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工場の暑さ対策の基礎知識

工場の暑さ対策の基礎知識

著者:横浜国立大学 教育学部 学校教育課程 保健体育 教授 田中 英登

1980年代以降、国内における熱中症の死亡者数・搬送者数の増加が報告されています。熱中症は暑熱障害の総称とされ、暑熱環境が原因で起こります。暑熱環境は、熱中症のような障害発症の原因となるだけでなく、体内状態の変化により、作業のパフォーマンスにも強く影響します。本連載では、暑さ対策の基礎知識として、暑熱環境における障害発生の状況、発生機構、および作業パフォーマンスの低下について解説します。

第1回:暑熱環境下における暑さ対策の必要性

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1. 暑熱環境下における体への影響

暑熱環境は、熱中症障害の発生や、運動や作業のパフォーマンスに影響します。暑熱環境とは、どのような環境を指すのでしょうか。一般に、身体に負荷となる物理的な環境関連因子として、気温、湿度、輻射(ふくしゃ)熱、気流の4因子が挙げられます(図1)。

図1:暑熱環境の4因子

図1:暑熱環境の4因子

・気温
気温は、大気の温度です。体熱の移動は、単純に、体表の温度と大気の温度(気温)との差で決まります。体表の温度は、皮膚表面下を走行する皮膚血管拡張反応によって決まり、約30~35℃です。この皮膚温よりも気温が低ければ、体熱は体外に放散され、高ければ体内に蓄熱されます。

・湿度
湿度は、大気中の水分量を示す指標です。人は体表面に汗を出し、汗が気化することにより、体熱を体外に放散させる仕組みを持っています。また、相対湿度は、その気温条件における大気中に存在できる水分量を百分率で示したもので、皮膚表面上に出た汗の蒸発に影響します。すなわち、湿度が高ければ、体熱が放散されにくくなるため、熱ストレスが大きくなる条件となります。

・輻射熱
輻射熱は、温度の高い物体から低い物体に、電磁波によって伝わる熱です。代表的な輻射熱は太陽光によるものです。屋内にいる場合は、体表温度と温度差のある物体(壁や暖房器具など)が輻射熱の元となります。夏季には太陽からの輻射熱量が増加するため、屋外にいるときは、特に体への熱ストレス量に影響する因子といえます。一般に、気象庁などが出している気温の予報は、日陰で風通しのよい輻射熱のない場所を想定しているので、日射のある屋外状況では、より大きな熱ストレスが体に加わることを理解しておく必要があります。

・気流
気流は、大気の流れを指し、熱ストレスの面からも影響があります。体の周りには体熱によって暖められた層ができ、その層を気流の流れが取り除くことにより、体表面付近の空気中の温度が下がります。また、先に述べたように、体表面に出た汗は蒸発することで体熱を下げます。このとき、気流があると水分蒸発を促進させ、熱ストレスを軽減させる要因となります。

このように、気温、湿度、輻射熱、および気流は、体に負荷を及ぼす熱ストレスを決める重要環境因子であることが分かりました。こうした環境条件により、その環境が体に負荷をかける熱ストレスが高いか否かが決まります。近年では、暑さ対策としてのこれらの環境因子を測定することが重要とされています。特に、これらの因子を総合的に評価する環境指標として、WBGT(Wet Bulb Glove Temperature:湿球黒球温度)が使われています(環境省は、暑さ指数とも呼んでいます)。この指標は、以下のように屋外の輻射熱がある場合と、屋内の場合に分けて算出されます。

屋外WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
屋内WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

近年では、WBGT測定器も市販されています(図2)。実際の労働現場の環境測定をすることは、暑さ対策の基本と考えるべきでしょう。

図2:WBGT計(固定型、携帯型)

図2:WBGT計(固定型、携帯型)

2. 暑熱障害(熱中症)の発生機構

近年の夏季の猛暑環境下においては、熱中症は増加傾向にあり、労働現場において一定数以上の死傷者が出ています(図3)。

図3:労働現場における熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル2018)

図3:労働現場における熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル2018)

