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トルクとパワー:トランスミッションの基礎知識1

トランスミッションの基礎知識

更新日:2020年6月19日(初回投稿)
著者:金沢工業大学 工学部 機械工学科 教授 長沼 要

トランスミッションの基礎を知るためには、まず、エンジンが発生するトルクとパワーについて理解することが第一歩になるでしょう。そこで、この第1回では、トルクとパワーについて解説します。エンジンという動力源の性能を表す数値として、トルクとパワーは代表的なものです。それは、いったいどういう性質の評価指標なのでしょうか。トランスミッションとの関連性とともに、解説していきます。

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1. 力強さとは

トルクとパワーの話を進める上で、その性能を表す言葉にはどんなものがあるでしょうか。工学的にではなく、あくまで日常で使う言葉でいうと、「力強さ」に始まり「パワーがある」「パワフルだ」などでしょうか。逆に、日常会話で「トルクがある」「トルクフルだ」という言葉は、あまり使いません。普段から自動車に興味があり、特に動力性能に関心がある人たちの間ではよく交わされる言葉でも、一般的にトルクはめったに使われない言葉だということが分かります。しかしながら、エンジンやモータのような原動機の性能表示には、必ず(最大)トルクと(最大)出力の表記があります。ユーザーにとって、出力表記だけあれば十分なのに、自動車のカタログなどにトルクが表記されていることが問題であり、このことがトルクとパワーの理解を難しくしているのではないでしょうか。

このため、自動車好きの間で何気なく使われる、トルクフルだ、パワーがある、という言葉は、一般的な解釈と工学的な解釈とで、分けて捉える必要があります。一般的にはどちらも同じ解釈で、状況に応じて使い分けられるものと考えます。一般的、速度域の低い、あるいはエンジン回転数が低い発進時において力強く感じられるものをトルクフルといい、速度域の高い、エンジン回転数の高い状態での力強さを、パワーがあるといいます。どちらの場合も、おそらくパワーを感じているにも関わらず、前者の状態ではトルクを感じている、という言い方をします(表1)。これは、なぜでしょう。自動車が動いている限り、人がエンジンのトルクをダイレクトに感じられるのは、極めて限定的な状況でしかありません。その理由を、次から解説します。

表1:トルクフル、パワーがあるという言語の一般的な解釈

表1:トルクフル、パワーがあるという言語の一般的な解釈

2. エンジン性能と自動車の動力性能

そもそもエンジントルクとは、エンジン出力軸のモーメントであり、それを測定することは可能です。しかし、パワーは直接測ることができません。ここで、トルクが登場します。出力軸のトルクを測定し、その値に回転数を乗じることで出力が求められます。単位系によって異なる換算係数を乗じる必要はあるものの、概念的には「出力∝トルク×回転数」です。このようにして、出力が測定されます。これは、原動機単体における出力です。では、自動車としての性能は、どのように表現されているでしょうか。かつてのカタログには、自動車の性能曲線というものが表示されていました(図1)。

図1:自動車の性能曲線図

図1:自動車の性能曲線図

平成初期くらいまでは散見されたものの、昨今では一切目にしなくなったこの性能曲線こそが、自動車としての性能を表す指標なのです。ユーザーとしては、興味深いです。しかし、この性能曲線に最高速度などが表されていても、決してエンジン単体性能から読み解くことはできません。加速性能などは、必要な計算をしなければならないものの、性能曲線から推定できます。この性能曲線には、原動機単体の性能が大きく関係しています。そして、それと同程度に重要な関係性を持つものが、トランスミッション(変速機)です。

性能曲線には、いくつもの直線と曲線が混在します。速度によってタイヤが発生できる駆動力と走行抵抗が示されているためで、そこに余力がある限り加速が可能です。この駆動力と走行抵抗の釣り合う箇所が加速限界、つまり最高速度となります。走行抵抗は勾配に影響されるため、傾きの角度(%)によって複数の曲線が描かれています。一方、タイヤの駆動力は、トランスミッションの段数によって変化するエンジンのトルク曲線として、やはり複数が描かれています。このように、人が感じている力強さはタイヤの駆動力であって、エンジンのトルクではありません。そして、エンジンは常に回転し、自動車にも動きがあるので、パワーを伴わないトルクを感じることもありません。

唯一、パワー抜きでトルクだけを感じられるのは、勾配での静止時のみです。ある勾配でブレーキをかけずに静止した場合、そのドライブシャフトに生じるトルクの状態こそが、パワー抜きにトルクだけを感じられる瞬間です。ドライブシャフトとは、タイヤにエンジンからの駆動力を伝える棒状の部品をいいます(図2)。ただし、エンジンは回転しているので、これはあくまでもドライブシャフトのトルクであり、トルクコンバータやクラッチの関係で、エンジントルクをだけを感じることはできないはずです。このトルクコンバータやクラッチもトランスミッションの一部なので、別途紹介します。

図2:ドライブシャフト

図2:ドライブシャフト

3. パワートレインにおけるトランスミッション

このように、動力源が発するトルクと、タイヤを駆動させるドライブシャフトのトルクは、介在するギア比によって大きく変化します。しかし、パワーは、伝達効率を無視すれば、動力源からタイヤに至るまで変わることはありません。エンジンを動力源とする自動車において、トルクについて語るときには、その部位や状況を特定しなければ、正確な表現はできません。このため、自動車のドライバビリティを語る際に、トルクフルだ、トルクがある、というようにエンジントルクについて表現されることには、違和感があります。タイヤを回す、最終的なドライブシャフトのトルクについての話であれば、理解できないこともありません。しかし、その場合においても、最高にトルクを感じる瞬間は1速ギアの時であり、トルクがある、と表現される領域とはかけ離れていることが分かると思います。

さて、エンジン単体として車両と結合する場合、非常に不都合になってくるトルク特性(エンジン)を、自動車を動かすためにちょうどよいトルク特性(ドライブシャフト)に変換することが、トランスミッションの大きな役割です。これは、自動車の性能曲線の説明で気付かれたのではないでしょうか。最初、このような必要最低限の要求を担わされていたトランスミッションが、快適性や環境性能などにも大きく関係してくることから、要求はどんどん厳しくなっていき、現在に至っているといえるでしょう。

いかがでしたか? 今回は、トランスミッションに関する基礎知識の導入として、トルクとパワーを説明しました。電気自動車以外の自動車には、例外なく装着されているトランスミッション。それゆえ、さまざまな種類が存在し、機能も豊かです。しかし、それにも関わらず、不思議なことにエンジンほど着目されていません。関心を持って目を向けてみれば、楽しさいっぱいのトランスミッションの魅力が発見できると思います。次回は、パワーユニットについて解説します。お楽しみに!

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