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塗装・塗料の基礎知識

塗装・塗料の基礎知識

著者:元職業能力開発総合大学校 准教授 坪田 実

塗装とは、単に塗料を塗り広げるだけの作業ではありません。塗料を用いて、塗膜または塗膜層を作る技法です。素地の調整、塗り付け、乾燥、研磨といった基本的な作業を何度も繰り返す技能が必要になります。

美しく見せたり保護する以外にも、塗装にさまざまな特殊機能を付けるニーズが高まっています。塗料の高機能、高デザイン性を実現するため、メーカーの技術開発は加速しています。しかし、塗料が高機能になっても、塗装の現場に合ったものでなければ、良い効果は得られません。

この連載では、9回にわたって、塗装方法や塗装時に発生する欠陥や対策法について、解説します。

第1回:塗装とは?はけ塗りの方法とは?

1. 塗装とは?

塗装によってできた塗膜は、多層構造になっています。大きくは、下塗り層、中塗り層、上塗り層に分けられます。多様なニーズに応えるため、塗料は常に改良や開発が重ねられています。各層に適応した機能を持つ塗料を選ぶことが大切です。

塗装に必要な作業工程

図1:塗装に必要な作業工程

また、きれいな塗膜層を形成するためには、図1に示す塗装の作業工程をしっかり守らなければなりません。この作業工程を守りつつ、塗装の現場に応じて塗料選びや塗りの回数を決定します。

自動車塗装の塗膜構成

図2:自動車塗装の塗膜構成

図2は、自動車の塗装の塗膜構成です。各層に適応した機能を持つ塗料が使用されています。塗膜の厚さは、何と約100μmです。新聞紙2枚分の厚さで10年程度、新車感を保持しています。

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2. 塗装方法の進歩

塗装方法の進歩

図5:塗装方法の進歩

塗装方法は図5に示すように進歩してきました。明治維新の頃、塗料は漆や乾性油、ボイル油をベースに顔料を混ぜた油性調合ペイント(洋式ペイント)がほとんどでした。これは、乾燥に時間がかかるため、はけとヘラがあれば塗ることができます。

1950年代に入ると、ニトロセルロースラッカーが出現します。これは、速乾性であるため、はけ塗りは難しくなります。そこで、スプレーガンが開発されました。これをきっかけに、一気に工業塗装が進歩しました。

図5に示す塗装方法は、はけ塗りのような、塗料を直接移行する直接法と、スプレーガンのような、微粒子の霧にして移行する噴霧法に大きく分けられます。塗装をうまく行うカギは、……

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3. はけ塗りの方法

はけ塗りは、古くから行われてきた塗装方法であり、さまざまな形状の被塗物に対応できます。さらに、簡単な養生で塗装ができ、塗料を無駄なく使えるエコな塗装方法です。

しかし、はけ塗りは熟練した技能がなければ、美しく仕上げることができません。はけ塗りの基本は毛先で塗ることですが、初めのうちは、なかなかうまくできません。意識して練習すれば大丈夫です。

はけ塗りの基本は毛先で塗ること

図6:はけ塗りの基本は毛先で塗ること

主なはけの種類と原毛

図7:主なはけの種類と原毛

はけの種類は、図7に示すようにさまざまです。毛が束になった穂と、毛を保持する柄とからできています。塗料を運び、塗る機能を持つ便利な工具です。平ばけ、ずんどうばけ、および柄と毛の部分に角度のある、すじかいばけなどがあります。

穂は、ほとんどが動物の毛で、馬毛(古くは、こまげと呼んでいた)、ヤギ毛、羊毛が多く使用されています。黒毛には、馬毛のような硬い毛が使用されます。白毛には、ヤギ毛、羊毛の柔らかい毛が使われます。最近は、ナイロンのような合成繊維の毛も多くなってきました。漂白剤や薬剤を使用する場合には、ナイロンばけを使用してください。

はけの選び方

塗料の種類、塗り面積などに応じて適切なはけを選びます。一般的に、合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では、硬い毛(黒毛)のずんどうばけを使用します。また、腰が強く塗料の含みがよいので、広い面の塗装に適しています。一方、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白毛)のすじかいばけを用います。

はけ塗りの方法

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第2回:ローラブラシ塗り・浸せき塗り・電着塗装法

前回は、塗装の概要とその歴史について解説しました。そして、直接法の中から、はけ塗りを紹介しました。今回は、直接法から、ローラブラシ塗りと浸せき塗りを、さらには電気メッキの原理を応用した電着塗装について解説します。

1. ローラブラシ塗り

ローラブラシ塗りは、1955年ごろアメリカから導入され、当初は船舶の塗装に利用されていました。その後、広い面を塗ることができる点が注目され、用途が拡大していきました。

ローラブラシは、塗料を無駄なく、住宅の壁など広い面積に塗ることができるので、建築塗装業界では最も使われる塗装方法です。仕上がり面の滑らかさは、はけ塗りに劣りますが、はけ塗りより数倍も速い作業スピードで塗装することができます。

ローラブラシの構造と種類

ローラブラシは、図1のようにローラカバーとローラハンドルから構成されています。カバーは、はけでいう毛の部分に当たり、コアとナップで構成されています。目的に応じて短毛、中毛、長毛と、毛の長さもさまざまです。塗料の種類、被塗装面の形状、仕上がり面の模様などを考えて、適切なローラブラシを選ぶ必要があります。

ローラ塗りの用具(ローラブラシとローラトレイ)

図1:ローラ塗りの用具(ローラブラシとローラトレイ)

一般的に、平らな面では、短毛または中毛のローラカバーを用います。凹凸のある面では、中毛または長毛を用います。平らな面でも、厚塗りで特殊なローラパターンを作るときには、長毛を使う場合もあります。

