メニュー

豆蔵+東京農工大、産業用ロボットの短期間設計手法を実現 誰でも高精度ロボットアームが作れる時代が到来

著者:サイエンスライター 森山 和道

Mamezo

株式会社豆蔵ホールディングの事業会社である株式会社豆蔵と国立大学法人 東京農工大学は、2017年3月10日、産業用ロボットアームの開発期間を短縮する設計手法を実用化したと共同研究成果を発表しました。従来は3年間くらいかかっていたロボットアームを半年程度で開発することができるようになるといいます。

 一般的に産業用ロボットアームの開発は、試作による検証を繰り返すため、数年の開発期間が必要です。ですが今回の共同研究によって、一度の試作で、ほぼ量産機レベルの実機を作ることができるようになったとのこと。豆蔵の持つソフトウェア技術、モデルベース開発プロセスと、東京農工大学 工学研究院 先端機械システム部門 遠山茂樹教授のロボット工学の知識とを融合し、少ない試作回数で競争力のある産業用ロボットを市場に出すための設計手法を構築することができたとしています。

豆蔵と東京農工大による共同研究の成果のまとめ

豆蔵と東京農工大による共同研究の成果のまとめ

ソフトウェア会社の豆蔵がロボットの共同研究開発を行なった理由

 株式会社豆蔵はソフトウェアエンジニアリングの技術を持つ会社です。コンサルティング、ソフトウェア開発、教育を主な事業内容としています。

株式会社豆蔵 代表取締役社長 中原徹也氏

株式会社豆蔵 代表取締役社長 中原徹也氏

今回の共同研究の経緯について、株式会社豆蔵 代表取締役社長の中原徹也氏は「海外のロボットメーカーから溶接用途の6軸産業用ロボットのコントローラー、ティーチングペンダント開発の引き合いがあり、開発を始めた」と紹介しました。

 豆蔵はロボット分野へのビジネス拡大を中期計画として持っていました。ソフトウェアやエレキには知見や経験があった同社でしたが、メカに関する経験が少なく、そこで今回、東京農工大の遠山教授に声をかけて、ロボットアームの設計手法に関して2015年9月から1年半の共同研究を行なったとのこと。

 産業用ロボット業界では、ロボットを制御するソフトウェア技術者が少ないことが以前から問題視されています。また開発手法も属人化している面があります。同社ではそれを共通化していくためにもモデルベース開発などソフトウェア業界のものづくりのやり方を導入することが重要だと考えているそうです。

豆蔵の今後のロボットビジネス展開

豆蔵の今後のロボットビジネス展開

また産業用だけではなく「ロボットというカテゴリ自体に興味を持っている」とのこと。サービスロボット業界も含めて、ソフトウェアの技術を使っていきたいと考えているそうです。中原徹也氏は「豆蔵の今後のロボット事業に注目していただければ」と語りました。

技術蓄積のないメーカーでもロボットアーム開発が可能に

P1180327

株式会社豆蔵 シニアコンサルタント大国征司氏

研究成果の詳細については、今回のプロジェクトリーダーである株式会社豆蔵シニアコンサルタントの大国征司氏が紹介しました。産業用ロボットのスペックはアームの最高速度、可搬重量、位置決め精度で決まります。そのためにアーム質量、剛性、コストを設計変数として最適な設計を行うことが課題となります。これらはそれぞれトレードオフの関係にあるからです。アームを軽くすれば速度は上がりますが剛性が下がるといったような課題があるため、最適な値を探る必要があります。

 最適なパラメータを求めるにあたっては経験と実機試作を開発するという手法がとられますが、実機試作には1回あたり3ー4ヶ月程度の時間が必要です。開発期間を短縮するためにはできるだけ少ない実機試作で量産機の品質を達成する必要があります。

 産業用ロボットアームの総合設計システムに関する研究は少なく、既存の研究ではサーボ制御系がモデルに組み込まれておらず実機との乖離がありました。また軌跡の検証のみで実機検証が十分ではありませんでした。