熱中症は、暑熱環境による外的熱ストレスと、活動(運動や作業など)による内的熱ストレスが加わることにより発生します。特に、内的熱ストレスは、運動などを行う場合、筋収縮運動を起こすために産生されたエネルギーの約70%が少なくとも体熱に変わるため、運動をすればするほど熱ストレス量が多くなります。例えば、やや激しい運動を60分するだけで、体温が約8℃上昇する熱量が作られます。もちろん、私たちの体には体温調節機能が備わっており、体温が過剰に上昇しないよう、発汗や皮膚血管拡張反応などの熱放散反応が起こります。

図4は、暑熱環境下での作業など、活動時の熱中症発生機構を示します。熱中症は、体内の変化過程によって大きく熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病の4つに分類されます。

図4:熱中症の発生機序

図4:熱中症の発生機序

・熱失神
熱失神は、脳血流の減少により起こり、めまい、ふらつき、失神などの症状が出ます。例えば、冷房の効いた部屋から気温が高い屋外に出たとき、熱放散を行おうと急激に皮膚血流を多くするため、中心血圧が一過性に低下することにより熱失神が起こります。また、準備運動などで末梢の筋血流が増加した後に、あいさつや説明などで直立不動の状態でいると、血液が末端に貯留し、同様に一過性の低血圧を招くので注意が必要です。

・熱疲労
熱疲労は、軽度の体温上昇と発汗による脱水が原因となって生じます。症状としては、集中力の欠如、頭痛、吐き気などがあり、軽度から中等度までさまざまです。

・熱けいれん
熱けいれんは、発汗により汗成分のNa量が体内から減少することにより起こります。筋の局部的な痛みを伴うのが特徴です。

・熱射病
熱射病は、これまで述べてきた3つの症状が、単独に、あるいは複合的に重症化した状態です。体温が40℃以上になる高体温を示し、致死率が高くなります。

このように、暑熱障害(熱中症)は、今日の日本国内における夏季の環境では簡単に起こりうる障害であり、十分な対策を行うことが必要です。

3. 高体温と作業パフォーマンス

持続的な作業は、暑熱環境下において体温が継続的に上昇し、高体温となるため、作業可能持続時間が短縮します。また、精神作業においても、集中力が散漫となりやすく、作業能力が低下することが示されています(図5)。

図5:高体温と作業能力(直腸温の変化、課題切り替え時間)(参考:風間彬ら、体温上昇が持久的運動時における認知機能に及ぼす影響、体力科学61(5)、2012から改編)

図5:高体温と作業能力(直腸温の変化、課題切り替え時間)(参考:風間彬ら、体温上昇が持久的運動時における認知機能に及ぼす影響、体力科学61(5)、2012から改編)

このように暑熱環境は、前述したような暑熱障害を起こさなくとも、さまざまな作業パフォーマンスに影響を及ぼすことがよく知られています。暑熱環境下での作業時には、短時間作業を行い、休憩を多くとることにより、作業パフォーマンスの低下を少しでも少なくする必要があります。

いかがでしたか? 今回は、暑熱障害の種類と、作業パフォーマンスへの影響を紹介しました。夏の現場では、障害が発生しないように対策しなければなりません。次回からは、具体的な暑さ対策を解説します。お楽しみに!

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第2回:暑さ対策の基本~暑さに強くなる・日常生活における対策~

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前回は、暑熱環境下における体への影響として、暑熱障害(熱中症)の発生と高体温による作業パフォーマンスの低下について説明しました。今回から、数回にわたり具体的な暑さ対策について解説します。今回は、暑さに強くなるための基礎知識として、暑さから身を守るために体が持っている機能について解説します。

1. 暑熱環境における体の反応

暑熱環境に暴露されると、体温が上昇します。人の場合、全く服を着ていない(裸体)条件では、気温28~30℃が中立温度とされています。この温度では、特に体の機能を使わなくとも体温を一定に保つことができます。しかし、気温がそれ以上になると、何らかの体熱放散を行わなければ体温は少しずつ上昇していきます。また、衣服を着用すると、熱は放散されにくくなり、作業や運動を行うと体内で産熱されるため、熱ストレスはさらに増加します。

例えば、体重50kgの人がやや強い作業を60分間行うと、体内には体温を約8℃上昇させる熱が生まれます。もし、このような状況下で熱放散が全くできなかったとすると、体温は60分間の作業で45℃に達してしまい、生命を維持することは不可能となります。そのため、恒温動物である人間は、過剰に体温が上昇しないよう、体温調節反応を起こすことで体温を適切な範囲に保っています。