ローラブラシ塗りの方法

事前に、ローラブラシでは塗りにくい箇所を、はけで塗ります。そしてまず、ローラブラシに塗料を含ませます。ブラシの1/3~1/2くらいの深さまで、塗料に付けては、金網の上を転がす操作を数回繰り返し、ブラシ全体に塗料を均一になじませます。

ブラシの運行は図2の右図に示します。右上から真っすぐに降ろし、塗り付け幅だけ左上に移動し、その後真っすぐに降ろします。これを繰り返すと、被塗装面全体へ均等に塗料を配ることができます。

ローラブラシ塗りの手順1

図2:ローラブラシ塗りの手順1(引用:坪田実、ココからはじめる塗装、日刊工業新聞社、2010年、P.25)

次に、……

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2. 浸せき塗り

浸せき塗りは、大きく2つに大別されます。1つ目はディッピング方式といい、塗料が入った容器に被塗物をどっぷり浸けて、引き上げて乾燥させます。2つ目は、塗料を押し込む、しごき塗りです。

図5に、液体塗料と粉体塗料のディッピング方式の原理を示します。粉体塗料へのディッピングでは、はじめに粒子中に低圧で空気を送り込み、粉体塗料を流動させます。この中へ、加熱した被塗物を入れると、接触した粉体は溶け、塗膜になります。この方法は、水道バルブのような熱容量の大きい鋳造品などに適しています。

浸せき塗りの原理 左:液体塗料 右:粉体塗装

図5:浸せき塗りの原理 左:液体塗料 右:粉体塗装(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新聞社、2008年、P.55)

次に、図6にしごき塗りの原理を示します。しごき塗りは、薄く何回も塗料層を重ねる、塗装の理にかなった技法です。被塗物が移動する方式と、塗料槽が移動する方式があり、ます。鉛筆や釣り竿、ゴルフのシャフト、電線など棒状のものに均一に塗るのに適しています。余分な塗料をゴム板やシール材でしごき取る方式のため、形状が一定であれば一度で全体を均一に塗ることができます。

しごき塗りの原理

図6:しごき塗りの原理(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新聞社、2008 年、P.55)

ただし、塗料をしごき取るため、……

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3. 電着塗装法

電着法は、電気化学を使う塗装方法です。電着法の原理を理解するために、まず水の電気分解について説明します。水の中に電解質(水酸化ナトリウムNaOHや希酸など)を入れ、白金電極を直流電源に接続します。電流を流し電圧を上げていくと、両極から泡がでてきます。負極からは水素H2が、正極からは酸素O2が発生します。(図8)

水の電気分解

図8:水の電気分解(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新聞社、2008年、P.57)

それでは、電着法を見ていきましょう。電着塗料のカチオン樹脂は、陽イオンになって、水に溶解しています。被塗物を負極にして、直流電源につなぐと、陽イオンの塗料粒子は負極に移動します。この現象を電気泳動と呼びます。(図9)

負極の被塗物表面では、水の電気分解も起きており、水酸化イオンOHが生成されます。水素イオンH+と、電極からの電子eが反応し、水素H2になります。同時に電気泳動で移動した陽イオンの塗料粒子(カチオン樹脂)は、水酸化イオンOHと中和反応します。図9にあるように、負極上で電荷を失い、水溶性ではなくなるので、析出します。電気析出現象といいます。

カチオン樹脂の電着法による塗膜形成

図9:カチオン樹脂の電着法による塗膜形成(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい 塗料の本、日刊工業新聞社、2008年、P.57)

さらに通電すると、電気浸透という現象が生じます。陽イオンの塗料粒子が、導電性の被塗物にさらに近づくことで、周囲の水が絞り出されます。堆積し塗料が被塗物に融着します。電気析出時の中和反応で生成した水が、塗料粒子層から抜けて、被塗物のほぼ全面に塗料が付着します。所定時間通電した後、被塗物を取り出し、水洗で余分な塗料を取り除き、乾燥させます。その後、焼付けをします。加熱により樹脂成分が流動し、多孔質だった塗膜が連続相になり、防錆(ぼうせい)効果を発揮します。

次に、電着時に流れる電流の測定実験について、説明します。……

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第3回:液膜転写法とは?

前回は、ローラブラシ塗りや浸せき塗りなどの直接法と、電着塗装法について解説しました。今回は、ロールコーターやカーテンフローコーターといった機械を使う液膜転写法について説明した後、塗料が受けるずり速度の求め方と、ロールコーターの仕上がり性に及ぼす塗料の粘弾性の影響を解説します。

1. 液膜転写法

液膜転写法は、ロールコーターまたはカーテンフローコーターという機械により、一定の厚さの塗膜を作り、転写していく方法です。カーテンフローコーターは、主として合板、スレート板や建具など平板状の被塗物しか採用されていません。ロールコーターは、金属製品のライン塗装で使用されています。平板の被塗物ではコイル状に巻かれた薄い鋼板の高速塗装(50~400m/分)や、曲面では製缶工程における円筒缶の表面塗装にも採用されています。

ロールコーター

ロールコーターには、ナチュラル型とリバース型の2種類があり、原理を図1に示します。まず、ピックアップロールで塗料を均一に巻き上げます。次に、塗料はドクターロールへと移送され、均一な厚みの液膜に調整されます。最後にコーティングロールに移送され、被塗物に塗料が転写されます。

ロールコーターによる塗装の原理

図1:ロールコーターによる塗装の原理(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新聞社、2008年、P.53)

ナチュラル型は、コーティングロールと被塗物の移動方向が同じで、リバース型は逆向きです。ナチュラル型は、均一化した液膜の断面をコーティングロールで引き裂きながら塗布します。一方、リバース型は、ロールに移送された液膜をそのまま被塗物に転写・塗布します。ナチュラル型は液膜を引き裂くために、リバース型に比べると平滑な塗装面が得られにくく、膜厚の調整も難しくなります。

