吸音の仕組みと吸音材料:防音の基礎知識2
投稿日:
- 2018年06月14日
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カテゴリ:
- 基礎知識
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前回は、音が聞こえる仕組みや、音の性質を決める3要素などを解説しました。今回は、防音の要素の一つである吸音の仕組みと、さまざまな吸音材料の特性を紹介します。
1. 吸音とは
吸音とは、吸音材が音を吸収して、音の反響を小さくすることです。吸音対策とは、その部屋内で発生した音の反射を小さくするために、天井や壁に吸音材を設置し、室内の響きの低減・反射の抑制・室内騒音レベルを低減させることです。どのような場合に、吸音対策が必要となるのでしょうか?
吸音対策は、主にホールや音楽スタジオ、映画館や試写室、音楽室、練習室など、音を楽しむことに特化した場所に、音の不必要な反響を抑えるために施されます。なお、部屋の外に音が漏れないようにする遮音効果はありません。遮音や防振対策と違い、一般的な住宅には基本的に必要ありません。しかしピアノ室やオーディオルームなど、音が重要視される部屋がある場合には、響き(残響時間)を調整するために必要になります。
意外な場所としては、空調設備などが設置されている機械室に施工する場合があります。機械室では、室内で発生する機械音が床・壁・天井で反射を繰り返し、エネルギーが増大してしまうことがあります。そうなると当然、外へ漏れる騒音・固体伝搬音も、大きくなります。吸音対策を施すことで、こうしたエネルギーの増幅を防ぐ効果が期待できます。
2. 吸音の仕組み
吸音対策は、吸音材料に音が入射した時に、その音の反射の度合いが相対的に小さくなるようにすることです。具体的には、吸音材料内において音のエネルギーを熱エネルギー(摩擦熱)に変えて吸収したり、背面に逃しています(図1)。
音のエネルギーEiが材料に入射したとき、その一部は反射されるエネルギーErとなります。また、その一部は内部で熱となって吸収されるエネルギーEaとなり、残りが背面に抜けていくエネルギーEtとなります。このとき、入射エネルギーEiに対して、反射されなかったエネルギー(Ei-Er)の割合を吸音率αといいます。吸音率は、α= Ei-Er/Eiで表すことができます。
吸音率は、吸音の程度を0~1の数値で表したものです。吸音率1とは、音の反射が一切ない(音が全部吸収されている)ことを意味します。吸音材料のカタログには、吸音率が必ず記載されています。この値を見れば、その材料でどれくらい吸音できるのかが分かります。
3. 吸音材料の種類と特徴
吸音材料はその吸音機構(吸音の原理)から、多孔質材料、板(膜)状材料、有孔板の3種類に分類されます。外観上の特徴が吸音機構にも関係しており、それによって吸音の周波数特性も異なっています。
1:多孔質材料
多孔質材料とは、材料中に多数の空隙や連続した気泡がある材料です。これに音が当たると、材料中の空気が振動する際に抵抗が働き、音のエネルギーが繊維間の摩擦によって熱エネルギーに変換され、吸音効果が生じます。具体的な材料は、グラスウール、ロックウール(岩綿吸音板)、木毛(もくもう)セメント板、ウレタンフォームなどです。
なおグラスウールは、ガラス繊維を綿状に加工したもので、吸音材の他に断熱材、防火性を高める不燃材料としても使用されます。ロックウールは、人造の鉱物繊維です。これを板状に加工したものが、岩綿(がんめん)吸音板です。木毛セメント板は、木材を薄いひも状に削ったものをセメントペーストで圧縮成型したものです。
多孔質材料の吸音周波数特性は、中・高音域の音に対して吸音性能が高い特徴があります(図2)。低音域側の吸音率を高めるには、材料を厚くする、もしくは密度を高めるか、背後に空気層を設けます。 図2のグラフから、背面の空気層を大きくする(濃青線)と、小さい場合(薄青線)にくらべ、低音域の吸収率が高くなる半面、ある一定の音域以上になると、逆に吸音率が低下することが読み取れます。また多孔質材料の厚さ・密度の値を大きくした場合(濃赤線)、同値が小さい場合(薄赤線)よりも全音域で吸音率が向上しています。
多孔質材料は柔軟で耐候性の低いものが多いので、内装仕上げとして使用する際には、表面に通気性の良いクロスやフィルム、有孔板やリブ材などが保護材として表面材に用いられます。この表面材の選択によっても、吸音率は変動します(図2グラフ、薄青の破線部分)。
また、天井仕上げとして使用されることが多い岩綿吸音板は、現場で着色する際にローラ塗りやはけ塗りにすると、虫食い状の表面を埋めることとなり、高音域の吸音率が低下してしまいます。水溶性塗料の吹付塗装にするなど、注意が必要です。
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