、ひび・き裂など、破壊のトラブルに直面したことがあるのではないでしょうか? 破壊工学という用語は、普段あまり聞き慣れないかもしれません。しかし、製造業や建設業の技術者には、理解を深めてほしい分野です。全8回で、破壊工学の基礎知識を解説します。

第1回:応力とは?強さとは?

1. 破壊工学と破壊力学

破壊工学(Fracture Engineering)とは、き裂がある材料の強さに関する工学です。材料や部材の中にき裂と呼ばれるきずがあると、きずがない場合よりずっと小さな力で壊れます。き裂は製造過程で見逃されて残ってしまったり、使用中に発生したりします。

き裂がある部材の強さの研究は、第2次世界大戦後のアメリカで大きく進み、破壊力学という分野が生まれました。さらに、1970年代から航空機の設計・製造では、破壊力学の知見を活用した損傷許容設計の考え方が、適用されるようになりました。損傷許容設計とは、部材の中にき裂が存在する可能性があることを認めた上で、重大な事故を防止する考え方です。原子力発電所や鉄道などの分野にも取り入れられています。

このように、破壊力学の知見は、設計技術だけでなく検査・メンテナンス技術も含めて、工学的に体系化されています。これが破壊工学という分野です。破壊力学は応用理学としての側面があり、やや難解です。今回の基礎知識では、破壊力学をモノづくりに生かす観点の破壊工学を解説していきます。

2. 応力とは

頑丈そうな物体でも、大きな力が加わると壊れます。また、壊れそうな箇所には、なるべく大きな力をかけないようにします。材料力学では、物体が破壊するかどうかを決定するのは、加わる力の大きさではないと考えます。なぜなら、同じ大きさの力をかけても、材料や構造の違いにより、壊れる物体と壊れない物体があるからです。

応力は、外部からの力に対して形を保とうと抵抗する単位面積当たりの力です。ギリシャ文字のσ(シグマ)で表し、以下の式で定義されます。Wは外部の力に抵抗する内力、Aは断面積です。ただし、内力は外力と同じ値になるので、実際は外力(荷重)で計算します。

σ=W/A

内力を理解するには、原子や分子の構成を見る必要があります。固体は、物体を構成している原子もしくは分子が、互いに結合して離れない状態です。原子は、プラスの電荷を持つ原子核と、マイナスの電荷を持つ電子とで構成されています。プラスの原子核とマイナスの電子との間には引き付け合う力が働き、同じ電荷粒子間(プラスとプラス、マイナスとマイナス)には反発する力が働きます。この力をクーロン力といいます。クーロン力は、それぞれの電荷の積に比例し、距離の2乗に反比例します。固体はクーロン力で、共有結合、イオン結合、金属結合を行い、外力に抵抗して形を保っています(図1)。

図1:固体の結合の種類

図1:固体の結合の種類

3. 強さとは

内力が、外力に抵抗するにも限界があり、その限界を強さ(強度)といいます。材料の強さは、あらかじめ破壊試験を行って確認します。最も基本的な破壊試験は、引張試験です。材料を引っ張り、破断するまでのデータを取ります。グラフの縦軸に加えた力(荷重)、横軸に変形量(伸び)とすると、図2の左のような荷重-伸び線図になります。荷重-伸び線図は、同じ材料でも太さや長さなどのサイズを変えて試験をすると、破断する力や破断時の伸び量が異なります。縦軸を応力、横軸をひずみ(元の長さに対して伸びた量の割合)とすると、図2の右のような応力-ひずみ線図になります。試験片の太さや長さの違いにかかわらず、同じグラフになります。材料に力が加わり破壊に至る特徴的なプロセスが、この応力-ひずみ線図によって浮き彫りになります。応力-ひずみ線図で、最大応力の値が強さです。応力が強さの値を超えると、材料は壊れます。