人の熱放散反応には、行動性熱放散と、自律性熱放散があります。行動性熱放散には、涼しい日陰に移動する、冷房を付ける、水を浴びるなどさまざまな方法があります。ただし、これらの行動を起こすことにより、作業をいったん停止しなければならず、作業制限がかかります。

一方、自律性熱放散には、皮膚表面近くを走行する血管を拡張し(皮膚血管拡張反応)、体外に熱を放散させる、または汗を皮膚表面上に拍出し、汗が蒸発する際の気化熱により体熱を下げるという方法があります。ただし、気温が30℃以上になると、皮膚血管拡張による熱放散の有効性は低下します。さらに気温35℃以上になると、むしろ体外から熱が入ってきてしまうため、最終的には発汗反応が唯一の自律性熱放散手段となります。自律性熱放散反応は、行動性の反応と異なり、基本的に作業制限は起こらないため、作業を継続しながら熱放散できるのが特徴です。

2. 暑さに慣れるとは

暑さに慣れるには、前述した自律性熱放散が関係します。暑さ対策として考えるべきポイントとして、暑熱障害(熱中症)にならないことと、作業パフォーマンスが落ちないようにすることがあります。図1は、6月と7月の熱中症発生時の気温と湿度の関係を示したものです。熱中症の発症数は、気温の上昇とともに増加します。ただし、気温が同じでも湿度が低いと発症数は減少することが分かります。また、7月に比べて6月は約3℃低い気温で発症していることが分かります。この差はなぜ生じるのでしょうか?

図1:運動時熱中症発生時の相対湿度と気温の月別分布(参考:中井誠一、スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック、日本スポーツ協会、2019、より改編)

図1:運動時熱中症発生時の相対湿度と気温の月別分布(参考:中井誠一、スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック、日本スポーツ協会、2019、より改編)

この差は、一言でいえば、暑さに慣れているかいないかの違いとされています。実際に、6月の気温30℃は、暑いという感覚があります。しかし、7月になると30℃はそれほど暑く感じなくなります。35℃以上の猛暑日が続く時期には、30℃は涼しいと感じるかもしれません。このような温度感覚の違いは、実際に体の生理機能にも変化が起きており、発汗機能が亢進(こうしん)することが分かっています。すなわち、汗をたくさんかけるようになり、体温が上昇しにくい体となっています。これを、暑熱順化と呼びます。

暑熱順化は、暑熱環境に暴露されることと、それに運動などが加わることにより起こります。図2は実験的な暑熱順化の変化を示したものです。この実験では、毎日40℃の暑熱環境に120分間暴露し、そのときの体温、心拍数、発汗量を計測しました。その結果、毎日の暑熱暴露により、発汗量は徐々に増加し、体温の上がり方も徐々に抑えられ、最終的には約1週間で順化が完成することを示しています。

図2:暑熱順化実験による体の変化(参考:Lind AR and Bass DE、Optimal exposure time for development of acclimatization to heat. Fed.Proc., 22:704-708、1963、より改変)

図2:暑熱順化実験による体の変化(参考:Lind AR and Bass DE、Optimal exposure time for development of acclimatization to heat. Fed.Proc., 22:704-708、1963、より改変)

これらの実験から、気温は5月以降、徐々に上昇して真夏の気温に移行するものの、高くなった気温で7日間経過すると、人間の体は、ほぼその気温に慣れてくるということが分かります。逆にいうと、この急激に気温が高くなった時期は、体が慣れていないため体温が上がりやすく、熱中症になりやすいため特に注意が必要です。

図3は、暑熱環境下での作業開始日からの経過日と、熱中症発生数の関係を示したものです。作業初日が最も多発しており、その後、徐々に減少することが分かります。これも、暑熱順化が大きく影響を及ぼしていることを示しています。

図3:夏季の労働開始日からの熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル、2018)

図3:夏季の労働開始日からの熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル、2018)

3. 暑熱順化に影響する生活習慣

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第3回:暑さ対策の基本~水分・塩分の補給、夏バテを起こさない食材~

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前回は、暑さ対策の一つとして、暑さから身を守る身体機能について解説しました。暑さが身体に及ぼす影響の多くは、体内成分の消耗が大きく関与しているともいわれます。今回は、暑熱環境下での日常生活において必要とされる栄養成分について解説します。栄養補給の大切さについて理解を深めましょう。

