転属経験で磨かれた技能:日立情報通信マニュファクチャリング・利元正秀氏【現代の名工インタビュー2前編】
投稿日:
- 2018年01月30日
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現代の名工は、厚生労働省が「極めて優れた技能を有し、他の技能者の模範と認められた技術者」を表彰する制度です。株式会社日立情報通信マニュファクチャリングの利元(りもと)正秀氏は、ケーブルを損傷しない組立技能と後進の育成活動で、2016年に現代の名工に表彰されました。利元氏の生み出した組立技能について伺いました。
1. 不良を出さないための技能
――受賞理由の、ケーブル接続の組立技能について教えてください。
利元 正秀氏(以下、利元氏):ケーブル接続の組立技能の向上は、製品の品質向上のために試行錯誤してきた取り組みの一つです。電話交換機の製造時、製品内部のユニットを出し入れする際に、ユニットに接続されているケーブルがユニットに挟まってしまう不具合が発生していました。これを防ぐために、ケーブルのルーティング(取り回し)を工夫して調整したことが始まりです。
ケーブルの取り回しを改良したことで、何回出し入れをしてもユニットにケーブルが挟まらなくなり、作業性が大幅に向上し、お客様の使い勝手も良くなりました。長い間、製造現場一筋で改善を繰り返しながら設計部署へのフィードバックも重ねてきた結果が、このような技能と品質向上につながったのだと思います。
2. 製品をより良いものにするために
――不良を出さないために技能を磨いたのですね。その他に、不良の発生防止のために業務で意識してきたことはありますか?
利元氏:製造工程で、不良やミスを絶対に出さない。この大前提を守るためには、ポカミスを出さない仕組み作りをすることも大切です。例えば、正しい方向でなければ組み合わない治具を作ることや、作業効率を高めるために部品の置き場所を変え、手を動かす範囲を狭めるなど、一つ一つ細かいことを積み重ね、継続することで大きな効果が生まれます。
ケーブル接続の組立技術では、品質を高めるために作業そのものを変えています。新規製品の組立時に不具合になりそうな箇所に気付くこともあるので、改善案が出た時は、設計部署にフィードバックして図面を見直してもらいます。私は、製造現場の使命は2つあると思っています。1つは、設計部署が作った図面に沿って、忠実に作業すること。もう1つは、現場目線で品質向上や効率向上につながる改善意識を持ちながら作業に従事し、気付いた場合には必ず提案をすることです。
製品改良のためには、お客様の要望に丁寧に向き合うことも大切です。私は製造現場を離れ、ファクシミリの現地修理対応に携わった時期がありました。製品を使っているお客様との対話は、たくさんの発見につながり、技術者として貴重な経験となりました。その中で「製品に取り入れた方がいい」という意見は、開発部署にフィードバックしました。こうしたお客様の声が、実際の製品に反映されたこともあります。
3. 経験の幅を広げることが財産に
――お客様や設計開発と対話をして、コミュニケーションを広げたことが製品改良・品質向上につながったのですね。利元さんが考える、製造現場の技術者にとって重要なことは何ですか?
利元氏:技能です。技能は、座学の勉強だけではなく、肌身で感じて初めて身に付きます。また、ミスなどで得た経験は特に印象深く残ります。やはり、書物で得る知識より、自分が実際にモノづくりに携わって、その現場で感じたことが技術者の宝になると考えております。
私自身も、ファクシミリや電話交換機など、さまざまな製品の生産工程に関わってきました。そうした全ての経験が、自分の財産になっています。多様な製品の製造に携われば携わるだけ、引き出しが増えます。機会があるなら、多くの製品のモノづくりに携わってほしいです。それが、技術者の成長につながると私は確信しています。
――前編では、利元さんが組立技能を向上させてきた背景と、技術者として大切にしてきたことを伺いました。後編では、若手技術者の育成についてお聞きします。