はんだ付けの実態:はんだ付けの基礎知識1
投稿日:
- 2015年06月22日
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カテゴリ:
- 基礎知識
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はんだ付けが上手にできないのは腕のせいではありません。
はんだ付けの業界は、不思議な業界です。電気製品を作っている企業であれば、必ず使う技術であるはんだ付けは、特殊工程に位置づけられています。はんだ付け作業に携わる人のスキルによって、品質が大きく左右されるという認識のもと、はんだ付け作業は、教育を受けた者、あるいは資格を持った者が行うべしと定めている企業が大多数です。ところが実態は、はんだ付けに関して正しい基礎知識を学んだうえで、はんだ付け作業を行っている人は、たいへん少ないのが現実です。
はんだ付けは、比較的簡単に金属を溶かして固めるという体験ができることもあって、学校教育でもよく取り上げられる教材です。見よう見まねでも、金属を溶かして固めることが可能なため、つい「とりあえずやってみよう!」ということになりがちです。このため、はんだ付けに対する誤解や勘違いが非常に多く、「溶接みたいなもの?」「溶かして固めたらいい」「接着剤みたいなもの?」といった、誤ったイメージを持つ人が多いのです。
1.溶接や接着剤との違い
図1は、はんだ付け接合部を電子顕微鏡によって、約400倍に拡大した写真です。下が銅の層、上がはんだの層です。はんだと銅の境界線部分に細い帯があるのがわかるでしょうか?(赤矢印の部分)これがはんだと銅を接合しているスズと銅の合金層(金属間化合物)です。はんだ付けは、この合金層によって接合されています。言い換えると、はんだ付けとは、この「合金層を造る技術である」ともいえるでしょう。
接着剤は接着剤自体が固まることによってくっつきますし、溶接は母材を溶かして固めることにより接合します。はんだ付けとは、接合の原理が大きく違うわけです。 ところが、多くの人は、はんだ付けを溶接や接着剤と同じように、金属を溶かして固めることで接合していると誤解しています。このため、はんだを早く溶かすことができるだろうと想像し、コテ先温度が高温になるものほど、高性能であると勘違いしています。
2.はんだ付けの最適な温度条件
実は、この合金層を形成するためには、最適な温度条件があります。「はんだを約250℃で、約3秒間溶融させる」というのが、その条件です。
(電気通信大学 電子工学科 実験工学研究室データ)
図2をを見ると、溶けたはんだの温度が高すぎても低すぎても接合強度が弱くなることがわかります。ここまで説明しても、「じゃあ、高温のハンダゴテでパパッと、はんだの温度が上がる前にはんだ付けを終わらせてしまえばいいのでは?」と考える人がいます。
ところが、高温になったコテ先は大気に触れると酸化します。はんだ付けの世界には、「360℃の壁」という言葉があり、360℃を超えたコテ先温度で酸化したコテ先は、容易に酸化膜を除去できません。360℃を超えるコテ先温度では使用しないという、ほとんど知られていない定説があります。(ハンダゴテメーカーやコテ先メーカーでは知られています。)
酸化膜に覆われたコテ先は、はんだにぬれない(はんだを弾いてしまう)ため、溶融したはんだを導熱体として熱を効率よく伝えることができません。このため、はんだの温度は上がらないのに、コテ先が触れた母材だけが異常に高温になってしまうといった状況に陥りやすく、正常なはんだ付けができません。
したがって、はんだ付けに適したハンダゴテとは、コテ先温度が360℃以下にコントロールできて、なおかつ溶かしたはんだの温度を250℃まで温めることも可能である必要があります。 結論を言うと、温度調節機能つきのハンダゴテを、コテ先温度340~360℃にコントロールして使用するのが、コテ先の酸化を抑えつつ、最も高温で使用できるはんだ付け条件です。
しかし、この最適条件を知る人はたいへん少ないのが現実です。さらに、一般の人がハンダゴテを購入するホームセンターなどの店頭では、温度調節機能付きハンダゴテは、ほとんど販売されていません。こうした現状から、温度調節機能付きハンダゴテの存在すら知らない人が多いのです。
この根本的な原因は、はんだ付けに対する正しい基礎知識の啓蒙不足にあると私は考えています。世の中のはんだ付けに対する知識は、20~30年前からほとんど変わっていません。その20~30年前は、温度調節機能付きハンダゴテは存在しないか、存在しても一般の方は入手できませんでした。その頃の常識が、今も根強く残っています。
こうした背景があるため、せっかくハンダゴテメーカーが、いいハンダゴテを作って店頭に並べても、お客さんに良いハンダゴテを選択する知識がないために、安いハンダゴテしか売れません。また、売る側にもはんだ付けの知識が足りないため、良いハンダゴテが店頭に並びません。このサイトで正しい知識を学んだ皆さんが、今後良い道具を求めれば、こうした環境も良くなるに違いありません。
多くの人が、「はんだ付けが上手にできないのは、自分の腕が悪いからだ。」「技術が不足しているからだ。」と思い込んでいます。実は、最初に使用するハンダゴテを選んだ時点で、そのはんだ付けは不良になることが決まっている場合がほとんどです。最初にはんだ付けを体験する学校教育の現場では、温度調節機能付きハンダゴテが使われることがありませんし、正しいはんだ付けの基礎知識を学んだ先生が、在籍する可能性もほとんどありません。
はんだ付け業界の不思議な現実と、ハンダゴテ選びの重要性を知ったところで、次回から、より具体的なはんだ付けの正しい基礎知識を学んでいきます。
では、明るいはんだ付けを!