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燃料電池の基礎知識

燃料電池の基礎知識

著者:敬愛(けいあい)技術士事務所 所長 森田 敬愛(もりた たかなり)

地球環境問題への取り組みがこれ以上遅れると、将来世代の生存は危ういかもしれません。さまざまな取り組みが進められている中で、燃料電池はエネルギー・環境問題の解決に大きく貢献すると期待されています。長年の多くの研究開発により、最近では、家庭用燃料電池が導入され、燃料電池自動車が市販されるまでになりました。本連載では、今後ますます期待される燃料電池の基礎知識を解説します。

第1回:燃料電池とは何か?

1. 電池にはさまざまな種類がある

電池と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。携帯電話(従来型携帯電話やスマートフォンなど)を長時間使うと、電池の充電残量が減り、電池切れして困ったという経験は、多くの人がしていると思います。

テレビやエアコンなどのリモコンには、多くの場合、乾電池と呼ばれる電池が使われています。形状は、一般的には円筒形で、主に単1型~単4型のサイズがあります。また、小型電子機器には、コイン型(またはボタン型)と呼ばれる平らな形状の電池も使われます。屋外を歩いていると、一般住宅の屋根の上に太陽電池と呼ばれる電池が設置されているのを目にすることも多くなりました。このように、電池と一言でいってもさまざまな種類があることが分かります。

電池は、化学電池と物理電池の2つに大きく分類できます(図1)。

図1:電池の種類

・化学電池

化学電池は、化学物質の電気化学反応、すなわち、電池内部の負極では物質から電子が取り出される酸化反応が、正極では物質に電子が与えられる還元反応が起こります。その過程で電子を外部電気回路に取り出して電気エネルギーとして利用します。

さらに化学電池は、一度放電してしまうと充電ができない使い切り型の一次電池と、繰り返し充電して使える二次電池に分けることができます。

一次電池の代表例に、マンガン乾電池やアルカリ乾電池があります。マンガン乾電池では、負極に亜鉛Zn、正極に二酸化マンガンMnO2が使われています。負極の亜鉛が酸性の電解質中に溶解してイオンになるときに電子を放出し、この電子を電気エネルギーとして利用します。アルカリ乾電池は、電解質にアルカリ性の電解質が使われていることからその名がついています。マンガン乾電池よりも放電容量が大きく、寿命が長いという特長があります。

二次電池の例としては、小型電子機器類に使われることが多いリチウムイオン電池やニッケル水素電池、今も多くの自動車に使われている鉛蓄電池などが挙げられます。その他、バナジウムVなどの金属のイオンが溶解している電解液を正極と負極に循環させ、金属イオンの酸化還元反応を利用して発電するレドックスフロー(Redox Flow)電池を、蓄電システムに適用するための開発が進んでいます。

・物理電池

……

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2. 燃料電池の発電原理

図2に燃料電池の発電原理の模式図を示します。

図2:燃料電池の発電原理

図2:燃料電池の発電原理

硫酸のような水素イオンを含む電解質溶液中に白金Pt電極を2本浸せきして外部負荷回路を接続します。一方の電極には水素ガスを、もう一方の電極には酸素ガスを供給します。そうすると、各電極表面上で次のような反応が進行します。

負極:2H2→4H++4e
正極:O2+4H++4e→2H2O
全反応式:→2H2O

負極では、水素ガスが白金電極表面で水素イオンと電子に分かれる酸化反応が起こり、生成した電子は外部回路を通じて正極へ移動します。一方、正極では、酸素分子が電解液中の水素イオンおよび負極から移動してきた電子と反応する還元反応が起こり、最終的に水が生成されます。負極で生成した電子は、正極へ移動する際、外部負荷で電気エネルギーとして利用されます。

上の全反応式だけを見ると、水素と酸素が反応し、水が生成するだけのように見えます。実際に水素を酸素と直接反応させると燃焼反応が進み、熱を発生しながら水を生成させます。このときは、水素分子と酸素分子の間で原子が直接組み換わる化学反応が進行し、熱エネルギーが放出されます。しかし電気エネルギーを直接得ることはできません。