1. 水分補給の重要性

体温が上がると、体内の水分が、汗となって排出されます。暑熱環境下における唯一の自律性熱放散手段は、発汗です。汗をかけるようになることで、高体温を予防し、熱中症を起こりにくくします。しかし、発汗するということは、体内の生命維持に最も重要といわれている水が体外に排泄(はいせつ)されることを意味します。そのため、発汗により、体水分の減少が生じます。

成人では、体重の約60%が水分とされ、このうちの2%以上が体から抜けることにより、さまざまな影響が生じます。一方、発汗量は、1時間に最大2Lにも及ぶことが知られており、短時間で2%以上の脱水に陥る恐れもあります。体重の2%以上が脱水すると、脱水1%ごとに心拍数は5~10拍/分、体温は0.3℃上昇するとされています。

表1は、脱水率と体への影響をまとめています。脱水率が上昇するにつれ、さまざまな障害が出ることが分かります。

表1:脱水に伴う生理・心理機能の変化
脱水による体重減少率 身体的・精神的変化
2~5% 血漿(けっしょう)量、唾液分泌量、尿量の低下、血液濃縮、
心拍数・呼吸数増加、体温上昇、枯渇感
5~10% 脱水による疲弊、発汗量減少、酸素摂取量減少、視力・聴力低下、
脱力・倦怠(けんたい)感など
10%~ 深部体温直線的上昇、循環不全、昏睡(こんすい)

 

また、このような体への影響から、脱水割合に応じて作業能力も低下します(図1)。

図1:脱水による作業能力の低下

図1:脱水による作業能力の低下

以上より、熱中症を予防するために発汗は重要な反応であると同時に、発汗による脱水を放置すると、熱中症はさらに進行することが分かります。これを防ぐには、水分の補給が重要です。水分の補給の基準は、汗をかいた分量を補給することです。ただし、一度に多量の水分を補給しても胃に貯留し、すぐに吸収されません。そのため、発汗が起きている場合には、短時間(15~30分)に少量(100~200mL)をこまめに補給することが推奨されています。

脱水量の目安となる発汗量や体重減少量を、現場で測定することは難しいです。そのため、脱水の目安として尿色も一つの判断方法とされています。尿色と脱水基準については、インターネットなどで確認してみてください。なお、補給する水分の温度は、一般的に、最も暑い環境下で15℃前後が飲みやすいとされています。ただし、個人差もあるため、個々が飲みやすい温度の水分を補給することで問題ありません。

2. 塩分補給の重要性

熱中症予防には、水分補給の他、塩分補給を効果的に行うことも重要です。汗には、水以外にも体にとって大切な成分が含まれ、中でもナトリウムは多くの量が含まれています。ナトリウムは体の神経情報伝達や、筋収縮、pH調節などに関与している、生命維持に重要な成分です。人間の身体には、少量発汗時にはナトリウムの排泄を抑える機能があります(ナトリウム再吸収機構)。このとき、汗中のナトリウム濃度はそれほど高くないため、特にナトリウムを補給する必要はありません。しかし、多量の発汗が長時間続いている場合には、このナトリウム再吸収機構が追い付かず、多量のナトリウムが汗と一緒に体外に排出されます。これにより、体内が塩分不足状態(脱塩状態)となり、塩分補給が必要になります。

脱塩状態を予防するには、まずは、朝食をしっかりと取ることが推奨されます。朝食を欠食することで、一日の活動初期から水分や塩分が不足しがちになり、多量の発汗が起こると早めに脱水・脱塩状態に達する恐れがあります。

作業中にナトリウムを補給する場合は、ナトリウムが含まれたイオン飲料水(スポーツドリンク)や塩あめなどが効果的です。塩だけを摂取するのも有効です。ただし、塩を摂取する場合は水の吸収率が抑えられてしまうため、塩水を飲んで塩分と水分の同時補給ができるとは考えないようにしましょう。同時補給する場合は、塩水に糖分を少量含ませることで水分の吸収率が高まります。

経口補水液には、高濃度のナトリウムが含有され、脱水者(既に脱水となっている疾病者など)には有効な飲料水です。しかし、普段から経口補水液を飲んでいると塩分摂取量が過剰となるため、健康の観点からも勧められず、注意が必要です。

