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名工の後進育成法:日立情報通信マニュファクチャリング・利元正秀氏【現代の名工インタビュー2後編】

現代の名工は、厚生労働省が「極めて優れた技能を有し、他の技能者の模範と認められた技術者」を表彰する制度です。株式会社日立情報通信マニュファクチャリングの利元(りもと)正秀氏は、ケーブルを損傷しない組立技能と後進の育成活動で、2016年に現代の名工に表彰されました。インタビュー後編となる今回は、後進の育成方法について伺いました。

利元正秀氏【現代の名工インタビュー2後編】

受賞理由:長年にわたり情報・通信機器製品(ファクシミリ、電話交換機など)の製造に携わり、高品質かつ信頼性を維持するための組み立てに卓越した技能を有している。一例として製品筐体内に収めるケーブル接続について、束ねたケーブルが絡み損傷しないよう工夫する組立技能を、過去の経験も踏まえ磨き上げてきた。こうした功績から、作業現場では最高位の称号を得ており、現在も事業への貢献や後進の育成、ひいては情報・通信産業の発展に寄与している。

1. 失敗から学ぶ

――前回は利元さんが、どのようにしてケーブル接続組立技能を高められたかを伺いました。その技能を後進に伝えるために、どのような教育をしていますか?

利元 正秀氏(以下、利元氏):今では当たり前に社内で活用している技能も、先輩たちの大きな苦労があって築かれたものです。私自身、諸先輩方から引き継いだことがたくさんあります。自分の経験に基づく技能とともに、先輩たちから引き継いだことを後進に伝えていく。これが重要だと思っています。

私が先輩から学んだことは、セルフチェックの重要性です。まだ若かった私がファクシミリの製造に携わっていた頃、作業の最後に図面との作業内容をチェックするルールがありました。しかし作業に慣れてくると、自分の仕事を過信してしまう。これが危険なのです。

私も「大丈夫だろう」という思い込みから、ある時、鉄則である図面でのセルフチェックを怠ってしまいました。その結果、配線作業の誤りに気付かず、機能試験工程での通電により製品の一部を焼損させる不具合を引き起こしてしまったのです。その時は事の重大さに大きなショックを受け、先輩からも図面チェックの重要性を改めて徹底的に指導されました。この事象以来、絶対に確認作業を怠ってはいけないという教訓を心にとどめています。後進への教育でもこの失敗談を交えて、決められた鉄則(ルール)は必ず守ることを強く指導しています。

ケーブル接続を指導する利元氏

ケーブル接続を指導する利元氏

2. 今の現場リーダーに求められることは?

――利元さんも多くの失敗を経験しながら、技能を会得したのですね。利元さんの若い頃と比べて、今の若手技術者を育てる上で重要なことは何ですか?

利元氏:研修で若い社員と話をする機会がありますが、指導を受けることに慣れていない人や、コミュニケーションが過度に苦手な人が多いと感じます。私自身も、若い頃は前に出ることが苦手でした。当時は、若手の社員が職場にあまりいなかったため、なかなかコミュニケーションのきっかけがつかめず、周囲に溶け込めない状態でした。そんな中、当時は社員旅行があり、そこでの交流から徐々に職場の方々に溶け込むことができたと記憶しています。

今は社員旅行がある会社も少ないのですが、現場リーダーには、自分から積極的にコミュニケーションを取る能力が求められています。私が先輩に教わったのは、朝礼や昼礼でメンバー全員の顔を見渡すことです。悩みがある人は下を向いていたり、顔色が悪かったりと表情から分かるものです。常にメンバーの態度と表情・言動を注意深く観察し、声をかけることが重要だと考えています。

また、連帯感を得るには何より会話が大切です。とはいえ製造現場は個人作業となるケースが多いので、仕事中はなかなか話す機会がありません。そこで私は、自分の趣味のダーツに若手や仲間を誘うなど、なるべく職場以外でもコミュニケーションの場を作るようにしています。仕事から離れた場では本音を話してくれるので、非常に有効です。

3. 時代が変わっても継承される技能

――今も昔も、コミュニケーションが大切なのですね。最後に、Tech Noteの読者である製造業の技術者に向けて、一言お願いします。

利元氏:長年製造に携わっていると、世の中の流れに応じて製品に求められるニーズも変わっていきます。時代に合ったモノづくりをするために、製造の視点も変わらなければなりません。より良い製品を作るには、どうしたらいいのか。技術者の視点から、時代やニーズの変化を敏感に感じ取り、製品に反映させる能力を養うことが重要です。

世の中全体でIT化が進み、モノづくりの現場でも匠の技を必要とせず、誰でも同じ品質の製品が作れる環境に変化しています。確かにその方が生産性は高く、品質も安定します。もちろん弊社にも同じ動きがあります。しかし、環境や製品が変わっても、受け継がれていく技能があります。私がいる神奈川事業所では、現在、サーバ・ストレージ関連製品を製造しています。この最先端の製造現場でも、培ってきたケーブル接続の組立技能は継承・活用されています。コアとなる技能の伝承、これはとてもうれしいことです。

下町ロケットというテレビドラマで、「素晴らしい技術は一晩にしてならず、良い製品を作り続ける気力が重要。」という趣旨のセリフがありました。技能は諸先輩が長い時間をかけ、苦労して生み出された貴重な宝ですので、継承していかなければなりません。時代はすさまじいスピードで変わっていますが、技能の大切さはこれからも変わらないことを願っています。

――自動化や省力化で人員が少なくなる現場がある一方で、廃れさせてはいけない技能をどう継承していくか、考えるべきですね。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

「先達の技能を絶やしてはいけない」と語る利元氏

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