図2:荷重-伸び線図と応力-ひずみ線図

図2:荷重-伸び線図と応力-ひずみ線図

4. 応力の種類と応力計算の目的

応力には、曲げ応力・ねじり応力・フープ応力など、さまざまな種類があります。どの応力も、引張応力・圧縮応力・せん断応力がベースになっています。引っ張る力に抵抗するのが引張応力、押す力に抵抗するのが圧縮応力、切れるように作用する少しずれた力に抵抗するのがせん断応力です。引張応力と圧縮応力はイメージしやすいでしょう。せん断応力は、はさみで切られる寸前の紙の内部をイメージするとよいかもしれません。引張応力の限界値が引張強さ、圧縮応力の限界値が圧縮強さ、せん断応力の限界値がせん断強さです。

材料力学では、たくさんの公式と係数を使って、部材に発生する応力を計算します。応力計算の最大の目的は、物体が使用中に壊れないかを確認することです。そのために、部材の中で最も応力が大きくなる箇所に着目します。そこが部材の弱点であり、破壊が始まる箇所だからです。応力という概念が確立し、さまざまな手法で応力計算ができるようになって、合理的な強度計算に基づく設計が可能になりました。

いかがでしたか? 今回は、破壊工学の理解に欠かせない応力や強さを中心に説明しました。次回は応力ひずみ線図と破壊に至るプロセスについて取り上げます。お楽しみに!

参考文献
谷村康行、絵とき「破壊工学」基礎のきそ、日刊工業新聞社、2009年
Michael Janssenほか、Fracture Mechanics、Routledge、2004年

 

第2回:弾性変形と塑性変形~破壊の前に起きること~

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前回は、応力や強さを中心に破壊工学の基礎を解説しました。ものが壊れるかどうかを決定するのは、力の大きさではなく、単位面積当たりの内力である応力です。応力に着目すると、破壊という現象をシンプルに説明できます。今回は、破壊に至る前に応力が大きくなるに従って、材料の中で起きる弾性変形と塑性変形について説明します。

1. さまざまな応力-ひずみ線図

材料を引張試験にかけると、荷重-伸び線図から応力-ひずみ線図が得られます。応力-ひずみ線図からは、材料が耐えられる最大応力が分かるだけでなく、外部から力を受けて壊れるまでのプロセスを観察できます。図1に、定性的な3つの応力-ひずみ線図を示します(試験材料は鋼材を想定しています)。人に個性があるように、材料の破壊のプロセスにも個性があります。

図1:さまざまな応力-ひずみ線図

図1:さまざまな応力-ひずみ線図

図1に挙げた3つの応力-ひずみ線図で共通しているのは、応力が小さいとき(荷重をかけ始めたとき)グラフは直線を示し、さらに応力が加えると曲線なり、破壊に至る点です。グラフの初めの直線範囲では、材料は力を受けて変形しても、力を取り除くと元の形状に戻ります。これを弾性変形といいます。弾性変形の範囲では、結合している原子同士は加えられた力に応じて互いの距離を変化させます。引っ張る力(引張力)を受けた場合は、原子同士の距離が長くなります。力が取り除かれれば、原子同士が引き付け合う力の作用で、元の距離関係に戻るのです。応力をσ(シグマ)、ひずみをε(イプシロン)、比例定数をEとすると、応力は、直線の式であるσ=E・σで表すことができます。Eは縦弾性係数、またはヤング率と呼ばれ、材料の変形しにくさを表しています。Eの値が大きいと、直線の傾きは大きくなり、伸びにくい性質であることを意味します。

2. 塑性変形とせん断応力

応力-ひずみ線図の後半部分は、曲線を示します。この曲線範囲では、変形した材料から力を取り除いても、変形は元に戻りません。これを塑性変形といいます。塑性変形の範囲では、材料は、ずれるように変形します(図2)。この変形に関与しているのは、せん断力です。引張試験では、材料中に引張力だけではなく、せん断力も発生しています。材料を引っ張っているのに、せん断力が発生しているのはなぜでしょうか?

