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水質汚濁物質の発生源と排水ルート:水質汚染対策の基礎知識1

水質汚染対策の基礎知識

更新日:2016年10月14日(初回投稿)
著者:株式会社プリディクション郷事務所 兼 化学工学会SCE・Net 郷 茂夫
編集:Tech Note編集部

水は誰でも使います。それは同時に使った水をどこかに捨てていることでもあります。その捨てられる水が本連載の主題です。捨てられた水(排水)は放置されているわけではなく、コストをかけて処理されています。事業者や工場が自分で処理する場合や、下水道に流し込まれた下水を終末処理場(水再生センター)で処理することが基本です。

しかし、適切な処理無くして、川、池、湖や海域に放流されたり、または漏えいして地下に浸透していく部分があります。それが水域の汚染・汚濁の主原因となっているのです。この基礎知識では、9回にわたり、排水や汚水の法令規制や無害化処理法を解説します。1回目は、水質汚濁による公害の歴史や汚濁の発生源などを解説します。

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1. 水質汚濁による公害と行政の取り組みの歴史

日本の公害の歴史については、「環境と公害の基礎知識」の第1回目で、四大公害の歴史や原因などを解説しました。公害には、水質に絡む事件が他にも数多くあります。表1に「環境と公害の基礎知識」第1回で紹介していない水質公害事件、表2に水質環境への行政の取り組みの歴史などをまとめました。

表1:環境と公害の基礎知識第1回以外の主な水質公害事件
年次水質公害事件
1958年製紙工場の汚水垂れ流しによる漁業被害が発生(東京都江戸川下流)
1972年土呂久鉱山亜ヒ酸中毒事件(宮崎県)
1973年六価クロム汚染事件(東京都江戸川区、江東区)
1950年水島コンビナート重油流出事件(岡山県倉敷)
1981年水道水に発ガン性物質トリハロメタンを検出(大阪府)
1997年ロシア船籍タンカーナホトカ号重油流出事件(日本海、福井県三国町沖)
2000年工場から引地川ダイオキシン汚染事故(神奈川県藤沢)
表2:水質環境に関わる行政の取り組みの歴史
年次立法・行政の主要記事
1958年公共用水域の水質保全に関する法律(水質保全法)、工場排水等の規制に関する法律(工場排水規制法)が制定
1970年水質汚濁防止法成立、公害国会(第64国会)公害関連14法案が一挙に成立、公害対策基本法改正(経済との調和条項の削除)
1971年年環境庁発足、総合的環境行政のスタート
1970年代に企業は、国の支援政策を受けて、公害防止対策に10兆円を超える多額の資金を投資したといわれる
1971年公害対策基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準の制定
水質汚濁に係る排水基準(水質汚濁防止法の規定)の公告
1980年閉鎖性海域の排水総量規制の開始(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)
1982年湖沼の窒素とりんの環境基準の設定
1980年代大気および水質とも「もはや公害は克服された」といわれるまでに大幅に改善
1989年水質汚濁防止法改正(地下水規制の追加)
1990年水質汚濁防止法改正(生活排水対策の推進の追加)
1993年環境基本法の成立(公害対策基本法は廃止)、水質有害物質環境基準の大幅な改訂
1999年水質環境基準に、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素が追加ダイオキシン類の環境基準の告示
2001年環境庁が環境省に、環境対策に対する権限強化
2000年以降の法改正事項については連載第4回で触れる。

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2. 水に関わる用語

上水、中水、下水

水には、上水、中水、下水の3種類の呼び方があります。本連載の主題は、下水です。上水と下水は身近なものですが、中水という言葉はなじみが薄いかもしれません。中水とは、水洗トイレの用水や公園の噴水など、飲用には適さないが、雑用、工業用などに使用される水道のことです。一般用語であり、きちんと定義された用語ではありません。下水または使用済み中水を処理して中水用にリサイクルする技術は第5回で若干触れますが、「中水」と言う用語は本連載の中では使いません。

排出される水の種類・呼び方

排出される水の呼び方に、排水、排出水、下水、汚水などがあります。一般用語とやや混同がありうるので、解説と定義をしておきます。

排水 :排出される水の一般総称です。生活排水のように、他の言葉と接合すると意味が明確化されます。

排出水:同様に一般用語です。しかし、法令では「排出水とは、特定施設から公共用水域に排出される水」のように、限定されて定義される場合があります。

下水 :下水は法令の中でも使われる用語で、汚水と雨水を含みます。下水道法においても同様です。下水は言い換えれば、排水ともいえますが、下水の方が明確に定義されています。排水は漠然とした一般用語です。なお、下水と下水道は意味が異なります。下水という用語の範囲は広く、下水道を流れる下水はその一種に過ぎません。

