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プラズマの種類と特徴:プラズマ処理の基礎知識1

プラズマ処理の基礎知識

更新日:2020年10月14日(初回投稿)
著者:東京都市大学 総合研究所 客員教授 市川 幸美

プラズマ処理について理解するためには、まずプラズマとはどんなもので、どんな特徴を有するのかを知ることがその第一歩となります。本連載では、全6回にわたり、プラズマ処理の基礎知識を解説します。第1回は、プラズマの基本概念と、その中で起こっている荷電粒子と分子との衝突、応用上重要な弱電離プラズマの特長である電子の衝突反応、その結果起こる電子温度だけが異常に高くなる非平衡プラズマの実現について解説します。

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1. プラズマとは

ジェネラルエレクトリック(GE)研究所で、グロー放電と呼ばれる低ガス圧放電(蛍光灯を思い浮かべてください)の研究に没頭していたアメリカの化学者・物理学者であるアーヴィング ラングミュア(Irving Langmuir)は、1928年に発表した論文で、その均一に光っている物体をプラズマ(Plasma)と名付けました。ちなみに、ラングミュアはプラズマだけでなく、いくつかの異なる分野で画期的な成果を上げたスーパーマン的な研究者で、1932年には表面科学の分野でノーベル化学賞を受賞しています。また、彼の行った基礎研究はGEのビジネスに見事に貢献し、企業研究者のお手本ともいえる人物です。ラングミュアの業績について、調べてみることを是非ともお勧めします。

さて、プラズマと名付けられた物質はどんなものなのでしょうか。昔、理科の授業で「物質の三態」という言葉を聞いたことがあると思います。水(H2O)を例に取ると、1気圧の下で0℃以下のときは固体(氷)に、これを加熱していくと液体に、さらに加熱すると100℃以上で気体(水蒸気)になり、これを物質の三態と呼びます。

では、ここからさらに加熱を続けると、どうなるでしょうか。H2O分子はバラバラになり(解離と呼ぶ)、HとOの原子からなる気体になります。この気体を1万℃以上に加熱すると原子同士が激しく衝突し、原子から負の電荷を持つ電子が弾(はじ)き出され、中性だった原子は正の電荷を持ったイオンになります。その結果、同数の電子と正イオンがランダムに動き回る、気体状の物質が生成されます。このように、電子とイオン、中性原子、および分子が渾然(こんぜん)一体となった物質が、プラズマなのです。そしてこれが、プラズマが第四の物質状態と呼ばれる理由です(図1)。地球上でこそプラズマは身近にはありませんが、宇宙全体を見渡せば、恒星を始めとして物質の99.9%以上はプラズマである(ただし、宇宙の90%以上を占める暗黒物質や暗黒エネルギーは除く)といわれています。

図1:気体をさらに加熱するとプラズマ状態になる(物質の四態)

図1:気体をさらに加熱するとプラズマ状態になる(物質の四態)

プラズマは、マクロに見ると電気的に中性であるのに対し、ミクロに見れば各粒子が電荷を持っていること、また電子の質量はイオンに比べて数千分の1から数十万分の1であることなどが、プラズマの性質を大変興味深いものにしています。プラズマの特徴とそれを生かした応用技術については、今後の連載の中で解説する予定です。

2. 電子、分子の衝突反応とラジカル生成

プラズマ処理を考える上で、電子衝突による分子の解離反応は特に重要です。例えば、最も単純な水素分子(H2)の場合、これが解離反応により2つの水素原子(H)に分解されます。水素原子には未結合手があるため反応性は非常に高く、このような原子(分子の場合もある)をラジカル、またはフリーラジカル(遊離基)と呼びます。こうしたラジカルが、プラズマを用いた材料処理で重要な役割を果たします。

プラズマは、その電離度(中性分子、原子に対するイオンの密度比)により、性質が異なります。プラズマ処理には、電離度の低い(通常、1万分の1以下)弱電離プラズマを用いるのが一般的です。その場合、電子やイオンが衝突する相手としては中性の分子、原子を考えれば十分であり、荷電粒子同士の衝突は無視できます。衝突反応の中でも特に重要なのは、電子と中性原子、分子との衝突です。十分な運動エネルギーを持った電子eが原子Xに衝突すると、ある確率で原子から電子を弾き飛ばす電離反応が起こります。

e(高速)+ X → e(低速)+ X+ + e

また、分子(仮に、二原子分子XYとする)に電子が衝突すると、次のような反応が起こります。

e(高速)+ XY → e(低速)+ XY+ + e …電離
        → e(低速)+ X + Y …解離
        → e(低速)+ X + Y+ + e …解離性電離