図2:塑性変形の模式図

図2:塑性変形の模式図

応力をイメージする方法に、仮想切断があります。材料が切り離されているイメージを、頭の中で思い描く方法です。もちろん実際には切り離されていません。切り離されていないからこそ、外部から力がかかっても分離しないのです。外部から力がかかっても、分離をせずに形を保つように作用する単位面積当たりの力を応力と呼んでいます。

例えば、材料に引張力が加わったとき、力の方向に直交する面(仮想断面)を想定してみましょう。そこには面を引き離そうとする力に、抵抗する力の存在を想定できます(図3の上)。これが、引張応力です。仮想的に切断してみる面は、外力に直交する面でなくてもよいのです。引張力の方向に対して斜めの面で、仮想切断をするとどうでしょう? 斜めの面では、面を引き離そうとする力と、面をずらそうとする力に分かれることが想定できます(図3の下)。斜めの面の傾き(角θ)が大きくなればなるほど、面を引き離そうとする力は小さくなり、面をずらそうとする力は大きくなります。

図3:仮想断面に生じるせん断力

図3:仮想断面に生じるせん断力

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3. 延性破壊とぜい性破壊

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第3回:応力と応力集中

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前回は、弾性変形と塑性変形について解説しました。今回は、応力集中と破壊について説明します。応力集中は、材料や部材のき裂(傷)部分など、特定の箇所に発生する大きな応力です。部分的であるとはいえ、大きな応力が発生することは、部材にとっての弱点となり、破壊を早める原因となりかねません。

1. 応力集中とは?

応力は、外部からの力(外力)に対して形を保とうと抵抗する単位面積当たりの力です(参照:第1回)。応力集中は、断面の形状が変化する箇所に生じます。断面の形状が変わらず断面積が一様な材料に、応力集中は発生しません。切欠きや貫通孔などがあると、その箇所で断面の形状が変化するので応力集中が発生します。

まず、切欠きや貫通孔を持たない単純な形状の帯板で考えてみましょう。図1は、一般構造用圧延鋼材SS400製の、長さ220mm、幅37mm、厚さ4mmの帯板です。

この板を引張試験にかけると、69kNで破断しました。この場合、引張力によって平板が切り離されないように抵抗している断面の面積は、どの部位でも同じです。断面積Aは、以下のように求められます。

断面積A

単位をミリメートルからからメートルに変換すると、148mm2は148×10-6m2となります。破断時の力(荷重)を断面積Aで割ると、引張強さを求めることができます。引張強さσtAを計算すると、

引張強さσtA

N/m2はPa(パスカル)に置き換えることができ、106はM(メガ)なので、466×106N/m2は466MPaとなります。これに25kNの引張力を加えます。破断荷重よりも小さな力なので破断はしません。この場合の応力を計算してみます。25kNの値を応力の計算式 σ=W/Aに代入すると、応力σは以下のように求められます。計算式のWは、外部の力に抵抗する内力を表しています。

応力σ

単位をPaに変換すると169MPaになります。

図1:切欠きや貫通孔のないSS400の帯板

図1:切欠きや貫通孔のないSS400の帯板

次に、図1と同じ材質、形状で、中央に直径6mmの貫通孔が開いている帯板に、25kNの引張力を加えた場合を考えてみましょう(図2)。図2の青矢印の箇所は、貫通孔があるため、幅は37-6=31mmです。このため、引張力に抵抗する断面積A’は、以下のように求められます。

断面積A’

断面積 A’は、図1の断面積 Aよりも減少していることが分かります。また、応力σ’は、以下のように求められます。

応力σ’

図2:中央に直径6mmの貫通孔が開いたSS400の帯板

図2:中央に直径6mmの貫通孔が開いたSS400の帯板

貫通孔によって断面積が小さくなった帯板(図2)でも、生じている応力は引張強さの半分以下なので、一見、破断する心配はないように思えます。

しかし、ここでは応力集中を考えなければなりません。引張応力が生じている帯板に円形の貫通孔があると、円の縁付近に大きな応力が生じます。端のない無限平面で計算すると、貫通孔がある場合の応力は、貫通孔がない場合の応力(平均応力σn)の、約3倍の大きさになります(図3)。202×106N/m2(MPa)の3倍の応力は、材料が耐えうる限界の応力、すなわち、引張強さを超えてしまいます。

