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技術を生かすビジネスモデル:技術経営(MOT)の基礎知識4

技術経営(MOT)の基礎知識

更新日:2021年5月27日(初回投稿)
著者:東京理科大学 元教授 有限会社エトス経営研究所 代表取締役 宮永 博史

前回は、コンセプト創造の基本的な考え方とプロトタイピングについて説明しました。今回は、技術経営に必要なビジネスモデルの考え方を解説します。コロナ禍は、業績が大きく落ち込む業界とそうでない業界を生み出しました。特に外食業界は、客数が大きく落ち込んだ業界の1つです。そうした中で、この落ち込みをなんとかカバーしようと考え、業績を伸ばしてきたのがUber Eatsなどの出前サービスです。元々は、飲食店で提供される料理を出前するというものでした。ところが、事業がさらに進化した結果、ネット上にしか存在しない出前専門の店が出現し始めています。ネット上では同じブランドの商品が、実は異なる店舗で調理されている、つまり、同時に2つの店を営業しているのです。このように、外食業界は、コロナ禍に何とか対応する段階から、この災厄をばねに新しいビジネスモデルを生み出す段階へと進化しました。

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1. ビジネスモデルとは何か

コロナ禍とは関係なくビジネスモデル転換を強いられていた業界にも、業績の落ち込みが見られます。そうした企業の多くでは、トップ自らがビジネスモデル転換の必要性を訴えていました。ところが、ゆっくりとした変化が危機感を薄めていたのです。また、ビジネスモデルの定義が曖昧なために、社内での議論が空回りしていたという実情もあるようです。入山章栄氏著、世界標準の経営理論(ダイヤモンド社)は、世界の経営学の論文を調べ尽くして体系化した経営学の理論本です。そこには、経営のフレームワークが網羅されています。この中で著者は、「ビジネスモデルと経営理論」(P.727)を次のような書き出しで始めています。

まず、現代経営学における大前提から述べておく。それは、世界の経営学において、ビジネスモデルの研究はほとんど確立されていないという事実だ。実際、経営学のトップ学術誌に、ビジネスモデルについて研究した論文はほとんど掲載されていない。

企業において、ビジネスモデルの定義が曖昧であるのは、もっともなことです(図1)。経営学の世界でも、ビジネスモデルについての研究はほとんどなされていません。入山章栄氏は、具体的な経営学の雑誌名と、そこに掲載されたビジネスモデルに関する論文の数を明示しています。

図1:曖昧なビジネスモデル定義

図1:曖昧なビジネスモデル定義

主要な学術誌のなかでbusiness modelという言葉が使われていた論文は、SMJ(Strategic Management Journal)でわずか2本、OS(Organizational Sciences)で1本であり、AMJ(Academy of Management Journal)とAMR(Academy of Management Review)には1本も存在しなかった。一般のビジネス界でビジネスモデルという言葉が広く使われていることを考えれば、驚くべき乏しさである。

続いて、著名な経営学者が提示したビジネスモデルの定義を3つほど紹介しています。

1:ビジネスモデルとは、事業機会を生かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸々の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である。

2:成功するビジネスモデルとは、技術の可能性と経済価値の実現を結びつける経験則的なロジックのことである。

3:ビジネスモデルとは4つの互いを拘束しあう要素からなり、それらが組み合わさって価値を生み出すものである。(4つの要素とは、顧客への価値提案、利益を生み出す方程式、カギとなる経営資源、カギとなるプロセス)

このような定義が一応なされていますが、経営の現場でこの定義を使うには抽象的過ぎるきらいがあります。そこで、ビジネスの現場で使えることを想定して、私(著者)なりのビジネスモデルの定義をあげておきます(図2)。ビジネスモデルとは、次の3つを決めることと定義します。

