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ゲーム理論とは:ゲーム理論の基礎知識1

ゲーム理論の基礎知識

更新日:2021年5月25日(初回投稿)
著者:東京都立大学 経済経営学部 教授 渡辺 隆裕

ゲーム理論という言葉をよく耳にすることがあります。それは、どのような理論なのでしょうか。そもそもゲーム理論とは、経済学を中心に発展した理論です。しかし、最近では経営工学や都市計画、情報学などでも盛んに使われるようになり、興味を持つエンジニアも多いようです。本連載では、全6 回にわたりゲーム理論の基礎知識を紹介します。第1回は、ゲーム理論とは何か、そして、どのような理論から構成されているのかについて、その全体像を解説します。

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1. ゲーム理論とは

ゲーム理論は、社会・経済・ビジネスのさまざまな問題について、そこに登場する個人・企業・政府をプレイヤーと見なし、どのような行動をとるのかを数理的に分析する理論です。現実のさまざまな問題を、将棋やボードゲームのようなゲームと考え、そこでプレイヤーがどのような戦略を選ぶかを分析できることから、この名前がついています(図1)。ゲーム理論は、数学者ジョン・フォン・ノイマンと経済学者オスカー・モルゲンシュテルンが1944 年に出版した「ゲームの理論と経済行動」を出発点としています。もっとも、その源流は、フォン・ノイマンが1928 年に発表した「社会的ゲームの理論について」と呼ばれる論文にあるとされています。

図1:ゲーム理論

図1:ゲーム理論

ゲーム理論は経済学を中心に発展し、市場や産業のさまざまな問題において、政府・企業・消費者がどのように行動するかという理論の基礎を与えました。また、政治学・社会学・経営学などでも多用され、生物学でも生物の行動や進化を説明するために使われています。さらに都市計画では、さまざまな規制の効果や公共工事の入札の理論に、経営工学では、物流・サプライチェーンの分析やマーケティングなどに応用されています。近年は、コンピュータサイエンスや情報学の分野でも非常に注目されており、新しい理論が次々と生み出されています。今回は、戦略的行動と進化と、情報の非対称性という2つの視点からゲーム理論を分類し、説明します。

2. 戦略的行動と進化

ゲーム理論は、さまざまな理論から構成されています。現在は、非協力ゲームと呼ばれる理論が主流で、多くの人がゲーム理論と呼ぶものは、主にこの非協力ゲームを指しています(図2)。本連載では、この非協力ゲームを、ゲーム理論を代表するものとして解説します。

図2:ゲーム理論の見取り図

図2:ゲーム理論の見取り図

また、ゲーム理論(非協力ゲーム)は、戦略形ゲームと展開形ゲームという2つの形式に分類されます。戦略形ゲームは、ゲーム理論の基礎となる形式で、すべてのプレイヤーが、他のプレイヤーの行動を観察できずに同時に行動するゲームをいいます。例としてじゃんけんなどが挙げられます。また、展開形ゲームは、時間と情報の構造を扱える形式で、他のプレイヤーの行動を観察して自分の行動を選べるゲームをいいます。例として、チェスや将棋などがあります。詳しくは、次回解説します。

・戦略的行動
ゲーム理論では、プレイヤーが選ぶ行動を戦略といいます。1 人ひとりのプレイヤーが行動を選び、その結果として利得(プレイヤーがどのくらい得をするかという値)が決まります。例えば、企業の価格競争では各企業がプレイヤーであり、戦略として価格を選び、その利得は利益であると考えます。企業の投資競争では、投資する金額が戦略で、その投資によって得られる利益を利得と考えたりします。ゲーム理論では、このようにプレイヤー・戦略・利得が与えられた状況で、プレイヤーは利得を最大にするための戦略を選ぶと考え、その結果を予測するのです。

このプレイヤーが利得を最大にするという考え方によって、ゲーム理論は戦略的行動の理論とかインセンティブの理論と呼ばれることもあります。例えば、交通ネットワークの設計においては、各個人が自分の費用や時間が最小となるように経路を選ぶと考えます。その結果、設計者の意図しない混雑が生じて、全体の利益が損なわれる現象が生じてしまいます。この現象は無秩序の代償などと呼ばれます。設計者の意図通りに個人が経路を選べば、利用者全員にとって利益があるとしても、個人レベルではそうしないと考えるのです。