化学電池で電気を得るには、……

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3. 燃料電池は「電池」ではなく「発電機」

一般的な乾電池やリチウムイオン電池などの化学電池の内部には反応物質が充填(じゅうてん)されており、全ての物質が反応し尽くすと発電できなくなります。一次電池は充電できない使い切りタイプのため、新しい電池に交換する作業が発生します。これに対してリチウムイオン電池では、放電した後は外部から電気エネルギーを供給して充電でき、繰り返し使うことができます。一次電池、二次電池のどちらも、一度に発電できる量と時間は、電池内に充填されている化学物質の量に依存します。

それでは燃料電池ではどうでしょうか。燃料電池は、基本的には電池内部に化学物質を充填していません。つまり、……

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4. 燃料電池の特長

天然ガスを燃料とする火力発電所では、温室効果ガスとされる二酸化炭素が大量に排出されます。これに対し燃料電池では、発電原理で示した反応式から分かるとおり、全くの無害である水が排出されるだけです。燃料電池の1つ目の特長として、非常にクリーンで環境に優しい点が挙げられます。ただし、燃料の水素をどのように調達するかが問題となります。現状では化石燃料由来の水素が大部分です。つまり、水素の製造過程で二酸化炭素が排出されています。それでもなお、全体のエネルギー効率を考えると、燃料電池は省エネ効果が高い技術です。本連載の後半では、二酸化炭素を排出せずに水素を製造する取り組みを解説します。

2つ目の特長として、……

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第2回:燃料電池の種類1-低温形-

前回は、燃料電池の発電原理とその特長を紹介しました。燃料電池には使われる材料の違いによってさまざまな種類があります。本連載では、第2回と第3回で各種燃料電池の発電原理や特長、そして歴史的背景を解説していきます。

今回は、比較的低温で稼働する燃料電池の基礎知識について解説します。

1. 主な燃料電池の種類

燃料電池にはさまざまな種類があり、使われる電解質によって名前が付けられています。その中の代表的な5種類の燃料電池について解説します(図1)。

図1:主な燃料電池の種類
燃料電池の
種類
低温形 高温形
アルカリ形
AFC
りん酸形
PAFC
固体高分子形
PEFC
溶融炭酸塩形
MCFC
固体酸化物形
SOFC
電解質の
種類
水酸化カリウム
(KOH)
りん酸
(H3PO4)
固体高分子膜 溶融炭酸塩
(Li2CO3、K2CO3など)
固体酸化物
(Y2O3で安定化したジルコニア(ZrO2)など)
電解質中の移動イオン OH H+ H+ CO32- O2-
作動温度 ~250°C 150~200°C ~100°C 600~700°C 700~1,000°C

これらは作動する温度によって低温形と高温形の2つに分けられます。それぞれの種類の英語表記から、下のような略称がよく使われます。

アルカリ形燃料電池 AFC Alkaline Fuel Cell
りん酸形燃料電池 PAFC Phosphoric Acid Fuel Cell
固体高分子形燃料電池 PEFC Polymer Electrolyte Fuel Cell
溶融炭酸塩形燃料電池 MCFC Molten Carbonate Fuel Cell
固体酸化物形燃料電池 SOFC Solid Oxide Fuel Cell

それでは各種類の燃料電池の詳細を説明していきます。

2. アルカリ形燃料電池(AFC)

アルカリ形燃料電池(以下AFC)は、名前のとおり、水酸化カリウム(KOH)などを含んだアルカリ水溶液が電解質に使われます。負極に導入された水素が電極触媒表面で電解質中のOHと反応し、水が生成します。この時に発生する電子が、外部回路を通って電気エネルギーとなります。正極では、導入された酸素と電解液中の水、そして外部回路を通ってきた電子が電極触媒表面で反応し、OHが生成します。生成したOHは負極へ向かって電解質中を移動していきます(図2)。

図2:アルカリ形燃料電池(AFC)の発電原理

図2:アルカリ形燃料電池(AFC)の発電原理

作動する温度は条件によりさまざまです。AFCは比較的低温(60~80℃程度)で作動するため、電極触媒には低温でも活性が高い貴金属系材料が多用されます。電解質はアルカリ性で、酸性電解質に比べて電極に高い耐腐食性が必要でないため、……

