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i-Constructionによる建設現場の生産革命

i-Constructionによる建設現場の生産革命

著者:立命館大学 理工学部 教授 建山 和由

2016年4月、国土交通省は建設業界に対しての新しい取り組み、i-Constructionをスタートさせました。背景には日本の人口減少、とりわけ生産年齢人口の急激な減少があります。建設業界は、これまで以上に働き手を確保しづらくなるため、今までの生産の仕組みを維持していくことが困難になるでしょう。第1回は、i-Constructionが登場した社会的な背景と、今後目指す姿について紹介します。

第1回:なぜi-Constructionが必要なのか?

1. 建設業を取り巻く課題

日本の将来を考える上で、人口の推移予測は極めて重要です。図1は、総務省統計局が公表している日本の人口推計です。2015年時点の日本の総人口は約1億2,660万人で、このうち生産年齢人口と呼ばれる15~65歳未満の人は約7,682万人。この推計によると、今後は総人口・生産年齢人口共に減少を続け、2045年の生産年齢人口は現在の69.7%程度になることが予想されています。このシナリオ通りに進むと、約30年後には現在の70%以下の生産年齢人口で、日本の社会を支えていく必要があるのです。

図1:日本の人口推計

図1:日本の人口推計(引用:総務省統計局、日本の統計2015 ウェブ版)

生産年齢人口の減少は、建設業界にも大きな影響を及ぼします。直接的には建設従事者減少の加速が懸念されます。また、税収が減少し、インフラの使用自体も少なくなるので、インフラ整備投資も減少し続ける厳しい状況が予想されます。一方で、日本の総人口の減少により社会インフラの新規建設は勢いをなくしつつも、人々の活動と生活を支えるインフラの維持管理に伴う工事は増えていくでしょう。また、地震・豪雨・火山など年々激化する自然災害に備えるため、災害対策を強化すべきです。すなわち、建設業は人も予算も限られる中で、今まで以上に難しい仕事に取り組んで行かなければならないのです。

2. 建設業の現状

図2は、各産業の年間賃金水準を比較したものです。この図によると建設業界の賃金水準は全産業平均の79%であり、低迷していることが一目瞭然です。

図2:産業別賃金水準比較

図2:産業別賃金水準比較(一般社団法人日本建設業連合会、建設業ハンドブック2016、P.20より作成)

一方、図3は年間総労働時間を産業別に比較したものです。建設業の年間労働時間は全産業平均の116%で、長いことが分かります。さらに、図4は就労中の死亡者数を表しています。建設業の死亡者数は全産業の34%を占めています。建設業の就労環境は、以前に比べれば随分と改善されています。しかし、他産業に比べると、依然として「3K」と呼ばれる状況は変わらず、今後も建設業への人材確保は難しいことが危惧されています。

図3:産業別労働時間比較

図3:産業別労働時間比較(一般社団法人日本建設業連合会、建設業ハンドブック2016、P.20より作成)

図4:労働死亡者数比較

図4:労働死亡者数比較(一般社団法人日本建設業連合会、建設業ハンドブック2016、P.22より作成)

3. 低迷する労働生産性

3Kの原因の一つと考えられているのが、建設業の低迷する労働生産性です。図5は、産業別の労働生産性の推移を表しています。ここで、労働生産性は、実質粗付加価値額(2005年価格)/(就業者数×年間総労働時間数)で計算しています(資料出所:内閣府 国民経済計算、総務省 労働力調査、厚生労働省 毎月勤労統計調査)。高度成長期からバブルと呼ばれた好景気時期にかけて、建設業の労働生産性は一般製造業よりも高い水準を保っていました。しかし1990年代以降、一般製造業は自動化技術などの新技術を生産ラインに導入し、さまざまな取り組みを行って、約20年間で生産性を2倍に改善してきました。一方で建設業はインフラ投資が年々減少し、生産力が余っていました。そのため、生産性を高める必要性が認識されず、生産性を改善するどころか低下させる状況に陥っていたのです。

図5:産業別の労働生産性の推移

図5:産業別の労働生産性の推移(引用:一般社団法人日本建設業連合会、建設業ハンドブック2016、P.23)

しかしながら前述のとおり、限られた人手と予算で良質なインフラを安定的に提供していくには、これまでの方策の延長線上で議論しても対処できません。新技術や方策の導入など、大きな変革を図るべきでしょう。図5が示す建設業の生産性の低迷は、別の見方をすると、努力次第で生産性を大きく改善できる余地があることも示しています。

