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ゴムとは:ゴムの基礎知識1

ゴムの基礎知識

更新日:2018年5月24日(初回投稿)
著者:東京理科大学 名誉教授 伊藤 眞義

靴のゴム底からタイヤ、ベルトやホースなど、あらゆる工業製品に使用される基本素材のゴム。ゴムの構造や特徴、加工方法、ゴム材料の種類、環境に及ぼす影響まで、ゴムに関する技術者向けの基礎知識を、全7回にわたって解説します。第1回となる今回は、ゴム特有の弾性変形メカニズムを実現している構造や原料ゴム、ゴムを用いた工業用材料について説明します。

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1. ゴムとは

ゴムとは、形状やサイズによらず、加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の形状に戻る特性(弾性変形)を有した物質です。ばねも弾性変形を示しますが、変形のメカニズムがゴムとは異なるので、両者には弾性変形の温度依存性など、弾性体としての特性に違いがあります。ゴムの弾性変形は、ゴムが高分子鎖(以降、分子鎖)という、細長くて柔らかいひもの集合体(高分子物質)で構成されていることに由来します(図1)。分子鎖1本の長さは1,000分の1mm程度で、それらがお互いに絡み合い、球状のコイル(ランダムコイル)を形成してゴム内に存在しています。コイルは小さな力でも変形し、力を除くと元の形状に戻ります。これがゴムの示す弾性変形メカニズムです。

図1:コイル形状の分子鎖

図1:コイル形状の分子鎖

2. 原料ゴムとは

ゴムの主原料として使用される高分子物質(原料ゴム)は、天然ゴムと合成ゴムに大別されます。天然ゴムは、代表的なヘベア樹(ブラジル原産、図2)など、数種のゴムの木が分泌する樹液(ラテックス液)を乾燥固化させたものです。市販の天然ゴムは、ラテックス液の精製や、乾燥固化の処理法などにより分類されています。天然ゴムは、その優れた力学特性に加えて、昨今では地球環境を守る天然素材としても脚光を浴びており、その使用量は、原料ゴム全体の約50%を占めています。一方、石油から工業的に得られる合成ゴムは、化学構造の異なる製品が開発されており、さまざまな特性を有するゴムが存在します。

図2:へベア樹の樹液採取

図2:へベア樹の樹液採取

ゴムの弾性変形という特性は、原料ゴムだけでは十分に得られません。原料ゴムだけの場合、力を加えると伸縮しますが、力を除いた後に元の形に完全には戻りません。その理由は、ゴム中の分子鎖が絡み合って形成されているランダムコイルの絡み合いが、変形の途中で解け、コイルどうしがバラバラになってしまうからです。そこで、弾性変形の力を除くと元の形状に戻る特性を発現させるために、分子鎖の絡み合いが解けないよう、分子鎖同士を化学的に結合させます。この化学的な結合を、架橋といいます(図3の×印箇所)。

図3:ランダムコイルの変形

図3:ランダムコイルの変形

原料ゴムに架橋処理を施したゴムを、架橋ゴムといいます。輪ゴム、ゴム手袋、医療用ゴム製品など、半透明なゴム製品は架橋ゴムが使用されています。しかし、架橋ゴムの力学的強度と弾性率は比較的小さく、大きな力が働くところでは使用できません。

そこで用途に応じて、架橋ゴムに弾性率の大きい微粒子を混合し、弾性率を飛躍的に向上させています。カーボンブラック(Carbon Black、工業的に製造された炭素の微粒子)のように、弾性率だけでなく強度も増加させる微粒子を、補強性充填剤といいます。自動車用タイヤの場合、原料ゴム100gに対し、約60gのカーボンブラックが混合されています。そのため、タイヤに使用されているゴムは、黒色で、大きな弾性率と強度を有しているのです。

前述のように、原料ゴムは分子鎖で構成された高分子物質です。分子鎖は、分子量の小さい化合物(モノマー)を多数、化学的に結合させることによりできた、細長いひも(ポリマー)です。モノマーの選択と結合するモノマーの数により、種々の化学的特性と、長さの異なる分子鎖を得ることができます。天然ゴムは同じモノマーが多数連結した分子鎖でできていますが、人工的に分子鎖を合成する場合は、数種類のモノマーを組み合わせることや、結合するモノマーの数をある程度コントロールできることから、多種多様な合成ゴムが得られます。

