メニュー

工作機械とは:工作機械の基礎知識1

工作機械の基礎知識

更新日:2022年5月17日(初回投稿)
著者:芝浦工業大学 大学院 機械工学専攻 臨床機械加工研究室 教授 澤 武一

機械は、動力(エネルギー)によって一定の運動・仕事をするものの総称です。動力の種類には古来より、人(人力)や馬、水(水力)、風(風力)、火(火力)などがあり、近年では電気(電力)が主流になっています。機械には、農業で使用される農業機械、服や布を織るときに使用される繊維機械(織機)、自動車や電車などの運輸機械(輸送機械)、土木や建築、インフラ整備などで使用される建設機械など、働く内容によってさまざまな種類があり、名称が変わります。中でも、木材や金属を削ってさまざまな部品を作るときに使用する機械を工作機械といいます。本連載では、全6回にわたり工作機械の基礎知識について解説します。

今すぐ、技術資料をダウンロードする!(ログイン)

1. 工作機械とは?

工作機械は、一般に切削、研削、せん断、鍛造、圧延などにより金属、木材、その他の材料を有用な形にする機械であると定義され、あらゆる工業分野の機械や部品などをつくる機械としてものづくりを支え続けています。農業や林業、漁業、商業、金融業、不動産業、製造業など、私たちが生活する上で必要なものを産み出したり、提供したりする経済活動を総称して産業といい、材料に手を加え、私たちの生活に必要な製品をつくる産業を工業といいます。

工業には、機械をはじめ金属、化学、食料品、繊維などがあり、工業によってつくられる製品を工業製品といいます(図1)。製造業と工業はほぼ同じ意味で、互換性のある言葉です。私たちの身の回りには工業製品があふれており、便利で快適な生活を送っています。多くの工業機械は電気を使用します。よって、停電になると生活が滞ってしまうことから分かるように、工業製品の便利さは明らかです。私たちの生活は工業製品に支えられているといっても過言ではないでしょう。

図1:身の回りの工業製品(機械)

図1:身の回りの工業製品(機械)

工業製品は、複数の部品を組み立ててつくられています。例えば、スマートフォンは約800~1,000個、自動車は約2~3万個、大型の旅客機は約400~500万個の部品で構成されています。私たちは普段、工業製品を見たり使用したりすることが多いにもかかわらず、部品に気を留(と)めることはほとんどありません。気を留めるのは、せいぜい故障や修理のときくらいでしょう。さらにいえば、部品がどのような機械によってつくられているか、ということを想像するような人は少ないと思います。以上で説明した工業製品のみならず工業製品を構成する部品をつくっている機械こそが、工作機械です。

日本は、工作機械をつくる技術、工作機械を使ってものをつくる技術(製造技術)が優れており、世界トップレベルです。石油、金属、食料などの資源が少ない中で、製造技術が日本の価値ある資源であり、外貨を稼ぐ力となり得るのです。

2. マザーマシンと呼ばれる所以(ゆえん)

工作機械は、工業製品を構成する部品だけでなく、自身や他の工作機械に使用される部品もつくります。工作機械はあらゆる製品(もの)を産み出す母体の役割を持つため、母なる機械=マザーマシン(Mother Machine)と呼ばれています(図2)。つまり、工作機械は全ての機械の頂点、源、産業を支える社会基盤であり、人知れず日夜働いています。品質の高さ、使いやすさ、耐久性などでMade in JAPAN(日本製)が世界中から人気を集めているのは、日本の工作機械が世界のトップレベルにあることに起因しています。日本の豊かさは、工作機械の技術レベルに直結しているといってよいでしょう。

図2:工作機械と工業製品の関わり(マザーマシンと呼ばれる所以)

図2:工作機械と工業製品の関わり(マザーマシンと呼ばれる所以)

3. 母性原理とすり合わせ技術

工作機械によってつくり出された部品の形状精度(寸法や形状の正確さ、精密さ)は、工作機械の持つ運動精度以上にはならない、または、工作機械の運動精度に依存するという原理があり、これを母性原理といいます。ことわざを引用すると、「蛙の子は蛙」であり、「トンビが鷹を産む」ことはないということです。しかし、そうだとすると、時代とともに機能や性能を進化させてきた工業製品は、この原理に矛盾していることにならないでしょうか。

工作機械で加工した平面同士を合わせて部品を組み立てても、組立精度や運動精度は理想の幾何精度にはなりません。部品を組み合わせた時の幾何精度を調整し、追求するのが「きさげ加工」です。(図3)。単純な平面であれば機械加工でつくることができ、生産性も高く合理的です。しかし、部品を組み合わせた時や運動させた時に自重などの影響を受けずに幾何精度が得られるようにするためには、きさげ加工が必要です。このため、きさげ加工は、「すり合わせ」とも呼ばれ、目で見、耳で聞き、手で振動を感じて適正に調整します。きさげ加工は工作機械の基本構造であるベッド(土台)とコラム(支柱)の取り付け面、ボールねじを支えるブラケットとの取り付け面、ベッドとガイドレールの取り付け面など部品が組み合わさる箇所に施されます。工作機械によってつくられた(産み出された)部品の形状精度は母性原理に従う一方で、部品と部品を組み合わせるすり合わせ(組み立て)技術により、機能や性能の優れた工作機械がつくられてきました。その結果、工業製品の進化にも貢献してきました。

図3:スクレーパによって加工物の表面を削り取る「すり合わせ」の一例

図3:スクレーパによって加工物の表面を削り取る「すり合わせ」の一例

すり合わせに優れた技能を持つ人を、名工、職人、熟練工と呼んでいます。ドイツではマイスターの称号が与えられます。人の感性、技能、能力の範囲と深さは無限で、一定の範囲でスーパーコンピュータをも凌(しの)ぎます。ところが、世界トップレベルを誇る日本人のすり合わせ技術も、高齢化、人口減少、製造業への就業数の低下により、技能の継承・伝承が危ぶまれています。すり合わせの技術が失われれば、工作機械は母性原理に従うしかなく、工業製品の進化が止まり、ひいては私たちの生活の快適さが失われることになります。

いかがでしたか? 今回は、工作機械の定義と母性原理について紹介しました。次回は、加工に用いられる工作機械を取り上げます。お楽しみに!

ピックアップ記事

tags