4. 動き出したi-Construction

国土交通省では、建設業の生産性を大幅改善して、高水準の給料・休暇・希望の「新3K」がそろった産業へ転換することを目指しています。そのための取り組みの一つがi-Constructionなのです。主な内容は3点です。これらの施策で建設業の生産性を向上させ、新3Kの実現を目標にしています。

1:一般製造業に比べて遅れていたICT活用を積極的に推進する
2:単品生産による非効率性を改善するため、規格の標準化を進める
3:時期により偏っていた発注数を、年間で平準化する

i-Constructionというと、ICTを駆使してインフラ整備の効率化を図ることがメインと受け取られがちです。しかしそれだけではなく、各種施策を通じて建設業の生産性を画期的に改善し、産業としての体質を大きく変えることを目指しています。とはいえ、ICTの導入は主要な方策として期待されています。

次回以降は、ICTの積極活用による生産性の向上について、具体事例を交えて紹介します。お楽しみに!

 

第2回:土工におけるICTの全面活用

i-Constructionでは、土工におけるICTの全面活用が進められています。ICTの活用により、土工の各工程(調査・測量、設計・施工計画の策定、施工、検査、維持管理)で、3次元データを横断的に使用できるようになります。その結果、プロジェクト全体が効率化し、生産性が向上します。今回は土工の工程のうち、調査・測量、設計・施工計画の策定におけるICTの活用を紹介します。

1. 土工におけるICTの全面活用

i-Constructionではまず、トンネル工などに比べて生産性が低迷していた土工に焦点を当て、ICTの全面的な活用が図られることになりました。土工でのICT導入は、情報化施工として以前から進められてきました。これは、施工の段階でのみ3次元データを活用するものです。例えば、重機操作にICTを導入して制御の高度化を図る、出来形(施工が完了した部分)の計測に衛星測位システム(GNSS)やトータルステーション(TS)を導入するといった取り組みです。しかしi-Constructionでは、測量の段階から3次元データを作成し、そのデータを設計・施工計画の策定、施工、検査、維持管理の全工程で横断的に使います(図1)。

図1:情報化施工とi-Construction

2. 測量におけるICTの導入

測量におけるICT導入の代表例として、小型無人飛行装置(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)の活用が挙げられます(図2)。UAVの一部はドローンと呼ばれ、建設分野では、橋りょうなど高所で人が近づきにくい箇所の調査などに利用されています。特に最近では、UAVを使って現場上空から写真測量の原理で航空測量を行い、現場の状況を定量的に把握する技術が導入されています。

UAVによる写真測量。左はUAV、右は航空測量の原理

図2:UAVによる写真測量。左はUAV、右は航空測量の原理(画像提供:株式会社アスコ)

図3は、UAVで採土地の掘削状況を計測した事例です。UAVは比較的低空から対象物を測量でき、小さな現場でも使いやすいのが特徴です。定期的に計測すると山の形状の変化を確認できるため、掘削土量の算出など施工の進捗を定量的に把握できます。

図3:UAVを用いた土取り場の測量。左は土取り場の地形、右は航空測量による定量化

図3:UAVを用いた土取り場の測量。左は土取り場の地形、右は航空測量による定量化(画像提供:奥村組土木興業株式会社)

表1は、UAVによる測量と他の測量との作業効率を比較した結果です。2ha程度の測量を行う場合、UAVで測量すると、計測時間・必要な人工・費用のいずれも大幅に軽減でき、3Dの測量データを効率よく取得できることが分かります。

表1:UAV測量の導入効果(引用:鹿島建設株式会社ウェブサイト、各測定方法の所要時間、概算費用比較(2014年調べ))
計測方法 計測面積 計測日数 成果品
作成日数
概算日数
(UAV測量を1とした場合)
UAV測量 2ha 1時間 1人工(1日) 1
3Dレーザー測量 2ha 1日(平坦) 2人工(2日) 4.0
光波測量 2ha 3日(平坦) 10人工(5日) 5.6

一方で、現場の位置や大きさ、自然環境や求められるアウトプット、現場の地形などの条件によっては、UAVの導入効果が変わります。そのため、現場の条件をもとに他の手法との優劣を検討した上で導入を進める必要があります。

3. 設計・施工計画の策定におけるICTの導入

図4は、高速道路のインターチェンジの完成図です。この図はイメージ図ではなく、各点の正確な座標値を反映した3次元の設計図です。

図4:施工計画策定における3次元データの活用

図4:施工計画策定における3次元データの活用(引用:NPO法人グリーンアースウェブサイト、中国自動車道小郡JCT(K1橋)上部工工事))