図3:円形の貫通孔の縁に発生する応力集中

図3:円形の貫通孔の縁に発生する応力集中

2. 応力集中と破壊

貫通孔のある帯板(図2)の断面積は貫通孔により減少しているので、単純計算では、破断荷重は58kNになるはずです。しかし、引張試験にかけると、実際の破断荷重は61kNでした。58kNよりも、やや大きい力で破断しています。このことは、破断する力に応力集中が影響していないことを示しています。応力集中は、空論だったのでしょうか?

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3. き裂と応力集中

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第4回:き裂と破壊

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これまでの連載では、応力や弾性変形、塑性変形、応力集中などの用語を紹介しながら、き裂と材料の強さを解説してきました。今回は、き裂が大きくなる条件について説明します。

1. グリフィスの実験と研究

き裂は、部材の一部が分離している状態です。部分的に壊れた状態ということもできます。き裂が進展すると、部材は2つ以上に分離し破壊に至ります。破壊力学という学問では、部材に発生したき裂が、それ以上進展するかの判断や進展する条件を考察します。

破壊力学の礎を築いたのは、英国の王立航空研究所に勤務していたアラン・アーノルド・グリフィス(Alan Arnold Griffith)です。グリフィスは、材料の強度を研究していました。彼が着目したのは、材料の理論強度と実際の強度に10倍以上の開きがあることでした。

材料が外からの力(外力)を受けても分離しないのは、材料内に抵抗する力(内力)が働いているためです。その内力の源は、原子と原子を結びつけている原子間力です。原子間力とは、プラスの電荷とマイナスの電荷が引き合う力(クーロン力)であり、原子の配列が分かれば算出できます。この算出された材料の強さが、理論強度です。

しかし、材料の破壊試験で確認される実際の強度は、理論強度の10分の1以下でした。グリフィスは、この原因を、材料の中に欠陥があり、そこから破壊が進展するからではないかと考えました。彼はユニークな実験でこのことを実証しました。太さを変えたガラス繊維を引張試験にかけて、引張強さを測定したのです。図1のグラフは、1921年に発表されたグリフィスの論文に掲載されているデータを基にして、著者が作成したものです(単位をinch・lbから、mm・MPaに変換)。

図1:ガラス繊維の直径と引張強さ

図1:ガラス繊維の直径と引張強さ(データ参照元:A. A. Griffith、The Phenomena of Rupture and Flow in Solids、Philosophical Transactions of the Royal Society、1921年)

このグラフから、ガラス繊維の直径が0.1mmよりも小さい領域では、直径が小さくなるほど、引張強さが増すことが分かります。細いガラス繊維の場合、内部に生じた欠陥の最大サイズは、ガラス繊維の直径以下です。グリフィスは、ものが壊れる要因として重要なのは、材料の中にある欠陥の数よりも、欠陥の最大サイズであると考えました。

グリフィスは、もう一つ重要な実験をしています。ガラスの球と管にき裂を入れたサンプルを作り、中に空気を送り込んで圧力を加えて、破裂させました(図2)。き裂のサイズと破壊の関係を調べたのです。ガラスなので、き裂の長さは分かります。球もしくは管の直径と厚さと圧力が分かれば、生じている応力は計算で求められます。破壊時の圧力が分かれば、き裂のあるガラスの強度が分かります。ちなみに、厚さは破壊してから破片を集めて測定しました。破壊時の応力とき裂サイズの関係を示したのが、図3です。

図2:グリフィスが行ったき裂と破壊の実験

図2:グリフィスが行ったき裂と破壊の実験(参照:A. A. Griffith、The Phenomena of Rupture and Flow in Solids、Philosophical Transactions of the Royal Society、1921年)

