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働き方改革の背景:働き方改革の基礎知識1

働き方改革の基礎知識

更新日:2021年6月8日(初回投稿)
著者:関西大学 社会学部 メディア専攻 教授 松下 慶太

昨今、さまざまな企業で働き方改革が叫ばれるようになりました。働き方改革が取り上げられるようになったのはなぜでしょうか。また、働き方改革とは、これまでの働き方の何を問題として、どのように解決しようとしているのでしょう。本連載では、6回にわたり働き方改革についてその背景や目指しているものを探り、さらに、働き方改革によってどのように変化するのかを解説します。第1回は、働き方改革の背景を紹介します。

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1. 進む少子高齢化

近年、日本では少子高齢化や人口減少が進んでいます。では、具体的にどれくらい進んでいるのでしょうか。

1990年(平成2年)の高齢者比率は12.1%です。それが、2020年(令和2年)には28.4%となり、さらに2040年には35.3%になると予想されています(厚生労働省、令和2年版厚生労働白書)。では、家族構成はどう変化しているのでしょうか。世帯で見ると、夫婦と子供がいる世帯は、1989年では39.3%だったのが2019年には28.4%に減少、対して単独世帯は、1989年で20%だったのが2019年には28.8%と増加しています。さらに65歳以上のみの世帯は、1989年で28.2%だったのが2019年には58.1%と急増しています。これらのデータを見ると、独身者と高齢者が増えている様子が分かります。しかもこの傾向は、将来的により強まると予想されているのです(厚生労働省、2019年国民生活基礎調査の概況)。

こうした変化の中で、働き手の数はどうなっているのでしょうか。図1は労働力の推移を表します。65歳以上を含む労働力人口は、1990年では6,384万人であり、そのうち60歳以上が11.4%を占めていました。2018年には、労働力人口は6,830万人で、60歳以上が占める割合は20.7%となっています。2040年での推計では、労働力人口6,195万人中、60歳以上の占める割合は29.6%にまで上昇する見込みです。

図1:労働力人口の推移(参考:厚生労働省、労働経済の基礎的資料をもとに作成)

図1:労働力人口の推移(参考:厚生労働省、労働経済の基礎的資料をもとに作成)

働いている人の多くは終身雇用で、結婚していて子どもがおり、妻は専業主婦、そして60歳で定年を迎える、といったイメージをいまだに持っている人もいるかもしれません。しかし、これらのデータが示しているのは、そうした労働者は減りつつあり、元には戻らないということです。裏を返せば、これからの時代の職場は、年齢の幅や家庭事情など、多様なバックグラウンドを持つ人で構成されるようになってくるということです。

2. 一億総活躍社会と人生100年時代構想

こうした中で出てきた考え方が、一億総活躍社会です。2017年に、首相の所信表明演説で登場した言葉です。一億総活躍社会とは、次のような社会だと説明されています(引用:首相官邸ウェブサイト)。

・若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会

・一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会

それでは、一億総活躍社会をどのように目指すのか。それを考えるための「人生100年時代構想会議」という取り組みが、2017年にスタートしています。

図2は、アメリカのカリフォルニア大学とドイツの学術研究機関であるマックス・プランク研究所が調査した、日本人の2007年生まれの人は、50%の確率で107歳まで生きるという推定データです(図2)。

図2:主要国における2007年生まれが50%の確率で生きられる年齢(参考:Human Mortality Database, University of California, Berkeley (USA) and Max Planck Institute for Demographic Research (Germany))

人生100年時代構想会議では、こうした超高齢化ともいえる社会で、企業で高齢者も含めた多様な人が働けるような環境(例えば、人々がライフステージや状況に応じて、新たなスキルを身につけるために学び直しができるなど)をどのように作っていくのか、といったことが議論されました。

その中で出てきたのが、「人づくり改革」という言葉です。そこでは、教育の無償化や大学の改革、リカレント教育、高齢者雇用の促進などがポイントとして挙げられました。言い換えると、学びと労働のあり方を、これからの社会に合わせてアップデートしよう、ということです。

WHO(世界保健機関)は、どれくらい長生きできるか(平均寿命)ではなく、どれくらい長く健康な体で日常生活を送ることができるかに着目し、それを健康寿命としました。2016年に厚生労働省が示したデータによると、日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、健康寿命は男性が72.14年、女性が74.79年となっており、どちらも年々増えている状況です。健康寿命が長くなっていく中でどのように働き続けることができるのか、あるいは企業でどのように高齢者を雇用していくのかは、社会全体にとって重要な課題になります。

人生100年時代の中で、一億総活躍社会をどのように実現していくのか。そのために、働き方をどのように変えていくのか。働き方改革は、こうした中から出てきたコンセプトなのです。

3. テクノロジーと仕事の自動化

働き方改革の背景として、ロボットやAI(人工知能)といったテクノロジーの発展・活用もあります。近年、ロボットは工場などで見慣れたものになりつつあります。例えば、佐川グローバルロジスティクスでは、物品を棚ごと運ぶGTP(Goods to Person)や、人と協働する自律移動型ロボットAMR(Autonomous Mobile Robot)を導入することで生産性が向上したといいます。工場だけではなく、金融やサービス業などさまざまな業界でも、ロボットを使った業務の自動化を目指すRPA(Robotic Process Automation)が展開されつつあります。

それと関連して、AIを活用した業務の自動化・最適化も進められています。例えば、三菱UFJ銀行は、AIによる業務の自動化で、2023年度までに8,000人程度の従業員を削減する見通しを示しています。2017年の時点では6,000人程度と発表していたので、業務の自動化はこの3、4年で予想よりも加速しているといえるでしょう。また、併せて店舗数も2017年時点の515店舗から、2023年度までに200店舗減らす計画も示しています。さらに残った315店舗のうち、160店舗もTV電話などで簡素化するとしています。

今後起こりうる人手不足を補うためには、ロボットやAIの活用は必須となってくるでしょう。これまで人間が行ってきた業務がロボットやAIによって自動化されていく一方で、人間が担うべき仕事はどういったものになるのか、新たにどのような働き方ができるのか、どのようなスキルが必要になっていくのか、そして、それをどのように身につけるのか、ということも考えていく必要があるでしょう。

いかがでしたか? 今回は、働き方改革がどのような背景で語られるようになったのかを解説しました。次回は、働き方改革がどういったことをしようとしているのかについて紹介します。お楽しみに!

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