メニュー

真空の基礎知識

真空の基礎知識

著者:大阪市立大学大学院 工学研究科 准教授 福田 常男

真空とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態です。私たちの身の回りの製品には、真空を応用した技術が用いられています。真空技術という言葉にピンと来なくても、食料品、医薬品、冷蔵庫やテレビなどの家電製品、コンピューターやスマホなどの電子機器、自動車や船舶、インフラなど、多岐にわたる分野で使われています。本連載では、多くの産業技術の基盤となる真空技術の基礎知識を解説します。

第1回:真空とは?

1. 真空とは?

真空技術の概論に入る前に、まず真空とは何かを定義しておきましょう。文字通りの真空は、真に空、つまり何もないことを意味します。工業的に真空とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態です(JIS Z 8126-1 真空技術-用語-第1部:一般用語、ISO3529-1 Vacuum technology-Vocabulary-Part 1: General terms)。つまり、私たちが生活している大気より低い圧力の空間は、真空です。

工業的な真空を作り出すには、真空を保持するための容器(真空容器)と、容器中の空気を排気する真空ポンプが必要です。真空容器は、真空槽や真空チャンバーとも呼ばれます。この場合、真空容器の中に残っているガスの振る舞い(気体分子運動論)を知る必要があります。真空ポンプ、真空容器、気体分子運動論を合わせて、真空の3要素といいます。真空容器中のガスの圧力や成分を知るために必要な真空計測も含め、真空の4要素という場合もあります(図1)。

図1:真空技術の4要素

図1:真空技術の4要素

JISやISOによる真空の定義には、重要な用語が含まれています。まず、圧力とは、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. 真空の分類と産業応用

真空工学の分野では、圧力領域によって真空を、低真空、中真空、高真空、超高真空、極高真空に分類しています(図2)。

圧力領域による真空の分類

図2:圧力領域による真空の分類(JIS Z 8126 真空技術-用語-第1部:一般用語)

低真空領域では、真空は、主に大気圧との圧力差を用いた力学的な用途で用いられます。例えば、工場で製品を搬送するときに製品を持ち上げる真空チャックがあります。船舶などから粉体の積み下ろしには、掃除機を大型化したバキュームアンローダーが用いられています。身近な例では、卵パックなどを成形する真空成型技術があります。これは、加熱したPETフィルムを真空の圧力差を使って力を生み出し、変形させるものです。このように、製品を吸引したり、変形させる場合、真空と大気の圧力差の限界値は、約105Paです。従って、搬送する製品の重量に応じて、真空チャックのパッドの大きさを設計する必要があります。

また、低真空領域では、物質輸送、特に水分の除去に真空が用いられます。図3は、水の状態図です。図3の矢印のように、室温の水(点P)の圧力を下げていくと、水は蒸発して、気体(水蒸気)になります。そのため、水分を含んだ物を真空中に置くと乾燥します。これが真空乾燥です。インスタントみそ汁や、カップ麺の具材の製造に用いられています。また、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. 気体分子運動論の基礎

真空は何もない空間ではなく、気体(ガス)が残存している状態です。残存した気体は希薄気体と呼ばれ、真空を考えるには、稀薄気体の性質を知る必要があります。真空工学では、希薄気体の粘性や熱伝導、拡散を取り扱います。これは、移動現象論、または輸送現象と呼ばれる化学工学の一分野です。

真空工学では、気体分子を粘性流体(連続体)として扱うか、個々の分子の独立した輸送として扱うかによって、現象が異なります。その違いを決める指標が、クヌーセン数 Knと呼ばれる無次元量です。Dを真空配管や真空容器の内部の直径などの代表的な径(単位:m)、λを平均自由行程(気体分子が互いに衝突するまでに走行する平均的な距離、単位:m)とすると、Kn=λ/Dで表すことができます。平均自由行程は、圧力pに反比例します。例えば20℃の空気の場合、λ=(6.5×10-3)⁄pです。図5は、平均自由行程λの圧力依存性を示したグラフです。

圧力による平均自由行程の変化(20℃の空気の場合)

図5:圧力による平均自由行程の変化(20℃の空気の場合)

真空工学では、……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

 