カーテンフローコーター

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2. 塗料が受けるずり速度

実際に使われている塗料は、多少なりとも弾性を持つ粘弾性体です。それゆえ、見かけの粘度ηaは、塗装時に塗料が受けるずり速度Dの増大に伴い、図3のように変化します。

さまざまな作業でのずり速度Dと見かけの粘度ηaの関係

図3:さまざまな作業でのずり速度Dと見かけの粘度ηaの関係

塗装方法によって、ずり速度Dは大きく変わります。ずり速度Dが一番小さい塗装方法は、浸せき塗り(ディッピング)です。塗料槽から引き上げるときのずり速度Dの求め方を、図4で説明します。

浸せき塗りにおける、ずり速度Dの求め方

図4:浸せき塗りにおける、ずり速度Dの求め方

次に、ロールコーター、カーテンフローコーターそれぞれで、塗料がどの程度のずり速度Dを受けるのかを解説します。

ロールコーターでのずり速度

ロールコーターのずり速度を求めるための模式図を、図5に示します。塗料が大きなずり変形を受けるのは、ピックアップロールで塗料が巻き上げられるB点と、膜の厚さを調整するドクターロールに転送されるC点です。コーティングロールから被塗物に転写されるときには、速度勾配は小さいのでずり速度Dは無視できます。

ロールコーターのずり速度Dの計算モデル

図5:ロールコーターのずり速度Dの計算モデル(引用:阿久井潤、藤谷俊英:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材)、Vol.63、No.4、1990年、P.200)

具体的にずり速度を求めていきます。ピックアップロールのB点におけるずり速度をDBとします。DBの求め方は、図4で示した塗料槽から引き上げるときのずり速度Dと同様に考えます。仮想壁面までの厚さは、ロールに付着した塗料の膜厚になります。ピックアップロールの回転速度V1 = 1m/s、付着厚さを0.1、0.2mmとすれば、ずり速度DBはそれぞれ、10,000、5,000s-1 になります。

次に、ドクターロールのC点でのずり速度DCを求めます。ピックアップロールとドクターロールの間隔をΔt、ドクターロールの回転速度をV2とすると、次の式が成り立ちます。

DC=(V2-V1)/Δt

ここで、V2=1.5m/s、Δt=50μmを上記の式に入れると、D=104s-1となります。速度差が大きく、ロール間隙が小さいほど、ずり速度DCは大きくなります。

カーテンフローコーターでのずり速度

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3. ロールコーターでの仕上がりに影響を及ぼす要因

ロールコーターを用いた塗装の仕上がりは、図5のD部の塗料の液膜形態で、見当を付けることができます。D部の液膜は、次のように発生します。

1:ピックアップロールがB点で塗料を巻き上げ、ロール面に塗料が付着します。
2:ロールに付着した塗料がドクターロールと接触するC点で余分の塗料がしごかれます。しごかれた塗料はD部で、図8に示すような形態になります。

D部の液膜の形態

図8:D部の液膜の形態(引用:阿久井潤、藤谷俊英:J.Jpn.Soc.Colour Ma-ter.(色材 )、Vol.63、No.4、1990年、P.200)

D部が、図8の1のように、カーテン状になっていれば、塗料を被塗物に平滑面で転写できます。しかし、カーテンが途切れたり、霧状(図8の3または4形状)になると、平滑な面に仕上がらず、塗装むらを引き起こします。また、霧化粒子が飛散すると、周囲の被塗物に付着し、欠陥が多発します。ロールが高速回転するほど、霧化粒子が飛散するミスティング現象が発生しやすくなります。良い仕上がりのポイントは、ロールが高速回転していても、ピックアップロールに均一に塗料が付着し、D部でカーテン状の液膜になることです。

藤谷俊英らは、塗料の持つ弾性要素に注目し、……

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第4回:スプレー塗装の原理と種類

前回は、ロールコーターやカーテンフローコーターなど、機械を用いた液膜転写法について解説しました。今回は、スプレーにより塗料を霧化して塗装する噴霧法と、霧状の塗料が受けるずり速度の求め方を解説します。

1. 噴霧法の手法と霧が発生する原理

噴霧法は、塗料を霧化して塗装する手法です。エアスプレー方式、エアレススプレー方式、静電スプレー方式の3つに大別され、この順に、塗着効率は向上します。

液体をひも状に噴出させ、空気と衝突させると霧になります。図1に、この原理を示します。霧吹きや缶スプレーは、この原理を利用しています。エアスプレー方式は、塗料を高速の空気流と衝突させ、霧化して塗装します。エアレススプレー方式は、塗料に高圧をかけて液膜を作り、大気(静止空気)と衝突させ霧にします。静電スプレー方式は、……

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2. エアスプレー方式

エアスプレー方式で使用される装置の構成を、図2の左図に示します。エアコンプレッサ(空気圧縮機)で加圧された空気が、エアスプレーガンに送られ、霧化した塗料で塗装します。

エアスプレー方式で使用される装置の構成

図2:エアスプレー方式で使用される装置の構成(引用:坪田実、ココからはじめる塗装、日刊工業新聞社、2010年、P.29)

エアコンプレッサからの加圧空気の流れを、図3の右図に示します。A点から送り込まれた空気は、B点で、塗料ノズルの出口(塗料噴出口のC点)へ行く空気と、空気キャップの側面空気穴(角穴)へ行く空気に分かれます。

エアスプレーガンの構造

図3:エアスプレーガンの構造

引き金は、2段階で引くように設計されています。1段目では、ニードル弁は動かず、塗料は移動しません。C点に加圧空気のみが送り込まれます。これにより、C点は減圧状態になります。2段目でニードル弁が引かれるときに、塗料は吸引されC点に移動します。塗料がC点から射出されると、加圧空気と混合し、霧化します。塗料と加圧空気が、スプレーガンの外部で接触するため、外部混合式スプレーガンと呼ばれます。