分子鎖の長さは、モノマーの結合数で決まります。その長さは一般に数μmほどであり、実際には分子量で表現されます。また、長さには分布、すなわち分子量分布が存在します。平均分子量の増加にともない、金型内における流動特性などの加工特性は低下しますが、ゴムの強度は増加するので、平均分子量とその分布の選択が重要になります。

分子鎖が形成しているランダムコイルが、外力で容易に変形するためには、分子鎖が柔軟であることが必要です。柔軟の程度は、分子鎖の化学構造と温度に依存します。温度が低い場合、分子鎖の柔軟性が失われます。対して、温度が上昇し、ある特定の温度領域になると、分子鎖の柔軟性は急激に増加します。この温度をガラス転移温度(Tg:Glass Transition Temperature)といいます。原料ゴムにはそれぞれに特有のTgがあり、ゴムの耐寒性を評価する上で重要な値です。

原料ゴムの中には、分子鎖がランダムコイルではなく、三次元的に規則性のある配列で、結晶組織を形成するものがあります。結晶組織を形成できる高分子を結晶性高分子、できない高分子を非晶性高分子といい、原料ゴムには両方の高分子物質が含まれています。

分子鎖の運動性が高い状態を液体状態、運動性が低い状態を固体状態と呼びます。固体状態には、ランダムコイル形状を保ったままの固体(非晶あるいはガラス)と結晶があります。原料ゴムがゴムとしての特性を示すのは、分子鎖の運動性が高い液体状態に限られます。

高分子物質が固体から液体に変化するルートは、2種類あります。1つは結晶組織が温度により液体に変化するもので、この温度を融点(Tm:Melting Pointの頭文字より)と呼びます。もう1つは、ガラスが液体に変化する場合であり、この変化が前述のガラス転移温度(Tg)に対応します。従って、高分子物質は固体から液体に変化する温度を、2種類有していることになります。表1に汎用高分子物質の融点とガラス転移温度を示します。これらの値は高分子物質特有の問題があり、一義的なものではありません。表1の数値は平均的な値であり、あくまで1つの目安と考えてください。

表1:汎用高分子物質の融点(Tm)とガラス転移温度(Tg)
名称 Tm(℃) Tg(℃)
ポリエチレン(高密度) 135 -125
ポリプロピレン(イソタクチック) 188 -20
ポリスチレン(アタクチック) 100
ポリ塩化ビニル(アタクチック) 82
ポリテトラフルオロエチレン 320 20
ポリブタジエン(シス-1、4) 12 -85
ポリイソプレン(シス-1、4) 28 -56
ナイロン-6 260 47
ポリエチレンテレフタラート 280 47
ポリエチレンオキシド 69 41

3. ゴム材料とは

多くの物質が示す弾性変形では、変形率(ひずみ)の上限が数%程度です。しかし、ゴム材料が示すひずみの上限値は、数百パーセントにも及びます。また変形に必要な応力(単位面積当たりに働く力)も、比較的小さいことが特徴です。このような高分子物質特有の性質に基づいたゴム材料が示す弾性挙動を、エントロピー弾性と呼びます。エントロピー弾性とは、高分子鎖に印加された応力の有無による弾性変形です。また、ゴムの弾性率と強度は、架橋の程度や充填剤の選択により、広い範囲で制御が可能です。

ゴム材料は、エントロピー弾性という高分子物質特有の性質のほかに、特殊な機能を有する材料にもなり得ます。例えば、導電性充填剤を混合した導電性ゴム材料、カーボンブラックの代わりにシリカ(ケイ素系無機物質)を充填し、低燃費性能やウェットグリップ性能を向上させた省エネルギータイプの自動車タイヤ用ゴムなどがあります。

いかがでしたか? 今回は、ゴムの化学的な構成と、ゴムの特性を多種多様に変化させられる理由を解説しました。次回は、材料としてのゴムのメリットとデメリットについて説明します。お楽しみに!

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