産業用アームの設計に関する先行研究

産業用アームの設計に関する先行研究

今回、研究グループでは開発期間を短縮する設計手法として、最適化プロセスをシミュレーションで回すという方法を選びました。具体的なターゲットは溶接などを想定用途とした20kg可搬のアームロボットと、搬送を想定した165kg可搬のロボットです。

20kg可搬のアームロボットと、搬送を想定した165kg可搬のロボットを開発

20kg可搬のアームロボットと、搬送を想定した165kg可搬のロボットを開発

研究グループでは今回、精度の高いシミュレーションモデルを構築することで、シミュレーション結果と試作した実機での評価を、ほぼ一致させることができました。ポイントは、ロボットアームを支えるガススプリングの特性について詳細な実験を行い、その結果をシミュレーションに組み込んだこと。その結果、シミュレーション結果と実測値を一致させることができ、今後、実機試作の開発期間を減らして開発期間を大幅に短縮することができるとしています。

シミュレーション結果と実機評価を一致させることができた

シミュレーション結果と実機評価を一致させることができた

なお、今回の開発プロセスにおいてはシミュレーションにおける最適化サイクルを2回回して実機試作を実施したとのことです。最初は最大荷重、最大速度でアームを動かして振動計測を行ったところ、まだ多少ガタがありましたが、詳細設計においてもう一度最適化プロセスを回すことで、ガタを抑えられたそうです。

最適化サイクルを2回実施

最適化サイクルを2回実施

大国征司氏は「この研究には実用性があり、メーカーでの量産において実用可能であると言える」と述べました。

 また豆蔵はプロセス標準化技術を持っています。そこでメカ開発においてもプロセス標準化を行いました。これによって過去の経験や個人の知見に依存せずに新規参入メーカーでも実行可能な開発プロセスを定義することができたそうです。

開発プロセスの標準化を実施

開発プロセスの標準化を実施

今回の開発手法を使うことで、技術的蓄積のないメーカーであっても短期間低コストで大手メーカーなみのロボットアームを開発することができるようになったと考えているとのこと。自社でロボットアームを開発したいという話をしている企業はかなり多いそうで、豆蔵では開発請負などを展開していけるかなと考えているそうです。また、産業用ロボットのみに関わらず、幅広いロボット開発にこの手法を適用することが可能だと考えていると述べました。ただし、使用される部品が違うとプロセスの改変は必要となります。

 豆蔵としては幅広い分野に今回の共同研究で得た手法を適用することで、従来持っていたエレキ、ソフト技術などを使ったコントローラーの開発だけでなく、メカ開発ができるようになり、自社開発のロボットを開発することも視野に入れて参入分野を検討したいと語りました。

豆蔵は今後自社製ロボットの開発も目指す

豆蔵は今後自社製ロボットの開発も目指す

最適設計をコンピュータのなかで回す

東京農工大学 工学研究院 先端機械システム部門 遠山茂樹教授

東京農工大学 工学研究院 先端機械システム部門 遠山茂樹教授

東京農工大学 工学研究院 先端機械システム部門の遠山茂樹教授は、大学側の視点から今回の共同研究の背景と意義を語りました。遠山茂樹教授は「産業用ロボットは30年前は色々なかたちがあったが、いまは2種類くらいしかない」と語りました。溶接用の20kgくらいの可搬重量のロボットと、搬送用の150kg可搬のロボットです。

 ロボット本体の重量は以前は可搬重量の10倍くらいありました。ですが最近はモーターの性能向上や設計の最適化によって、可搬重量の8倍程度になっています。それでも150kg可搬だと1.2トンくらいの重さがあります。搬送するモノも動かしていますが、アーム自体も動かしているわけで、そのぶんエネルギーが必要になります。その腕を何かで支えるとエネルギーを削減することができます。そのための部品が前述のガスダンパーです。大きいロボットにはガスダンパーが必ず付いており、これが付いているかいないかが、遠山教授のいう「2種類」です。

