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油圧の原理と油圧システム:油圧の基礎知識1

油圧の基礎知識

更新日:2018年4月3日(初回投稿)
著者:防衛大学校 システム工学群 機械システム工学科 教授 西海 孝夫

油圧は、加圧した油を介して動力の伝達を行う技術です。小さな力を大きな力に変えることができ、ジャッキや自動車のブレーキ、パワーショベル、エレベータなど、さまざまな装置や機械で利用されています。本連載では、油圧を初めて学ぶ方にも分かりやすいように、油圧の原理や油圧機器について解説します。第1回では、パスカルの原理と油圧システムについて説明します。

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1. パスカルの原理

パスカルの原理とは、「密閉容器中の流体は、その容器の形に関係なく、ある一点に受けた単位面積当たりの圧力をそのままの強さで、流体の他の全ての部分に伝わる」という、流体力学の基本原理です。油圧を理解するために必要な知識です。図1に示す密閉容器でパスカルの原理を考えてみましょう。密閉容器には液体が満たされ、断面積 Aのピストンが取り付けられています。

図1:パスカルの原理

図1:パスカルの原理

ピストン上面に、力 Fが垂直に作用すると、ピストン下面での圧力はP=F/Aで計算されます。ここで、圧力P、力F、面積AのSI単位は、それぞれPa、N、m2です。パスカルの原理により、圧力Pは液体の全ての点に等しい大きさで伝わり、密閉容器を内側から押します(図1)。油圧ジャッキは、パスカルの原理を利用しています。図2に、油圧ジャッキの原理を示します。

図2:油圧ジャッキの原理

図2:油圧ジャッキの原理

油圧ジャッキで力が増幅する原理を、図2を用いて説明します。手動でレバーに操作力fを与えると、力 F1がピストン1に加わり、ピストン下面に圧力Pが発生します。この圧力Pは、連結管内の油(作動油)を介して、断面積 A2のピストン2の下面に同じ強さで伝わり、ピストン2に上向きの力 F2が加わります。すなわち、P=F1/A1=F2/A2が成り立ちます。そのため、F2=(A2/A1)×F1となり、ピストンの面積比に比例して力を増幅することができます。

油圧による力の増幅では、機械的動力と油圧動力の変換がポイントです。ピストン1の動力は機械的動力F1・v1で表されます。ピストン1が作動油を押すことで、機械的動力は油圧動力p×Qに変換されます。その後、作動油がピストン2を押すと、機械的動力F2・v2に再変換され、質量mの荷重が持ち上がります。

2. 油圧システムの概要

油圧システムは、油圧ポンプ、油圧バルブ、油圧アクチュエータの3種類の油圧機器から構成されています(図3)。

図3:油圧システムの概要

図3:油圧システムの概要

まず、原動機(電気モータ、エンジン)から得られる機械的動力を、油圧ポンプで油圧動力に変換します。油圧ポンプ内の油には高い圧力が加えられ、用途に応じてさまざまな油圧バルブを通過します。このとき、電気信号または手動によって、圧力・流量・流れの方向を制御・調整します。作動油が油圧アクチュエータに送り込まれると、油圧動力は機械的動力に再変換されます。この機械的動力(負荷)が、必要な仕事を行います。

油圧システムは、油圧ポンプ、油圧バルブ、油圧アクチュエータなどの主要機器に加え、原動機、油タンク、管路、フィルタ、圧力計などの機器によって、構成されています。また、電気入力信号によって油圧バルブを制御する電気回路や、センサ、アンプ、コンピュータ、ソフトウエアなどの電気・電子・情報技術も、油圧システムの一部です。このように油圧システムは、メカトロニクス(機械、電気、電子、情報工学などの技術を融合させた技術分野)です。図4に、油圧システムの一例を断面図とJIS図記号(JIS B 0125-1:2007 油圧・空気圧システム及び機器-図記号及び回路図)で示します。

図4:油圧システム(左:断面回路図、右:JIS図記号)

図4:油圧システム(左:断面回路図、右:JIS図記号)(左の画像提供:コベルコ・キャリア・ディベロップメント株式会社 )

