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イグノーベル賞インタビューLaugh and Think【第4回】犬語翻訳機「バウリンガル」、開発の経緯とは?:鈴木 松美氏

「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」に贈られるイグノーベル賞(Awards makes people Laugh and then Think)。今回は、世界初の犬語翻訳機「バウリンガル」の開発により、人間と犬の平和に貢献したとして、2002年に「平和賞」を受賞された鈴木 松美氏にお話を伺いました。(佐藤 慶太氏、木暮 規夫氏と共同受賞)

鈴木氏は、科学警察研究所、旧科学技術庁などを経て、日本音響研究所を設立。2012年に退所し、現在は音響研究所(日本音響研究所とは別団体)の所長を務めています。音響・声紋分析の第一人者として、テレビにも多く出演しています。バウリンガルはどのような経緯で開発されたのか? そもそも、音響・声紋分析とはどんなものなのか? 詳しく聞いてきました。

音響研究所 所長 鈴木 松美氏

音響研究所 所長 鈴木 松美氏

4,500のサンプルを集めて分かった「犬の声が持つ6つの感情」

――犬の鳴き声を翻訳するという「バウリンガル」は、当時大きな話題になりました。どのようなきっかけで開発がスタートしたのでしょうか?

鈴木 松美氏(以下、鈴木氏):あるテレビ番組の企画で、犬の鳴き声から感情を分析できないかという相談があり、鳴き声のサンプルを分析してみました。その結果、「何とかできそうだ」という感触を得たことが開発のきっかけです。

バウリンガルの開発には、玩具メーカーのタカラ、ソフト開発会社のインデックス、そして、日本音響研究所の3社が主要メンバーとして携わりました。また、開発にあたっては、動物行動学の専門家である獣医師の木暮 規夫先生にも、共同監修者として参画いただきました。その中で私たちが取り組んだのが、犬の鳴き声を翻訳するためのコア技術の開発です。

イグノーベル賞の賞状と、2002年にバウリンガルを「最も優れた発明品」に選定した米TIME誌(写真は鈴木氏提供)

イグノーベル賞の賞状と、2002年にバウリンガルを「最も優れた発明品」に選定した米TIME誌(写真は鈴木氏提供)

――犬の鳴き声を翻訳するというのは、願望としてはあっても、まだ誰も実現できていなかったはずです。どのように開発していったのですか?

鈴木氏:実は「できそうだ」と感じたときには、1匹の犬の声しか分析していなかったのです。しかし、犬というのは大型犬もいれば、小型犬、中型犬とたくさんの種類がいます。そこで、サンプルを集めるために、代々木公園に散歩に来ている犬の飼い主の方に録音機を預けて、犬の声を録音してもらいました。

こうして約4,500種類の音声のサンプルを集めることができました。ところが、音声だけでは、どんなシチュエーションで鳴いているのかが分からない。そのため、今度はビデオカメラを飼い主に預けて、犬が鳴いているときの映像を撮ってもらうことにしました。

さらに、日本の犬と外国の犬の鳴き声が同じかどうかを確かめるために、アメリカの友人に頼んだり、ハワイに行ってサンプルを集めたりしました。結局、このサンプルの収集と分析に3年くらいかかったと思います。

ところで、犬の中には「ゴハン」などと人間の言葉を少ししゃべる犬もいます。しかし、これは飼い主が後から教えたものです。われわれが注目したのは、犬の本能的な鳴き声です。収集したサンプルを分析した結果、犬の声は6種類の感情に分類できることが分かりました。「楽しい」「フラストレーション」「要求」「悲しい」「威嚇」「自己表現」の6つです。

バウリンガルでは、犬の声をマイク部でキャッチして、無線で本体コンピューターに送って、感情を分析します。ただ、これを「楽しい」「威嚇」などとそのまま表示しても、おもしろくないわけです。そこで、それぞれの感情に対応する日本語の表現を200種類用意して、その中からランダムで表示されるようにしたのです。

イグノーベル賞授賞式では、鈴木先生も英語でスピーチ。バウリンガルのデモも行われた(出典:YouTube)

研究を重ねた音響・声紋分析がバウリンガルに活かされた

――バウリンガルにも取り入れられた音響・声紋分析とは、どんな技術ですか?

鈴木氏:人間には指紋があり、人それぞれ異なります。同じように、声にも人それぞれ固有のものがあるのではないか、というのが研究の発端です。当時、私が所属していた科学警察研究所で声の研究を始めたところ、同じ頃にアメリカのFBIやフランスのソルボンヌ大学などでも声の研究が始まっていて、海外にも学びに行きました。

声の分析にはさまざまな手法があり、その中でもっとも有効なのが周波数分析だということが分かりました。周波数分析では、周波数を縦軸、時間を横軸、音の大きさを奥行きにして、三次元のグラフで表示します。この周波数分析によって出てくるパターンが、今ではよく知られている「声紋」です。

この声紋分析の手法は、やがて裁判の証拠としても使われるようになりました。私はその後も、声紋分析の研究を続けて、日本音響研究所でも声紋鑑定に携わってきました。

ただ、指紋と同様で、「声紋が一致した」といっても、間違う場合もあります。分析方法が同じであっても、声紋鑑定の経験がものをいうわけです。例えば、方言によって出身地が分かったり、声の経年変化から年齢が分かったりということです。さらに、声ではありませんが、音の反響から部屋のだいたいの大きさが分かってくる。バウリンガルの開発にも、そうした経験が大いに役立ったと感じています。

音響・声紋分析の長年の経験が、バウリンガルの開発にも役立ったと語る鈴木氏

音響・声紋分析の長年の経験が、バウリンガルの開発にも役立ったと語る鈴木氏

「なぜ?」を持ち続けることで研究を深めていける

――モノづくりに携わるTech Noteの読者に向けて、ものごとに取り組み続けるコツをアドバイスしていただけますか?

鈴木氏:1つのことに専念して生きることは、ものすごい努力を必要とします。人間というものは、どうしても飽きてしまうんです。そこで、飽きないためには「なぜだろう?」と考えることが大切です。「なぜ、なぜ、なぜ?」と、子供のような好奇心を持ってほしいですね。

あとは、よく観察すること。例えば、何かの事件の音の分析で、犯人の声の後ろで「チャリン」と音がしたら、それに気付かなければいけません。「あれ?」と思って、「この音は一体何だろう?」とか「なぜ聞こえてくるのか」と考えて、それを解決していく。注意深くものを観察して、その中に「なぜ?」を見つける。モノづくりや研究では、そうした考え方や取り組みが必要ではないでしょうか。

――なるほど。「なぜ?」と考えて好奇心を持つことが、その道を究める第一歩ということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

「なぜ?と考え、好奇心を持て」。モノづくりに携わるエンジニアにも参考になるアドバイスをいただきました

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