C点付近の拡大図を図3の左図に示しています。空気キャップには、中心空気穴、補助空気穴、側面空気穴(角穴)があります。中心空気穴と補助空気穴から噴出する空気が塗料を霧化し、丸形のスプレーパターンを作ります。角部の側面空気穴から噴出する空気が、スプレーパターンを丸形からだ円形に変形させます。

また、……

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3. エアレススプレー方式

塗料自体に高圧力をかけて液膜を作り、高速で静止空気に衝突させると、液膜はどのような挙動を取るかを考えてみましょう。

エアレススプレー方式で、塗料が霧化する原理

図5:エアレススプレー方式で、塗料が霧化する原理(引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新聞社、2008年、P.61)

塗料は、ノズルチップというだ円形の穴から、高圧で液膜として射出されます。初めは真っすぐ進みますが、液膜の先端部は空気との衝突で次第に速度が低下します。一方、塗料を押し出す圧力は一定ですから、液膜は図5の1のように波打ちます。これは、行列に後ろからどんどん人が押し寄せ、先頭が詰まると列が波を打つ状況と同じです。液膜が波打つと、液膜の進行に際し、周りの空気から大きな抵抗を受け、図5の2のように分裂が始まります。

分裂した塗料が進むに従って、……

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4. 静電スプレー方式

静電スプレー方式は、大きく3種類に分けられます。1つ目は、エアスプレー、エアレススプレーで霧化した塗料粒子を帯電させる、コロナピン方式です。2つ目は、遠心力を利用して塗料を霧化する、円盤回転方式、円筒カップ回転方式です。3つ目は、粉体塗料と空気の混合物を帯電させる粉体静電方式です。コロナピン方式と、円盤回転方式、円筒カップ回転方式について、どのように塗装が行われるか解説します。

コロナピン方式

スプレー先端のコロナピンにマイナスの高電圧(-3万~-10万V)を印加すると、塗料粒子がマイナスに帯電します。静電気の引力により、アースされた被塗物は相対的にプラスに帯電したことになり、静電気引力により付着します。塗料の粒子は、被塗物の裏側にも良く塗着します。図7に示すように、静電気引力の作用で塗着効率が向上します。

図7:静電エアスプレーの原理と、他の塗り方との塗着効率の比較

図7:静電エアスプレーの原理と、他の塗り方との塗着効率の比較 (引用:中道敏彦・坪田実、トコトンやさしい塗料の本、日刊工業新 聞 社、2008 年、P.51・P63)

円盤回転方式、円筒カップ回転方式

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5. 噴霧法における塗料が受けるずり速度

エアスプレー方式で、塗料が霧化されるときに受けるずり速度Dを求めるモデルを図9に示します。図9の左図に示すように、塗料はノズル出口で加圧空気と接触します。すると、図9の右図のように、塗料と空気の二重円筒の状態になります。もちろん、空気に触れる外側の境界面の塗料が、一番大きな力(ずり応力)を受けており、ずり速度Dは極大となります。

エアスプレー方式の、ずり速度D計算モデル

図9:エアスプレー方式の、ずり速度D計算モデル

この状態で、塗料が受けるずり速度Dを求めます。噴出口である塗料ノズルの口径と、空気の流速の値が必要になります。噴出口近くの空気の流速は、……

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第5回:塗膜形成時に起こる欠陥

これまでの4回の連載では、さまざまな塗装方法について見てきました。今回からは、塗料や塗膜に生じる欠陥現象について、発生原因とその対策を紹介します。第5~6回では、塗装時、乾燥時に起こる欠陥について解説します。

1. 塗料・塗膜の欠陥の分類

塗料・塗膜の欠陥は自然現象です。塗装前の塗料状態、あるいは塗膜を形成する過程で予期せぬことが生じ、欠陥を引き起こすことがあります。その欠陥現象を解析することで、原因を突き止め、対策を施すことができます。流動性や表面張力といった基礎知識は必要ですが、ケースバイケースで理論式などを活用しながら、対策を考えることが大切です。

塗装の過程を、塗装前の塗料状態・塗装時・塗装後の経時変化の3つに分け、そこで起こる欠陥を整理すると、……

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2. ブツ:表面に凸部を生じる欠陥

ブツとは、塗料に混入した固体(ゴミ・顔料の凝集物)や、塗装後に付着した異物により、塗装面に凸部を生じる現象です(図2)。ブツの発生は多く、いろいろな対策が施されています。

ブツの現象と、その原因となる異物

図2:ブツの現象と、その原因となる異物(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.153)

ブツの原因

塗装後に、外部から混入した異物が原因です。空気中には、いろいろな種類や大きさのほこりが浮遊しています。塗装後に溶剤が蒸発する過程で、無風状態であれば、塗装面は周りに対してわずかに負圧状態(圧力が低い状態)になり、ほこりが吸い寄せられます。

また、図3に示す水洗ブースで塗装する場合、水流と脱気(塗料からガスが抜けること)による空気の流れが生じ、塗装場所は圧力が下がります。塗装室の天井から外気を取り入れ、排気量よりも多くすることで、ブース内を周囲よりも少しだけ加圧状態にでき、ほこりの付着を防げます。また、囲いが無いときには、外部から昆虫も侵入します。昆虫は有機溶剤の臭気を好んでいるらしく、塗装時によく集まってきます。

スプレー方式での水洗ブース

図3:スプレー方式での水洗ブース(引用:坪田実、ココからはじめる塗装、日刊工業新聞社、2010年、P.29)

ブツの対策

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3. 垂れ・たるみ:塗料が流れる欠陥

垂れ・たるみとは、塗料を垂直面や傾斜面に厚塗りしたとき、塗料が流れ、膜厚の不均等な凸部を生じる現象です(図7左)。流れ方によって呼び方が異なります。長く柱状になった場合を、垂れ(英語ではRun)と呼び、カーテンのようなひだ状または波形となった場合を、たるみ(英語では Sagging または Curtaining)と呼びます。今回は2つを総称して、垂れと呼ぶこととします。