これまで、土木構造物の設計や施工計画の策定では、主要な地点の2次元図面を使ってきました。単調な線形の盛り土構造物などは、この手法でも支障は少ないでしょう。しかし、図4のような複雑な構造物では、担当者は複数の2次元図面を組み合わせて、3次元の完成図をイメージしながら作業しなければなりませんでした。これに対して3次元データを用いると、3次元の完成イメージを直接見ることができます。また、施工の進め方を画面上でシミュレーションすることで、施工法の確認や、施工上の不具合を事前に抽出し、設計や施工計画を変更できます。さらに、着工前の現地説明会で、時系列を追いながら工事の進捗をビジュアル化して分かりやすく説明するなど、多彩に活用できます。この点は、従来のCIM(Construction Information Modeling)として取り組まれてきたことであり、i-ConstructionはCIMを取り込んだシステムといえます。

図5は、橋脚の鉄筋の組み立て手順を検討する際に利用する2次元データと3次元データです。2次元データを用いる場合には、鉄筋の配置を示す数多くの図面を施工手順に従いながら確認し、鉄筋の組み立て手順を理解する必要があります。一方、3次元データを用いることで、鉄筋の組み立てを画面上でシミュレーションできます。鉄筋を手順通りに配置していくことで、施工の順番を分かりやすく確認できるのです。

図5:橋脚鉄筋の組み立て手順の検討データ。左は2次元、右は3次元データによる検討

図5:橋脚鉄筋の組み立て手順の検討データ。左は2次元、右は3次元データによる検討(資料提供:株式会社大林組 杉浦 伸哉氏)

表2は、2次元データと3次元データを用いた場合に鉄筋の組み立て検討に要する時間です。3次元データを用いることで、前日の作業に要する時間が大幅に短縮されています。また、当日の作業時間も短縮できており、理解度の向上も見込めます。

表2:鉄筋の組み立て手順の検討に要する時間(資料提供:株式会社大林組 杉浦 伸哉氏)
前日の作業(単位:時間)
作業内容 2次元データ 3次元データ
図面精査 15 2
全体説明 1 0.5
打ち合わせ 2 1
準備 2 1
合計 20 4.5
当日の作業(単位:時間)
作業内容 2次元データ 3次元データ
図面確認 0.5 0.1
実施 5 3
合計 5.5 3.1

いかがでしたか? 今回は、調査・測量、設計・施工計画の策定におけるICTの活用を紹介しました。ICTの導入により、いずれの工程も飛躍的な生産性の向上が見込まれます。次回は、施工工程におけるi-Constructionの導入事例を取り上げます。お楽しみに!

 

第3回:施工におけるICTの導入

i-Constructionの先行プロジェクトとして、土工におけるICTの全面活用が進められています。土工の各工程で3次元データを横断的に使用し、インフラ整備のプロジェクト全体の効率化を図り、生産性の向上を目指しています。前回は土工の工程のうち、調査・測量、設計・施工計画の策定におけるICTの活用を紹介しました。今回は、施工におけるICTの活用です。

1. 重機制御の高度化

施工過程へのICT導入の代表例は、重機制御の高度化です。この技術には、Machine Guidance(以下、MG)とMachine Control(以下、MC)の2種類があり、これまでも情報化施工として導入されてきました。MGはオペレータに機械の操作を補助する情報を提供し、操作性や施工の精度を向上させる技術です。MCは機械の一部を自動制御し、施工の効率や精度を高める技術です。

図1は下水管の埋設工事の様子です。下水は自然流下であるため、管を埋設する際は、所定の深さと傾斜角度のトレンチを掘削しなければなりません。通常は、図1のように深さや傾斜角度を測量で確認しながら工事します。また、図2は法面造成工事の様子です。工事では、測量を行って丁張り(施工後の法面の傾斜や形を表す目印)を正確に設置しなければなりません。油圧ショベルのオペレータは、この丁張りを目印に法面を整形します。

図1:下水管の埋設工事の状況

図1:下水管の埋設工事の状況

図2:法面造成工事の様子

図2:法面造成工事の様子(写真提供:株式会社山岡組)