第2回:低・中真空の作り方

前回は、真空の特徴と産業への応用、また、気体分子運動論を紹介しました。今回から2回にわたり、真空の作り方を解説します。今回取り上げるのは、圧力領域が105~10-1Paの、低・中真空領域です(105は、通常の大気圧)。真空を作るには、真空ポンプを使って容器中のガスを減らします(真空排気)。低・中真空を作るには、主に気体輸送式真空ポンプを使用します。

1. 真空排気の基礎と真空ポンプ

真空を作るために、真空ポンプを使って容器中のガスを減らすことを、真空排気といいます。言い換えれば真空排気とは、容器から一定量の体積を切り取り容器外に移すことで、その体積中に含まれるガスを容器から取り除くプロセスです(図1)。この排気プロセスによって一定の時間に切り取られた体積Sを、排気速度と呼びます。排気速度Sはm3・s-1、L・s-1、L・min-1などの単位で表されます。

図1:真空排気

図1:真空排気

容積Vの真空容器を排気速度Sの真空ポンプで排気したとき、容器中の圧力は初期圧力p0として、p(t)=p0exp(-St⁄V)=p0exp(-t⁄τ)に従い、低下します。ここでτ=V⁄Sを排気の時定数といい、圧力がe-1≈1/2.7≈0.37倍になる時間を表します。容器内の圧力を早く下げ、真空排気に費やす時間を短くするには、排気の時定数τを小さくします。すなわち、排気速度Sの大きい真空ポンプを使用する必要があります。

図2は容積1m3の真空容器を、排気速度が異なる2種類の真空ポンプで排気した際の容器内の圧力変化です。真空ポンプの排気速度は200L・min-1、または排気速度400L・min-1です。図2が示すような圧力の時間変化を排気曲線といい、排気速度の大きいポンプの方が圧力の低下が速いことが分かります。もちろん排気速度の大きいポンプは、大型でコストも増加するため、許容できる排気時間とコストのバランスを検討することが重要です。

図2:排気曲線の例(p^0=10^5Pa)

図2:排気曲線の例(p0=105Pa)

真空ポンプの種類には、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. 容量移送式の真空ポンプ

よく使われる真空ポンプに、回転翼形油回転ポンプがあります(図3)。図3の回転翼形油回転ポンプは、左側がポンプ本体、右側がモータです。ギヤやベルトを用いず、モータ軸で直接ポンプ軸を駆動するため、コンパクトなのが特徴です。

図3:回転翼形油回転ポンプの製品例

図3:回転翼形油回転ポンプの製品例(引用:株式会社アルバック カタログより)

ポンプ内部のポンプ軸にはシリンダが取り付けられています。シリンダの両側にはベーンと呼ばれる板(回転翼)がはめ込まれ、ベーンはばねによってポンプケースに押し当てられています。なお、気密を保つため、ポンプ全体が油槽に浸っています(図4)。

図4:回転翼形油回転ポンプの作動原理

図4:回転翼形油回転ポンプの作動原理(引用:株式会社アルバック カタログより)

ポンプ内のシリンダが回転すると、2枚のベーンの間の空間が吸気口と接続され、回転とともに体積が増加しガスが流入します。シリンダがさらに回転すると、次のベーンでガスが隔離、圧縮され、大気側と接続して排出されます。ポンプ室内やベーンの周りには油の膜があり、吸入した空気を密閉すると同時にベーンなどが摩耗するのを防ぎます。通常、到達圧力を下げるために、このようなポンプを2段直列にして用います。

図5は油回転ポンプの圧力による排気速度の変化の例です。1,000Pa以上における排気速度は、ポンプの回転速度で決まり、一定を保ちます。しかし、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. 運動量輸送式の真空ポンプ

運動量輸送式の真空ポンプの種類には、流体作動式真空ポンプと、機械式真空ポンプがあります。流体作動式真空ポンプは、水や水蒸気、油、空気などのジェットを用い、ガスを押し出すことによって真空排気を行います。これに対し機械式真空ポンプは、機械的に運動量を与えることでガスを押し出します。なお、低・中真空領域で用いられる流体作動式真空ポンプは、エジェクタ―ポンプまたはジェットポンプと呼ばれることもあります。

