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新鮮なものは本当に安全?:食品を科学する・リスク分析連続講座2

食品を科学する・リスク分析連続講
内閣府食品安全委員会は、2015年9月3日、日本学術会議講堂(東京都港区六本木)で、「食品を科学する リスクアナリシス(分析)連続講座」を開催しました。第2回となる今回のテーマは「食べ物のおいしさと安全・安心」です。石井克枝委員が講演しました。

この内容をもとに、食品の鮮度と安全の関係性を解説します。

1. 新鮮さと調理

今回のサブタイトルは「新鮮のものは本当に安全?」です。皆さんは、「新鮮」な食品にどのようなイメージがありますか?多くの人は食品を買うときに新鮮さを重視していることと思われます。確かに新鮮な食品ほど、見栄えが良くておいしそうに映ります。また、鮮度の落ちた食品よりも安全であると考えるのは当然です。

ところで、私たちが信じていることは本当に正しいのでしょうか?

2. 野菜のおいしさと安全の調理

確かに、新鮮なものにはうまみや栄養素が多く含まれています。しかし、これらは時間がたつと減少してしまいます。図1ではパセリと枝豆を例に貯蔵温度別の成分変化をまとめたものです。このように、時間がたつにつれて、栄養素やうまみ成分が減少していることが分かります。

【図1】パセリと枝豆の貯蔵温度別の成分変化

そもそも新鮮な食品は本当に安全とは限りません。図2では、様々な野菜をサンプルに、菌数の調査を行った結果を表にまとめています。この図から、新鮮な食品にもたくさんの菌が含まれていることが分かります。野菜の場合、新鮮さがそのまま食品の安全性に結びついてはいない、ということが分かります。

【図2】生鮮野菜の中の菌数

野菜は洗うことで付着している微生物数を減らすことができます。ただし、完全には菌を洗浄することができないので、生食は料理後すぐに食べる必要があります。

また、加熱することも重要です。90℃以上で加熱することにより、食品としての適度な柔らかさを得ることができます。図3は、さまざまな温度でゆでた大根の硬さの経時変化を示しています。そしてこの90℃以上というのは、ノロウイルスの死滅温度とも合致します。つまり、この温度が野菜の安全性とおいしさを両立する温度です。

【図3】大根の硬さの経時変化

3. 魚のおいしさと安全の調理

魚の場合は、鮮度によって調理法を工夫することが求められます。かつおのたたきは、かつおの刺身の表面を炎であぶり、冷水に通して、調理します。表面を焼くことで、菌を死滅させ安全性を向上させています。同時に調味料が浸透しやすくなり、また硬い表面と柔らかい身とで食感の違いを楽しむことが、できるようになります。

【図4】かつおのたたき

白身魚の刺身に用いられる湯ぶりという調理法では、切り身の皮側に熱湯をかけ、冷水にとります。こうすることで魚の表面が凝固し、テクスチャー(硬さ軟らかさ、弾力性、もろさなど、触感にかかわる物理的特性)が変化します。さらに表面にいる菌を死滅させることもできるので、食感の変化の楽しみと食品の安全性を両立させているといえます。しめさばでは、塩と酢の効果で腸炎ビブリオを変性させます。

このように、魚の生食文化の中にも、おいしさを高めつつ安全に食べるための工夫があることが分かります。次に、魚を食べることで報告されている食中毒についてふれたいと思います。

魚の食中毒では、アニサキス、旋尾線虫症、ヒスタミン食中毒があります。アニサキスは、魚介類を生で食べることで感染します。60℃のお湯で1分以上加熱することで、死滅させることができます。調味料では死滅しないので注意が必要です。旋尾線虫症は、ホタルイカの生食により感染します。ホタルイカ内臓の生食を避ける必要があります。

ヒスタミン食中毒は、赤身魚を常温で放置してしまったときに発生する食中毒です。図5にあるように、食品中でヒスタミンが増えても、外観の変化や臭いはないため、見た目ではわかりません。ヒスタミンは熱に強く、加熱しても分解されないため、一度生成すると取り除くことはできません。非常に厄介な食中毒です。魚は、冷凍・冷蔵するのが基本です。常温での保管はやめましょう。

【図5】ヒスタミン食中毒と予防法

4. 肉のおいしさと安全の調理

肉の場合は、生きている動物がすでにたくさんの菌を保有しています。新鮮さはリスクを低減しません。むしろ、調理をすることによってはじめて、食品として口にすることが、できるようになります。

肉の場合は、加熱が重要な役割を果たします。安全になるのは先にも述べたとおりですが、肉は、加熱されるとうまみが増します。肉の保水性が低下すると、生肉では細胞内にあった水溶性成分が細胞外へ浸出するからです。油脂も溶出されるので、肉汁はうまみが強く、コクがあります(図6)

【図6】肉の加熱によるおいしさと安全

肉は、加熱すると弾力性を増し、硬くなります。食肉(筋組織)を構成する線維は熱によりそのたんぱく質が変性し、線維状に収縮・凝固します。その間を満たしている、筋形質たんぱく質も豆腐状に凝固します。また、結合組織中の肉基質たんぱく質も収縮するため、硬さが増します。しかし、さらに肉を長時間湿式加熱すると、結合組織が弱くなり、筋組織はもろく、ほぐれやすくなります。すなわち、結合組織を形成しているコラーゲンが分解して、ゼラチン化するのです。この変化をうまく利用したのが、肉の煮込み料理です。これにより肉は食べやすくなります。

このように、加熱をすることで、食中毒を防ぎつつ、おいしく食べることができるようになります。よって、肉の場合の食中毒対策でも、どのように加熱するかで、殺菌効果が変わります。図7は、肉の加熱処理について、ビーフステーキとハンバーグの場合を示しています。ビーフステーキは、ほぼ肉でできているので、加熱による殺菌効果が高くなります。しかし、ハンバーグの場合は、中に空気を含んでいるので、熱が伝わりにくくなっています。ビーフステーキよりも、よく加熱しなければなりません。

【図7】肉の加熱調理

肉の場合は、交差汚染も警戒しなければなりません。交差汚染とは、汚染度の高いものが、汚染度の低いものに接触することによって起きる、汚染のことです。図8は調理器具を介した二次汚染を表しています。生肉に触れたトングと箸で調理した肉に触れることで、調理済み肉にも二次汚染が及び、細菌が付着していることが分かります。調理器具は、生肉用と食事用とで、しっかりと区別しておく必要があります。

【図8】調理器具を介した二次汚染

 

このように、「食品の新鮮さと安全性は必ずしも両立しない」ということが分かりました。

私たちは、食品を買うときは新鮮なものを選びます。しかし、いくら新鮮でも、適切に保存していなかったり、調理をしなかったりすれば、食中毒になる可能性が高いということです。私たちが食品を保存し調理をするのは、「おいしく食べる」のためだけではなく、「安全に食べるため」でもあるのです。

正しい保存と調理が「おいしさ」と「安全性」を両立させます。料理の目的や意義を正しく理解すれば、より楽しくて明るく、おいしい食卓になるのではないのでしょうか。

参考:内閣府食品安全委員会

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