このような工事では、MG機能を搭載した油圧ショベルを使うと効率的に作業できます(図3)。ショベル本体には位置を特定する衛星測位システム(GNSS)のアンテナが、バケット・ブーム・アームにはチルトセンサが取り付けられており、操作席付近にある画面に機械の各部の位置や姿勢が映し出されます。また、車載のPCにトレンチや法面の出来形情報をあらかじめ入力しておくと、そのデータも画面に映し出すことができます。オペレータはこの画面上で、目標とする作業の出来形とバケットの相対位置を確認しながら操作します。測量や丁張り設置の作業なしに、工事を行うことができるのです。

図3:油圧ショベルのMG機能事例(資料提供:株式会社トプコン)

図3:油圧ショベルのMG機能事例(資料提供:株式会社トプコン)

また、図4はMCによるブレード(排土板)制御機能を備えたブルドーザーの事例です。この機械にも図3の油圧ショベルと同様に、GNSSアンテナ、センサ、車載のPCといった機器・システムが登載されています。ブレードは自動制御され、経験が少ないオペレータでも効率的に整地や掘削作業を行うことができます。

図4:ブルドーザーのMC機能事例

図4:ブルドーザーのMC機能事例(引用:地盤工学会建設工事における環境保全技術編集委員会、建設工事における環境保全技術、地盤工学会、2009年、P.219-222)

2. 重機制御におけるICT導入の効果

ICTを導入した機械の利用には、作業の効率および精度の向上や工事時間の大幅な短縮、工事に伴う環境負荷の低減など多くの利点があります。そのため、各種の工事で使われるようになってきました。図5は、通常のブルドーザーとMC機能を搭載したブルドーザーを用いた場合で、敷き均し作業時間の差違を調査した結果です。この調査では、試験用のヤードで条件をそろえて作業時間を計測し、かつ操作経験の違いの影響を見るために、重機操作に熟練したオペレータと経験が浅いオペレータのデータを計測しました。

図5:ブルドーザーによる敷き均し作業時間の測定結果

図5:ブルドーザーによる敷き均し作業時間の測定結果(引用:相良幸雄・小櫃基住・藤島崇、情報化施工技術の活用効果、建設機械施工Vol.67 No.8、2015年8月、P.105~109)

この結果から、重機操作の経験レベルにかかわらず、MC機能を導入することでブルドーザーの敷き均し作業の時間を半減できることがわかります。この調査では、施工精度に関してもデータを取っています。経験が浅いオペレータの作業は、従来施工では精度が低い状況でしたが、MC機能搭載の重機を使用することで熟練者に近い精度に仕上げることができました。丁張り設置のための人員の削減、作業時間の短縮、重機操作経験のサポートなどの効果を期待できます。

ICT導入で得られた時間や人員などの余裕は、工事全体で生かさなければなりません。1つの工程だけで完結していては、費用・時間をかけてICTを導入した意味がありません。そのためには、目的・ゴールの設定が必要です。決して、ICTの導入を目的・ゴールにしてはいけません。工期短縮や人員削減、安全性の向上などの具体的な目標を立て、その目標を達成するために必要最小限のICTを選択し、最大限活用することが大切です。これは、ICTの導入で最も注意すべき点です。

3. 目的を決めた総合的なICTの導入

図6は、実際にロックフィルダムの工事でICTを導入して効率化を図った事例です。

図6:ロックフィルダムの施工におけるi-Construction

図6:ロックフィルダムの施工におけるi-Construction(資料提供:鹿島建設株式会社 植木睦央氏)

従来の施工では、現場担当者は、ダンプトラックで搬入された材料をチェックして集計します。その土をブルドーザーで敷均す際、担当者は土が所定の厚さに敷き均されているかを確認しなければなりません。また、その上をローラで転圧していく際にも、例えば8回転圧する場合は、むらなく確実に8回転圧されているかを確認する必要があります。転圧終了後は、密度や含水比を計って所定の締め固めが行われているかチェックします。担当者は現場でこれらの作業を全て終えてから事務所に戻り、集めてきたデータを使って日報を作成します。そのため、担当者が仕事を終えるのは、毎日20時~21時と遅い時間になります。

これに対してi-Constructionでは、搬入される土の種類や量をダンプの運行管理システムで管理します。また、ブルドーザーのMC機能を使えば、所定の土の厚さを維持して敷均すことが可能です。転圧作業でも、ローラがどこを何回踏んだか画面上で確認できるため、計画していた転圧回数を間違えることなく確実に締め固められます。その結果、盛り土の品質も上がるため、施工管理の頻度を減らせます。これらのデータは現場担当者のタブレットPCにリアルタイムで送られ、担当者が事務所のPCにつなぐと、各種データを集計した日報が作成されます。このため、担当者は17時には仕事を終えることができます。

これまで説明した内容は、国土交通省のi-Constructionの施策の中で、方針として示されているものです。この他にも、ICTは生産性向上の可能性を秘めています。次回以降は、ICTを活用した精密なマネジメントと、建設ロボットの導入による生産性向上について、具体事例を挙げて紹介します。お楽しみに!