図7:垂れの現象と、垂れ止め剤の効果

図7:垂れの現象と、垂れ止め剤の効果(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.156)

垂れの原因

垂れやたるみは、厚塗りや低粘度や乾燥が遅いときに発生します。

厚塗り:流動を止める粘性力よりも重力が上回ることで、垂れが発生します。発生の解析式については、著書(長沼桂・坪田実監修、コーティング用添加剤開発の新展開、シーエムシー出版、2009年、P.77~81)を参照してください。

低粘度、乾燥が遅いとき:標準シンナーやリターダ(遅乾型)シンナーを過剰に入れたとき、または低温・高湿度で溶剤の揮発が遅いときに垂れが発生します。

垂れの再現実験

垂れは、塗膜の厚さに非常に敏感です。厚いほど垂れやすいといえます。この現象を利用して、実験を行います(図8)。

図8:垂れの再現実験

図8:垂れの再現実験(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.157)

厚さの異なる伱間を持つサグテスター(フィルムアプリケータと呼ばれる均一な膜厚を形成する道具を応用したもの)をガラス板の上に置き、試料を満たして運行し、厚さの異なる数本の塗膜を形成させます。ガラス板をすぐに垂直に立てます。粘度の違いなど、各種条件で調整した塗料、あるいは乾燥条件を変えて、垂れを起こさない最大の塗膜の厚さを記録し、比較します。

垂れの対策

……

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第6回:流動性と表面張力の影響による欠陥

前回に引き続き、塗装時、乾燥時に起こる欠陥について見ていきます。今回は、塗料の流動性と表面張力の作用によって起こるレベリングと、それに関係するへこみ、はじき、ピンホール、泡などの仕上がり外観に影響を与える欠陥現象について解説します。

1. レベリングと仕上がり

ローラブラシ塗りの直後の塗面は、図1のようにローラマークができます。その後、表面張力の作用で平坦化するように流動します。この現象をレベリングと呼びます。流動性と表面張力γのバランスが取れていると、良い仕上がりになります。

ローラブラシ塗りでのレベリング現象

図1:ローラブラシ塗りでのレベリング現象(引用:坪田実、目で見てわかる塗装作業、日刊工業新聞社、2011年、P.70)

しかし、流動性と表面張力γのバランスが崩れると、垂れやゆず肌といった欠陥が生じます。欠陥がある場合は、乾燥後に研磨して塗り直さなければなりません。このような流動性と表面張力 γ が作用する仕上がりの欠陥現象を整理すると、次のようになります(図2)。塗料の粘度が高く、塗り肌からレベリングが十分に進まないときには、ゆず肌になります。塗料をシンナーで薄めすぎると、額縁現象が発生します。

流動性と表面張力 γ が作用する、仕上がりの欠陥現象

図2:流動性と表面張力 γ が作用する、仕上がりの欠陥現象(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.151)

表面張力γとは、表面積を小さくしようとして作用する分子同士の引っ張り合う力です。一般的に、表面張力γは、塗膜になる樹脂成分の方が、シンナーよりも高くなります。塗面のエッジ部の塗料からシンナーが速く揮発するので、表面張力γがわずかに高くなります。その結果、エッジ部の塗料が内部の塗料を引張り、額縁現象が発生します。

その他にも、膜厚方向に表面張力差と温度差があると、均一になろうとして、対流と呼ばれる流動が発生します。その結果、図2(b)のように、微細なセルを形成します。表面層の方がシンナーの揮発が速く、気化熱で低温になり、γも高くなります。これにより、各セル内で内部の塗料が表面層へ移動する対流が起きます。対流が継続して起こると、シンナーの揮発速度が高まり、乾燥・硬化を促進します。水性塗料では対流が起きず、内部の水の揮発速度は、溶剤型塗料に比べて極めて遅くなります。そこで塗装面に熱風を当てながら、温度拡散で水分を揮発させる手段が必要になります。この操作をフラッシュオフ(Flash-off)と呼びます。

スプレーガンでの塗装の場合、良い仕上がりを得るためのコツは、……

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2. へこみ・はじき:表面に凹部を生じる欠陥

へこみ・はじきとは、塗膜が押しのけられたような凹部を生じる現象です。

へこみ・はじきの原因

被塗面に油などの不純物が付着したとき、塗料との間で表面張力γの差を生じることが原因です。この現象の挙動は、塗料と不純物の表面張力γの大小関係によって異なります(図5)。図5の左図のように、油の表面張力γが塗料よりも大きい場合、塗料は油を包み込むようにぬれ広がります。平滑な塗面になりますが、不純物の上の塗料は、被塗物に付着していません。一方、図5の右図のように、油の表面張力γが塗料よりも小さい場合、塗料と油が引っ張り合い、油が押しのけられて、へこみ(英語では Crater)やはじき(英語ではCissing、Crawling)が発生します。

図5:被塗面に油が付着したときの塗料の挙動

図5:被塗面に油が付着したときの塗料の挙動(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.78)

へこみ・はじきの再現実験

図6の試験を行うことで、凹部を生じる現象が再現できます。

図6:低表面張力添加剤の滴下試験

図6:低表面張力添加剤の滴下試験(引用:檜原篤尚・藤谷俊英、塗料の研究No.127、1996年、P.2)

へこみ・はじきの対策

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3. ピンホール・泡:表面に穴を生じる欠陥

ピンホールとは、針で突いたように、素地に貫通する小さな穴ができる現象です(図7)。泡とは、塗膜内部に気泡が残ったり、塗装面に気泡の痕が残り穴になる現象です(図8)。どちらも、外観不良や、長期耐久性を低下させる原因になります。