多原子分子では、より複雑で多様な衝突反応が起こることはいうまでもありません。

3. 平衡プラズマと非平衡プラズマ

プラズマは電子、イオン、中性分子(原子も含む)で構成され、それらはランダムな熱運動をしています。粒子は、近似的にはマクスウェルの速度分布(熱力学的平衡状態において、気体分子の速度が従う分布関数)で決まるさまざまな速度を持ち、それらの粒子の平均運動エネルギーの大きさの指標は温度で規定されます。

・平衡プラズマ
平衡プラズマとは、電子温度とイオンや原子の温度が熱平衡状態、すなわち同じである状態を指します。電子、イオン、中性分子の温度をそれぞれTe、Ti、Tgで表すと、熱平衡状態にある平衡プラズマでは、Te=Ti=Tgです。

・非平衡プラズマ
非平衡プラズマは、電子温度がイオンと原子の温度よりも高い状態を指します。プラズマ処理で一般的に用いられる弱電離プラズマでは、Te≫Ti≒Tgとなっています。例えば、蛍光灯のようなグロー放電では、放電管に触れても分かるように、TiやTgは室温より多少高い程度にもかかわらず、電子温度Teは数万度にも達します。

図2に、水素分子H2、窒素分子N2、酸素分子O2のガスにおける円筒放電管内のプラズマ部の電子温度と、pR(p:ガス圧、R:放電管の半径)の関係を示します。ここで、ガス圧の単位Torrは1Torr=1/760気圧、電子ボルト(eV)で表した電子温度は1eV=11,600Kに相当します。pR=1(Torr cm)(ガス圧1/760気圧で放電管の半径1cmの場合など)では、電子温度は約2万度になります。

図2:H<sub>2</sub>、N<sub>2</sub>、O<sub>2</sub>ガスにおける円筒放電管内のプラズマ部の電子温度と、pR(p:ガス圧、R:放電管の半径)の関係

図2:H2、N2、O2ガスにおける円筒放電管内のプラズマ部の電子温度と、pR(p:ガス圧、R:放電管の半径)の関係(参考:市川幸美他、プラズマ半導体プロセス工学、内田老鶴圃、2003年、P.20)

なぜこのような状態が実現されるのかを、簡単に説明します。それは、イオンと電子の質量の差に起因します。質量m1の剛体球1が、質量m2の静止している剛体球2に衝突する、古典的な弾性衝突モデルを考えてみましょう。衝突には、正面衝突からかすかに触れ合う程度のものまで、さまざまな場合があります。1回の衝突で剛体球1が失うエネルギーの平均値を求め、それと衝突前の運動エネルギーとの比率を衝突損失係数fと定義すると、結果は次式のようになります。

電子と中性分子の衝突の場合には、電子の質量が中性分子の質量に比べてはるかに小さい(数千分の1以下)ため、上式はf=2m1/m2となり、1回の衝突で、電子は持っているエネルギーの数千から数十万分の1のエネルギーを失うだけです。それに対し、イオンの場合にはその質量は中性分子とほぼ同じであるため、上式はf=1/2となり、1回の衝突でほぼ半分のエネルギーを中性分子に与えることになります。

一方、プラズマ中に存在する電界によって、電子と正イオンは反対方向に加速されます。しかし、同じ距離を移動する間に電界から得るエネルギーは同じです。その結果、電子だけが電界により効率よく加熱され、電子温度Teがイオン温度Tiや中性分子(ガス)温度Tgに比べて非常に高くなる、いわゆる非平衡である状態が実現されます。その結果、非平衡プラズマ内には、中性分子と衝突して電離を起こすのに十分なエネルギーを持つ電子が多数存在することになり、前項で説明した衝突反応が頻繁に起こることになります。このようにして生成されたフリーラジカルが、プラズマ処理における重要な役割を担うことになります。こうしたラジカルの生成機構や、材料処理における有用性については、また次回以降で説明していこうと思います。

いかがでしたか? 今回は、プラズマの基本概念と、プラズマ内で起こる電子・分子の衝突反応や平衡、非平衡プラズマなどについて解説しました。次回は、グロー放電プラズマやアーク放電プラズマなど、さまざまなプラズマの発生方法を解説します。お楽しみに!

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