 

第4回:ICTを用いた精緻なマネジメント

前回は、施工でのICTの導入事例を紹介しました。ICTを用いて集めたさまざまな情報は、活用することで価値が生まれます。不確定要因が多い建設分野では、情報を活用して精緻なマネジメントを行うことで、人や機材、資材を適切に投入し、生産性向上と環境負荷低減を両立させることができるのです。今回はICTを用いた精緻なマネジメントについて、具体例を挙げて解説します。

1. ICTによるマネジメントの精緻化が必要な理由

製造業と建設業の大きな違いは、建設業には不確定要因が多いことです。一般的な製造業が所定の工場生産であるのに対し、土木工事は自然相手の作業が多いため、天候や地質など多くの不確定要因があります。そのため、技術者には現場の状況に応じた柔軟な対応が求められます。この対応には、現場から得られる情報に基づいた判断が必要で、情報の質と量が対応の良否を決めます。

また、その不確定要因の多さから、設計・施工計画の段階で、ある程度余裕を持った設計や計画が策定されます。設計における安全率は、そのためのものです。しかし実際には、現場の条件は悪いケースばかりではありません。そのため、結果的に必要以上の資材やエネルギーを投入してしまうケースが多くあります。このような場合、基準やマニュアルを標準としながらも、現場の技術者が判断して精緻に管理することで、資材やエネルギーの過度な投入を削減できます。図1はその施策のイメージ図です。施工計画は施工条件・環境が不良であることを想定して余裕をもって組まれています。しかし、実際の施工条件・環境が良好になり、施工計画との差が大きくなった時には、施工方法を柔軟に見直すことが望まれます。

図1:現場状況に応じた柔軟な対応

図1:現場状況に応じた柔軟な対応

2. ICTを用いた精緻なマネジメントの事例

ICTを導入して精緻なマネジメントを実施し、生産性向上と環境負荷低減を両立させた現場は多くあります。大規模土工における活用事例と、トンネル施工における活用事例の2つを紹介しましょう。

1:大規模人工島造成のための土取り工事事例

この事例では、山側の採土地で発破もしくは油圧ショベルにより土岩を掘削し、ブルドーザーで集土した後、油圧ショベルかホイールローダで重ダンプトラックに積み込み、採土場下端にある破砕機まで搬送します。破砕機に投入された大きな岩塊は200mm以下の土砂に破砕され、ベルトコンベヤでストックヤードまで運ばれます。ストックヤードの床には土砂の引き出し口があり、ここから引き出された土砂はベルトコンベヤで積み出し桟橋まで運ばれ、土運船に積み込まれます(図2)。

図2:大規模土取り工事の施工プロセスと導入されたICT

図2:大規模土取り工事の施工プロセスと導入されたICT(引用:建山和由、ITと建設施工-Precision Constructionの試み-、建設の機械化、No.625、2002年3月、P.3~7)

採土工事の施工効率は、工事の進捗とともに変化する地質や地形、天候、機械の能力、オペレータの技能などに左右されます。施工効率を向上させるには、これらの要因の変化に対応して採土場所や重機の配置、発破の薬量と削孔パターンなどの施工方法を柔軟に見直す必要があります。そのためには、現場の情報をリアルタイムで収集し、現場の技術者が的確に判断できる仕組みが必要です。

この事例では、ICTを活用して重機の位置や稼働状況をリアルタイムで把握するシステムが導入されました(図2)。そして、現場の作業状況の情報を収集し、現場の技術者が情報共有できる仕組みを構築しました。これにより、技術者は現場内のどこにいても現場全体の状況を把握でき、かつ共通の情報をもとに、施工の改善を議論できるようになりました。また、現場の状況に応じて、採土場所や重機・爆薬の使用に関する施工方法などを細かく見直し、必要最小限の資材やエネルギーで所定の工事を行う体制を整えました。その結果、月平均採土量は約21%の増産、施工に伴う環境負荷は、二酸化炭素排出量換算で約24%の削減を達成しています(図3)。

