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地盤工学のメリット:地盤工学の基礎知識3

地盤工学の基礎知識

更新日:2021年7月15日(初回投稿)
著者:東京電機大学 名誉教授 安田 進

前回は、地盤工学の始まりから、現在に至るまでの歴史を紹介しました。今回は、地盤工学の大切さ、そのメリットについて解説します。構造物の建設に当たって地盤に対するさまざまな知識が必要になったことに伴い、18世紀頃から土質力学が発達し、体系化されてきました。現在では、地盤特性などの研究も併せて地盤工学と呼んでいます。この知識があると、構造物の建設だけでなく、防災や環境問題も解決できるというメリットがあります。以下に3つの事例を示します。

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1. 地盤沈下のメカニズム

地盤沈下とは、地盤沈下とは地盤の圧縮などによって地表面が沈下する現象をいいます。東京や大阪の下町では、明治時代末期の頃から地盤が次第に沈下していました。当初、原因不明であった地盤沈下は、産業の近代化に伴い地下から工業用水を汲(く)み上げたことが主な原因ではないかと、次第に分かってきました。連載第1回で、B-B’測線の断面図に東京下町の地層構成を示しました。これは、最終氷期(地質年代で最も新しい氷期)が終わり、海水面が上昇し始めた後に堆積した沖積粘性土や砂質土の分布を示しています。

沖積粘性土層の下部には、それ以前の年代に堆積した洪積砂礫(されき)層があり(図1)、そこを流れている地下水を井戸で大量に汲み上げて工業用水に使用しました。下町では、地表から1~2mも掘ると地下水面が出てくるので、それよりも深い箇所は飽和状態になっています。従って、本来なら地下水面以下は図1に示すように、深くなるほど間隙水圧が直線的に高くなる静水圧分布をしています。

図1:洪積砂礫層からの地下水汲み上げによる間隙水圧変化のイメージ図

図1:洪積砂礫層からの地下水汲み上げによる間隙水圧変化のイメージ図

ところが、井戸の先端から地下水を吸い上げると、その付近の間隙水圧が低下します。すると、その深さから上の土の重さによる全応力(全上載圧:ぜんじょうさいあつ)は変わらなくても、土粒子間の力、つまり有効応力(有効上載圧:ゆうこうじょうさいあつ)が増えることになります(第2回、図8)。そして、圧密現象が発生して地盤がゆっくりと圧縮し、地表面では地盤が沈下します。このメカニズムがテルツァーギの圧密理論に基づいて分かってきたため、昭和30年代後半に地下水汲み上げの規制が行われるようになり、ようやく地盤沈下が止まりました。ただし、東京都江東区では4.5mもの沈下量に達し、図2に示されるように、124km2にも及ぶ広い範囲のゼロメートル地帯が形成されてしまいました。

図2:東京都におけるゼロメートル地帯(引用:東京都建設局、東部低地帯の河川施設整備計画、P.3)

図2:東京都におけるゼロメートル地帯(引用:東京都建設局、東部低地帯の河川施設整備計画、P.3)https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000007170.pdf

この話の続きとして、東京駅や上野駅の地下部分の浮き上がりが近年問題になり、アンカーを打設して対策を施していることが挙げられます。地下水の汲み上げで間隙水圧が下がっていた頃に建設された地下部分では、汲み上げを規制した後、徐々に間隙水圧が元に戻り浮力が増してきたため、浮き上がり防止の工事が必要となっています。

2. 液状化現象のメカニズム

液状化現象とは、地震が発生した際に地盤が液体状になる現象をいいます。約100年前に、テルツァーギによって土質力学が体系化されて以来、建設する構造物の規模が大きくなるにつれてその理論も進展し、地盤調査や試験、解析技術もどんどん進化してきました。日本においては、高度成長期から新幹線、高速道路、地下鉄などの交通施設、中・高層ビル、ダムなどのエネルギー・ライフライン施設、都市郊外への宅地開発などが多く行われ、それに伴って地盤工学が発展してきています。

それでも、体系化して網羅されたはずの地盤工学に、新たな課題が出てきています。そのうちの1つが、地震による地盤の液状化問題です。1964年に日本で発生した新潟地震や、アメリカでのアラスカ地震によって液状化が発生し、甚大な被害をもたらしました。これにより、液状化に関するメカニズムの解明が日本とアメリカの両国を中心に始まり、その後、予測や対策方法の研究・技術開発が急速に進められました。地震によって地盤が液状化すると、地表にある建物などの構造物は沈下し、地中にあるマンホールなどの軽い構造物は浮き上がります。詳細については第5回で説明します。

図3は、液状化発生のメカニズムを示します。地下水面以下に砂が緩く堆積している状態を想像してみましょう。

図3:液状化発生のメカニズム

図3:液状化発生のメカニズム

ある深さの土の要素には、周囲から押さえる圧力(全応力)が加わっています。常時は、これを土粒子間の接触力(有効応力)で支えていて、間隙水には静水圧が加わっているだけです。

そこに地震が襲ってきて、せん断波によって土が繰り返しせん断変形させられると、土粒子の噛み合わせは次第にはずれていき、最終的にバラバラになります。これは、土粒子が間隙水の中に浮遊している状態であり、まさに地震により液体状に急変したことになります。

ここで有効応力はゼロになるため、砂質土で粘着力がゼロの場合にはせん断強度もゼロになって、地表にある構造物を支えられなくなり、地上の構造物は沈下します。また、土粒子の噛み合わせがはずれてバラバラになったため、周囲からの圧力を間隙水圧で支えなければならなくなって、間隙水圧の値が過剰に大きくなります。このため、浮力が増して地中構造物が浮き上がります。このように、新たに発生した液状化現象は、有効応力という土質力学の重要な考えを導入することで解明されました。

3. 土壌汚染問題への取り組み

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

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