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撹拌装置のスケールアップ:撹拌の基礎知識5

撹拌の基礎知識1

更新日:2020年10月22日(初回投稿)
著者:東洋大学 理工学部 応用化学科 名誉教授 川瀬 義矩

前回は、撹拌装置の設計手順と、設計時に留意すべきことを説明しました。今回は、撹拌装置のスケールアップについて解説します。スケールアップとは、プロセスの開発において、実験室規模の小さいスケールで達成された状態を、工業化プラントの大きなスケールでも達成できるようにすることです。ただし、考え方としては外挿(既知の数値データを基に、その範囲外で予測される数値を求めること)なので、相似的にサイズを大きくしたからといって、実験室規模のスケールで得られた結果と同じ結果が得られるとは限りません。そこに難しさがあります。本稿では、スケールアップの手法、および流動解析を使ったスケールアップを紹介します。

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1. スケールアップの基準

スケールアップとは、実験室規模の実験で成功したプロセスを工業化するに当たり、実験室規模の装置を工業生産規模の装置にスケールを大きくすることです(図1)。

図1:撹拌槽のスケールアップの概念

図1:撹拌槽のスケールアップの概念

撹拌槽のスケールアップの概念は次のようになります。

・実験室規模
ラボスケールの実験(実際の温度、圧力における実験)で、基礎的速度論データ(反応速度や物質移動速度、熱生成速度)を収集します。

・コールドモデル
コールドモデル(実際の高温や高圧ではなく、常温常圧で装置内部の現象が可視できる実験装置)で撹拌槽内の流動実験を行い、流動解析のバリデーション(科学的根拠、妥当性があるかどうかの検証)を行います。

・工業化装置
実験段階で得られたデータからベンチプラントやパイロットプラントを作り、それらの小型プラントのデータと流動解析の結果を使って工業化装置にスケールアップします。

サイズを相似的に大きくしただけではスケールアップは成功しません。表1に80Lから10m3へのスケールアップで、単位液体積当たりの撹拌所要動力Pv、撹拌速度N、撹拌翼先端速度ND、およびレイノルズ数Reをそれぞれ等しくなるようにスケールアップしたときの、他の重要なパラメータの値がどのように変化するかを示します。

表1:80Lから10m3へのスケールアップ(槽径5倍のスケールアップ)の計算(参考:S.Y.Oldshue、Biotechnol、Bioeng、8、3、1966、川瀬義矩、生物反応工学の基礎、化学工業社、1993をもとに作成)

表1:80Lから10m<sup>3</sup>へのスケールアップ(槽径5倍のスケールアップ)の計算

例えば、撹拌速度Nを同じにした場合は、撹拌所要動力Pは3,125倍にもなることが分かります。そのように大きな撹拌所要動力で撹拌翼を回転させることが、経済的に可能なのでしょうか? また、果たしてその大きな撹拌動力が必要なのでしょうか? 装置のサイズを大きくした場合、どの因子に着目して、どのように撹拌翼の撹拌速度を決めればよいのでしょうか?

成功した実験室規模における全ての条件を満足する工業生産規模へのスケールアップは難しいため、撹拌の最も重要な目的(因子)を満足させることに注目をしてスケールアップを行います。ただし、他の因子が不適切な値になっていないかを確認する必要があります。一般には、撹拌による混合の諸因子が、単位液体積当たりの撹拌所要動力Pv(=P/V)の影響を受けるので、Pvを一定にするようにスケールアップします。ただし、好気培養装置の場合、増殖する微生物が必要とする酸素を確実に供給する必要があり、重要なパラメータである酸素の供給速度が同じになるようにスケールアップを考えることもあります(表2)。

表2:バイオリアクター(好気培養)のスケールアップにおける基準パラメータ

表2:バイオリアクター(好気培養)のスケールアップにおける基準パラメータ

好気培養では微生物への酸素供給が重要であるため、酸素移動速度のパラメータである酸素移動容量係数kLaと溶存酸素濃度pO2がスケールアップの基準パラメータとなります。撹拌翼先端速度Vtip=NDは、細胞壁がない動物細胞の培養などで剪(せん)断力の制限がある場合にスケールアップの基準パラメータとなります。

相似性を保ってスケールアップを行うといっても、何の相似性かが問題です。一般的に考えられる相似性を、表3にまとめました。

表3:スケールアップにおける3つの相似性

表3:スケールアップにおける3つの相似性

一般にスケールアップは、幾何学的相似(撹拌装置の構造と配置の寸法の比が全て相似)と、単位液体積当たりの撹拌所要動力Pvを一定にする基準で行います。Pvが同じであれば、巨視的には(あるいは平均的に)幾何学的相似になっている撹拌槽内は、同じ混合状態になっていると考えられるからです。

2. 装置の幾何学的相似

保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

3. 流動解析の利用

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