図3:月平均採土量の増加(左)と工事に伴う環境負荷の削減(右)

図3:月平均採土量の増加(左)と工事に伴う環境負荷の削減(右)(引用:建山和由、ITと建設施工-Precision Constructionの試み-、建設の機械化、No.625、2002年3月、P.3~7)

2:トンネル施工における精緻なマネジメント

トンネル工事では、坑内の作業環境を正常に保つための換気が不可欠です。換気は、大型の送風機を使って坑内外の空気を循環させます(図4)。

図4:トンネルの換気設備

図4:トンネルの換気設備(引用:日経コンストラクション、どうする現場の15%節電、2011年6月、P.41~44)

通常、送風機の能力は発破の後や吹きつけ作業中など、空気が汚れている状況でも作業できるように設計され、恒常的に送風機を作動して空気を送っています(図5左)。しかし坑内の空気の汚れ具合は、発破や吹き付け、ズリ出しなどの作業中と測量などの作業中では異なります。そこで、CO2・粉じん量・酸素濃度・有毒ガスなどの計測結果を確認した上で、坑内の作業内容に応じて送風機の出力を調整しました(図5右)。坑内の空気が汚れているときは100%の出力で、汚れが少ないときには70%の出力で送風量を制御することで、換気設備の消費エネルギー削減に成功したのです。

図5:通常時(左)と坑内状況に応じた調整時(右)における送風機の稼働状況

図5:通常時(左)と坑内状況に応じた調整時(右)における送風機の稼働状況(引用:日経コンストラクション、どうする現場の15%節電、2011年6月、P.41~44)

このような取り組みは、ICTを使って現場の状況を迅速かつ正確に把握することで実現します。今後も現場の情報に基づく精緻なマネジメントを進めることで、生産性の向上と環境負荷低減の両立を実現できるでしょう。さて次回は、i-Constructionで導入されている建設ロボットを紹介します。お楽しみに!

 

第5回:建設ロボットの導入

1980年代の建設ラッシュでは建設業の人手不足が深刻化し、建設会社は建設ロボットの開発に取り組みました。建設ロボット開発が下火になった原因は、1990年代のバブル崩壊です。しかし、災害現場などでは必要性が高かったため、ロボット技術の開発は続けられてきました。第5回は、建設分野におけるロボット技術導入の現状をご紹介します。

1. 建設分野のロボット技術

製造業は1990年頃からファクトリーオートメーション(FA)と呼ばれる自動化技術を導入し、生産性を大幅に向上してきました。これに対し、建設分野への自動化技術の導入は、製造業に比べると20年以上遅れているといわれています。理由の一つは、建設分野のインフラ投資が減少し、生産性を向上させる必要性がなかったためでしょう。もう一つは、製造業と建設業の業務内容が大きく違うためです。製造業で用いられるロボットは、工場の中で決められた作業を繰り返し行います。一方、建設分野は屋外で土や岩などの自然物を対象に作業するため、現場状況の変化に対応できる高度な判断機能がロボットに必要です。

建設分野へのロボット技術の主な導入先は、人が立ち入れない危険・狭小な場所での作業や、単調な繰り返し作業です。メンテナンスと災害復旧を事例に、ロボット技術を紹介しましょう。

2. メンテナンスで利用されるロボット技術

図1に、インフラなどのメンテナンスで用いられるロボットの写真を示しました。図1aは、下水管の内部に入って管の劣化状況を調査するロボットです。図1bは、上水管内部の水中を潜行しながら内壁面の劣化状況を調査するロボットで、断水せずに調査できる点がメリットです。下水管や上水管は狭くて人が入れないため、このようなロボットを用いてメンテナンスを行います。図1cは、橋りょうなど高所の点検に使われるUAV(小型無人飛行装置)、図1dは球形ガスタンクの外表面に吸盤で張り付いて移動し、外表面の劣化状況を調査するロボットです。どちらも、人が近づきにくい箇所のメンテナンス作業です。人が作業することが難しい箇所をメンテナンスするために、ロボットを使う事例が増えています。

図1:メンテナンスで用いられるロボット

図1:メンテナンスで用いられるロボット(引用:土木学会、社会インフラメンテナンス工学、機械化・自動化技術によるイノベーション、2015年4月)