汚水 :生活排水(炊事、洗面所、洗濯、風呂などからの排水、ビルやオフィスも含む)、し尿、事業場や工場からの排水、農業・牧畜の排水を含むものと定義されています。

雨水 :雨水は空中で浮遊汚染物質を溶かし込み、地上に降り落ちて、さまざまな汚物を流し込んでいく汚れた雨水が問題になるので、下水の一種です。

水環境と法令上の水

一般に「水環境」という場合は、水の供給側(水の源泉)、排水側(下水道の水、生活排水、事業場や工場の排水、地下への排出浸透水)、地下水、土壌内の水、公共用水域(川、湖沼、閉鎖性海域)の水、外海洋など、広く人間の利用する水の状況を指します。本連載の対象は、排水側、地下水、土壌内の水、公共用水域が主体となります。

一方、水質規制関連法令(水質汚濁防止法など)で水という場合は、公共用水域(下記参照)の水と地下水を加えたものを指します。これらは水源でもあり、排水先ともなっていますが、水質規制関連法令では、排水先として意識したものになっています。また、水質汚濁防止法には下水道は含まれません。下水道は、下水道法(水質公害対策法令の一つともいえます)の管轄です。

公共用水域

「公共用水域」は水の種類ではありませんが、頻繁に使われるので、ここで加えておきます。河川、湖沼、港湾、沿岸海域など、公共の用に供される水域およびこれに接続する公共溝きょ、かんがい用水路など、公共の用に供される水路をいいます。上述のように、下水道は含まれません。

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3. 排水ルートと法規制

下水(排水)発生のルートと、排水規制法令のカバー範囲を図1に示しています。水汚染源の排出者には生活者、オフィス事務所、事業場(工場)、農業、畜産業、面源負荷、自然的原因などがあります。主な規制法令は、水質汚濁防止法と下水道法です。それ以外に、土壌汚染対策法があります。そして、法令規制にもかかわらず、不適切処理、または処理なし汚水の放流や汚水の漏えいにより地下へ浸透する水などが存在し、それらが実際の汚染源になるわけです。

図1:排水の発生源、排出ルートと法令カバー範囲

図1:排水の発生源、排出ルートと法令カバー範囲

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4. 水質汚濁物質の発生源

下水(排水)の水質汚濁物質の発生源と、処理後の放出先をもっと細かく見ていきましょう。

水質汚濁物質の発生源と放出先

汚濁物質発生源とその処理排水の放出先を表3に示します。発生源とともに、どこに排出、放流されるのかということも学んでください。

表3:汚濁物質の発生源と放出先
生活系発生源
例えば、東京湾への流入では70%の最大部分を占める)
台所、風呂、洗濯、洗面などの生活排水、およびトイレからのし尿をいう。生活排水中には、有機物と窒素、りんが含まれており、含有量の多い順は、有機物(BOD)>窒素>りんである。
放出先は

(1)下水道整備区域や高度合併処理浄化槽設置地域、処理後→河川、海湾など公共用水域へ排出

(2)し尿の大部分は下水道へ、または浄化槽→公共水域へ排出。小部分の計画収集量はし尿処理施設または自家処理→公共用水域へ排出

工場系発生源
=主に生産活動に由来

(1)工場・事業場からの排水→工場で個別処理→公共用水域へ排出

(2)工場・事業場からの排水→(下水道整備区域なら)下水道末端施設に取り込まれ、処理→公共用水域へ排出

畜産系発生源主に牛、豚、鶏などの排せつ物に由来する負荷は、水道、浄化槽→公共用水域へ排出。ある部分は堆肥化して肥料として利用されることがある
農地系発生源
(2つが原因としてある)

(1)水田、畑地から発生し、雨天時に流出する負荷は、公共水域へ

(2)地下浸透により徐々に流出してくる負荷には、化学肥料と有機質肥料および微量汚染物質の排出源として農薬がある

市街地系発生源屋根や舗装道路、被覆表面などから雨天時に洗い出されてくる負荷。そのまま河川、公共用水域に排出、または分流下水道へ排出される
自然系発生源山林や裸地などから流出してくる自然界からの負荷→大部分は公共用水域へ
BOD:生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand)

