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金属の結晶構造:金属材料の基礎知識1

金属材料の基礎知識

更新日:2020年9月4日(初回投稿)
著者:岩谷産業株式会社中央研究所 技術顧問(大阪大学名誉教授) 中嶋 英雄

製品の設計を行う上で、欠かせないのが材料選定です。製品を構成する部品が、求められる性能を発揮するには、設計者が材料の特性をしっかり理解し、選定しなければなりません。本連載では、ものづくりに携わる人が知っておくべき金属材料の基礎知識を、全6回にわたり解説します。今回は、金属の結晶構造を紹介します。

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1. 結晶格子とミラー指数

結晶中の原子は、3次元的に規則正しく配列しています。結晶内の原子配列は、空間的に規則正しく配列している点を直線でつなぎ、3次元的な網目によって表すことができます。この網目を「空間格子」と呼び、各直線の交点を「格子点」と呼びます(図1)。結晶に対し、空間格子で表したものが「結晶格子」です。結晶格子の全ての格子点は、平行でしかも等間隔に平面上に並んでいます。この一群の平面を「格子面」といいます。格子面は、イギリスの鉱物学者、ウィリアム・ハロウズ・ミラー(William Hallowes Miller)によって考えられた指数によって表示できます。

図1:空間格子

図1:空間格子

図2は、格子面の指数(hkl)面、(112)面を表します。この左図は、結晶軸x、y、zと、それぞれa/h、b/k、c/lの長さで交わる格子面をh、k、lの値によって表すことができます。このh、k、lは、最小の整数比を取り、(hkl)の記号で表します。これをミラーの指数といいます。

図2:格子面の指数 (hkl)面、(112)面

図2:格子面の指数 (hkl)面、(112)面

右の図の斜線の格子面は、x、y、z軸とそれぞれa/1、b/1、c/2の長さで交わり、最小整数比はh:k:l=1:1:2となるため、(112)面です。なお、(hkl)は、これと平行な全ての格子面を表します。

2. 代表的な結晶構造

金属は結合が等方的であるため、原子をパチンコ球のような剛体球のように見なすことができます。金属の結晶構造は、この球を最大限、密に詰め込んだ構造体と考えることができます。図3は、剛体球の最密充填構造の最密面、面心立方格子、稠(ちゅう)密六方格子を示します。剛体球を平面上に密に並べて、その上に原子を積んでいきます。第1層の原子の中心位置を上から見て、Aと表します。その隙間には、BとCがあります。

図3:等しい大きさの剛体球の最密充填構造

図3:等しい大きさの剛体球の最密充填構造

第2層の原子を隙間Bに積んだ場合、第3層の原子を隙間Cに積む方法と、A原子の上に積む方法があり、それぞれ異なった積層構造になります。すなわち、前者はABCABC・・・・の積み重ねとなり、後者はABABAB・・・・の積み重ねとなります。

図4は、「面心立方格子」(FCC格子:Face Centered Cubic Lattice)、「稠密六方格子」(HCP格子:Hexagonal Close Packed Lattice)、「体心立方格子」(BCC格子:Body Centered Cubic Lattice)の原子配列を表します。面心立方格子は、対角線の方向から見ると、ABCABC・・・・の積み重ねになっています。稠密六方格子は、底面に平行に、ABABAB・・・・の積み重ねになっています。

図4:金属の代表的な結晶構造

図4:金属の代表的な結晶構造

この3つは、金属の代表的な結晶構造です。面心立方構造を取る金属としては、銅、ニッケル、アルミニウムなどがあります。稠密六方構造には、マグネシウムやチタンなど、体心立方構造には、α鉄(910℃でFCCのγ鉄に変態)、バナジウム、タングステン、ナトリウムなどがあります。

体心立方構造、稠密六方構造および面心立方構造には、図5に示すように、8面体空隙、および4面体空隙と呼ばれる2種類の隙間があります。

図5:体心立方構造、稠密六方構造および面心立方構造における空隙

図5:体心立方構造、稠密六方構造および面心立方構造における空隙

面心立方構造における8面体空隙は、各稜の中点、および体心点(白丸印)に位置し、正規の格子点の占める原子の半径をrとすると、この空隙にぴったり入る原子の半径は0.41rです。4面体空隙は座標(1/4,1/4,1/4)、およびそれに等価な位置(白丸印)にあり、ぴったり入る原子の半径は0.225rです。