図 7:ピンホールの発生原因

図 7:ピンホールの発生原因(引用:坪田実、塗 料・塗 装 のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.160)

図 8:泡の発生と対策

図 8:泡の発生と対策

ピンホール・泡の原因

塗装時や乾燥の過程で、水分・空気・ガスなどが混入したり、急激に離脱したときに発生します。その原因は、大きく以下の4つに分けられます。

  • 塗料を厚く塗りすぎたとき
  • 溶剤の揮発が速すぎるとき
  • 被塗面の温度が高すぎたとき
  • 被塗面の欠陥や異物の付着・汚れ

例えば、木工品や鋳造品のような巣穴(素材に存在する小さな穴)の多い素地を塗装するとき、塗料は巣穴の隅まで良く塗れないので、乾燥・硬化の過程で巣穴から空気が抜け、ピンホールになることが多くあります。泡の発生原因の多くはピンホールの原因と一致します。特有な点は、粘度の高い塗料をかき混ぜるとき、あるいは、はけやローラブラシの塗装中に、空気が巻き込まれて、泡が発生することです。また、浸せき塗りなどで、塗料が下端にたまっているとき、あるいは、水性焼付塗料を厚塗りし、フラッシュオフが不十分なときに急激に焼付けると、泡だらけになることがあります。この現象を「わき」と呼びます。

ピンホール・泡の対策

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第7回:塗膜形成後に生じる欠陥

第7~9回では、塗膜形成後に起きる欠陥について解説します。塗装で大切なのは、何といっても、仕上がりの良い状態が長く維持されること、剥がれたり割れたりしないことです。今回は、仕上がりレベルの指標である鮮映性と、塗膜形成後の欠陥である「目やせ」と「しわ」について解説します。

1. 仕上げの良さを表す鮮映性とは?

ピアノや乗用車の塗装には、鏡面仕上げが求められます。新幹線と新車の車体塗装面を比較してみましょう(図1)。新幹線に比べて、新車の方が周りの景色が鮮明に映っており、鏡面仕上げのレベルが高いといえます。

新幹線と新車の車体塗装面の比較

図1:新幹線と新車の車体塗装面の比較

鏡面仕上げのレベルは、鮮映性という性能で比較します。写像が鮮明に見えるほど、塗装面の鮮映性は良いと評価します。ゆず肌になると鮮映性は明らかに低下します。新車の塗装の場合、研磨工程を設けずに、塗り重ねます。その際、塗装面の表面の粗さは、塗装工程を経るほど小さくなり、鮮映性が良くなります(図2)。

新車の塗膜表面の粗さ

図2:新車の塗膜表面の粗さ(引用:石田裕、化学と教育vol.35、No.6、1987年、P.26)

自動車補修塗装用の教材車を使って、鮮映性を向上させた手法を説明します(図3)。……

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2. 目やせ:塗膜が収縮して起こる欠陥

塗装後に起こる欠陥の1つに、目やせがあります。目やせとは、素地面などの不均一によって、仕上げ塗面に細かなくぼみができることです。MDF(Medium Density Fiberboard:中密度繊維板)の板材に、紫外線(以下、UVとします)硬化塗料で塗装した事例を図4に示します。塗装直後は肉持ち感(漆塗りのように、厚みと鮮映性を合わせたむっくりとした質感)があり、高級建材のように仕上がります。しかし、時間経過により、目やせし、肉持ち感が持続しませんでした。

時間の経過により鮮映性が低下するMDF の例

図4:時間の経過により鮮映性が低下するMDFの例(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.149)

被塗物は、MDFに意匠性のある印刷フィルムを貼り付けたものです。塗装仕上げは、UV硬化塗料のみです。塗装直後は高い鮮映性を示しましたが、数カ月経過後には蛍光灯の写像がゆがみはじめました。時間の経過により、塗装面に凹凸が現れ、鮮映性が低下したのです。1μm程度の凹凸があれば、鮮映性が低下します。塗膜が膜厚方向にランダムに変形すれば、写像にゆがみが現れます。

目やせの原因

凹凸のある素地に、UV塗料を厚塗りした場合を考えます(図5)。塗装直後は、表面は平滑に仕上がり、膜厚が大きい部分が200μm、小さい部分が100μmになったとします。膜面方向は固定されているため、体積収縮が起きた場合、寸法変化は膜厚方向に限定されます。1%の体積収縮が起きたとすると、塗膜のひずみは、膜厚が大きい部分で2μm、膜厚が小さい部分で1μmとなります。その結果、塗膜の表面層は、図5の点線のように変形し、写像がゆがみます。

図5:目やせが起きる仕組み

図5:目やせが起きる仕組み(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015年、P.149)

UV硬化塗膜は塗膜が厚いため、少しの体積収縮は、鮮映性に影響しないと思う人がいるかもしれませんが、結構厳しいものです。わずかな目やせで図4のように、写像はゆがみます。印刷フィルム面を平滑にしてからでないと、上塗りができないことを肝に銘じておきましょう。

目やせの対策

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3. しわ:下塗り塗膜の硬化不足による欠陥

沖縄の首里城では、図10のようなしわ模様の塗装面が見られます。首里城は木造建築物であり、柱や床はキリ油を原料とする油性ワニスで塗装されています。何回も油性ワニスが塗り重ねられ、完成当初は漆の磨き仕上げのような肉持ち感があったでしょう。しかし、時間が経つとともに、日当たりの良い柱ほど凹凸のしわ模様が大きく現れました。なぜ、このような模様が現れたのでしょうか?