水質汚濁物質の事業所や工場からの排出

ここでは、読者のみなさまの業種、事業所、工場との関係で見てください。また、連載第3 回の人の健康への影響と併せて見ると、原因と結果の理解の参考になるでしょう。

表4:生活環境項目の排出量の多い代表的な業種
生活環境項目代表的な排出源業種(実際は、その工場)
有機物(BOD)濃度の高い排水肉製品など食料品製造業、動物油脂製造業、医薬品製造業などの化学工業、パルプ製造業、と畜場、へい獣取扱業
生活排水程度の有機性排水繊維工業、紙製品製造業、石油精製業、染色整理業(着色)
上記のうち生物処理で難分解性の物質を含む排水染色整理業(食品製造業に比較して、BODは低いが、染料は一般に難分解性のものが多く、また放流先河川の着色原因となることがある)
有機性で有害物質を含有する排水皮革業、コークス製造業(シアン、フェノール、アンモニアを含む)、殺虫剤・殺菌剤製造業
pHやSS(固形物)などが問題となる排水板ガラス製造業、コンクリート製品製造業、生コンクリート製造業
SS:浮遊物質(Suspended Solids)
表5:有害物質の発生源と代表的な業種
 有害物質項目

発生源 上段:材料・プロセス・工程・製品・モノ
    下段(無いものもある):代表的な業種の工場

金属汚染指標カドミウムとその化合物鉱業(亜鉛と一緒に存在)、電池、めっき、顔料、充電式電池、塗料など
鉱業、無機顔料製造業、電池製造業、ガラス製造業、非鉄金属製造業、電気めっき業、ごみ焼却場
鉛とその化合物鉛蓄電池、鉛管、ガソリン添加剤など
鉛蓄電池(自動車用バッテリ)、顔料、塗料、鉛管
六価クロムCr(VI)とその化合物化学工業薬品、メッキ剤、クロムを使用するプロセス
機械部品製造業、ステンレス鋼製造業、金属表面処理業、電気めっき業
水銀ソーダ工業(水銀電解法)、蛍光灯、温度計など計器製造業
有機水銀、アルキル水銀有機水銀系農薬、有機水銀製剤など
農業、医薬業、化学工業
ヒ素とその化合物鉱山、製薬、半導体製造工程など
鉱業、製錬所、無機工業薬品製造業、医薬品製造業、ガラス製品製造業、半導体製造業、ごみ焼却場
無機化合物、半金属類セレンとその化合物半導体、太陽電池、複写機、感光剤、ガラス着色剤
鉱業、無機化学工業薬品製造業、ガラス製品製造業
シアンとシアン化合物コークス炉(製鉄所・都市ガス工場)、鉄鋼熱処理業、電気めっき業
有機リン有機りん系農薬(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメトン、EPNなど)
硝酸性空素と亜硝酸性窒素農耕地の過剰な施肥、家畜のふん尿など
フッ素とその化合物半導体工業プロセス、アルミニウム製錬副生物など
化学肥料製造業、無機顔料製造業、合成樹脂製造業、非鉄金属精錬業、ガラス製品工業、半導体製造業
ホウ素とその化合物医薬品、ガラス製品やほうろう製品プロセスなど
ほうろう工業、無機顔料製造業、石油化学工業(の一致部)、医薬品製造業、電気めっき業、農薬工業、窯行原料製造業、石炭火力発電所
有機化合物PCBs(ボリ塩化ビフェニル)電気絶緑油、ノーカーボンコピ一紙、熱媒体
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの低分子有機塩素化合物(9 種類)電子産業プロセス(半導体素子の流浄剤ほか)、トリクロロエチレンまたはテトラクロロエチレンの蒸留工程
紡績業、繊維製品製造業、機械部品製造業、金属製品製造業、電子部品製造業、ドライクリーニング業
1、3-ジクロロプロぺン農薬(土壊くん蒸剤)
ジクロロメタンジクロロメタン上流施設など
化学繊維製造業、合成樹脂製造業、有機化学薬品製造業、金属製品製造業、ドライクリーニング業
チウラム、シマジン、チオベンカルブ農薬(殺菌剤)
ホウ素とその化合物医薬品、ガラス製品やほうろう製品プロセス
ほうろう工業、無機顔料製造業、医薬品、電気めっき業
ベンゼン合成繊維の原料・溶剤など
繊維製品製造業、合成染料製造業、合成樹脂製造業、石油精製業

いかがでしたか? 今回は、水質汚濁による公害の歴史や汚濁物質の発生源について説明しました。次回は、水質汚濁指標と汚濁メカニズムを解説します。お楽しみに!

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