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粉の歴史とその恩恵:粉体工学の基礎知識1

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更新日:2015年5月29日(初回投稿)
著者:株式会社ナノシーズ 技術顧問 工学博士 羽多野重信

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1.粉の歴史

これから皆さんと、粉(こな)について調べてみることにしましょう。
著名な物理学者の寺田寅彦氏は粉を「粉体」と呼びました(参考:寺田寅彦、自然界の模様『科学』3、1993年、P.77-81)。学問分野は粉体工学と呼ばれ、他の分野に比べると歴史は浅く、日本では、粉体工学会の前身の粉体工学研究会が1957年に名古屋で発足した時が本格的な始まりといってよいでしょう。

しかし、日常品としての粉体の歴史は古く、とくに化粧用の顔料としての粉体は、すでに旧石器時代には使われていたとされていますので、約50~60万年の歴史ということになります。日本書紀にも鉛白系の化粧品が用いられていたという記述があります。

約1万年前の石器時代には穀物を石ですりつぶして粉とし、風力を利用して大きさ別に分けていたともいわれています。
さらに、日本の縄文人は、首飾り、耳飾り、腕輪、などで身を飾ることを好んでいたようで、これらの装身具は土を固めて焼くという方法を既に編み出していたといえます。

図1のように、まず原料粉体である土から粗大粒子やごみを取り除き(ふるい分け)、水で練り(捏和(ねっか)、混練(こんれん))、形を整え(成型)、焼く(焼成)と、これはまさに粉体技術の諸操作を駆使しているわけで、実に驚かされるところです。

図1: 縄文時代の粉体技術

図1:縄文時代の粉体技術

2.身の回りの粉体

私たちの身の回りを見てみると、実に多くの粉体が使われていることに気がつきます。

今、会社で仕事をしているとします。スチール机の材料は鉄鉱石から。その塗装にはもちろん粉体の顔料が使われています。机の上には、粉体を成型したプラスチック製品が置かれています。机、本棚など木製家具の多くは、木材をいったん粉末状にしてプレス成型したものです。

目の前にあるパソコンをはじめ、OA機器、事務用品のほとんどが粉体を経て作られています。机の上にある書類は原料の木材チップの段階で粉体技術が生きています。印刷に使うインクは粉体の顔料から。コピー機の中にはトナーという黒い粉体が入っています。

ちょっと一服するときの机の上のコーヒーはブルーマウンテンを細かく挽いた粉。となりのYさんは胃の調子が悪いので顆粒の胃薬を飲んでいます。コーヒーカップは陶磁器製で粘土から。蛍光灯や電球のフィラメントは粉末冶金の技術。

鉄筋コンクリート10階建ての会社のビルは粉体であるセメント。一歩外に出ると歩道には透水性のブロックが敷きつめられていて、これも粉体の技術。その上を走っている自転車、車道を走っているクルマ、これらの構成部品のほとんどが粉体を経て造られています。

このように、原料、中間製品、最終製品などと考えていくと、私たちは粉体からずいぶん多くの恩恵を受けて生活しているといえます。

コラム:ピラミッドの粉体技術

1955年のアメリカ映画に「ピラミッド」(原題は「Land of the Pharaohs」)という映画がありました。監督はハワード・ホ-クスで、のちに「ベン・ハー」に出演するジャック・ホーキンズが主演しています。この映画の中で、驚くべき粉体技術が登場します。

ピラミッドの中にはミイラや副葬品が埋葬されていいて、これを狙う泥棒が後を絶たず盗人対策は非常に重要な課題であったようです。内部の通路は全て迷路にして、いくつかのダミーの墓室をつくることによって盗人が入りにくい構造になっているものもありますが、これだけではまだ完璧とはいえず、ここでその粉体技術の登場です。

図2のように、本物の墓室に通じる通路の下にもう一つの通路を作り、上の通路から下の通路まで貫通する穴をあけ底に簡単な栓を設けます。そして砂を一杯になるまで充てんしてその上に柱を立て、さらにその上に大きい石をのせたような構造にします。

図2:ピラミッドの盗人対策

図2:ピラミッドの盗人対策

こうしておいて埋葬品を納めたあと、下の通路いっぱいの大きさの石を滑り落とします。すると天井に設けた簡単な栓は砕かれて、中の砂がサラサラと流れ出てやがて柱が下に落ち、大きな石は通路を見事にふさぐという仕組みです。

粉体は上から加圧されたとき容器の壁で力の一部が支えられ、容器の底に伝わる力は減少するという性質があります。この映画に登場する技術は、粉体の特性を実にうまく利用したワザであるといえます。

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