図3:ガラスにあるき裂と強度の関係

図3:ガラスにあるき裂と強度の関係(データ参照元:A. A. Griffith、The Phenomena of Rupture and Flow in Solids、Philosophical Transactions of the Royal Society、1921年)

この実験により、破壊時の応力(強度)は、き裂長さのルートに反比例することが分かりました。この結果から、グリフィスはき裂が急速に進展する条件を導き出しました。

2. き裂が成長する条件

グリフィスは、き裂が進展するかしないかの条件を、エネルギーバランスの観点から考えました。外部から力が加えられた部材の中には、応力が生じています。また同時に、応力に応じたひずみも生じています。き裂が生じると、き裂の周辺では力が伝わらないため、弾性ひずみエネルギーが消失します。この消失したエネルギーは、どこに行ったのでしょう。グリフィスは、新たに生じたき裂面の表面エネルギーに変換されたと考えました(図4)。

図4:き裂によって消失する弾性ひずみエネルギーと、新たに生じる表面エネルギー

図4:き裂によって消失する弾性ひずみエネルギーと、新たに生じる表面エネルギー

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3. き裂のある部材の強度

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第5回:応力拡大係数と破壊じん性

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前回は、き裂と強度の関係を示したグリフィスの研究を紹介し、き裂が大きくなる条件を説明しました。今回は、実際に強度部材として使用される材料について、き裂と強度の関係を解説します。

1. リバティ船の破壊事故

鉄鋼は、実構造物の強度部材として、よく使用されます。鉄鋼を中心とした金属材料では、破壊時に多かれ少なかれ塑性変形が発生します。そのため、金属材料にき裂があったとしても、破壊の原因を弾性力学の応力集中で直接説明することはできません(第3回参照)。しかし、延性材料でも、き裂が急速に進展して破壊することがあります。破壊現象の説明は容易ではありません。この代表的な事例が、リバティ船の破壊事故です。

米国は、第二次世界大戦中に、軍事物資と兵員輸送のため、軍事輸送船(戦時標準船)を大量に建造しました。最大積載量11,000トンの戦時標準船はリバティ船と名付けられ、1941~1945年にかけて、2,710隻が作られました。リバティ船は、それまで主流だった鋼板のリベットによる接合ではなく、溶接が採用されました。

ところが、建造されたリバティ船2,710隻のうち200隻以上で、軍事作戦とは関係ないところでの沈没や、使用できなくなるほどの損傷が発生しました。7隻では、瞬時の折損事故が発生し、中でも1943年1月、港に停泊中だったスケネクタディー号は、真っ二つに割れる事故を起こしています(図1)。

図1:港に停泊中に真っ二つになったリバティ船

図1:港に停泊中に真っ二つになったリバティ船(引用:合衆国政府印刷局、The Design and Methods of Construction of Welded Steel Merchant Vessels、1947年)

2. 応力拡大係数と破壊じん性

太平洋戦争の終戦後、米海軍の研究機関に所属していたジョージ・ランキン・アーウィン(George Rankine Irwin)とジョセフ・A・キース(Joseph A. Kies)は、鉄鋼材料が急速に割れ、破壊に至る現象の解明に乗り出しました。アーウィンらは、グリフィスの研究を受け継いで、延性材料である金属材料のき裂が進展する条件を考えました。グリフィスの研究では、き裂がないとしたときの平均応力をσn、縦弾性係数(ヤング率)をE、材料の表面エネルギーをγSとし、以下の式が成り立つとき、き裂は急速に進展します。

金属材料のき裂が進展する条件

この式は、ぜい性材料には当てはめることができます。しかし、延性材料に対しては、実験結果と大きな差が生じます。原因は、き裂先端で塑性変形が起きることでした。き裂の先端が成長することによる弾性ひずみエネルギーの喪失は、表面エネルギーの増加だけではなく、塑性ひずみエネルギーにも変換されます。塑性ひずみエネルギーは、ずれる変形によるひずみのため、多くは熱になって拡散します。アーウィンらは、グリフィスの式に塑性ひずみエネルギーγpの項を入れることで、延性材料のき裂進展の条件式としました。