1:顧客提供価値・利用者提供価値~マーケティング・マネジメント~
誰に、いつ、どこで、何を与え、どのような価値を提供するかを決める

2:収益(収入と利益)モデル~マネタイズ・マネジメント~
誰から、いつ、どのようにお金を回収して、利益をあげるかを決める

3:仕組み・内部資源・外部資源~コアコンピタンス・マネジメント~
どのような内部資源と外部資源を活用して、1と2を実現するかを決める

図2:ビジネスモデルの定義

図2:ビジネスモデルの定義

第1の要素は、マーケティングの基本中の基本です。心すべき点は、顧客に提供するものは製品やサービスではないということです。製品やサービスは、あくまでも手段に過ぎません。そうした手段を通じて、顧客にどのような価値を提供するか、ということを考えなければなりません。技術者にとって、特に肝に銘じる点がここにあります。技術者は、製品やサービスのスペックを価値であると短絡的に考えがちです。前回で述べたように、同じスペックでも、顧客一人ひとりが感じる価値は違います。

もう1つ重要な点が、利用者提供価値です。顧客と利用者の違いは、対価を払ってくれるか否かです。民放テレビ局の事例で考えてみましょう。視聴者は、番組を見てもテレビ局に対価を払いません。つまり、放送局にとっては利用者(視聴者)です。では顧客は誰かといえば、番組スポンサーとして放送局にCMの対価を払う企業となります。

顧客と利用者を区別することは、誰から、いつ、どのようにお金を回収して、利益をあげるのかという第2の要素につながります。定義の誰からという部分に関わります。第3の要素は、第1と第2の要素を実現するために、社内にどのような強みと仕組みを持つかいうことです。

以上の定義から、ビジネスモデル転換とは、ビジネスモデルのどの要素を、どのように変えていくかを決めていくことに他なりません(図3)。

図3:ビジネスモデル転換

図3:ビジネスモデル転換

3つの要素は、それぞれ関係づけられています。第1の要素を変えれば、第3の要素も変えなければなりません。第2の要素を変えた場合も同じです。第1と第2の要素は競合から見えてしまいます。つまり、模倣される可能性があるわけです。ビジネスモデルの重要なカギは、いかに外部から見えない仕組みを社内に構築するかという第3の要素にあるのです。 

2. 「チャレンジ」という仕組みを支える技術

全豪オープン2021では、大坂なおみ選手がみごと優勝を果たしました。コロナ禍の中での大会であったため、ボールのインとアウトを判定する線審が不在でした。カメラで判定した結果を、コンピュータが自動的にアナウンスしたのです。テニスの試合では、従来「チャレンジ」という仕組みが使われています。ライン際の微妙な判定に対して、選手はチャレンジを申し出ることができます。そうすると、システムがCGでライン際の表示をするというものです。基礎となる技術をイギリスのベンチャーであるホークアイ・イノベーションズという会社(現在はソニーの子会社)が開発し、それが線審なしで自動判定するシステムへと進化したものです。

このシステムは、どのような技術で実現されたのでしょうか。まず、テニスコートを囲むように10台ほどのハイスピードカメラを設置します。毎秒10,000コマもの撮影ができるという優れものです。カメラで撮影された映像は画像処理され、2次元の軌跡データとして保存されます。次に、ミサイル迎撃システムで使われている技術を利用して、この2次元軌跡データを4次元データ(空間の3次元座標と時間)に変換し、その結果をCGで表示するという仕組みです。

このシステムは、製品として販売されていません。技術者がテニスイベントの前に会場にカメラを設置し、イベント中はシステムのオペレーションを行って、終了とともに引き上げるというサービスが提供されます。さらに、試合で得られたデータを選手や放送局に販売することを含んだビジネスモデルなのです。そのため、ボールのイン・アウトを判定するだけでなく、480種類ものデータが取られているといいます。

繰り返しますが、ハイスピードカメラやシステムを販売する物販モデルではなく、サービスとして提供し、かつデータを販売するというビジネスモデルなのです。ハイスピードカメラ単体では、問題の解決には不十分です。サービスとして提供するのであれば、顧客側の費用も抑えられます。オペレータを雇う必要もありません。一方、提供者側もデータを販売することにより、顧客と長期的な関係を構築することができます。お互いにウィンウィンの関係といえます。

3. 点と点を結ぶ力

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

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