図8は蒸気ジェットポンプの模式図です。ポンプ上部の駆動蒸気入口に0.25~1.6MPaの加圧水蒸気を導入すると、蒸気がノズルを通過する際に断熱膨張し、ディフューザの末広がり部に達します。このとき蒸気が膨張する際の運動量によってディフューザの先細部に負の圧力勾配ができ、吸入口から入ったガスは駆動水蒸気とともにディフューザを通り、吐出口から排気されます。

蒸気ジェットポンプの構造

図8:蒸気ジェットポンプの構造(引用:株式会社大阪真空機器製作所カタログより)

このようなジェットポンプでは、……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

 

第3回:高真空・超高真空の作り方

前回は、低・中真空の作り方を説明しました。今回は、高真空・超高真空領域の特徴と真空ポンプを解説します。第1回で述べたように、10-1Pa以下の高真空・超高真空領域では、ガス分子の平均自由行程が長くなり、分子同士がほとんど衝突しない分子流領域になります。そのため、ガスの熱伝導や粘性が圧力の減少とともに低下します。この圧力領域は真空断熱などに用いられます。また、物質を高温で気化させて基板上に堆積させ薄膜を作ることや、表面の分析にも用いられます。

1. 高真空・超高真空の基礎知識

10-1~10-5Paを高真空、10-5Pa以下を超高真空といいます。10-9Pa以下を極高真空と呼ぶこともありますが、ほとんどの場合、第1回で説明したクヌーセン数Kn>10を満たすため、この圧力範囲では分子流領域になります。分子流領域では、真空容器の中のガス分子は、他の分子と衝突することなく容器の壁から反対の壁に到達します。ガスの熱伝導や粘性は、1秒間に壁に衝突するガス分子の数に比例し、ガスの圧力にも比例します。

実際に壁に衝突するガスの分子数を考えてみましょう。1秒間に単位面積の壁に衝突するガス分子の数を入射頻度といいます。20℃の空気の場合、圧力をp(Pa)として入射頻度はΓ=1.0×1018p(個・cm-2・s-1)です。ほとんどの物質では、表面の原子は1cm2当たり1014個程度なので、壁に衝突したガス分子が全て表面にとどまるとすると、圧力がp≈10-4Paでは1秒程度で表面を覆い尽くすことになります。つまり、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. 運動量輸送式の真空ポンプ

高真空・超高真空でよく使われる真空ポンプをいくつかご紹介します。図2は、ターボ分子ポンプの概略図です。ターボ分子ポンプは、同心軸の周りに回転する動翼と固定された静翼が交互に並んだ構造をしています。ターボジェットエンジンのタービン翼に似ていることからターボ分子ポンプと呼ばれるようになりました。動翼は、1分間に18,000~90,000回で高速回転していて、動翼の線速度はガス分子の速度に近い数百m/sに達します。

図2:ターボ分子ポンプ

図2:ターボ分子ポンプ(引用:日本真空協会関西支部編、わかりやすい真空技術(第2版)、1998年、P.101)

図は、動翼と静翼のターボ分子ポンプの排気原理の模式図です。図の上から入ったガス分子(赤丸)は左向きの線速度を持つ動翼の下面に衝突します。ポンプの翼はミクロに見ると凹凸があるのと、動翼の表面に衝突した分子が少しの間表面にとどまるため、衝突したガス分子は飛来した方向に関係なくランダムな方向に飛び出していきます。このとき、図の赤い部分より青い部分の方が広いので、動翼に衝突したガス分子は全体として下に流れていくことになります。動翼から飛び出したガス分子は、熱運動の速度(図の赤の矢印)に加えて動翼の左向きの速度(図の青の点線の矢印)を持っているので、静翼の下面にのみ衝突します。このときもまた、下側が広く空いているため分子はさらに下に流されます。一般的なターボ分子ポンプでは、このような動翼-静翼が10段程度組み合わされています。このような排気原理のため、ターボ分子ポンプが真空ポンプとして作動するには、動翼の線速度がガス分子の速度と同程度である必要があります。もし、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. 気体ため込み式の真空ポンプ

高真空・超高真空では気体ため込み式真空ポンプもよく使用されます。ここでは、代表的な気体ため込み式真空ポンプであるクライオポンプを紹介します。クライオポンプは、ヘリウム冷凍機を用いて表面積の大きな活性炭などの吸着材を冷却し、ガスを吸着材の表面に捉えて排気する真空ポンプです。冷凍機は、コンプレッサで20気圧程度の高圧ヘリウムガスを作り、断熱膨張させることによって蓄冷剤を内蔵したディスプレーサーと呼ばれるピストンを冷却して低温を作っています。