延性材料のき裂進展の条件式

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3. 実験的に求める破壊じん性

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第6回:応力拡大係数とき裂による破壊

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前回は、き裂と強度の関係を説明しました。今回は、応力拡大係数と破壊の関係について、き裂のある材料における具体的な破壊条件と、ロケットの材料開発と破壊検査の事例を解説します。

1. 破壊じん性とその意味

連載第5回で、破壊じん性値を求める試験方法を紹介しました。あらかじめ疲労き裂を入れたCT試験片に力を加え、き裂が急速に進展して破壊するときのき裂長さを測定します。また、き裂に対する力のかけ方には、3つのモード(モードI~III)がありました。表1に、代表的な材料に、モードIで力を加えたときの、破壊じん性値 KIcと、引張強さを示します。ここでは、引張強さは降伏強さ σy(塑性変形が始まる降伏点における応力)で示しています。

表1:代表的な材料の降伏強さと破壊じん性値(モードIの破壊試験)
材料 引張強さσy(MPa) 破壊じん性値KIc(MPa√m)
マルエージング鋼
(18% Ni)
1,890 112
高強度鋼
(4340 調質)
1,070 67
低合金鋼
(A533B-1 調質)
480 218
チタニウム合金
(Ti-6AI-4V)
940 60
アルミニウム合金
(7075-T6)
510 23
アルミニウム合金
(2024-T3)
340 30

図1に、き裂の長さを横軸に、応力を縦軸に取った破壊じん性のグラフを示します。赤い曲線は破壊じん性を表し、き裂長さのルートに反比例しています。応力とき裂長さが曲線の下の領域にあれば、その部材は壊れません。曲線を超えると、き裂が急速に拡大して破壊します。この破壊の仕方を、線形弾性破壊といいます。また、ピンク色の横向きの直線は、引張強さを表しています。応力がこの線を超えると、き裂がなくてもその材料は大きく塑性変形を開始して、破壊します。この破壊の仕方を、塑性崩壊といいます。

図1:き裂のある材料が線形弾性破壊する条件

図1:き裂のある材料が線形弾性破壊する条件

2. ソフトウェアで見る応力拡大係数と破壊じん性

筆者のブログでは、図1のようなグラフを簡単に描くことができるソフトウェアStress Intensity Factorを公開しています。図2は、高強度鋼(4340)のデータを設定した場合の実行例です。応力200MPa、き裂長さ10mmは、赤い線の下側にあるので、破壊しないことが分かります。しかし、応力が200MPaのままでも、き裂長さが27mmを超えると、応力拡大係数が破壊じん性値67MPa√mを超え、線形弾性破壊します。また、き裂長さが10mmのままでも、応力が388MPaを超えると、やはり応力拡大係数が破壊じん性値67MPa√mを超え、線形弾性破壊します。

図2:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、高強度鋼(4340)

図2:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、高強度鋼(4340)

図3に、低合金鋼(A533B-1)のデータを設定した場合の実行例を示します。この材料では、応力200MPaの場合、き裂長さが100mmを超えても、線形弾性破壊しないことが読み取れます。低合金鋼(A533B-1)は、高強度鋼(4340)に比べ、き裂に対して強いことが分かります。

図3:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、低合金鋼(A533B-1)

図3:ソフトウェアStress Intensity Factorの実行例、低合金鋼(A533B-1)

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3. ポラリスロケットの材料開発

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第7回:応力拡大係数の計算方法

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前回は、応力拡大係数と破壊の関係を解説しました。今回は、さまざまな形状の部材で応力拡大係数を求める方法を紹介します。まずは、応力拡大係数の定義と補正係数の考え方から、見ていきましょう。