電気モータで駆動する油圧ポンプは、油タンクから作動油を吸い上げ、高圧油として主管路(シリンダに通じるパイプ)に送ります。その際、油タンク内の作動油はフィルタでろ過され、清浄度が保たれます。圧力の調整は、圧力計を確認しながら、油圧バルブの一種である圧力制御弁(リリーフ弁)で行います。圧力制御弁は、負荷状態が異常なときには安全弁の役割も果たします。主管路への流れの方向の操作は、方向制御弁のレバーを手動で動かし、円筒形状のスプールを移動させて行います。図4の断面回路図では、シリンダの左側に作動油が流入すると、ピストンは圧力を受けて右方向に移動します。すると、シリンダの右側から作動油が排出されます。流量制御弁で作動油の流量を調整し、ピストンの移動速度を変えます。流量制御弁から出た作動油は、再び方向制御弁を通り、戻り管路を経て、油タンクに大気圧下で放出されます。同様に、リリーフ弁や油圧ポンプなどからの余剰な作動油も、ドレン管路を通り油タンクに戻されます。

3. 油圧の長所と短所

油圧の特徴は、適用分野、使用用途、作動条件などにより、大きく異なります。ここでは、長所と短所をそれぞれ8つ解説します。

・油圧の長所

1:わずかな電気的操作信号を油圧機器に与えることで、位置(角度)、速度(角速度)、力(トルク)、加速度(角加速度)などを、精密・高速に制御できます。

2:負荷を駆動する力(トルク)や速度(角速度)を、独立・無段階かつ広範囲に調整できます。運動の方向も、直線・回転と自由に変えられます。

3:管路を増やしたりホースの長さを変えたりすることで、油圧のエネルギーを柔軟に配分することができます。そのため、1台の油圧ポンプで複数の油圧アクチュエータを操作できます。

4:過負荷が発生したとき、リリーフ弁から高圧油を自動的に逃がすことで、システムの安全性を確保できます。また、頑丈で耐久性があるので、外部からの衝撃にも耐えることができ、重作業などに適しています。

5:アクチュエータ単体でのパワーレート(単位時間当たりの動力:W/s)が電気駆動や空圧駆動に比べて高いため、アクチュエータの小型化・軽量化が可能です。また、可動部の慣性が小さいため、応答性を向上でき、衝撃を抑えられます。

6:作動油は、空気に比べ圧縮性がほとんどなく、極めて高い圧力まで昇圧できます。そのため、剛性の観点から、アクチュエータによる位置決め精度や応答性に優れています。

7:アキュムレータ(高圧流体を蓄えておく装置)を用いて、流体エネルギーを蓄積できます。瞬時に高圧・大容量の作動油を油圧アクチュエータに送り込み、重量物を高速に移動できます。

8:作動油は、潤滑性、防錆(せい)性に優れているため、機器やシステムの保守管理が容易です。

・油圧の短所

1:作動油の漏れが発生すると、工場設備や自然環境・土壌の汚染をもたらします。シール技術の進歩により、漏れ量を少なくできるものの、ゼロにすることは困難です。

2:油圧機器では、作動油は狭いすき間を流れるため、油中に混入する汚染物質(コンタミネーション)を厳しく管理する必要があります。特に、サーボ弁を用いた油圧システムの信頼性向上には不可欠です。

3:鉱物性の油圧作動油は、引火点200~250℃の可燃性物質です。消防法が適用されることもあり、火災に対する配慮が必要です。

4:油圧ポンプは、人間が嫌悪感を持つ周波数の騒音を引き起こします。また、油圧バルブからも流体音が生じます。電気駆動と比較したとき、低騒音化は大きな課題です。また、油圧ポンプからの圧力脈動は、油圧回路内を伝わり、管路などを振動させて油圧機器に損傷を与えることがあります。

5:油圧ポンプは、摩擦や漏れによるエネルギー損失があります。特に、油圧システムが作動をしていない状態でのエネルギー損失は、抑える必要があります。

6: 油圧システムには、油圧源(油圧ポンプ・油圧タンクなど)が必要です。これらは、電気装置と比べて、広い設置スペースを確保しなければなりません。

7:作動油の温度変化により粘度が変わるため、環境によっては流量制御が困難です。油圧アクチュエータの速度制御精度が低下することもあります。

8:油圧配管は電気配線に比べて、パイプや継手などで接合するため、手間を要します。

今回は、パスカルの原理と油圧システムの概要を紹介しました。次回は、作動油について解説します。

参考文献
西海孝夫、絵とき 油圧 基礎のきそ、日刊工業新聞社、2012年

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