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3. りん酸形燃料電池(PAFC)

りん酸形燃料電池(以下PAFC)では、電解質に濃度が約100%の液体りん酸(H3PO4)を使い、水素イオン(H+)がその中を移動します。負極および正極では次のような反応が進行します。

負極:2H2→4H++4e
正極:O2+4H++4e→2H2O
全反応式:2H2+O2→2H2O

作動温度は200℃程度で、電解質に酸性溶液を使用するため、電極触媒には比較的低温でも活性が高く、かつ酸性溶液中でも耐腐食性が高い白金(Pt)触媒が使われます。これは、電気伝導性がある炭素粉末上にナノメートルスケールのPt粒子が結合した材料です(第4回で詳しく説明します)。

PAFCの開発は、1960年代の米国で本格的に始まりました。1967年に始まったTARGET計画では、米国内の主要ガス会社が参画してPAFCの開発を進めました。1970年代には、UTC社により12.5KWのPC11型機が開発され、実地試験も行われました。日本では、東京ガスと大阪ガスがこの計画に加わり、1970年代前半にPC11型機の実地試験をしています。これは日本における初めてのPAFC実地試験成功例となりました。

TARGET計画を引き継いだGRI計画が1976年に始まり、UTC社による40KWのPC18型機の商用化が進められました。その流れでUTC社と日本の東芝が合弁でIFC社を設立し、開発を加速していきました。

さらに東芝は、……

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4. 固体高分子形燃料電池(PEFC)

固体高分子形燃料電池(以下PEFC)は、電解質中を水素イオンが移動する様式をとっているので、発電原理は基本的にPAFCと同じです(図3)。

図3:固体高分子形燃料電池(PEFC)の発電原理

図3:固体高分子形燃料電池(PEFC)の発電原理

電解質には厚さ数10μm(マイクロメートル)程度の固体電解質膜が使われ、膜中を水素イオンが移動します。この水素イオンの動きがPEFCの出力に影響する因子の一つであり、膜を水で十分に加湿した状態で稼働する必要があります。膜はフッ素系の高分子材料で構成されており、稼働温度は一般的に80°C程度です。他の燃料電池に比べて稼働温度が非常に低く、高分子膜は酸性が強いため、こうした条件下でも活性と耐腐食性の高いPt触媒が電極に使われます。触媒の基本構成はPAFCの場合と同じです(実際のPEFCの材料構成などについては第4回で解説します)。

PEFC 開発の歴史を見ると、……

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第3回:燃料電池の種類2-高温形・その他-

前回は、比較的低温度領域で作動する燃料電池について解説しました。今回は、高温度領域で作動する燃料電池の基礎知識(発電原理、特長、開発の歴史など)を解説します。また、燃料として直接水素を導入しない種類の燃料電池についてもいくつか紹介していきます。

1. 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)

溶融炭酸塩形燃料電池(以下MCFC)の発電原理を図1に示します。電解質にはLiやKの炭酸塩の混合物が使われます。600~700℃程度の運転温度では電解質が溶融状態になっており、炭酸イオン(CO3 2-)が電解質中を移動します。電解質の炭酸塩が溶融状態で稼働することから、溶融炭酸塩形と呼ばれます。

図1:溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の発電原理

図1:溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の発電原理

燃料として負極に導入された水素は電解質中のCO32-と反応し、水と二酸化炭素が生成します。この時に生じた電子が正極へ移動し、外部回路で電気エネルギーとして利用されます。負極での反応には、やはり触媒が必要となります。稼働温度が比較的高いため、触媒には白金(Pt)などの高価な貴金属ではなく、ニッケル(Ni)などのより安価な金属が使用できます。

正極には酸素と二酸化炭素を導入します。これらが外部回路から移動してきた電子と電極上で反応してCO32-が生成し、……

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2. 固体酸化物形燃料電池(SOFC)

固体酸化物形燃料電池(以下SOFC)の発電原理を図2に示します。各種燃料電池の中ではSOFCの作動温度が一番高く、700~900℃程度で運転されます。酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)に酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)を少量加えて安定化させた固体酸化物(イットリア安定化ジルコニア:YSZ)を電解質に使うため、その名がついています。この電解質中を酸化物イオン(O2-)が移動することで発電します。

