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海洋プラスチック汚染とは:海洋プラスチック汚染の基礎知識1

海洋プラスチック汚染の基礎知識

更新日:2021年11月25日(初回投稿)
著者:九州大学 応用力学研究所 教授 磯辺 篤彦

安価で軽量、そして丈夫な材質であるプラスチックは、包装材や容器など多種多様に加工され、私たちの暮らしを快適で便利なものにしています。ところが、日常生活から視野を広げて地球環境といった観点から眺めれば、このようなプラスチックの利点は、おしなべて大きな欠点となります。軽くて丈夫なプラスチックは腐食分解せず、細かく砕けて川から海へと流れ出ていきます。こうしたプラスチックごみが、大きな海洋環境問題として私たちの世界に重くのしかかっています。本連載では6回にわたり、海洋プラスチック汚染の基礎知識を解説します。第1回は、海洋プラスチック汚染とは何か、概要を取り上げます。

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1. 海のプラスチックごみはどこから来たのか

安価ゆえに大量に消費され、そして安易に破棄されるプラスチック。今、世界中で年間約3,000万トンが適正に処理されずに捨てられ(参考:Jambeck, J. R. et al., Science, 347, 768–771, 2015)、このうち200万トン前後が海に流出すると試算されています(参考:Lebreton, L. et al., Nature Communications, 8:15611, 2017)。漁業ごみなど海に直接捨てられるプラスチックごみは、海洋ごみ(漂流ごみや漂着ごみ)全体の約20%程度(個数比)とされ、残り80%は街中で不用意に捨てられたプラスチックごみが、川を介して海に流れ出ていったものです(参考:Morales-Caselles, C. et al. Nature Sustainability, 2021)。ひとたび軽いプラスチックが海に流出すれば、海流や風に乗って容易に世界中に散らばっていくでしょう。また、丈夫で腐食分解しないプラスチックは、細かく砕けることはあっても地球から消えて無くなることがありません。

日本の廃棄プラスチックの現状を見ると、その99%は環境中に漏れることなく適性に処理されています。ただ、年間900万トンを超える廃棄量となれば、わずか1%の漏れであっても10万トン規模に膨れ上がります。これは、日本の海岸に散乱するプラスチックごみの総量に匹敵する量です(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実–マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86、化学同人、2020)。さらに、管理が個人に委ねられるシングルユース(使い捨て)プラスチックを、全く環境中に漏らさず処理することなど不可能でしょう。このように世界で積み上がったプラスチックごみが、海洋環境問題としてクローズアップされています。

2. 1970年代にさかのぼる海洋マイクロプラスチックの発見

ほぼ腐食分解しないプラスチックごみは、海岸に漂着することで景観を損ねてしまいます(図1)。それだけではなく、海洋生物への絡まりや誤食といった影響(次回解説)が、1970年代ごろから現在まで、数多く報告されてきました。

図1:海岸漂着プラスチックごみ(撮影場所:石垣島)

図1:海岸漂着プラスチックごみ(撮影場所:石垣島)

また最近では、プラスチックごみが破砕してできる、マイクロプラスチック(図2)という言葉を聞く機会が増えたのではないでしょうか。

図2:日本海で採取されたマイクロプラスチック

図2:日本海で採取されたマイクロプラスチック

海岸に漂着したプラスチックごみを半年ほど放置しておけば、紫外線などによる劣化が進行します。劣化したプラスチックごみは波にもまれ、また砂との摩擦などの刺激が加わることで、次第に細かく砕けていきます。破砕や劣化は砕けたプラスチック片でも進行し、さらに細かな小片へと変化していくことでしょう。このように、プラスチックごみが漂流と漂着、そして再漂流を繰り返すことで、次第に細かなマイクロプラスチックが作られていきます。

不用意に街中に捨てられたプラスチックごみが、海でマイクロプラスチックとなるまで、どれほどの期間がかかるのでしょうか。また、細片化を繰り返しつつ、どこまで細かく砕けていくのでしょうか。このようなマイクロプラスチックに至るまでのプラスチックの壊れ方などについては、ほとんど研究が進んでいないといってよいでしょう。たとえプラスチックの専門家であっても、マイクロプラスチックになるまでの劣化は、これまで研究の動機付けがなかったと考えられます。それでも、既に世界中の海にはマイクロプラスチックが浮遊しています(第4回に解説)。確かなことは、プラスチック製品が世界中に出回ってからの約60年という期間は、海に流出した廃棄プラスチックから大量のマイクロプラスチックが形成され、そして海洋に広く分散するには十分であった、ということだけなのです。

3. マイクロプラスチックはどこに行くのか

ところで、このマイクロプラスチックは、最後にどうなってしまうのでしょう。実のところ、このプラスチックの行方は、海洋プラスチック汚染に関わる研究者の大きな関心事となっています。劣化と破砕を繰り返すことで、マイクロプラスチックは細かくなり続け、それでも海を漂い続ける。これが、想定される最悪のシナリオです。小さくなればなるほど多様な生物に誤食され、そして体内の組織を通り抜けて損傷を与えるかもしれないからです(次回解説)。

一方で、海を漂うプラスチック片には、次第に藻類やバクテリアが付着していきます。プランクトンのかたまりに巻き込まれることもあります。こうして、本来は海水より軽い素材のプラスチック片も重くなり、やがては海底に沈んでいきます。これは、光が届く生産性の高い海の表面近くから、地球上のマイクロプラスチックが解離していくということです。この仕組みが強力に働くとすれば、海洋プラスチック汚染に対して、地球環境は案外と強じんなのかもしれません。どちらのシナリオが正解に近いのでしょうか。私たち研究者は、懸命にその答えを探しています。

いかがでしたか? 今回は、大量に破棄されるプラスチックごみ、さらにそこから生じるマイクロプラスチックがもたらす海洋プラスチック汚染について概要を説明しました。次回は、海洋プラスチック汚染が環境や海洋生物に与える影響などを解説します。お楽しみに!

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