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住居・空間の「ひろさ」について:空間デザインの基礎知識1

空間デザインの基礎知識

更新日:2021年9月14日(初回投稿)
著者:東京都市大学 都市生活学部 都市生活学科 教授 高柳 英明

住宅や商業施設を設計することにおいて、空間デザインを検討するには、さまざまな知識や経験が必要です。特に、2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界的にソーシャルディスタンスの確保が必要となりました。飲食店などの店舗やリモートワークに対応するため、空間デザインの社会的役割が求められています。本連載では、6回にわたり、空間デザインの基礎知識を解説します。今回は、空間の広さについて紹介します。

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1. 最適な空間サイズを体感レベルで知ろう

住宅設計を進めていると、クライアントから、こういう家具を置きたい、バスタブはこのメーカーのものを使ってほしいといった、個別のインテリアエレメントに関する詳細な要望が多く出てきます。一方で、肝心の居室の広さについての意識はあいまいで、12.9m2と伝えてもピンとこないことがほとんどです。この場合、8.4畳など、なじみのある畳数で伝えることで、初めておおよその広さ感を判断してもらえるようです。

古くからある日本家屋は、尺貫法に基づく横縦3×6尺(900×1,800mm)の畳による定尺ユニットで部屋の広さが決まっています(図1)。これは、日本人の人体寸法にあった寸法システムとして利用され続けたため、畳数を基準に空間サイズを考えるのはごく自然なことです。

図1:尺貫法に基づく伝統的な日本家屋の例

図1:尺貫法に基づく伝統的な日本家屋の例

しかし、現代住宅は、およその間取りが洋室で設計されるので、この定尺則から外れて自由に設計していいはずです(図2)。それならば、現代住宅における広さの尺度とは何かと考えると、団らんの寸法に帰着するのではないかと考えます。団らんの寸法とは、具体的には、家族が集まって座ることができるソファセットと、リビングテーブル、テレビ、サイドテーブルなどから構成される領域を指します。

図2:尺貫法に基づかない現代住宅の例(出典:(C)太田拓実写真事務所 ※(C)はCを丸で囲んだ著作権マークを表す)

図2:尺貫法に基づかない現代住宅の例(出典:(C)太田拓実写真事務所 ※(C)はCを丸で囲んだ著作権マークを表す)

著者は建築デザインをする傍ら、大学でインテリアデザインを教えています。毎年、学生には、理想の住宅をプランニングせよという、少し横着な課題を出題しています。すると多くの学生が、部屋の広さを何に頼って決めればいいのか、ということにつまずきます。

ここで彼らに、一般的な住宅居室の畳数や寸法基準を教えてしまうと、かえって自由な発想でのデザインができなくなります。私は、まずは身近な環境、つまり自宅での家族団らんの様子をメジャーなどで実測してはどうかと提案します。ここで重要なのは、部屋の内法(うちのり)寸法を測るのではなく、人の集合と、家具のまとまりのサイズを大まかに測ることです。

ある家庭では、こたつにごろ寝をしながら団らんのひとときを過ごすでしょう。またある家庭ではダイニングテーブルで食事を囲みつつ、キッチンから会話に参加しているでしょう(図3)。

図3:団らんの寸法を実際に計測してみよう

図3:団らんの寸法を実際に計測してみよう

もちろん、部屋の広さから窮屈を余儀なくされる場合もあります。家庭によってかたちもさまざまに変化するでしょう。しかし、これらの集合とまとまりを内包する領域こそが、大きすぎず、小さすぎず、体感レベルで感覚的に心地のよい居場所になっているはずです。実際的な部屋の広さを意識するよりも、まずこの人間集合に起因するスケール感覚を持つことの方が、建築設計を考える上では大切になります。

2. 会話環から見る最適な空間サイズ

団らんの寸法からデザイン分野の調査研究データを重ねてみると、直径約3mの会話環(カンバセーションサークル)に合致します(図4)。

図4:居室における会話環

図4:居室における会話環

直径約3mという寸法は、日本人の平均身長からリサーチされた結果です。海外の人は身長が高く、家具寸法も大きいため、会話環は3.3〜3.4mになります。この環の内側に、家族や身近な間柄にある人間同士が集まると、最も会話がしやすく、かつ相手の表情を視覚的に認識し、空気を読むなど、会話に頼らないノンバーバル・コミュニケーションが可能になります。さらにこの会話環は、人間が相互に親密さを維持しながら集合体を構成する、適正な最小サイズであるともいえます。デメリットとしては、これで家族会議などを開いたときは、1人だけ安易に中座しにくいことでしょうか。

会話環は、しっかり理解すれば、応用の利く便利な物差しになります。家族のリビングルームに接客の機能を明確に持たせたい場合は、大小入れ子(あるものの中に、それと同じ形や種類で一回り小さいものが入っている構造)になった2重の会話環の構成を当てはめます(大きい方の会話環の直径は約5m)。部屋のサイズを大きめに設計し、家族で使う際は部屋の一角のみを使って、来客時やホームパーティーを開く際には部屋全体を使います。

また、3m会話環の組み合わせ方によって、さまざまな空間構成に適用できます。図5に、シェアハウスの共用リビング・ダイニングルームのレイアウト例を示します。

図5:複数の会話環構成による間取りのエスキス

図5:複数の会話環構成による間取りのエスキス

他人の集まりからできる共同空間の設計では、微妙な社会性にも気配りが必要です。特にアイランドキッチンを導入する場合は、複数人での調理・食事を同時に行うため、それ自体で1つの居場所になり得ます。小グループの団らんを付かず離れず、並べたり、重ねたり、あえて離したり、たまには独りで居られるような外れた場所も作るなど、多様な居場所作りと間取りエスキス(スケッチ)に活用してみてください。

いかがでしたか? 今回は、住居・空間の「ひろさ」について紹介しました。次回は、住居・空間の「伸びやかさ」を取り上げます。お楽しみに!

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