図2:固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電原理

図2:固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電原理

固体のセラミックス材料中を酸化物イオンが伝導する様子を図3に示します。ジルコニア(ZrO2)の結晶内にはZr4+とO2-が規則正しく配列しています。ここにイットリア(Y2O3)を少量加えると、Zr4+の一部がY3+に置き換わります。そうすると、全体のイオンの電荷バランスをとるために、O2-の一部が酸素欠陥の状態となります。温度が高くなると、この酸素欠陥を埋めようとしてO2-が移動するようになります。

図3:YSZ中をO2–が移動する様子の模式図

図3:YSZ中をO2-が移動する様子の模式図

SOFC は作動温度が高いため、……

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3. 直接メタノール形燃料電池(DMFC)

直接メタノール形燃料電池(以下DMFC)は、水素ガスではなく液体のメタノール(CH3OH)を燃料に使います。電解質に固体高分子膜を使う点はPEFCと同じです。DMFCでは負極と正極で次のような反応が起こります。

負極:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e
正極:3/2O2+6H++6e→3H2O
全反応式:CH3OH+H2O+3/2O2→CO2+3H2O

DMFCで使われる液体のメタノールは、燃料として水素ガスよりも取り扱いやすいという特長があります。しかし、負極でメタノールの分解が進行すると、最終的にCOが触媒上に残ります。Pt触媒では、この残存COが表面に強く吸着してしまい、メタノールの酸化反応が進まなくなってしまいます。このためDMFCではCO除去能力に優れたPtRu系触媒が負極触媒に使われていますが、性能はまだまだ不十分で、さらなる改善が求められています。

また、燃料のメタノールは、……

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4. 水素以外を燃料として利用する燃料電池

その他の燃料電池として、窒素原子と水素原子で構成されるヒドラジン (N2H4)という物質を燃料に用い、アニオン(陰イオン)であるOHが移動するアニオン交換膜を電解質に使うものがあります。負極と正極で次のような反応が起こります。

負極:N2H4+4OH→N2+4H2O+4e
正極:O2+2H2O+4e→4OH
全反応式:N2H4+O2→N2+2H2O

OHが電解質中を移動するため、発電原理はアルカリ形燃料電池 (AFC)に似ています。ただし、電解質が液体ではなく高分子膜である点が異なります。アルカリ形であるため高価な貴金属触媒以外の安価な触媒を使うことができる、燃料のヒドラジンが液体であり扱いやすい、などの利点があります。

ヒドラジンと同じように、構成元素が窒素と水素であるアンモニア(NH3)を燃料として利用する燃料電池の開発も進んでいます。発電原理はSOFCと同じで、……

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第4回:固体高分子形燃料電池を構成する材料

前回は、主な燃料電池の種類と発電原理について解説しました。今回は、その中でも特に一般家庭や自動車用途に導入が進む固体高分子形燃料電池(PEFC)のセル構造と、そこに使われる材料について解説します。

1. セルの構造

図1にPEFCのセル構造の概要を示します。電池を英語でセル(cell)と呼び、負極・正極を含めさまざまな材料を組み合わせて構成された最小単位を単セルと呼びます。この単セルを数多く積層したものがスタック(stack)であり、家庭用燃料電池や燃料電池自動車に組み込まれ、発電を行っています。

図1:PEFCのセル構造の概要

図1:PEFCのセル構造の概要

単セルの構成材料は、まず中心に電解質となる固体高分子膜(厚さ数10μm程度)があり、その両面に負極層と正極層(それぞれ厚さ数10μm程度)が形成されます。ここには、各極の電気化学反応を進めるための触媒(基本的にはPt触媒)が含まれています。その外側には、炭素繊維で作られたカーボンペーパーなどの多孔質体層(厚さ数10μm~百数10μm程度)が、ガス拡散層として配置されます。そして、これらを一体化したものが膜ー電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)です。このMEAを積層してスタックを作るために、ガス流路が形成されたセパレータ(厚さ約0.5~数mm程度)が各MEAの間に配置されます。