3. 夏バテを予防する栄養摂取

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第4回:体冷却の有効性~各種冷却グッズの使い方~

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前回は、暑さ対策に必要とされる栄養成分と食材を紹介しました。今回は、体冷却の効果について解説します。体の冷却は、外部から体を物理的に冷やすことです。近年、さまざまな冷却手段が考案されています。それらの長所、短所などを紹介します。

1. 体冷却の種類とその意義

高体温対策として、近年では体を外部から冷却する手段(身体冷却法)が考えられています。体が暑熱環境下に暴露されると、主観的な暑さ感が増し、不快感がもたらされます。長時間の暑熱暴露や、強度の高い活動を行うと高体温となり、作業能率が低下します。また、高体温は暑熱障害(熱中症)のリスクを高めます。表1に、各種身体冷却法とその特徴を示します。

表1:各種身体冷却法とその特徴(参考:スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック、日本スポーツ協会、2019年から著者改編)
冷却方法 冷却効果 実用性 備考
深部 皮膚 作業前 作業中 休憩時 作業後 簡便性



アイスバス 冷却直後は筋出力低下
アイスパック 冷却効果はアイスバスの10分の1程度
クーリングベスト 作業中着用できるが、重量負担が少しはある
送風 霧吹き/水噴射と組み合わせ可能、屋外でも使用可
ファン付き作業服 衣服内送風により汗の蒸発を促進し、快適性高める
頭部・頸部冷却 作業中も使用できるが深部までは冷却できなく、熱中症注意
手掌冷却 温熱感覚に好影響、手ごろに冷やせる
メントールスプレー × × × 体温下降作用はない。涼しいと錯覚させる。作業前・中の使用には注意



水分補給 脱水予防、エネルギー補給など兼ねる
アイススラリー 電解質/糖質同時補給も可

こうした身体冷却法は、使用目的や使用条件によって異なります。一方、目的や条件に合わない冷却法を用いると、効果が軽減するだけでなく、体にとってむしろ有害となる場合もあります。それぞれの体冷却のメカニズムをよく理解した上で、その場に合った冷却法を導入することが大切です。

2. 体温下降(高体温防止)効果のある冷却手段

身体冷却の目的は、大きく2つに分けられます。一つは、体温の低下を目的としたもの、もう一つは冷却により快適感を導くものです。まずは、体温を低下させる効果のある冷却法を紹介します。

冷却法には、表1に示したように、体外部からの冷却と、内部からの冷却があります。外部からの冷却のうち、最も深部の体温を下げる効果があるのは、20℃以下の冷水に肩下の全身を浸けるアイスバス法です。高体温になった際には、最も早く体温を下降させる効果があります。しかし、労働の現場に浴槽が配置されていることはほとんどないため、実際にアイスバス法を使用するのは難しいかもしれません。

アイスバス法と比べると、その他の外部冷却法は、深部体温低下の有効性は小さくなります。しかし、手部の冷却(手掌冷却)法は、簡易に現場で用いることが可能です(図1)。10~20℃の水をバケツに入れ、手部を数分間浸けるだけで体温下降作用があります。手部には、動静脈吻合(ふんごう)と呼ばれる大きな血管が走行しており、高体温時にはラジエーターのように熱放散部位となるためです。ただし、水温を5℃以下の極冷水にすると、血管が収縮してしまい、ラジエーター効果がなくなってしまいます。

図1:手部の冷却の適温は10~20℃

図1:手部の冷却の適温は10~20℃

他にも、クーリングベストや、頭部・頸部(けいぶ)冷却などは作業中にも使用でき、体温上昇の傾きを少しでも抑えることが可能です(図2)。

図2:作業中にも使用できる冷却手段

図2:作業中にも使用できる冷却手段

一方、体の内部からの冷却法で深部体温を下げる効果があるのは、アイススラリー摂取による冷却法です。アイススラリーとは、氷を細かく砕いた氷水です。作業中には摂取しにくいものの、作業前や休憩時などに摂取することにより、深部体温を低下させることが報告されています。競技アスリートなどが暑さ対策として利用している方法です。