稠密六方構造にも、8面体空隙(白丸印)と4面体空隙(白丸印)があります。理想軸比を持つものの、空隙の大きさは面心立方構造と同じです。

一方、体心立方構造では、8面体空隙(白丸印)は各稜の中点と面心点にあり、ぴったり入る原子の半径は0.154rです。これに対し、4面体空隙(白丸印)に適合する原子半径は0.291rです。

3. 固溶体の結晶構造

一般に、金属Aの中に金属Bを添加していくと、多かれ少なかれ、Aの結晶格子にBの原子が入り込み、一様に分布した状態になります。このように、異種金属原子が互いに均一に溶け合った固相の合金状態を、「固溶体」(Solid Solution)といいます。添加原子の入り方には、置換型と侵入型とがあります(図6)。

図6:固溶体における合金元素原子の配置

図6:固溶体における合金元素原子の配置

置換型は、Aの結晶格子の格子点にある原子がB原子と置き換わったものです。一方、侵入型は、Aの結晶格子の空隙にB原子が入り込んだものです。空隙は小さいため、侵入型を作る合金元素は、原子半径の小さいH(水素)、B(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)などの非金属元素に限られます。

このように、固溶体ではB原子が格子点のA原子と置換したり、あるいはAの格子の空隙に侵入するので、結晶構造はAの格子型を引き継いでいます。しかし、両原子の原子半径は異なるため、B原子の近くでは結晶格子が広げられたり、あるいは縮んだりします。このひずみはB原子の数が多いほど結晶全体として大きくなり、格子定数a、b、およびcは、Bの添加量(原子%)に対してほぼ直線的に変わります。これを「ベガードの法則」といいます。なお、結晶構造の単位となるものを「単位胞」といい、格子定数はその3稜の長さ(a、b、c)を示します。

また、置換型固溶体では、A、B両原子がまちまちの配列である不規則状態(図7の左)と、規則正しい規則状態(図7の右)があります。

図7:不規則格子(左)と規則格子(右)の原子配列

図7:不規則格子(左)と規則格子(右)の原子配列

規則状態を作る固溶体は、原子比が1:1、および1:3のものに限られ、面心立方AB(CuAu)型、体心立方AB(FeAl)型、面心立方A3B(Cu3Au)型、体心立方A3B(Fe3Al)型、および稠密六方A3B(Mg3Cd)型があります。これらの「規則格子」は、ある温度以下で安定であり、それ以上では原子の運動が盛んになるため、規則状態が壊れ、不規則状態になります。この移り変わりを、「規則-不規則変態」と呼びます。

4. 非晶質固体の構造

「非晶質固体」の構造上の特徴は、広範囲にわたって規則性のない原子配列をとることです。これは、液体の原子配列を凍結した固体と見なすことができます。図8に、非晶質構造と結晶構造の違いを示します。

図8:非晶質と結晶質固体の原子配列の相違

図8:非晶質と結晶質固体の原子配列の相違

非晶質固体では、一つ一つの原子に注目すると、最近接原子数(配位数)や原子間距離は、結晶のそれとあまり変わりません。しかし、原子からもっと離れた距離では原子の配列に大きな乱れが生じ、全体的に見ると規則性に乏しい構造になっています。このように、長範囲規則性のない構造では、結晶のような格子面の規則配列が存在しないことから、X線、あるいは電子線を投射しても、ブラッグ反射による鋭い回折線は現れません。短範囲規則性しかないため、回折線が広がり、ぼけてしまい、いわゆるハロー・パターンを生じてしまいます。ブラッグ反射とは、結晶にX線や電子線などが入射したとき、結晶面間隔、波長によって決まる特定の方向に反射を起こす現象です。

いかがでしたか? 今回は、金属における代表的な結晶構造として、面心立方格子、稠密六方格子、および体心立方格子を取り上げ、それらの格子構造を紹介しました。次回は、固体の相の温度や、組成による変化について解説します。お楽しみに!

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