燃料電池自動車では、……

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2. 電極触媒

燃料電池の性能を大きく左右するのが、負極と正極に使われている電極触媒です。いわば燃料電池の心臓部といってもよい材料です。比較的低温(80℃程度)で稼働するPEFCでは、負極の水素酸化反応と正極の酸素還元反応を速やかに進めるために、高活性な触媒としてPtが基本的に使われます。負極よりも正極の反応の活性化エネルギー(反応を進めるために超える必要のあるエネルギーの山)が大きいため、正極の触媒活性をより高める必要があります。

触媒反応は物質の表面で起こるため、触媒の活性を上げるためには、その表面積を大きくする必要があります。つまり、Pt材料をより小さな粒子にして使うことが求められます。しかし、単純にPtを小さな粒子にしようとすると粒子同士が凝集し、触媒として働く露出表面は逆に少なくなってしまいます。

そこで、小さくしたPt粒子が凝集しないように、下地材(担体と呼ばれます)となる材料の表面に分散させて固定化するという方法でPt触媒を製造します。これに加え、電極反応が速く進むためには、電子が速く移動する必要があります。従って担体には、高い電子伝導性を持ち、かつ比表面積(単位質量当たりの表面積)が大きい材料が使われます。基本的にはカーボンブラック(粉末状炭素)のような材料です。

図2に示したとおり、カーボン担体上には数nm程度の大きさのPt粒子が担持(担体の上に粒子を固体化すること)されます。担体の比表面積が単純に大きいほど良いというわけではありませんが、小さすぎるとPt粒子 が凝集してしまうため、適度に大きな比表面積をもつ担体が用いられます。

図2:電極触媒の基本構成

図2:電極触媒の基本構成

図3はカーボン担持Pt触媒の透過型電子顕微鏡写真です。写真中の小さな黒い粒がPt粒子です。計算上、直径2nmのPt粒子の比表面積は約140m2/gとなります。

図3:Pt触媒の透過型電子顕微鏡写真(平成27年度NEDO新エネルギー成果報告会、燃料電池・水素分野要旨集、2016、P.4)

図3:Pt触媒の透過型電子顕微鏡写真(平成27年度NEDO新エネルギー成果報告会、燃料電池・水素分野要旨集、2016、P.4)

触媒のPtは、資源量が少なく非常に高価な材料のため、使用量をできるだけ抑える必要があります。触媒の活性を比較する場合、Pt単位質量当たりの表面積 (cm2/g-Pt)と電池出力 (A/g-Pt)を、いかに増加させるかという点が重要となります。そこで、……

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3. 固体高分子膜

固体高分子膜は、電極触媒と同様に燃料電池の出力を左右する重要な材料となります。PEFCでは一般的にフッ素系高分子膜が使われます。図4にフッ素系高分子膜の構造を示します。テトラフルオロエチレン (CF2-CF2)が長くつながった主鎖と、酸素原子を介して主鎖とつながった側鎖で構成されます。側鎖の末端に結合したスルホン酸基(-SO3H)が集合して2~5nmほどの大きさのクラスター(ブドウなどの房の意味)を作り、1nmほどの大きさのパス(path:通り道)で互いに三次元的につながっています。

図4:フッ素系高分子膜の構造

図4:フッ素系高分子膜の構造

親水性であるクラスタは、加湿されると水で満たされ、水素イオンが移動できるようになります。水素イオンは、水分子と結合してオキソニウムイオン(H3O+)になり、隣の水分子を介して次々と飛び移るホッピング機構で主に移動すると考えられています。

膜に要求される性能のうち、水素イオン伝導性の高さが最も重要な点の一つです。また、セルの内部抵抗を下げるためには、より薄い膜が求められます。しかし、薄くなるほど……

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4. 膜ー電極接合体(MEA)

膜とその両側に形成された負極触媒層および正極触媒層の3層を一体化したものを3層構造MEA、さらにその両側にガス拡散層を形成させたものを5層構造MEAと呼びます(図1)。MEAの作製には大きく2つの方法があります。