1. 応力拡大係数のシンプルな定義と補正係数

前回解説したとおり、き裂がない箇所で引張応力 σがかかるモードIの応力拡大係数 KIは、以下のシンプルな式で表すことができます。

モードIの応力拡大係数

ただし、この式を直接当てはめることができるのは、図1のように、端のない無限に広がる平面板(無限平面)に、長さ2aの貫通き裂がある場合です。

図1:端のない無限平板にあるき裂

図1:端のない無限平板にあるき裂

筆者が破壊力学を学び始めたころ、無限平面にある貫通き裂を具体的にイメージすることができず、先生に質問したことがあります。先生は「あえてイメージするとしたら、高圧ガスの球形タンクにある貫通き裂ですね」と答えてくれました。確かに、球形ガスタンクの外板には端がありません(図2)。

図2:大阪ドーム前の高圧ガスを貯蔵する球形タンク

図2:大阪ドーム前の高圧ガスを貯蔵する球形タンク

地球は球体であっても、私たちの視野からは平面と見なすことができます。同様に、球形ガスタンクの表面も、端のない平面と考えることができます。平面上に存在する数ミリメートルの貫通き裂を、イメージしてみてください。もちろん、高圧ガスタンクにき裂があれば、ガス漏れが生じ、大変危険です。技術体系の本質と具体的な現実は、区別して考えます。

優れた技術体系は、シンプルです。しかし、これを現実に直接適用しようとすると、無理が生じます。技術体系を、具体的な現実に結び付ける架け橋が必要です。この架け橋に当たるのが、応力拡大係数の補正係数 Fです。応力拡大係数の式に補正係数 Fを入れると、以下となります。

応力拡大係数の式に補正係数 Fを入れた式

2. 応力拡大係数ハンドブック

世界中の研究者が、解析的または実験的に、補正係数 Fを求めてきました。補正係数 Fは、さまざまな論文や本に掲載されています。その中で最も権威があるのは、ASTM(旧米国材料試験協会、American Society for Testing and Materials)発刊の応力拡大係数ハンドブック(Stress Intensity Factors Handbook、図3)です。多くの工学系大学の図書館で閲覧することができます。ハンドブックの中から、評価したい部材に近い形を探して、き裂の大きさや、生じている応力の値を代入することで、応力拡大係数Kを求めることができます。

図3:ASTMの応力拡大係数ハンドブック

図3:ASTMの応力拡大係数ハンドブック

3. 応力拡大係数の計算例

応力拡大係数の計算例として、片側にき裂のある帯板の一様引張りの場合と、平板表面にだ円き裂がある場合の2通りを解説します。

・片側にき裂のある帯板の一様引張りの場合

片側にき裂のある帯板の一様引張りとは、幅w、厚さtの帯板の縁に長さaのき裂があり、帯板には引張力σが作用している状態を示します(図4)。この場合、引張力に平行な方向の長さは関係しません。

図4:片側にき裂のある帯板の一様引張り

図4:片側にき裂のある帯板の一様引張り

また、補正係数 Fは、以下の式によって求めることができます。

補正係数 F

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第8回:金属疲労き裂とパリス則

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前回は、さまざまな形状の部材で応力拡大係数を計算する方法を紹介しました。今回は最終回です。応力拡大係数を使いながら、金属疲労き裂の進展速度を求めるパリス則を解説します。まずは、金属疲労き裂進展の3段階を見ていきましょう。

1. 金属疲労き裂進展の3段階

金属疲労は、材料強度と比較してはるかに小さな応力でも、繰り返し生じることによって、き裂が進展し破壊に至ります。疲労き裂の進展は、き裂の発生、き裂の進行、最終破断の3段階に分けられます(図1)。

