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コンセプト創造―素人発想・玄人実行―:技術経営(MOT)の基礎知識3

技術経営(MOT)の基礎知識

更新日:2021年5月13日(初回投稿)
著者:東京理科大学 元教授 有限会社エトス経営研究所 代表取締役 宮永 博史

前回は、情報の品質を向上させることの大切さについて解説しました。品質の良い情報を収集することが、死の谷を克服する第一歩となります。入手した情報を元になすべきことは、良いコンセプトを創造することです。コンセプト創造の対象は製品、サービス、ビジネスモデルとさまざまである中、新規事業を検討する際に重要なのが、事業コンセプトの創造です。今回は、コンセプト創造の基本的な考え方と、コンセプトをかたちにしていくためのプロトタイピングを紹介します。

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1. 誰に、何を、どのように提供するか

事業コンセプトの創造とは、ひと言でいえば「誰に、何を、どのように提供するか」を決めることです。「誰に」が、ターゲットとする顧客セグメントを意味することは、改めていうまでもないでしょう。ここで注意すべきは、ターゲットセグメントとして顧客を絞ることの意味です。これはマーケティングの基本でありながら、社内でこのことを貫くのは意外と困難です。なぜなら、顧客セグメントを絞ることが市場規模を小さくする印象を与えるためです。

しかし、ターゲットとなる顧客を絞る意味は、製品やサービスの特徴を際立たせることを目的としているのです。特徴が際立てば、顧客セグメントが広がっていきます。これは、ドミノ倒しに例えることができます(図1)。最初の1枚(ファーストドミノ)を倒せば、残りのドミノも倒れていきます。大切なのは、複数の顧客セグメントをリストアップし(セグメンテーション)、その中から最適となるファーストドミノを発見することです(ターゲティング)。

図1:特徴が際立てば顧客セグメントが広がる例、ドミノ倒し

図1:特徴が際立てば顧客セグメントが広がる例、ドミノ倒し

事例1:RIZAP、ファーストドミノの発見による効果
RIZAPは、有名人を起用してビフォーアフターの違いをはっきりと見せる独特のCMで、あっという間に認知度を向上させました。ダイエットに悩む人たちがターゲット顧客であったことは明白です。ところが、RIZAPはその後、英会話やゴルフに進出していきます。3つの顧客セグメントは、一見バラバラに見えます。しかし、そこには共通する上位概念が存在するのです。それは「三日坊主」という特徴を持った人たちです。この上位概念のもとで、ダイエット、英会話、ゴルフの3つのセグメントを考えた場合、ファーストドミノをダイエットとしたことは正しい選択だったといえるでしょう。ダイエットのCMで圧倒的にブランド認知度をあげたことが、英会話やゴルフに進出する際の武器となっているからです。逆の順番であったら、ここまでブランド認知度を向上させることは難しかったのではないでしょうか。ダイエットが身体を「元に戻す」のに対し、英会話やゴルフは現状より上達させることなので、効果を上げるのは難しいはずです。この点でもファーストドミノ選択の正しさが見てとれます。

次に「何を」についてです。これは製品やサービスそのものというより、それらを通じて提供する価値を意味することに注意が必要です。あるいは手段(製品やサービス)と価値の束と考えるとよいでしょう。技術者は、スペックと価値を混同しがちです。技術者たちの発表を聞いていると、スペックを価値として話している場面によく遭遇します。しかし、両者は別のものです。スペックは、誰にとっても変わらない数値で表されます。一方、価値は定性的で顧客によって変わります。

事例2:キリンフリー、スペックを価値に翻訳
キリンフリーという、それまでになかった完全ノンアルコール飲料で考えてみましょう。スペックは、アルコール度数0.00%となります。この数値は誰にとっても同じです。ところが、キリンフリーが提供する価値は、顧客によって違います。すぐに車を運転しなければならないドライバーにとっては、飲んでも運転できるという価値になります。一方、ビール好きなのにお腹の胎児に影響があるかもしれないとビールを我慢している妊婦にとっては、飲んでも胎児に影響がないという価値になります。このように、「何を」を考えるときには、スペックを価値に翻訳することが求められるのです。

2. 素人のように考え、玄人として実行する

前述したように、事業コンセプトの創造では「誰に、何を、どのように提供するか」を決めていくことになります。ただし、この時には注意が必要です。それは、この3つを同時に考えようとすると、どうしてもプロダクトアウト(顧客のニーズよりも技術者の考えを優先してしまう)的なコンセプトになりがちだということです。良いコンセプトほど実現が難しいので、ついつい技術者は実現できない理由を挙げてしまいます。いわゆる「玄人発想」が、良いコンセプトの創造を邪魔するのです。

良いコンセプトを創造するにはどうしたらよいか。そのヒントは「誰に、何を提供するのか」という部分と、「どのように提供するか」という部分を分けて考えることです(図2)。前者は素人発想で、後者は玄人実行で、というところが大事なポイントです。

図2:良いコンセプトを創造する考え方

図2:良いコンセプトを創造する考え方

顧客になりきって、現状の不満を解決する製品やサービスのコンセプトを考えることが、「誰に何を提供するのか」の部分です。素人の方が良い発想ができます。なぜなら、実現する難しさを知らないからです。なまじ実現の難しさを知っている技術者からは、良い発想は生まれません。自己規制をしてしまうのです。この「素人発想・玄人実行」の考え方については、長年カーネギーメロン大学ロボット研究所 所長を務められた金出武雄先生の著書に詳しく書かれています(参考:金出武雄、素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術、PHP文庫)。

この「素人発想」と、「玄人実行」の考え方は「バカな」と「なるほど」という言葉で表すこともできます。とてもできそうにない製品やサービスのコンセプトを聞いたときの印象が「そんなバカな」であっても、それをどう実現するかというカラクリを聞くと「なるほど」と納得する。これが、理想のコンセプト創造といえます(参考:吉原英樹、「バカな」と「なるほど」、PHP研究所)。

次に、コンセプトの対象について簡単に触れます。普通、コンセプトの創造というと、製品やサービスのコンセプトをイメージするのではないでしょうか。しかし、創造するコンセプトの対象はずっと広いのです。例えば、新規事業では製品やサービスのコンセプト創造も必要であると同時に「ビジネスモデル」や「場」などのコンセプト創造も必須です。そもそも、事業のビジョンをまず創造しなければなりません。このように事業化では、創造すべきコンセプトはあちこちに存在します。

3. プロトタイピング体系

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