図6はクライオポンプの外観です。図7はポンプ内部を模式的に示しています。ほとんどのクライオポンプでは、ヘリウム冷凍機は2段になっており、第1ステージは80K程度の低温になります。このステージでポンプ内部を覆い、ポンプの外からの熱流入を吸収しています。また、吸気口には、……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

 

第4回:真空の測定方法

前回は、高真空・超高真空領域の特徴と真空ポンプについて説明しました。今回は真空容器の中の圧力計測の解説をします。容器を真空ポンプで排気しても、どの程度のガスが残っているのか分かりません。そこで、真空容器内の圧力計測が必要になります。真空の圧力を測る計器を真空計といいます。真空計には、機械現象に基づいて圧力を測定する真空計や、熱伝導などの輸送現象を利用する真空計、電離現象を利用する真空計などがあります。

1. ガスの機械現象に基づく真空計

真空計とは、希薄気体の圧力を測る装置をいい、真空ゲージと呼ばれることもあります。一般的な圧力計は、大気圧を基準として、大気圧からの圧力差を表示します。これは、ゲージ圧と呼ばれ、大気圧以上を正圧、以下は負圧と呼びます(図1)。一方、真空工学で扱う圧力計は、ガスが全くない状態をゼロとして圧力を表示します。これは、絶対圧と呼ばれます。真空計は、大気圧以下の絶対圧を表示します。

図1:絶対圧とゲージ圧

図1:絶対圧とゲージ圧

第1回で説明したように、圧力とは、面積あたりの力のことで、力を測定すれば真空容器内の圧力が分かります。しかし、低い圧力では力の変化が小さくなり、力の測定から圧力を求めるには限界があります。そこで、力の測定以外に、ガスの熱伝導や粘性を測定し圧力に換算する真空計や、ガスを電離、つまりイオン化してイオンを電流として測定し、圧力に換算する真空計が必要になります。表1は、主な真空計と使用圧力範囲です。真空計には、ガスの機械現象に基づく真空計、ガスの輸送現象を利用した真空計、ガスの電離を利用した真空計の3つに分類されます。

表1:主な真空計と使用圧力範囲

表1:主な真空計と使用圧力範囲

ガスの機械現象に基づく真空計、つまり圧力を力として直接測定する真空計には、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. ガスの輸送現象を利用した真空計

ガスの輸送現象を利用した真空計には、ピラニ真空計、熱電対真空計、水晶摩擦真空計があります。この3つについて紹介します。

ピラニ真空計は、ガスの熱伝導が圧力に依存することを利用した真空計です。図4はピラニ真空計の測定原理です。センサ内に白金、タングステン、ニッケルなどの細い金属ワイヤが張られていて、電流導入端子を介して外部から電流を流します。このとき発生するジュール熱でワイヤが発熱します。金属の電気抵抗は絶対温度に比例するため、ワイヤの電気抵抗が一定になるように電流を調整することで、ワイヤの温度は常に一定になります。ワイヤの発熱は、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. ガスの電離を利用した真空計

高真空や超高真空になると、熱伝導や粘性が小さくなってガスの輸送現象を利用した圧力測定が難しくなります。そこで、ガス分子を電離、つまりイオンにして、イオンを電流として測定する真空計が利用されています。冷陰極電離真空計は真空放電を利用してガスをイオン化する真空計です。また、熱陰極電離真空計は加熱したフィラメントから放出される電子を利用して、ガスをイオン化する真空計です。ガスの電離を利用した真空計には、ぺニング真空計、三極管形電離真空計、べヤードーアルパート真空計があります。この3つについて説明します。

ペニング真空計とは、真空中での放電現象を利用し、中~高真空領域での圧力を測定する真空計で、冷陰極電離真空計の一種です。冷陰極電離真空計は、コールドカソードゲージと呼ばれることもあります。この真空計は、高圧放電の電流が容器内の圧力に比例することを利用して圧力を求めます。放電には、永久磁石を使ったペニング放電が用いられます(図7)。後述する熱陰極電離真空計と違って、フィラメントなどの高温部分がなく、作動中に大気を導入しても故障する恐れが少ないため、頻繁に大気導入される真空装置によく用いられます。一方、……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