 ロボットマーケットの拡大に伴って、2年間かけて新しいロボットを作るのではなく、半年で出すことが求められています。ですがロボット設計は限界まで攻めて行われている限界設計であり、これ以上設計を大きく変えることは、何かを犠牲にしないと難しくなっています。

 試作は必要最低限の回数にとどめ、設計はコンピュータで行うのが基本です。同時に動力学解析も行います。どのように、どんなふうにロボットが動くかシミュレーションするわけです。そのときの手先の振動はどうなるか、モーターは大丈夫かといったことも検証を行います。今ではほぼ実機に近い精度でのシミュレーションができるようになっています。

 十年前は精度が十分に出せず、動力学解析も効率が悪かったそうですが、「2年くらい前から、簡単で軽くてすぐに使える」シミュレーターが登場し始めたと遠山教授は語りました。ロボットメーカーはそれぞれ専用の解析ソフトウェアを使っているけれども、今回の豆蔵との共同研究では汎用のソフトウェアを用いたとのことです(SOLIDWORKS、Nastran、System Modelerなどを使用)。

 設計値が公開されておらず、使う状況によっても特性が変化するガススプリングについては、温度そのほかの環境条件を変えて詳細な実験を行い、細かいデータをとることで対応しました。

動力学解析

動力学解析

有限要素解析も行なって、アーム先端がどれだけたわむか、どんな形状、どれだけの振動数のときにどんな振動が起こるかも調べました。これも実験とシミュレーションはほぼ一致しました。振動が出たときに振動を止めるためのフィルターの検証も行い、フィードバックを行いました。

有限要素法解析で負荷や振動抑制の検証を実施

有限要素法解析で負荷や振動抑制の検証を実施

産業用ロボットアームは0.1mm以下の繰り返し精度を持っています。遠山教授は「ちょっとでもガタがあったり組み付けが悪かったら、そんな精度は出ない。設計は回すが、出口から出てきたときには完成品じゃないといけない」と強調し、今後はコスト的にも見合うように部分的に高強度で軽量な新材料を活用するといった手法も用いて進化していくだろうと展望を語りました。コンピュータのなかで最適設計できる今回の手法によってロボットメーカーと比べても遜色ない優れた設計ができるようになったと考えているとのことです。

誰でも高精度ロボットアームが作れる時代が来た

質疑応答では、今後のビジネス展開についてや、「従来のロボット開発期間3年から半年に短縮されるというけど、大手のロボットメーカーも短縮しているのではないか」といった質問や、「MBDによる開発手法は普通ではないか」といった質問も出ました。これに対して遠山教授らは、従来手法よりもモデルの精密さを上げたことで試作を1回で済ませることができた点を再度強調しました。

 また「産業用ロボットでは大きな変化は30年間くらい何もなかった。だが、そういう時期が来たんじゃないか」と語りました。「ロボットメーカーではなくても、高精度なロボットアームが作れる時代が来た。家電のようにコモディティ化しつつあるということ」と続け、いきなりメンテフリーにはならないけれども、本質的にはそういう時代が近づきつつあると述べました。

 最後に遠山教授は「過去の30年間とは違う時代が、これから10年はやって来る。そういう時代が来た。産業用ロボット業界の勢力地図が大きく変わる」と強調しました。そして、今回の共同研究成果は、単にロボットの開発期間が短くなったというだけに留まらず、「ロボットの作り方」それ自体が変化しつつあることを示しているという見方を提示しました。

イプロス製造業からのおすすめピックアップ
株式会社豆蔵  ロボットアーム  産業用ロボット  解析

  • セミナー5月
  • 販促_無料出展

ピックアップ記事

tags

  • 特集バナー0513_01
  • 特集バナー0513_02
  • 特集バナー0513_03
  • 特集バナー0513_04
  • 特集バナー0507_01
  • 特集バナー0507_02
  • 特集バナー0507_03
  • 基礎知識一覧