図1:金属疲労き裂進展の3段階のイメージ

図1:金属疲労き裂進展の3段階のイメージ

第1段階では、き裂は金属結晶粒数個分のごく小さい範囲で発生し、応力方向に対して45度方向に傾いて進行します。この段階で、き裂を検出するのは、実際のところ不可能です。第2段階では、き裂は繰り返し応力に対して垂直方向に進行します。この段階では、疲労き裂の進展に対して何らかの対策を講じることができます。第3段階は最終破壊です。この段階のき裂は極めて速く進行するため、進行を食い止めることはできません。

2. S-N線図と疲労限度

金属疲労による破壊事故は、産業革命の時代から重要な問題として扱われ、多くの研究が行われてきました。その成果の一つが、疲労試験によるS-N線図です(図2)。疲労試験では、定められた条件下において、試験片に対し繰り返し応力を発生させ、破断するまでの繰り返し数をカウントします。S-N線図は、繰り返し応力(Repeated Stress)を縦軸に、繰り返し数(Number of Cycles)を横軸にしてグラフ化したものです。膨大な数の疲労試験を実施することで、S-N線図は作成されます。

図2:S-N線図と疲労限度

図2:S-N線図と疲労限度

S-N線図をデータに基づいて作成すると、分かることがあります。例えば、繰り返し応力が小さいと、破断するまでの繰り返し数は多くなります。これは、力が小さいので破断するまでに長い時間を要するという、常識的な感覚と一致します。また、鋼やチタニウム合金の場合、応力を小さくしていくと、繰り返し数を増やしても疲労破壊しない境界が現れます。この応力を、疲労限度と呼びます。使用する部材に対し発生する応力を疲労限度未満になるように設計すれば、理論上、疲労破壊は起こりません。

アルミニウム合金には、疲労限度が存在しないことが分かっています。そのため、疲労破壊を防ぐには、発生させる応力と一緒に使用時間(厳密には繰り返し数)を管理する対策が取られてきました。図3に、アルミニウム合金の疲労破断面の電子顕微鏡写真を示します。き裂の進行を示す、細かいしま模様(ストライエーション)が観察できます。

図3:アルミニウム合金(A7075)の疲労破断面に現れた細かいしま模様(ストライエーション)

図3:アルミニウム合金(A7075)の疲労破断面に現れた細かいしま模様(ストライエーション)

3. パリス則

S-N線図の分析から導き出された対策によって、疲労破壊事故は大幅に減らすことができました。しかし、完全になくなったわけではありません。材料が疲労に至る経緯をマラソンに例えるならば、S-N線図のデータによって分かるのは、マラソンがスタートしてからゴールするまでの時間です。途中のラップタイムや走行スピードは分かりません。

アメリカの破壊力学研究者であるポール・パリス(Paul C. Paris)は、1960年代に、疲労き裂進展速度を表すシンプルな式を発表しました。これは、応力拡大係数の概念を使って、疲労き裂進展の第2段階における進展速度を説明しています。この式を、パリス則と呼びます。

パリス則

左辺のda/dNは、き裂進展速度を表します。Nは繰り返し数を、aはき裂長さを意味し、それぞれに微分記号dが付いています。すなわち、dNは微小回数を意味し、この場合は繰り返し数1回当たりと考えてよいでしょう。daは微小なき裂進展長さです。繰り返し数を1回とすると、1回に進展するき裂展長さといえます。すなわち、da/dNは、単位繰り返し数当たりのき裂進展量を表し、その時点におけるき裂進展速度になります。

右辺のΔKは、応力拡大係数範囲を表します。Kは応力拡大係数を意味し、応力、き裂長さ、補正係数で成り立っています(第7回参照)。Δが付いているのは、き裂が開く側の応力拡大係数という意味です。引張と圧縮が繰り返されている場合、ΔKは、引張側の応力範囲に相当する応力拡大係数です。き裂進展速度da/dNを縦軸に、応力拡大係数範囲ΔKを横軸に取って、両対数グラフにすると直線になります。この直線の傾きがm、横軸1の切片の値がCです。Cとmは材料固有の値で、実験的に求められます。

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4. パリス則を使った疲労進展予測

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