 

第5回:真空用材料と部品

前回は、真空の測定方法について解説しました。今回は、真空中で使える材料の説明をします。到達圧力を下げるためには、真空容器や容器内の部品などから発生するガスを低減させることが重要です。また、真空容器や配管にはフランジなどの接続部分があるので、大気中からガスが漏れてこないようにシールする必要があります。このようなシール部分からのガス放出や透過も抑える必要があります。真空容器などの漏れを探す方法やその対処法を解説します。

1. ガスの発生と真空で用いられる金属材料・無機材料

真空容器や真空内で用いる部品は、機械強度などの特性を吟味することはもちろん、真空環境に置いた時にガスを放出しないことが求められます。真空容器の中で発生するガスは二通りあります。一つは、容器や容器内に使用されている部品などの材料中や、材料表面から発生するガスです。もう一つは、容器や配管などの接続部分のガスケットから透過したものです(図1)。ガスの発生量は、ガスの圧力(p)×体積(V)で表すことができ、pV値と呼びます。毎秒当たりのpV値を流量といい、Pa・m3・s-1またはPa・L・s-1で表します。真空容器内に流入するガスの流量Qが小さいほど到達圧力が下がることになります。到達圧力とは、容器内のガスの発生量と真空ポンプの排気量が釣り合って到達できる最低圧力です。式で表すと、真空容器を排気速度Sの真空ポンプで排気した場合、到達圧力はp=Q/Sになります。

図1:真空容器からの脱ガス

図1:真空容器からの脱ガス

以上のことから、到達圧力によって、どの程度ガスの発生量を考慮しなければいけないのかを考えてみましょう。例えば、食品の保存に使う真空パックなどの低真空ならば、ガスの発生量が多い安価なプラスチックを用いても問題になりません。むしろ、大気圧との差による1kgw・cm-2の力に耐える強度があるかが重要になってきます。一方、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. エラストマ材料とガスの透過

エラストマとは、ゴムなどのように大きな弾性を持つ高分子材料の総称です。真空技術で用いられるエラストマには、真空容器ののぞき窓や配管フランジの接続部分などに真空封止の目的で使われるゴムのガスケットがあります。真空用のガスケットは、多くの場合断面が円形でリング状になっているので、Oリングと呼ばれます。Oリングの形状はJIS B2401-1 Oリング-第1部:Oリングで規定されています。真空関連で比較的多く用いられているものは、運動用Oリング(P)、固定用Oリング(G)および真空フランジ用Oリング(V)です。材質は旧JISの呼び方が一般的で、第1種から第4種まであります。その中で真空用に用いられるのは、主に第1種と第4種です。表1は、真空技術で用いられる主なエラストマとその特性です。Oリングの代表的な材質には、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレン(CR)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)が挙げられます。

表1:主なOリングの材質と識別記号材質と識別記号(引用:真空技術基礎講習会運営委員会編、わかりやすい真空術(第3版)、日刊工業新聞社、2010年、P.228)
材質 代表的な商品名 識別記号(旧JIS) 特徴
ニトリルゴム
(NBR)
ブナN 第1種A、第1種B 使用温度範囲:-25~110°C
ガス透過係数が比較的小さい
酸・ケトン類に弱い
クロロプレン
(CR)
ネオプレン 使用温度範囲:-30~110°C
ガス透過係数が比較的小さい
酸・ケトン類に弱い
シリコーンゴム
(VMQ)
シラスティック 第4種C 使用温度範囲:-100~230°C
ガス透過係数が大きい
酸・ケトン類に弱い
フッ素ゴム
(FKM)
バイトン 第4種D 使用温度範囲:-20~200°C
ヘリウム透過係数がやや大きい
アルカリ・ケトン類に弱い

ニトリルゴム(NBR)とは、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. リーク探し

透過とリークの違いは、ガスが材料の内部を通り抜けてくる場合が透過で、材料の隙間を通り抜ける場合はリークです。ガスの透過と漏れ(リーク)の大きさは、ともに流量で表します。真空装置ではリークがないのが理想です。しかし、溶接などの接合部やフランジのシール部分など、ほとんど必ずといっていいほどリークが発生します。

