動物から学ぶ人間の心理
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ハトがピカソとモネの絵を見分ける!?動物から学ぶ人間の心理:渡辺 茂氏【イグノーベル賞インタビュー Laugh and Think 第5回】

「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」に贈られるイグノーベル賞(Awards makes people Laugh and then Think)。今回は、1995年に「ピカソとモネの絵を見分けるハトの研究」で心理学賞を受賞した慶應義塾大学文学部 名誉教授の渡辺 茂氏にお話を伺いました。

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慶應義塾大学文学部 名誉教授 渡辺 茂氏

1. イメージで絵を判別できるハト

――ハトがピカソとモネの絵を見分けられるというのは驚きの発見です。一体、どんな実験をしたのでしょうか?

渡辺 茂氏(以下、渡辺氏):人間はさまざまな絵を見た経験から、画風のイメージを獲得することで、「これはピカソ」「これはモネ」のように誰が描いたかを見分けることができます。同じようなことが、ハトにもできるか検証しました。実験方法は、実験箱にスクリーンを用意し、ハトを入れてからピカソとモネの絵を映写。ハトがつついた際には、スクリーンに備えたマイクロスイッチで検知します。

それぞれの絵を10枚ずつハトに見せて、ピカソの絵が映写されたときにつつくと、餌をあげるようにします。すると、ハトは繰り返すうちに学習し、ピカソのときだけつつくようになりました。もちろん、モネの絵のときだけ餌をあげるようにすれば、モネの絵が映されたときにつつきます。餌がもらえるときのみ反応を示すので、2人の画家の絵を見分けていると分かりました。

ただ、それだけだと用意した10枚ずつを丸覚えしただけかもしれません。そこで、覚えさせた10枚以外の作品も見せました。初見の絵でもピカソとモネの絵を見事に判別したので、絵を丸覚えしたわけではないと分かりました。絵の持つ共通の性質を覚えていたということで、これは画期的な発見でした。

実験に伝われたハト。人間と同じように絵を見ているとは

実験に伝われたハト。人間と同じように絵を見ているとは

次は、何を手掛かりに見分けているか調べました。印象派(モネ)とキュービズム(立体派・ピカソ)の絵の違いは、一般的に輪郭線が決め手といわれます。しかし、絵をぼかしたり、あるいは白黒にしたりしてもハトは判別できました。そのため、ハトは決定的な手掛かりを頼りにしているわけでなく、総合的に絵を見て判別していると分かりました。全体のイメージを捉えているわけですから、絵の見方は人間と一緒です。

ちなみに、イグノーベル賞の受賞後もこの研究は続けていました。その中で、シャガールとゴッホでも同様の結果が得られましたし、ハトだけではなく文鳥も見分けることができました。

さらには、子供の描いた絵の上手、下手も判別させました。まずは複数の絵を何人かに見てもらい、うまいものと下手なものに区別しました。次にそれらをハトに見せ、画家の絵と同じ要領で判別させます。これも成功したため、ハトは子供の絵に対する人間の評価も理解できるのだと分かりました。

 

――ハトは画家の違いだけでなく、絵のうまい下手まで理解できるんですね。そもそも、なぜ、研究対象に鳥を選んだのですか?

渡辺氏:心理学における動物実験は、人間の心理を理解するために行います。心理学の世界では、1960年頃までネズミの実験が、人間を含めてほかの動物すべての理解に通じていると考えられていました。しかし、だんだんと種による違い、つまり心の多様性が問題になってきました。

私は、全く違う進化の過程を経ているものの、人間のように視覚が発達している鳥に注目しました。人間をはじめとする霊長類は、哺乳類の中では例外的に目がいいのです。昼行性なので光を頼りにモノを判別できること、樹から樹に飛び移る運動において距離の感覚が重要とされること、この2つの要素から視覚が発達したといえます。

この2つの要素は、共通して多くの鳥も満たしています。ただ、人間と鳥では脳の構造は全く違います。同じような要素を、違う構造で実現している点が面白いと思います。

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もともと動物が大好きだと話す渡辺氏

2. 人間と同じように動物も共感し合う!?

――鳥と人間は、実は共通点も多いのですね。先生は大学退職後も、研究を続けていると聞きました。現在はどのような研究をしているのでしょうか?

渡辺氏:ネズミを使って共感(Empathy)の研究をしています。ネズミが感じるストレスの度合いが、ほかの個体の状況によって変わるかどうかを確かめる実験をしました。ネズミを狭い筒の中に閉じ込めると、当然ストレスがかかります。ストレスの度合いは、ホルモンや体温の変化といった指標で計測しています。

そうすると、何匹かが同じように筒に入っているときと、1匹だけ入っているときで、ストレスの値に違いが出るのです。みんな一緒に筒に入れられていると、ストレスは弱くなります。ストレスが一番強くなるのは、1匹だけ筒に閉じ込められ、ほかのネズミが周りで遊んでいるときです。同じ状況でも、ほかの個体との比較によって感じ方が変わることが明らかになりました。

人間も社会的な比較に敏感です。同じ給料をもらっていても、周りが自分より高いときと低いときでは捉え方が違います。絶対値ではなく相対値で感じています。このマウスの実験の意味するところは、比較に敏感だという人間の心理は、文化的な要因からではなく、生物学的な基盤があるということです。

3. 「役に立つ」ではなく「面白い」を評価したい

――話を伺っていると、研究に対するひたむきな姿勢が伝わってきます。昨今の研究環境に対して、どのように考えていますか?

渡辺氏:今は研究環境がとても悪いと感じます。功利主義的な学問観が強くなり、社会的に意義があるという研究ばかり評価される傾向が目立ちますね。もちろん差し迫った問題の解決は大事ですが、もっと面白いという部分を大事にしてもいい気がします。好きにやった方が実りも多いかもしれませんし、個人的には面白い研究を評価したいです。

――最後に、モノづくりに携わるTech Noteの読者に向けてメッセージをお願いします。

渡辺氏:動物に学ぶということは、ひとつのトレンドです。動物の基礎研究に、情報処理や機械工学などへのヒントが転がっています。虫の動きや魚の動きなど、動物の運動についてはモノづくりの分野で多く活用されていますね。

運動に限らず動物の認知能力も、何かを作る際に役立つと思います。動物はアイデアの宝庫ですから、動物を何かの参考にしてみると面白いかもしれません。

――動物に学ぶことで、人間の心理を解き明かすだけでなく、モノづくりの参考にもなりますね。本日はありがとうございました。

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「動物はアイデアの宝庫」運動だけでなく、認知能力にも学ぶべき点があるとのアドバイス

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