1:膜に触媒層を形成するCCM(Catalyst Coated Membrane)法まず、固体高分子膜の両面にスクリーン印刷法などで負極と正極の触媒層を形成させて、3層構造MEAを作製します。次に、ガス拡散層となる、炭素繊維を使ったカーボンペーパーなどで両極を挟み、圧着して5層構造MEAを作製します。この方法では、3層構造MEAをroll-to-roll(膜をロール状に巻くことで生産を効率化する方式)で作製することができるため、非常に生産性が高いという利点があります。しかし、触媒層を膜に印刷すると、溶媒の影響で膜が膨潤(液体を吸収して膨張すること)してしまうため、これをいかに乾燥させてroll-to-rollでの生産性を上げるかが大切なポイントとなります。

2:電極基材に触媒層を形成する CCS(Catalyst Coated Substrate)法……

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5. セパレータ

燃料電池スタックの各セルへガスを流すために必要なセパレータは、PAFCで長年実績のあるカーボン系と、薄くしても強度が高い金属系の2種類に大きく分けられます。

セパレータの両面には水素および酸素を流すための流路が形成されています。流路には大きく分けて並行流型と蛇行流型の2種類があり、運転条件などに合わせて最適なものを設計します。

セパレータに要求される性能の一つに、高い電子伝導性があります。PEFCよりも先に本格的な開発が進められたPAFCでは、長年にわたってセパレータに黒鉛化カーボンの板が使われています。そうした実績から、家庭用燃料電池ではカーボン系セパレータが主に採用されています。しかし、流路の形成を切削加工で行うのは非常にコストがかかるため、現在は樹脂に黒鉛粉を混合し、プレス成形することで生産性を上げるという開発が進んでいます。

これに対し、燃料電池自動車用のスタックでは、……

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第5回:固体高分子型燃料電池の現状

燃料電池の原理は、19世紀初頭に英国の化学者であり発明家であるデービー卿が初めて提唱したといわれ、1839年には英国の化学者であるグローブ卿が、実験的に燃料電池で発電できることを発表しています。その後、多くの先人たちが燃料電池の開発に携わり、21世紀の私たちの実生活で燃料電池が活躍するようになりました。今回は、燃料電池がどのような場面で使われているのかを解説します。

1. りん酸形燃料電池(PAFC)の商用化

1990年に設立された米国ONSI社は、200kWオンサイト型PAFCをPC25シリーズとして世界中に販売してきました(第2回参照)。この開発には日本の東芝も加わり、PC25C型は280台、PC25型機全体では300台以上が世界中に出荷されています。

PAFCは200℃程度の高温で運転されるため、その排熱を有効活用するコジェネレーションシステムとして、ホテルや病院などさまざまな施設に導入されています(図1)。PAFCは、基本的に連続運転で使用され、導入施設内のベースロード(基礎負荷)電力を賄います。高温の排熱は、給湯の他、冷暖房用機器の熱源として利用します。

図1:PAFCの導入先

図1:PAFCの導入先

PAFCは、燃料として都市ガス(天然ガス)やLPGなどを利用し、これらから改質器での化学反応によって取り出した水素を燃料電池に送り込んで発電します。その他の燃料源として、……

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2. 家庭用燃料電池「エネファーム」

定置用PEFC(固体高分子形燃料電池)の用途の一つとして、一般家庭向けの開発が長年進められ、2009年には世界初の家庭用燃料電池「エネファーム」の一般販売が始まりました。現在、販売されている最新モデルの定格出力は700Wで、不足する分は電力会社からの電力を使います。

エネファームは、燃料電池ユニットと貯湯ユニットから構成され(図3)、全体の寸法は高さ1,650mm、幅400mm、奥行350mmです。

図3:家庭用燃料電池「エネファーム」

図3:家庭用燃料電池「エネファーム」

燃料の都市ガス(メタンが主成分)には、ガス漏れ時に感知できるよう付臭剤(硫黄化合物)が含まれています。この付臭剤が改質器の触媒を劣化させるため、まず脱硫装置で硫黄化合物を除去します。その後、燃料は水蒸気とともに改質器に入り、次の反応を経て水素が取り出され、燃料電池スタックの負極へ導入されます。

CH4+H2O→3H2+CO・・・(1)
CO+H2O→H2+CO2・・・(2)
CO+1/2O2→CO2・・・(3)