サプライチェーン(仕入れから出荷までの流れ)の設計などでも、各企業や各部署は、自分たちの利益を最適にするように行動すると考えます。その結果、各企業や部署ごとの部分最適はされるものの、全体の最適がされないという現象が生じます。このように「設計者やマネージャの意図どおりに人は行動せずに利己的に行動する。たとえ、その意図に従って行動した方が、結果的にその人のためになったとしても」という考え方が、「合理的なプレイヤーを前提にしたゲーム理論」の考え方であるといえます。

・進化ゲーム
こうした合理的なプレイヤーを前提にしたゲーム理論の他に、進化ゲームと呼ばれる理論があります。進化ゲームは、生物の進化を説明するために作られた理論で、プレイヤーが選ぶ戦略は、利得を最大にするために選ばれるものではなく、遺伝的に決まっているものであると考えます。そして、利得(この場合は適応度と呼ぶ)が大きい戦略のプレイヤー(この場合は種と考える)が多くの子孫を残し、長期間で選択と淘汰(とうた)が起きて、プレイヤーの比率(戦略の比率)が決まります。例えば、ある生物に攻撃的な種と温厚な種が存在していて、攻撃的な種は温厚な種より多くの子孫を残しすけれども、攻撃的な種だけが増えてしまえば破滅的な闘争が起きるような状況では、結果的に2つの種がある比率で共存することになります。このように進化ゲームは、もともと生物の進化を説明するために生まれた理論でした。

その後、進化ゲームは社会科学でも発展し、組織におけるフリーライダー(対価を支払わずに利益を受け取る者)に対して、罰則を課すような厳格な行動と、大目に見るような温厚な行動は共存するのか、といった人間社会の行動を進化で解釈するためにも応用されています。このようにゲーム理論には、戦略的行動や合理的行動と呼ばれるプレイヤーの行動を前提とした理論と、選択と淘汰を前提にした進化ゲームと呼ばれる理論の2つの理論があります。

3. 不完備情報と情報の非対称性

合理的行動を前提としたゲーム理論は、完備情報、不完備情報という2つの分類もできます(図2)。完備情報とは、ゲームに不確実性がないことをいいます。初歩的なゲーム理論では、プレイヤーが選ぶ戦略・行動や、その結果に対するプレイヤーの利得には不確実性がなく、プレイヤーはそれを知っていると仮定されます。一方、不完備情報は、ゲームに不確実性があることをいいます。

現実の世界では、私たちを取り巻く状況は不確実で、それが意思決定に影響を及ぼします。どのような行動が選べるのかも不確実で、またその結果として得られる利益もはっきりと分かりません。

情報の非対称性とは、不完備情報の中で、プレイヤーごとの情報が異なる場合をいい、ゲーム理論の重要な分析テーマです。例えば、企業が消費者に製品を販売するとき、企業は品質について情報を持っていても、消費者はそうではないことがあります。このとき、企業が良い品質の製品を売っているにも関わらず、消費者がそれを悪い製品であると推測すれば、その製品の売り上げは減少するでしょう。このように、情報の非対称性は、情報を持たない側だけでなく、持っている側にも不利益になることがあります。

このような不完備情報の理論に対しては、イギリスの数学者トーマス・ベイズが示した、確率論のベイズの定理が中心的な役割を果たします。これは、近年大きく発展を遂げたデータサイエンスや機械学習などと同じで、近い分野の方にとって親近感があるものかもしれません。これらの分野と異なる部分は、ゲーム理論ではデータや情報ですら、プレイヤーの戦略として操作される可能性があると考えることです。

製品の品質の例で考えると、まず消費者は、最初に企業の製品の品質が良いか悪いかについて、あらかじめ予測していると考えます(事前確率)。ここで、他の消費者がその製品を購入するのを見たり、企業が製品の品質について広告するのを見たりすることで、自分の情報を更新します(事後確率)。このときに、ベイズの定理が使われます。しかし、もしかすると消費者は企業側に立ったサクラであるかもしれませんし、広告も正しいかどうかは分かりません。そうすると、更新された情報も正しいかどうか分からないわけです。

不完備情報ゲームでは、各プレイヤーは自分以外のプレイヤーの行動から情報を獲得し、他のプレイヤーはそのことを念頭に置いて戦略的に行動します。オークションや入札、品質に不確実性がある財の取引、相手の能力に不確実性があるときの契約などに、不完備情報のゲームは応用されています。

いかがでしたか? 今回は、ゲーム理論の大きな分類について説明しました。先に述べたように、ゲーム理論は、戦略形ゲーム(基礎となる単純な形式)と展開形ゲーム(時間と情報の構造を扱える形式)という2つの形式にも分けられます。次回は、これら2つのうち、戦略形ゲームについてお話しします。お楽しみに!

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