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運動方程式:機械力学の基礎知識1

機械力学の基礎知識

更新日:2021年10月13日(初回投稿)
著者:広島大学 先進理工系科学研究科 機械力学研究室 教授 菊植 亮

本連載では、6回にわたり、機械力学の基礎知識を解説します。機械力学は、材料力学、流体力学、熱力学とともに、機械工学の主要4分野である4力(よんりき)の一角を成します。機械力学はこの中でも特に、変形しない物体の運動に関わる分野です。すなわち、目に見え、触って確かめられる現象を扱います。そのため、他の3つの分野よりも直感的に分かりやすいと思います。第1回は、運動方程式を解説します。

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1. 位置、角度とそれらの時間微分

機械力学では、物体の動きを考えます。動きとは、物体の位置や姿勢の時間変化です。最初に、物体の1次元の運動である直動系と回転系を考えましょう。例えば、図1左のように、レールに沿った直線状の運動が考えられます。この運動により物体の位置は、ある基準の方向(座標軸)に沿った、基準点(原点)からの距離(単位はm)で表すことができます。

図1:位置と角度

図1:位置と角度

また、図1右のように、ある軸に支持された物体の回転運動を考える場合もあります。その物体の姿勢は、基準となる方向からの角度(単位はrad:ラジアン)で表すことができます。位置と姿勢(角度)をひとまとめにして一般化座標と呼ぶこともあります。

ある物体の位置をpと表します。物体が運動するときpは時間変化するので、pは時刻tの関数です。その物体の速度は位置pの1階時間微分dp/dtで、加速度は2階時間微分d2p/dt2で表せます。図2のように、位置・速度・加速度が微分と積分で結びついていることを頭に入れておいてください。

図2:位置・速度・加速度の関係

図2:位置・速度・加速度の関係

また、図1右の回転系のように回転する物体を扱う場合には、物体の角度θの1階微分と2階微分には、それぞれ角速度と角加速度という名前が付いています。単位はそれぞれrad/sとrad/s2です。速度と角速度をひとまとめにして一般化速度、加速度と角加速度をひとまとめにして一般化加速度と呼ぶこともあります。

なお、工学の分野では、時間微分を表すために、ドット(点)を使うことがあります。例えば、dp/dtをpと、d2p/dt2p••と書きます。数学の分野では、xの関数f(x)の微分(導関数)を、ダッシュ(プライム)という記号を使ってf'(x)と表します。ただし、物理や工学の分野では、時間tを特別扱いして、時間以外の量での微分はダッシュを、時間での微分はドットで表します。

2. 力とトルク

物体の運動は、その物体が受ける力に影響されます。図1左の直動系のような、直線運動をする物体を考えましょう。物体に力が加わると、物体にはその力に比例する加速度が発生します。このときの比例定数の逆数が質量です。つまり、質量がmである物体に力fを加えたときに発生する加速度をp••としたとき、

という関係が成り立ちます。具体的な数値と単位でいうと、質量1kgの物体に1N(ニュートン)の力が加わると、1m/s2の加速度が生じます。これは、いわゆるニュートンの第2法則と呼ばれる法則です。地球上での重力加速度は9.8m/s2なので、1Nの力は、約100gの物体の重みに相当します。

なお、質量という言葉には2つの意味があります。上述のように、力に比例して加速度を発生するのは慣性という性質で、この性質の発生源としての質量を、慣性質量といいます。慣性は、動かしにくさと言い換えてもいいかもしれません。一方で、質量を持った物体同士は、重力(万有引力)によって互いに引き合います。この性質の発生源としての質量を、重力質量といいます。重力質量と慣性質量がなぜ同じであるかは、この宇宙の成り立ちに関わる謎の一つだそうです。ただし、本連載は機械力学に関するものなので、それはそういうものだとして話を進めます。

図3:回転系

図3:回転系

話を元に戻します。mp••=f で、質量、加速度、力の関係を示しました。図3のような回転系においても、似たような関係が成り立ちます。結論からいうと、図3のような回転体の角加速度θ••は、

という等式を満たします。ここで、Jは慣性モーメント、τはトルクというもので、それぞれ、質量(慣性質量)と力の回転系バージョンと考えてください。

慣性モーメントとトルクについて、簡単に説明します。まず、図3のように、回転軸から距離Lの位置に質量mが固定されているとき、この回転体の回転軸周りの慣性モーメントJは、J=mL2と定義されます。この値が、回転系における慣性、すなわち、回しにくさを表しています。その単位はkg・m2です。なお、質量は慣性と重力の両方に関係があり、一方、慣性モーメントは重力には関係がないということに注意が必要です。