3. 災害対応で用いられるロボット技術

日本は、豪雨・地震・火山などに起因して土砂災害が多く発生します。災害発生時には、人命救助や早期の道路復旧のため、土砂を除去します。土砂の除去作業は二次災害の危険性が高いため、重機を遠隔操作する無人化施工技術を用いて、人が現場に立ち入ることなく作業を行います(図2)。無人化施工技術は、自然災害が多発する日本では不可欠な技術で、多くの適用事例があります。

図2:災害復旧で用いられる無人化施工技術

図2:災害復旧で用いられる無人化施工技術(引用:建山和由、次世代社会インフラ用ロボット開発・導入の推進-災害応急復旧部会における現場検証の紹介-、日本ロボット学会誌 Vol.34 No.9、2016年9月、P.597~600)

4. 建設分野における技術開発の特徴

図3は、各産業の総売上に対する研究開発費の割合を比較したグラフです。製薬会社は総売上の12%以上を新薬の開発に、製造業は4%を新製品の開発に使っています。これに対し、建設業は総売上の0.4%しか新技術の開発に費やしていません。つまり、建設業は新技術開発のための予算がほとんど確保されていないのです。建設業は研究開発の予算が少ないため、実際の工事プロジェクトの予算を使って新技術が開発されることが多いです。その場合、開発される技術は、その工事に確実に役立つ実用性が求められます。

図3:産業別研究開発費の比較

図3:産業別研究開発費の比較(引用:総務省統計局、日本の統計2015、Web版)

新技術が開発された工事プロジェクトの代表的な事例に、雲仙普賢岳の砂防事業があります。1990年と1991年、長崎県島原市の雲仙普賢岳が噴火し、多くの被害が出ました。周辺には集落が存在し、土石流などの土砂災害を抑えるために砂防えん堤が造成されることになりました(図4)。しかし、雲仙普賢岳は依然として火山活動が活発で、いつ火砕流が発生するか分からない状態のため、無人化施工技術が導入されました(図5)。

図4:雲仙普賢岳での砂防事業

図5:建設機械の遠隔操作による無人化施工技術

図5:建設機械の遠隔操作による無人化施工技術

複数の重機を制御するための電波干渉や施工効率の低下、困難な現場の状況把握など、数多くの課題がありながら、20年以上の間、工事プロジェクトと並行して技術開発が続けられました。その結果、建設機械の遠隔操作技術は日本中の災害現場で用いられ、人命救助や早期復旧に有用な実用技術として定着しました。代表例は、2011年3月に東日本大震災で被災した、福島第一原子力発電所のがれき処理や施設安定化のための作業(図6)、2011年9月に発生した台風12号などによる奈良・和歌山地域の土砂災害です。復旧工事では、速やかに技術が導入され、活用されました。

図6:福島原子力発電所への無人化施工技術の導入

図6:福島原子力発電所への無人化施工技術の導入

5. 一般工事にロボット技術を導入すべき理由

災害時の現場の状況は混乱しています。緊急時に作業を確実に行うためには、普段から使っている技術を導入するのが理想です。このため、普段の現場で技術開発を積み重ね、緊急時にその技術を活躍させるという正のスパイラルを確立すべきです。建設ロボットも、雲仙普賢岳のような専用プロジェクトだけではなく、通常の工事に導入して技術を磨くべきです。課題は、建設ロボットは通常の重機に比べるとコストが大幅に大きい点です。コスト増に対応できる仕組みを構築し、一般工事でもロボット技術を活用し、その技術を磨いていくことが建設現場の新3K(給料・休暇・希望)の実現につながります。

いかがでしたか? 今回は、建設分野におけるロボット技術導入の現状をご説明しました。現状では、作業対象物や作業環境・条件への対応は人間が判断し、遠隔や一部自動化で機械操作を行う、無人化施工技術の機械がほとんどです。将来は、作業対象物や作業環境・条件への対応も、機械が判断して自立的に作業できるロボットの導入が期待されています。次回は最終回です。i-Constructionの普及を取り上げます。お楽しみに!