リークの大きさは、必要とする到達圧力と密接に関係があります。一般的に、必要な到達圧力と真空ポンプの排気速度から許容リーク量を設定します。図3は、許容リーク量の分類を表します。リークが10-10~10-7の場合はガスの透過、10-7~10-4の場合はガス漏れ、10-4~10-1の場合は水漏れです。ガスの透過とガス漏れの大半はファインリーク、ガス漏れの一部と水漏れはグロスリークの範囲になります。

許容リーク量

図3:許容リーク量(引用:真空技術基礎講習会運営委員会編、わかりやすい真空技術(第3版)、日刊工業新聞社、2010年、P.155)

リークを探すことをリークテストといいます。それでは、どのようにして……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

 

第6回:真空機器の取り扱い・保守

前回は、真空用材料と部品を説明しました。今回は、いよいよ最終回。真空機器の取り扱い方について解説します。また、機器の設計製造や使用者の立場から、真空機器を安全に取り扱うための注意点をお話しします。真空機器を使う上で欠かせない機器の保守の考え方や、点検の勘所についても述べます。最後に、現在喫緊の課題になっている環境保全への取り組みの技術トレンドもご紹介します。

1. 真空機器を取り扱う際の注意点

真空機器を取り扱う際に、どのような点に注意したらよいのでしょうか。真空内での放出ガスを最小限にすること、フランジやシールに汚れや傷がないようメンテナンスすること、また真空機器の日々の変化に気付くことも重要です。

・放出ガスの低減

真空排気は、どのようにすれば必要とする圧力領域に速く達することができるでしょうか。排気速度の大きい真空ポンプを用いることは経済的ではありません。第5回で説明したように、速く圧力を下げるためにはできるだけ放出ガスを減らすことが重要になります。そのため、真空機器を取り扱う上では、容器の中にガス放出の元になるようなものを持ち込まないことが鉄則です。

・容器の洗浄、乾燥

中真空以下の圧力で使用する場合、真空容器内に挿入する部品などは、あらかじめ有機溶剤や洗剤で脱脂した後よく乾燥させておきます。組み立て作業に用いる工具は、真空専用として他の工具と区別し、あらかじめ洗浄して油分を除去しておきます。鉄製の工具は、油分がなくなるとさびが生じるので保管に注意します。また、真空容器や真空中で使われる部品を素手で触れると、……

>>第1章の続きを読む(PDFダウンロード)

2. 真空機器の保守と安全対策

まず、真空機器の保守の基本的な考え方について述べます。真空機器も、一般的な機械類と同様に故障が発生します。一定期間内に故障する確率を故障率といいます。多くの場合、機器導入後の故障率の経時変化を表すグラフは、バスタブ型になることが知られています(図2)。これは、導入直後に起きる初期故障が時間とともに減少し、ある一定の故障率になった後で、今度は機器の摩耗劣化などによる故障率が増加するためです。

図2:故障率曲線

図2:故障率曲線

機器の故障は生産ラインの停止に直結するため、企業にとって致命的です。そこで、このような故障率を少しでも下げるために、……

>>第2章の続きを読む(PDFダウンロード)

3. 真空機器のグリーン化

これからの持続可能な社会の構築に向けて、さまざまな取り組みがなされています。一つには社会全体で資源を循環して使うことによって環境への影響を最小限にする循環型社会の構築があります。また、化石燃料の消費などによる大気中への炭酸ガス放出を抑える低炭素化社会の構築があります。このほか、行政主導でさまざまな取り組みが行われています。企業においてもCSR(Corporate Social Responsibility)の一つとして、環境に配慮した企業活動が求められています。これらを合わせて社会のグリーン化といいます。

これまで説明してきた真空技術の中でも、これらに貢献できる技術開発が進行中です。例えば、半導体製造工場では数千台の真空ポンプが稼働し、工場全体の消費電力の12~14%を占めているといわれています。そこでは主にドライポンプが使用されていますが、動力のモータをインバータ制御することによって省エネ効果を生み出したり、補助ポンプを共通化して台数を減らすことによる省エネ化が行われています。また、高真空で用いられるクライオポンプでは、……

>>第3章の続きを読む(PDFダウンロード)

ピックアップ記事

tags