また、図3のように、回転軸から距離Lの位置に、円周方向(棒と垂直な方向)に力fが加わっているとき、この回転体に回転軸周りに加わるトルクτは、τ=Lfと定義されます。トルクは、力のモーメント、あるいは単にモーメントと呼ばれることもあります。

1mの棒を手で持っていると想像してください。その先に、1N(約100g重)の力が加わっているとき、手元で感じるトルクの大きさが1N・mです。トルクは、モーメントアーム(基準点から力の作用点までの距離L)に比例することに注意してください。よく知られている、てこの原理は、トルクの釣り合いと解釈することができます。

なお、Jθ••=τに、上述のJ=mL2と、τ=Lfを代入すると、

となります。ここで、両辺をLで割ると、

となります。この物体の円周方向の加速度がLθ••ということに注意すると、結局、m×(Lθ••)=fは、mp••=fと同じということになります。その意味で、上述のような回転系の角加速度・慣性モーメント・トルクの関係は、並進系の加速度・質量・力の関係と整合しているということが分かります。

3. 運動方程式

運動方程式は、物体の運動を記述する等式です。通常は、左辺に質量と加速度の積を書き、右辺にその物体に加わる力を書きます。mp••=fや、Jθ••=τは、運動方程式と見なすことができます。

もう少し複雑なシステムの例として、図4のような系を考えてみましょう。天井から、質量mの物体がばねでつり下げられています。天井から測った物体の位置をp、ばねの自然長をL、ばねのばね定数をkとします。ばね定数kのばねは、伸びがxであるとき、大きさkxの力を縮もうとする方向に発生します。

図4:天井からばねでつるされた物体

図4:天井からばねでつるされた物体

このばねの長さはp、自然長はLなので、下向きを正とすると、ばねが物体に及ぼす力は、-k(p-L)となります。また、物体には大きさmg(gは重力加速度)の重力が下向きに加わります。これらの2つの力を考えると、このシステムの運動方程式は

のようになります。

上述のように、ばね定数を使って表現できるのは、部品として売っているばねだけではありません。一般に、固体は変位(伸びと縮み)に応じて反力を発生するので、多くの部材や構造体が、ばねとしてモデル化(簡略化)できます。固体が発生する反力は、変位にピッタリと比例するわけではありません。しかし、ある程度狭い範囲内では、ほぼ比例すると見なすことができます。これを、フックの法則と呼ぶことがあります。

ただし、ゴム製品など、大きく伸び縮みする部材は、伸縮と力の関係が単純な比例関係でなく、フックの法則が適用できません。しかし、そういう部材でも、伸縮量が少しだけという限定的な状況であれば、フックの法則を当てはめて考えることもあります。そういう意味で、フックの法則は法則ではなく、考え方のようなものと理解した方がいいでしょう。

変位ではなく、速度に応じて力が発生するという現象もあります。例えば、水中や空気中で動く物体が受ける抵抗力がそうです。また、ダンパ(オイルダンパ)、ショックアブソーバ、ダッシュポットなどと呼ばれる部品は、中に封入されたオイルやエアの動きによって、その伸縮速度(変位の時間微分)にほぼ比例した反力を発生します。ダンパは、物体の運動エネルギーを熱に変えて散逸させることにより、運動エネルギーを減衰させる装置です。これらの部品は機械の振動を抑制するために利用されます。

これらの要素を含んだシステムは、例えば、図5のような図で表されます。

図5:ばね質量ダンパ系

図5:ばね質量ダンパ系

このシステムは、以下のような運動方程式で表すことができます。

ここでcは、粘性係数、または粘性減衰係数などと呼ばれる係数です。粘性係数の単位は、N・s/mです。cが大きいほど、発生する抵抗力は、「ねっちょり」してくるとイメージしてください。なお、このようなシステムは、ばね質量ダンパ系、バネマスダンパ系などと呼ばれます。

ばね質量ダンパ系は、剛性、粘性、慣性という3つの性質を持ちます。剛性は、変位に比例して力を発生する性質、粘性は、速度に比例して力を発生する性質です。前節でも出てきた慣性は、加速度に比例して力を発生する性質と見なすことができます。

いかがでしたか? 今回は、物体の運動を数式で表現する方法を解説しました。次回は、運動の具体例として、振動現象に焦点を当てます。お楽しみに!

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