メニュー

地盤工学とは:地盤工学の基礎知識1

地盤工学の基礎知識

更新日:2021年4月23日(初回投稿)
著者:東京電機大学 名誉教授 安田 進

この連載では、全6回にわたり地盤工学の基礎知識を解説していきます。建築計画などで、「あそこは地盤が悪いから」といわれることが多々あります。この地盤の良しあしを定量的に評価するのが、地盤工学です。また、地震時には地盤の液状化による被害や盛土の崩壊、豪雨時にはがけ崩れといった、地盤に起因した災害も多く発生します。これらを防ぐのも、地盤工学の役目です。ところが、地盤といってもその性質は多種多様であり、地盤工学ではそれぞれの特性を知っておく必要があります。しかも、土は土粒子と水、空気の3つから構成されており、鉄やコンクリートと違って、力学特性が大変複雑です。従って、大学の土木工学の中でも、学生にとって難解な授業となっています。実務においても、地盤関係の設計は単に設計基準に従うだけではできず、苦労が絶えない分野です。今回は、まず地盤工学とは何かについて解説します。

今すぐ、技術資料をダウンロードする!(ログイン)

1. 構造物は地盤の上か中に造られる

構造物を作る際には、地盤上の建物の構造だけではなく、地中の地盤の状況を調査して建設します。平面的な地形を表しただけの図では、地盤内の状態は分かりません。地盤内にどんな土が堆積しているかを調べるためには、地盤に孔(あな)を開けるボーリングと呼ばれる調査を行います。ビルや橋を造る場合には、必ずボーリングによって地層構成を調べるため、過去のボーリング結果を収集することで地盤内の様子が分かってきます。

大きな建造物を建てる場合、その分地盤が支えなければならない力も大きくなり、杭(くい)などを強度のある地盤まで深く打ち込んで、建物を支える必要があります。以下に、東京の主要部にはどのような種類の地盤が存在するのか説明します。

2. 地盤は多種多様であり、地盤内は見えない

地盤は、地表からある深さまでの地層を指し、地盤の種類には、砂質土、粘性土、礫(れき)質土、有機質土、火山灰性粘性土、岩盤の他、人工材料などがあります。東京の主要部の地形と地盤断面を、図1と2に示します。範囲は、東京駅付近を中心に西は新宿付近、東は錦糸町付近までとなります。図1は標高によって色が変えてあり、山手線より西半分は標高が高い台地で、東側は低地となっていることが分かります。

東京主要部の標高分布と断面測線(地理院地図に記入)

図1:東京主要部の標高分布と断面測線(地理院地図に記入)

また、平面上に設定した250m×250mのメッシュごとに深さ方向の地盤モデルを作成し、それを図1のA-A’、B-B’ 測線沿いに並べて示したものが、図2の地盤モデルです。

東京主要部の測線に沿った断面の地盤モデル

図2:東京主要部の測線に沿った断面の地盤モデル

A-A’ 測線のNo.1~No.12までは、台地の地盤モデルが並んでいます。表層には、灰色で表示された火山灰性粘性土が、1~5mの厚さで堆積しています。これは、数万年前に起きた富士山や箱根山の噴火によって飛んできた火山灰が堆積したもので、関東ロームと呼ばれる層です。粘性土とはいえ、堆積してからの長い年月で硬化しているため、ある程度の強度があり、戸建て住宅程度の荷重の構造物であればそのまま地上に建てられます。ただし、台地の中にも小河川が削った谷底低地という場所があります。A-A’ 測線上で見ると、No.5の四谷付近に該当します。谷底低地には、表層に軟弱な粘性土層が堆積している場合もあるため、構造物の建設には注意が必要です。