図 10:油性塗料の塗り重ねによる模様

図 10:油性塗料の塗り重ねによる模様(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2015 年、P.149)

人間の皮膚は張りがなくなると、たるんでしわになります。塗膜も形成期には、残留溶剤が抜けたり、硬化反応が進むことで、わずかに塗膜は縮みます。このとき、被塗物が一緒に変形しないため、塗膜には引っ張る力が発生します。張りが出ると表現した方が分かりやすいかもしれません。

しわの原因

酸化重合で塗膜を形成する油性系塗料を塗り重ねるとき、下塗りの塗膜が硬化不足だと、しわ模様が起こりやすくなります。日当たりが良く空気に近い表面層の塗膜は、酸化重合が進んで張りが出ます。しかし、塗膜内部から未硬化の油分が表面層に拡散すると、膨潤作用で塗膜はふやけてしまい、しわ模様になると考えられます。また、図10のように塗膜が波打つような模様や現象を「ちぢみ」と呼ぶこともあります。しわ模様の状態が、反物のちぢみ模様に似ているためでしょう。

しわの対策

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第8回:割れの原因と対策とは?

前回は、塗膜形成後に発生する、目やせとしわの原因と対策を説明しました。今回は、塗装の欠陥を起こさないために守るべき「塗装の憲法」を紹介します。また、塗膜形成後の欠陥の1つである割れ。その対策について解説します。

1. 自分なりの「塗装の憲法」

良い塗装とは、目的に応じた外観と塗膜性能を付与することで、その状態を長く保持できることが望まれます。良い塗装を目指し、自分が経験してきたことを整理していくと、自分なりの最低限守るべき原則ができます。私はこれを、「塗装の憲法」と呼んでいます。私の「塗装の憲法」は、次の7か条です。臨機応変な考え方が大切です。

  • 第1条:塗装できる環境を整えるべし
  • 第2条:塗装の段取り(3つの要件)をするべし
  • 第3条:塗装系の原則を守るべし
  • 第4条:塗装工程を確立するべし
  • 第5条:塗りの極意を守るべし
  • 第6条:塗料配合の原則を守るべし
  • 第7条:安全な塗装作業を守るべし

今回は、この中から「第3条:塗装系の原則を守るべし」を取り上げます。基本的な塗装系とは、下塗り、中塗り、上塗りからなる塗料の組み合わせです。自由な発想で塗料を選択してもよいといわれたら、なぜ、3層も塗り重ねるのかと疑問に思うでしょう。

経験者にこの疑問をぶつけると、こんな答えが返ってくるはずです。「塗料という材料は、被塗物があって初めて存在感を発揮します。単層膜は、プラスチックフィルムと比べると非常に弱いけれども、複層膜になると、とんでもない力を発揮する優れものです。ただし、どんな被塗物にも塗ることができ、しっかりくっつく必要があります。複層膜というチームワークで塗装効果を発揮するから、3層の塗り重ねが必要です」

一般のプラスチックは、液体から固体になるときの結晶化や、配向(樹脂を構成する分子の方向)の処理で強度を増大させます。一方、……

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2. 2種類の塗膜の組み合わせ

塗料の種類は、水性、油性、粉体などさまざまです。しかし、固化して塗膜の状態になると、チョコタイプ(熱可塑性樹脂)とクッキータイプ(熱硬化性樹脂)の2種類に分けられます。そこで、簡略化のため上塗りと下塗りの2層膜を考えてみましょう(図2)。ここでは、塗膜はすでに固化しており、被塗物は環境条件が変わっても膨張・収縮しないことにします。ただし、各層の塗膜は、環境条件で残留溶剤が揮発したり、後硬化(時間の経過により、主剤と硬化剤が化学反応して結合)することもあります。

図2:2層の塗装系の組み合わせ

図2:2層の塗装系の組み合わせ

チョコタイプ(熱可塑性樹脂)の塗膜は、塗膜を加熱するとチョコのように流動します。塗料から塗膜になる過程で、樹脂の分子量は変わりません。加熱や溶剤浸せきの際には、樹脂の分子間力が弱まります。分子鎖同士が化学結合をしていないため、チョコタイプの塗膜は流動します。

一方、クッキータイプ(熱硬化性樹脂)の塗膜は、……

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3. 割れ:塗膜に裂け目ができる現象

割れとは?その原因とは?

割れとは、ひびが入ったように塗膜に裂け目ができる現象です。割れは、塗膜に引張り力が作用することにより発生します。引張り力が作用しやすい塗装系とは、どのようなものでしょうか?

具体例として、昔の携帯電話(今ではガラケーと呼ばれる)の塗装を紹介します。この携帯電話の筐体には、エンジニアリングプラスチックのPC/ABS樹脂(ポリカーボネート/アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合樹脂)が使用されています。携帯電話の塗装には、意匠性に対する要望が多くなります。特に女性をターゲットにしたものは、ネイルアートのような塗装が望まれます。

割れの発生機構

塗装後に起こる欠陥、割れを防ぐには、上塗りと下塗りの組み合わせで対策を打つことができます。昔の携帯電話では、図4の左図に示すように、下塗りにチョコタイプの硝化綿(ニトロセルロース、以下NC)を使用しました。NCは、パールやメタリックなどの光輝性や意匠性の付与が容易で、速乾性です。そして、上塗りにはクッキータイプのUV(紫外線)クリヤを採用し、保護機能を付与します。

冷熱サイクル試験で発生した割れとしわ

図4:冷熱サイクル試験で発生した割れとしわ(引用:坪田実、塗料・塗装のトラブル対策、日刊工業新聞社、2010年、P.48)

品質検査では、常温でゴバン目試験(塗装面にゴバン(碁盤)状に傷を付け、塗膜の密着力を調べる試験。クロスカット試験とも呼ばれる)や耐水性、耐薬品性試験を行います。その後、-30°C~+70°Cに急冷熱する冷熱サイクル試験を行います。各温度で1時間ずつ、合計5サイクルの試験により、割れが発生するかどうかを調べます。ゴバン目試験など、ほとんどの試験は合格します。しかし、冷熱サイクル試験は、不合格になることがありました。-30°Cに冷却する過程で割れは発生しませんでしたが、70°Cに加熱する過程で、ゴバン目を切った線を起点にして、塗膜に割れが生じました。70°Cに加熱する過程で、割れ以外にしわになる部分も出てきました(図4右図)。

問題を整理します。下塗りNC・上塗りUVの塗装系は、……

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第9回:塗膜形成後の欠陥「剥がれ」とは?

