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自動車の安全を支える板金加工:日野自動車株式会社・田中明夫氏【現代の名工インタビュー3前編】

現代の名工は、厚生労働省が「極めて優れた技能を有し、他の技能者の模範と認められた技術者」を表彰する制度です。日野自動車株式会社の田中明夫氏は、自動車の試験用部品作成における打ち出し板金・溶接技術で、2016年に現代の名工に表彰されました。前編では、田中氏が磨いてきた自動車試作部品の板金加工・溶接技術について伺いました。

田中明夫氏【現代の名工インタビュー3前編】

受賞理由:試作車の車体組立に精通しており、優れた技能を有している。特に打ち出し板金作業における立体形状出しや外板面の仕上げ作業において、卓越した技能を有している。また、板金加工に不可欠な溶接技能も講師を務めるなど、社の第一人者である。工場板金職種の技能検定委員を首席も含めて13年間務め、実技試験の実施に貢献するとともに、後進技能者の育成に多大な功績を残している。

1. 自動車作りに必要な打ち出し板金

――現代の名工の受賞理由である打ち出し板金について、教えてください。

田中 明夫氏(以下、田中氏):打ち出し板金は、切り抜いた平らな鉄板を、ハンマなどの工具を用いて手作業でたたいて変形させていく加工法です。

ハンマで鉄板を加工していく

ハンマで鉄板を加工していく

自動車部品の製造というと、自動化が進んでいるイメージがあるため、なぜ手作業の板金加工が必要なのか理解しづらいかもしれません。もちろん、量産時はさまざまな部品をプレス加工で製造します。しかし、量産前の試作段階では、プレス金型などがないので、打ち出し板金で部品を作るのです。今は、試作工程でも機械化が進んでいて、簡易プレスで部品を作る場合もあります。その場合でも、高い精度が必要な仕上げ作業などは手板金で行います。

試作品といえども、市販車に劣らぬ品質と、高い技術が求められます。板金加工に必要な技術は、けがき(作図)、切る、曲げる、絞る、延ばす、溶接、外板仕上げ(ならし)などです。板金の展開知識、作図知識、各種溶接の知識も求められます。

板金加工の道具と、板金の加工経過

板金加工の道具と、板金の加工経過

2. 板金加工と溶接加工

――自動車の試作部品を作るために、板金加工が必要なのですね。試作部品を作る手順を教えてください。

田中氏:最初に治具を作ります。昔は治具やゲージも手作業で作っていました。今はCADデータから作ることもできます。治具の形に添うように板金をたたいて加工し、その後に板金で作った部品を溶接して接合させます。試作品作りでは、板金加工作業と溶接作業は不可欠です。

溶接にはアーク溶接とガス溶接の2種類あります。自動車のボディを作る場合は、薄い鉄板を溶接するため、ガス溶接を用いることが多いです。ガス溶接とは、可燃性ガスと酸素ガスが化合して生じる約3,000℃の燃焼熱を利用して、金属の一部を溶融し、接合する方法です。一般的なガス溶接は、可燃ガスとしてアセチレンを用います。

溶接が完了したら、試作部品の完成です。その後、試作部品を使った試験工程に進みます。試験工程は、安全・安心な車をお客様に届けるために、とても大切な工程です。新製品開発では衝突試験・耐久試験・走行試験など、さまざまな試験を行うため、数多くの試作車を図面通りに製作する必要があります。

――板金加工に加え、溶接加工でも高い技術力が要求されるのですね。田中さんが普段の仕事で大切にしていることは何でしょうか?

田中氏:納期を守ることと、図面通りの精度を出すことです。私の作った試作品を用いて試験を行うので、納期と精度が守られないと、正確な試験を行えません。設計部から依頼を受けたら、必ず納期を守る。そして、設計図面通りの精度で作る。それを大切にしてきました。納期を守るにはスピードが必要です。精度を守るには、繊細な加工が要求されます。スピード感と繊細さのさじ加減が重要です。

板金加工を行う田中氏

 板金加工を行う田中氏

3. 技術向上は練習あるのみ

――板金加工技術と溶接加工技術、どちらも習得は難しそうです。どのようにして技術を磨かれたのか教えてください。

田中氏:新人の頃は、先輩と一緒に作業をさせてもらい、先輩の仕事をまねることから始めました。最初は、なぜうまく加工できないのか分かりません。なぜ先輩と同じようにできないのだろうと、悩んだ時期もありました。とにかく、先輩の仕事を見て覚え、先輩に追い付くように頑張りました。また、分からない所は素直に聞きました。大変ありがたいことに、先輩も丁寧に教えてくれました。私の入社時は、仕事は盗んで覚えるという時代ではなくなっていたのです。

技術向上は、繰り返し練習するしかありません。仕事が終わっても、会社に残ったり、夏休みに会社に出てきたりして、ひたすら練習しました。板金加工と溶接の習熟には、長い年月が必要です。板金ができるようになるには10年、溶接も10年かかります。10年ぐらい経験を積むと、なでるだけで曲がり具合が分かるようになります。さらに習熟すれば、ミクロン単位の曲がりやへこみも、手の感触で感じられます。私が長い間モチベーションを保つことができたのも、練習の繰り返しで、自分の技術力向上を実感できたからですね。

――地道な練習の積み重ねで、高い技術力を身に付けたのですね。前編では、現代の名工が磨き上げてきた、打ち出し板金と溶接の技術について伺いました。後編では、若手技術者の育成についてお聞きします。

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