全反応式 CH4+ 2H2O→4H2+CO2

(1)の反応で、水素とともに濃度10%程度のCOが生成します。このCOは、運転温度が80°C程度のPEFCでは、……

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3. 燃料電池自動車

1990年代に世界中で本格化した燃料電池自動車(FCV)開発の中で、2014年にトヨタがいち早く一般販売を開始し、次いでホンダが2016年にリース販売を開始しました。

両社のFCVを比較すると、燃料タンクの容量ではホンダFCVの方がトヨタFCVよりもやや大きく、その分航続距離が長くなっていることが分かります(表1)。

表1:トヨタとホンダのFCVの比較(各社カタログより作成
トヨタ
MIRAI
ホンダ
CLARITY FUEL CELL
燃料電池の種類 PEFC PEFC
燃料電池出力(kW) 114(最大) 103(最大)
燃料 圧縮水素 圧縮水素
燃料タンク容量(L) 122.4(前60.0/ 後62.4) 141(前24/ 後117)
公称使用圧力(MPa*) 70 70
航続距離(km) 650(社内測定値**) 750(社内測定値**)
車両寸法(mm) 4890(全長)
1815(全幅)
1535(全高)
4915(全長)
1875(全幅)
1480(全高)
車両重量(kg) 1850 1890
駆動用バッテリー ニッケル水素電池(6.5Ah) リチウムイオン電池
乗車定員(人) 4 5

* 1MPaは約10気圧

** JC08モード(従来の10・15モードよりも実際の走行条件に近い測定方法として2011年に国が定めた)走行パターンにおける測定値)

表1を見ると、両社ともに駆動用バッテリーを搭載していることが分かります。FCVも現在の内燃エンジン自動車(鉛バッテリーを搭載)と同様に、始動時にバッテリーを使います。また、急加速時には燃料電池の出力で不足する分をバッテリーで補います。

燃料の水素は70MPa(約700気圧)に圧縮してタンクに貯蔵します。この超高圧に耐えるタンクは、水素の透過しにくい樹脂をライニング材に用い、その周囲を高強度な炭素繊維で補強しています。これまで、FCV用の水素タンクの充填圧力は350気圧で、十分な航続距離が得られませんでした。しかし、700気圧に耐えるこの超高圧水素タンクを開発したことで、……

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4. その他の適用例

家庭よりもCO2排出量の多い産業界での省エネを進めるために、さまざまな分野で燃料電池の導入が進んでいます。家庭用エネファームType-Sの出力700Wに対して、数kW級の出力を持つ定置用SOFCが、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどへ導入され始めています。より出力の大きい250kW級のハイブリッド型SOFCも開発が進められ、導入例も増えています。このハイブリッド型では、SOFCで発電した時の排熱を利用して、マイクロガスタービン駆動による発電も行います。二段階の発電によって高い発電効率が得られ、さらに最終的に排出される排熱も利用できます。

食塩電解工業では、陽極側で発生する塩素は工業用に利用されますが、陰極側で発生する水素は利用されていませんでした。この水素は非常に純度が高いため、そのまま燃料電池の燃料として利用できます。この未利用水素を有効活用するため、純水素型PEFCシステムが実際に導入され、スイミングクラブ施設での電力供給や給湯に利用されています。

乗用車以外の移動体用途として、……

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第6回:燃料電池の課題と将来

前回は、固体高分子型燃料電池の現状を説明しました。最終回となる今回は、燃料電池の普及を広めていくための課題について解説します。燃料電池の稼働に必要な水素を今後どのように調達していくかは、非常に重要な課題です。地球環境に負荷をかけないことはもちろん、低コスト化も進めなければさらなる普及は望めません。将来の社会を見据えた視点で燃料電池の今後を考えていく必要があります。

1. 水素の製造・輸送・貯蔵

燃料電池は、水素を燃料として発電します。石油や天然ガスのように資源として存在する一次エネルギーに対し、水素(ここでは水素分子H2のことを表す)は燃料電池でそのまま使える状態では存在していません。現状では、石油や天然ガスから改質反応で取り出した、二次エネルギーとしての水素を燃料電池で利用しています。その他、水素の製造方法としては、コークスの製造工場や水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の製造工場から排出される副生水素を精製する、バイオマスの発酵から得られるエタノールを改質する、廃木材などを高温分解して得られるガスを精製する、などが挙げられます(図1)。