 

第6回:i-Constructionの普及に向けて

i-Constructionでは、ICTの導入を前提として基準やマニュアルが大きく見直されました。長年あまり変わらなかった基準やマニュアルが変わったことは、画期的です。ただし、それらを満たすための技術は確立されたものではなく、今後は各現場で適した技術の種類と使い方を模索しなければなりません。そのため、現場における技術開発が重要な役割を担うことになります。最終回はi-Constructionの普及に向けて、留意点と期待を述べます。

1. i-Constructionの普及に向けて

i-Constructionは建設業を、従来の「きつい・汚い・危険」の3Kで象徴される産業から、「高水準の給料・休暇・希望」の新3Kに体質改善するためのものです。新3Kのためには、省力化・作業の合理化・作業時間の短縮化・安全性の向上を実現し、生産性向上と環境負荷軽減を確立させなければなりません。しかし、生産性向上や環境負荷軽減を確立させるには、設備の導入や技術力の向上など、資金・技術面での負担が発生します(図1)。

図1:i-Constructionを推進するために越える山

図1:i-Constructionを推進するために越える山

コストをどのように払うかが、大きな課題です。国土交通省では、企業のコスト負担を減らすべく、各種補助を行っています。資金面では、新しい設備やICT機械の導入時に費用の一部を積算に加えるなどの制度があります。技術面では、北海道から沖縄まで全国10カ所にサポートセンターを設け、導入の補助を行っています。今後は土工だけでなく、さまざまな工種に同様の制度が拡大されていきます。このような制度を活用し、i-Constructionにどんどん挑戦していくのが理想的でしょう。

2. i-Constructionと技術開発

i-Constructionで画期的なのは、基準やマニュアルが大幅に見直されたことです。十数年前に進められた情報化施工の導入では、便利さにかかわらず、想定ほど普及しませんでした。主な原因は、基準やマニュアルが情報化施工を前提として作成されていなかったからです。今まで人の手で進めていたことを、一部分だけ機械化しても、情報化施工技術が持つポテンシャルを十分に発揮できなかったのです。しかし今回のi-Constructionは、ICTの利用を前提に基準やマニュアルが大幅に見直されました。例えば測量業務では、UAV(小型無人飛行装置)を使って測量の3次元データが得られるように、手法の基準やマニュアルが整備されました。

ただし、基準やマニュアルが作られた一方で、技術はまだ完全に確立されたわけではありません。今後は基準を満たすように、どの技術をどのように利用するかを、各現場が検討していくことになります。発注者と企業が一緒になって、最適な方法を追求していかなければなりません。そのため、現場で技術開発の機運が高まっていくことが期待されます。

3. i-Constructionで現場回帰

図2は、日本の社会資本整備の推移を表したグラフです。日本の近代的な社会資本は明治以降、鉄道・水道・下水・高速道路と、急速に整備されてきました。このために設計の体系化と基準の設定が進み、施工のマニュアル化が図られました。その結果、基準・マニュアルを順守して、一律管理で効率的に社会資本が整備されてきました。

図2:日本の社会資本整備の推移

図2:日本の社会資本整備の推移(国土交通白書から著者作成)

一方、基準やマニュアルに従ってインフラを整備するため、インフラ整備の主な仕事は管理業務が中心になりました。発注者や企業側は、基準を満たしているか、マニュアル通りに工事が行われているかを確認する管理業務が主になり、建設の仕事から創造性が薄れていきました。特に発注者は、事務所での管理業務が多くなり、現場に足を向ける機会が減っていきました。

管理業務やデータ整理は、ICTが得意とするところです。ICTを活用して管理業務の負荷を削減し、できた時間で技術者は現場に行く。このようにICTを活用すれば、建設は今よりもっと創造性豊かな仕事になるのではないでしょうか。

ICTを活用することにより、これまで関わることのなかった人たちにも建設業に入ってもらい、会社全体として生産性を上げている事例を紹介します。大分県にある株式会社コイシという測量会社は、土木の会社としては珍しく社員の半分が女性です(図3)。

図3:女性社員の活躍

図3:女性社員の活躍(資料提供:株式会社コイシ)

彼女たちの多くは、子どもが小学生になり子育てから少し手が離れたお母さんです。就業形態はフレックス制で自由に仕事の時間を選ぶことができ、働きやすい環境です。会社は彼女たちにCADの技術を教え、データ整理を任せています。測量で上がってきたデータを、彼女たちがCADを使って処理します。これまでは技術者が現場に出て測量し、データを持ち帰って、それを自分たちで整理していました。しかし、今では女性社員たちがデータ作りを担い、技術者は別の現場を担当できるようになりました。建設業を創造性豊かな仕事にするためにできることは多くあります。

本コラムはこれで最終回です。「i-Constructionはうまくいくでしょうか?」と聞かれることがあります。私の答えは「分からない」です。多くの企業や人が様子見ばかりで何もしなければ、i-Constructionは進みません。しかし、多くの人が賛同して挑戦すれば、建設業界は変わります。一人でも多くの人がi-Constructionに挑戦することと、本コラムがその一助となることを期待しています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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