一方、低地のB-B‘測線では、表層に数mの厚さで砂質土層(黄色表示)があり、その下に粘性土層(緑色表示)が40~50mの深さまで厚く堆積しています。この粘性土層は、氷期が終わって海水面が上昇した1万年前頃から海底となった場所に、山から流出した土砂のうち最も細粒の粘土が堆積した層です。堆積してからの年数がさほどたっておらず、非常に軟弱な層です。また、表層の砂質土は、粘性土の堆積が進み海岸線を形成した頃に堆積した砂で、緩い状態になっています。従って、低地に中高層ビルを建てると厚い粘性土のために沈下が生じ、比較的大きな地震が発生した場合には表層の砂質土層が液状化する可能性があります。

・地盤による被害
建物を建てた時の沈下や、地震時の液状化による典型的な被害を、図3と4に示します。前者は、有名なピサの斜塔です。12世紀に建設が始まってすぐ沈下が起こり、長年の間に北側に約1m、南側に約3m沈下して傾いたものです。粘性土地盤に建てたために生じた沈下で、このように長く続きます。この長期にわたる沈下を、圧密沈下と呼んでいます。それに対する設計や対処方法は、第4回に述べます。

沈下しながら傾いたピサの斜塔

図3:沈下しながら傾いたピサの斜塔

一方、図4は新潟市内の砂地盤上に建てられていたアパートです。1964年に起こった新潟地震の際、地盤が急に泥水のように液状化し、アパートの自重によって地盤内に沈下し、傾斜したものです。このような液状化の対処方法は、第5回で述べていきます。

1964年 新潟地震の際に地盤が液状化して沈下、傾斜したアパート(撮影:渡辺隆博士)

図4:1964年 新潟地震の際に地盤が液状化して沈下、傾斜したアパート(撮影:渡辺隆博士)

3. 土粒子と水、空気からなる地盤は複雑で難しい

先の図2の地盤モデルは、地層構成を模式的に描いているものであり、実際の地盤を側面から見たものが図5になります。地盤は、土粒子が積み重なってできており、土粒子の間には隙間があり、それを間隙(かんげき)と呼びます。雨が降るとその間隙に水が入っていき、ある深さ以下に溜(た)まります。この上面を地下水面と呼び、通常、地表面下1~数mの深さにあります。

地下水面以下の間隙は水で満たされた飽和状態である一方、地下水面より上の間隙は水と空気がある不飽和状態になっています。このように、地盤は土粒子と水、空気の3つで構成されます。このことが地盤工学を複雑にしている主原因です。例えば、液状化は地下水面以下の飽和した部分でしか発生しません。この理由は、第5回に述べます。

地下水面以上、以下の飽和度の違い

図5:地下水面以上、以下の飽和度の違い

土粒子の大きさには、大きいものから非常に細かいものまでがあり、大きい方から順に石、礫、砂、シルト、粘土と区分しています(図6)。砂や礫では、図5で示したように土粒子が重なり合っています。土粒子の体積に対し、間隙の体積は同程度です。

粒径区分とその呼び名

図6:粒径区分とその呼び名

ところが、粘土になると土粒子が非常に細かく、さらに鎖状に連なるなどして骨格を形成しています(図7)。従って、土粒子の体積に比べて間隙の体積が数倍も大きくなっています。地盤内のある程度の深さでは、元々その上にある土の荷重を受けて骨格は安定しています。しかし、地上に建物などの荷重が加わると、鎖状の骨格がつぶされ、地下水位以下の粘土では間隙内の水が外に排出されて骨格をさらに圧縮します。それに伴って、建物も大きく沈下することになります。ただし、土粒子だけでなく間隙自体も非常に細かいので、間隙内の水が排出されるには大変に長い時間がかかります。そのため、ピサの斜塔のように長年沈下し続けることになります。

地下水位以下の軟弱な粘土層における載荷(さいか)による、粘土の土粒子骨格の変形

図7:地下水位以下の軟弱な粘土層における載荷(さいか)による、粘土の土粒子骨格の変形

いかがでしたか? 今回は、地盤の構成やさまざまな特性などから地盤工学の概要を説明しました。次回は、地盤工学の始まりから確立、そしてこれからの役割も含めた地盤工学の歴史について解説します。お楽しみに!

関連記事

    同じカテゴリの記事

      ピックアップ記事

      tags