図1:水素の製造方法

図1:水素の製造方法

前述の方法では、いずれにしても二酸化炭素(CO2)の発生を伴います。バイオマスの利用はカーボンニュートラルといわれますが、バイオマスの改質や燃焼を行う時点で二酸化炭素は排出されます。この排出分を植物が吸収し、真にカーボンニュートラルとなるには、長い時間が必要となることに留意したいものです。

現状、水素の製造工程では二酸化炭素が排出されていますので、燃料資源を得る段階から発電工程までの全てを考慮すると、燃料電池はまだ究極のクリーンエネルギーとは呼べません。しかし、例えば家庭用燃料電池エネファームは、……

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2. 水素ステーション

燃料電池自動車(FCV)を普及させるためには、燃料の水素を充填する水素ステーションを増やしていく必要があります。2019年11月末の時点で、日本国内に開設されている水素ステーションは110か所です(図3)。この他に、計画中の水素ステーションが22か所あります。東京と福岡を結ぶラインを中心に開設されていることが分かります。しかし、現状ではその設置費用が通常のガソリンスタンドの3倍程度かかっており、これを低減することが大きな課題となっています。

図3:日本国内の水素ステーション(2019年11月末現在)

図3:日本国内の水素ステーション(2019年11月末現在)

水素ステーションの数とFCVの数を増やすことは、ニワトリと卵の関係に例えられます。しかし、どちらが先かではなく、両者をバランスよく増やしていく必要があると思われます。2019年3月に経済産業省が発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、FCVの普及目標として2025年に20万台、2030年に80万台という数字を出しています。これに対し水素ステーションは、2025年に 320か所、2030年に900か所相当の設置を目標としています。

水素ステーションには定置式と移動式の2つの方式があります。……

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3. 白金のリサイクル

PEFC(固体高分子形燃料電池)の電極触媒として使われている Pt(白金)は、貴金属元素の一つで、世界で年間200~ 250t程度の供給量しかありません。その内訳は、鉱山からの新たな採掘が200t弱で、それ以外は使用済みの自動車触媒(排ガス浄化装置で使用)や中古宝飾品の回収による供給量です。希少な資源のため価格も高く(2019年11月の時点で約3,500円/g)、PEFCのコスト低減にはPt使用量を減らしていく必要があります。

Ptの年間供給量に対し、需要量で最も多いのが自動車触媒用で、1台当たり数g程度、合計で年間およそ100t近くが使われています(図4)。次に多いのが宝飾品用で、需要量は年間60~80t程度です。

図4:世界の白金需要量(GFMS PlatinumGroup Metals Survey2019のデータを加工)

図4:世界の白金需要量(GFMS PlatinumGroup Metals Survey2019のデータを加工)

それではFCV1台当たりにPtがどの程度使われているでしょうか。FCV開発当初は1台の燃料電池スタック(100kW程度の出力)に相当の量が使われていましたが、技術開発が進むにつれて徐々に使用量は減少し、現在は1台当たり20~30g程度であるといわれています。例えば、FCV1台当たり20gのPtが使われるとすると、……

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4. 燃料電池の普及には長期的な視点が必要

2009年のエネファーム販売開始から10年以上が経ち、2019年11月には累計30万台(PEFCとSOFCの両タイプ含む)を超えました(エネファームパートナーズのウェブサイトより)。また、日本国内のFCV保有台数は2019年3月末で3,009台となっています(次世代自動車振興センターのウェブサイトより)。今後、さらなる普及を目指すための課題として、コストの低減が挙げられます。2019年3月発表の水素・燃料電池戦略ロードマップには、コスト低減の目標値が掲げられています。技術的な課題はもちろん、政策的な面も含めて産官学が協力して進めて行く必要があります。

海外においても、燃料電池・水素エネルギーに関する技術開発や、施策に関する活動が活発になっています。例えば2017年には、関連する世界中の大手企業が集結してHydrogen Councilが発足しました。また、欧米・欧州・アジアの国々では、……

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