3. 快適性のある冷却手段

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第5回:感染症流行下の暑さ対策

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前回は、体冷却の種類と効果を紹介しました。新型コロナウイルス感染症の流行により、三密(密閉、密集、密接)、不要な外出の回避、マスク着用、手指の消毒、テレワークの推奨などの感染予防対策を含め、新しい生活様式が求められるようになりました。今回は、感染予防対策による新しい生活様式が、夏の暑さ対策にどのように影響するのか解説します。

1. 感染症予防対策と暑熱障害リスク

感染症予防対策が暑さに関連するポイントを考えてみましょう。まず、密を避けるためには、換気の悪い密閉空間を作らないように対策をします。具体的には、窓や扉を開放して換気を行い、空気の流れを作ります。これは暑さ対策にもつながります。

一方、緊急事態宣言による外出自粛は、身体活動量の減少を招き、体力の低下を引き起こします。体力の低下は免疫機能も含め、暑熱耐性機能(暑熱ストレスに対する抵抗力)も低下させます。

さらに、夏季のステイホームは、冷房環境で長時間過ごすことになります。これにより、暑熱環境に暴露される機会が減り、発汗の機能を減退させます。また、ステイホームが明けた後は、十分に体が暑さに慣れていないため、最初の1週間は体を暑さに慣らす必要があります(第2回)。

2. 作業時のマスク着用における体への影響

マスクの着用は、感染症対策の基本です。しかし、作業時のマスクの着用は、身体への影響を十分に考慮する必要があります。

マスクには、医療用マスク、防塵(じん)用マスク、一般家庭用不織布マスクなど、さまざまな種類があります。医療用マスクや防塵・防毒(ガス)マスクは密閉度が高く、呼吸器系への負担が大きいため、作業の強度が高まると、酸素を十分に取り入れることが困難となり、呼吸機能障害を引き起こす可能性が大きいと考えられます。また、顔を広く覆う構造なので、顔面部の暑さ感も増大します。一方、家庭用の不織布マスクは、医療用マスクと比較して密閉度は高くありません。しかし、作業時の呼吸機能への負担は、同様に注意深く考える必要があります。また、顔面部の暑さ感が増すのも同じです。このようなことから、2020年6月に、厚生労働省は、家庭用マスクを使用する一般国民に対して、マスク着用による熱中症への注意喚起をしています。

筆者は、一般家庭用マスクを着用しているときの熱中症リスクについて検討を行いました。その結果を紹介します。気温25~35℃において、軽運動(心拍数110拍/分のウォーキング程度)を40分間行った場合の、体温、発汗、心拍数、温度感覚などを観察しました。その結果、気温が低い25℃では、顔面部の温度感覚はマスクをしていないときよりも高い暑さ感をもたらしました。しかし、気温が高くなるにつれて、マスクの有無による差は認められなくなりました。また、心拍数、体温変化、発汗量なども、いずれの気温においてもマスクの影響はありませんでした(図1)。

図1:異なった気温下でのマスク着用による軽運動時の身体への影響(高須莉喜他、第28回日本運動生理学会大会発表、2021、著者改編)※は同一気温におけるマスクの有無の有意差

図1:異なった気温下でのマスク着用による軽運動時の身体への影響(高須莉喜他、第28回日本運動生理学会大会発表、2021、著者改編)※は同一気温におけるマスクの有無の有意差

この結果から、筆者は、軽運動・作業時の不織布マスクの着用により、少なくとも熱中症リスクが高まるということはないという結論です。また、建設現場を想定した調査結果でも同様の傾向を示しています(図2)。ただし、建設現場では、作業負荷が高く、時間が長くなる場合には、マスクの影響が出る可能性もあるため、注意が必要です。

図2:屋外作業現場をモデルとした10分間作業時のマスクなどの影響(不快度、息苦しさ、集中力の低下度は数字が高いほど評価が悪い)(参考:日経ホームビルダー、株式会社日経BP、2020年10月 P.50-81)

図2:屋外作業現場をモデルとした10分間作業時のマスクなどの影響(不快度、息苦しさ、集中力の低下度は数字が高いほど評価が悪い)
(参考:日経ホームビルダー、株式会社日経BP、2020年10月 P.50-81)

なお、マスクによる影響は、軽運動時には少ないとはいうものの、気温、湿度が高ければ、マスクの有無にかかわらず熱中症リスクは高いため、これまで述べてきたような暑さ対策が必要であることは忘れてはいけません。

3. その他の暑さ対策

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