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股をのぞくと世界が変わる!?:立命館大・東山 篤規氏【イグ・ノーベル賞インタビュー Laugh and Think 第7回】

「人々を笑わせ、考えさせてくれた業績」に贈られるイグ・ノーベル賞(Awards makes people Laugh and then Think)。今回は、2016年に「光学的・身体的変換視野の効果(股のぞき効果)」で知覚賞を受賞した、立命館大学 文学博士の東山 篤規氏にお話を伺いました。(大阪大学教授の足立 浩平氏と共同研究)

「日常の中に面白いテーマがごろごろと転がっています」と語る東山 篤規氏

「日常の中に面白いテーマがごろごろと転がっています」と語る東山 篤規氏

1. 股のぞきをすると見える世界

──股のぞきをすると、私たちが見える世界はどのように変わるのでしょうか?

東山 篤規氏(以下、東山氏):股のぞきをして上体を逆転させると、風景の奥行きが不明瞭になり、遠くのものは小さく見えます。これを「股のぞき効果」と呼んでいます。股のぞきをせずに逆さ眼鏡をかけて視野を逆転させても、「股のぞき効果」はありません。

天橋立で有名な股のぞき。股のぞきをすると遠くのものは小さく見えているとのこと

天橋立で有名な股のぞき。股のぞきをすると、遠くのものは小さく見えている

──股のぞきの研究を始めたきっかけは、何だったのですか?

東山氏:心理学の空間知覚という分野で、体の方向が変わると見え方も変わるという研究を、この10年ほど行っていました。「垂直・水平錯視」という錯視がありまして、縦と横が同じ長さのものがあったら、縦の長さが横の3割増しに見えます。不思議なことに、地面に横たわると、錯視量が変化することに気づきました。風景に対して体がどの方向を向いているかが、ものの見え方に大きく影響を与えると気づき、もっと大きく体の方向を変えて実験をしようと考えたのです。45歳で立命館大学に来た時に、人手を生かした研究をしたいと思い、股のぞきの実験を始めました。

垂直・水平錯視により、同じ長さの線でも縦線は長く見える

垂直・水平錯視により、同じ長さの線でも縦線は長く見える

――実際にどのような実験をしたのですか?

東山氏:1つの実験につき、実験者・実験装置を動かす人・股のぞきをする人で計3~4人が必要です。50mの距離があれば実験は可能なので、研究は立命館大学の衣笠キャンパスで行っていました。

直立して見た場合と股のぞきをして見た場合とで、ターゲットの大きさや色、鮮明度がどう変わるかを調べました。心理学なので、被験者本人の感覚で答えてもらっています。1つの条件でそれぞれ15人に股のぞきをしてもらいました。いくつもの条件下で実験をしたので、延べ人数は300人ほどです。没になった条件もあり、実験結果として論文に掲載しているのは全体の半分程度です。論文としてまとめるのに約10年間かかっています。

――同じ分野で、股のぞきを研究する人はいたのでしょうか?

東山氏:視空間で縦方向を研究している人はとても少ないです。横方向の研究は装置や道具が簡単に並べられますが、縦方向の研究は面倒なことが多いからです。縦方向に長い塔や木を使うので、外での実験が多くなり、天候など条件がコントロールできません。また、普段の暮らしでは縦よりも横の方が重要なことが多く、自然と研究も増えるのでしょう。しかし、空間には当然、縦横がありますので、常識で考えたら横だけの研究では不十分です。全方位研究するのが当然だと思っています。

イグ・ノーベル賞の授賞式で贈呈された時計。針が砂時計になっている

イグ・ノーベル賞の授賞式で贈呈された時計。針が砂時計になっている

2. 「うそ」の臭いをかぎ分ける力

――研究材料を探すときは、日常生活からヒントを得ているのでしょうか?

東山氏:私の場合、本を読んでいると「おもしろいけど本当かな?」と疑問に思うことが多いのです。1人の人間が気付いて書いたことは、単にその人の思い込みや偏見かもしれません。ただ、疑問に思っても、実際に調べてみる人は少ないのではないでしょうか。股のぞきの研究も同様で、通常と見え方が違うということに気付いても、正確に調べた人はいません。実際に調査したり測定したりすると、思い込みや勘違いの場合もあります。疑問に思ったことを調べてみるのは、とても面白いことです。

私は、本に書いてあることをほとんど信用していません。世の中の話は、文字と算術以外はほとんどがうそです。何ごとも真正面から見ず、斜めから見るのが大切と考えています。研究者にはうその臭いをかぎ分ける力が必要です。何でもうのみにするようでは、研究者としての資質はないと思っています。いかにうそくさいと思えるかが大切です。

――今、気になっていることはありますか?

東山氏:今は、鏡の中の世界が気になっています。あるとき鏡を見たら、本来は実際の距離と映っている像までの距離は同じはずなのに、想像以上に顔が近く見えることに気付きました。ほとんどの人は、鏡の中にある物の位置関係は正確だと思っているけれど、鏡の中のものは実際より近くに映っています。スーパーや自動車のサイドミラーなどの凸面鏡、卑弥呼(ひみこ)が使っていた青銅鏡や白銅の鏡だと、見え方はどう変わるのかということも知りたいですね。

イグ・ノーベル賞の賞金である10兆ジンバブエドル。通貨の価値はほとんどない

イグ・ノーベル賞の賞金である10兆ジンバブエドル。通貨の価値はほとんどない

3. 継続することでチャンスは巡ってくる

──最後に、モノづくりに携わるTech Noteの読者に向けて、アドバイスをお願いします。

東山氏:生き残るためには、人のまねをしていてはだめです。本の内容や先輩たちから聞いたことは参考にしつつ、最後に頼るのは自分の感覚です。

物ごとは途中で諦めたらゼロになるので、できるだけ続けた方がよいでしょう。私が携わっている研究は、考えて試行錯誤するのに時間を要します。1つのことを成し遂げるのに10年程度はかかるのです。新しいことは、みんな自信がなかったりリスクが高かったりして、途中でやめてしまうことが多く、大抵の人はすぐ次の話題に移ってしまいます。人間だから途中で飽きることはあるでしょう。そのようなときは他の分野に寄り道して、いろいろと参考にしながら、結局戻って同じことを続けるのがベストだと思います。

1つのことを継続していたら、突然大きくジャンプできるタイミングがあります。飛躍の時です。長く続けていないと、チャンスが巡ってきたことに気付きません。チャンスは平等にあるので、一定の仕事を高い水準で継続していくことが大切です。ホームランを狙うのではなく、ヒットを打ち続けるのがプロ。とにかく継続して、ときどきのホームランを目指してみてください。

──自分の感覚を信じること、そして仕事も1つの軸を持って継続していくことが大事なのですね。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

「自分の感覚を大切に、一つのことを続けてみてください」と東山氏

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