塗膜の割れや剥がれといった致命的な欠陥は、起きてはなりません。前回は、割れの原因や対策を紹介しました。今回は最終回です。剥がれのメカニズムと事例を解説します。なぜ剥がれたのか、剥がれない塗装のために何をすべきか考えながら、読んでください。

1. くっつく力の発生

冷凍室で-30℃くらいによく冷やした氷は、指で触れると指先にくっつきます。指先と氷が接すると、氷の表面が溶けて水(液体)になります。すぐに周りの氷がこの水を凍らせて、氷(固体)となります。くっついた氷を引き剥がすと、氷に指紋の跡が残ります(図1)。

図1:氷と指先がくっつく原理

図1:氷と指先がくっつく原理(引用:坪田実、塗装の実務入門 Q&A、日刊工業新聞社、2010年、P.40)

このとき、指と水分子の間に、くっつく力(付着力)が作用します。水でぬれている指先の方がくっつきやすくなります。指先の水が接着剤の役目を果たしているからです。指先の水は、素早く氷を溶かして、自らぬれ広がると同時に、被着体である氷表面層へ拡散します。凝集力(液体・固体の分子間の引力)の小さい液体のときに被着体にぬれ広がっていき、被着体の分子と引っ張り合いができるくらいに近づきます。付着力の本命であるファン・デル・ワールス力は、分子同士が近づけば近づくほど大きくなり、これにより氷が指先にくっつきます。

この指先の水を塗料に置き換えると、塗料のくっつく仕組みを理解できます。塗料が被塗物にくっつくためには、塗料中の樹脂分子を被塗物表面の分子へ近づけ、付着力を確保する必要があります。続いて、水が氷になって凝集力を高めるのと同様に、塗膜形成要素がしっかり手をつなぎ直して塗膜となり、引き剥がす力に対抗します。

それでは、同種あるいは異種分子同士が引き合う力は、どのように発生するのか考えてみましょう。物質は、……

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2. 剥がれのメカニズム

塗料・塗装界の神聖である故・井上幸彦先生は、著書の中で次の名言を述べられました。

「付着とは水との闘いであり、付着の保持は内部応力との争いである。」(引用:井上幸彦、塗料及び高分子、誠文堂新光社、1963年)

この名言から分かるように、塗膜の付着を阻害する要因の一つは、水が侵入することです。塗料が塗膜になってからは、水分や水蒸気が塗膜を透過して、下塗りと被塗物の界面に侵入します。侵入した水は、界面にある物質を溶かし、付着活性点を失活させます。水が容易に付着界面に侵入する原因は、塗膜の付着力が弱いことです。

付着力を阻害するもう一つの要因は、……

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3. 剥がれの事例:溶融亜鉛めっき面塗装系の剥がれ

寒冷地での水道送水管の保護鋼管として、溶融亜鉛めっきをした炭素鋼鋼管(SGP:Steel Gas Pipe)の、剥がれの例を紹介します。外側は、有機-無機ハイブリッド塗料を上塗りとする、耐久性のある塗装系(耐久目標100年)が使用されています。外側鋼管の内部には、発泡ポリウレタンで覆われたステンレス鋼(SUS304)から成る無塗装の水道送水管が入っています。

図3:炭素鋼鋼管の表面での剥がれの状態

図3:炭素鋼鋼管の表面での剥がれの状態

この炭素鋼鋼管で、塗装してから約12年経過した後に、図3に示す剥がれが観察されました。恐らく、それ以前から付着界面ではブリスター(塗膜内で水分が凝集して膨れる現象)が発生し、塗膜は剥がれていたと思われます。まず、剥がれの塗装系はどのように構成されているのか、塗装系のどこから剥がれているのかを見ていきます。

剥がれが起きた塗装系

剥がれが発生した鋼管には、グリッドブラスト(塗装前の表面調整のため研掃材を吹き付けること)の後に、溶融亜鉛に浸せきして、めっきが施されています。めっき面には研磨紙を当て、その後、図4に示す塗装系で塗装されました。写真は、剥がれた塗膜の断面を顕微鏡で観察したものです。

図4:剥がれが起きた塗面の断面状態と塗装系

図4:剥がれが起きた塗面の断面状態と塗装系

剥がれた塗膜の分析結果

図3、図4の観察結果から、5つのことが分かりました。

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4. 補修塗装系と剥がれの対策

本連載の最後に、剥がれの後始末と対策を説明します。剥がれの後始末は重要です。安全と安心を第一に、なくした信用を取り戻さなければなりません。塗装設計の本質を学び、確立し、実行するステップを身に付ける必要があります。

表2:ケレンの種別と作業内容(引用:坪田実、ココからはじめる塗装、日刊工業新聞社、2010 年、P.46)

ケレンの種別と作業内容

今回の例では、重防食仕様のために溶融亜鉛めっきした鋼管を使用しています。剥がれが起きた塗装面には、鉄の赤さびまで出ています。亜鉛の白さびも混ざっているので、表2に示す2種ケレンでさびを除去し、有機ジンクプライマーを使用して、塗装面を均一な状態に復活させる必要があります。スカイツリーの塗装系も含め、推奨できる補修塗装系を表3に示します。実績と現場での塗装作業性を考慮し、メーカー名も加えています。

表3:補修塗装系の推奨例

表3:補修塗装系の推奨例

剥がれの対策は、井上先生の名言を守ることの1点に尽きます。塗料用樹脂類は、……

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