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大気環境問題の歴史と法律:大気汚染対策の基礎知識1

大気汚染対策の基礎知識

更新日:2016年8月19日(初回投稿)
著者:原技術士事務所 兼 化学工学会SCE・Net 原 晋一

大気汚染と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 黒い煙を出すプラントの煙突、4大公害病の四日市ぜんそく、最近の話題ではPM2.5などでしょう。また、Tech Noteの読者の中には、大気関係公害防止管理者の資格を持ち、大気汚染対策の業務に従事する技術者もいることでしょう。

この基礎知識では、5回にわたり、大気環境問題の歴史や技術的な対策について解説します。1回目は、大気環境問題の歴史と法令などを解説します。

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1. 大気環境問題の歴史

現在、大気環境の問題は、温暖化と認識されています。しかし昔は、人間の健康被害にまで影響が及んでいました。大気環境問題の全体像を捉えるために、まずその歴史を振り返ります。

表1:大気環境問題の歴史(公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編、産業環境管理協会、2016年 から一部修正)
時期 事象、大気汚染物質 係争や被害などの例 対応・技術 主要な法律など
明治後半
〜昭和19年
(1890~1944年)
銅精錬排ガス煙害(SOx)
石炭火力発電排ガスばい煙汚染
セメント工場ダスト飛散など
被害者と企業間の係争
農作物被害
健康被害
工場の移転
企業の賠償
排煙処理装置設置
(硝酸とNi触媒による硫酸化など)
大阪府ばい煙防止規則
(1932年、戦争で効果を発揮出来ず)
終戦
〜昭和30年前半
(1945~1950年代後半)
工業復興による降下ばいじん
SOx大気汚染
健康被害 集じん機によるばいじん補収 東京・大阪による公害防止条例
昭和30年後半
(1960年代前半)
経済成長期に入り、石炭から石油への燃料転換
高硫黄重油の燃焼増によるSOx大気汚染
四日市石油工場排ガスによるぜんそく 灯油・軽油脱硫装置 ばい煙規制法(1962年)
昭和40年
〜昭和50年中盤
(1970年代)
昭和39年(オリンピック)以降
第1次、第2次オイルショック
高度経済成長時代、従来からのSOx大気汚染のみならず、NOxや揮発性炭化水素(VOC)による光化学オキシダント(光化学スモッグ)の発生
各地での各種呼吸器障害の発生の増大
四日市公害裁判(1967〜1972年)
眼の刺激や呼吸困難
公害国会(1970年)
環境庁発足(1971年)
排煙脱硫・脱硝装置設置
重油脱硫装置設置
電気集じん装置など
公害対策基本法(1967年)
大気汚染防止法
硫黄酸化物環境基準改定
公害健康被害補償法
硫黄酸化物総量規制
公害防止条例(地方自治体)
公害防止協定(地方自治体)
昭和50年中盤
〜平成10年前半
(1970年代後半
~2000年前半)
自動車排気ガスによるVOC、NOx、鉛化合物、浮遊粒子状物質(SPM)などによる大気汚染
公害対策から環境保全に変化
オゾン層破壊
呼吸器障害
国会討議など
エンジン調整
自動車排ガス触媒
自動車排ガス再循環
無鉛ガソリン
ガソリン、ディーゼル軽油の超低硫黄およびガソリン高オクタン化
フロン生産停止
冷媒非フロン化 
自動車排ガス規制
自動車NOx・PM法
環境基本法(1993年)
オゾン層保護法(1988年) 
平成〜現在
(1990年後半~)
地球気候変動
ダイオキシン
アスベスト健康被害 
がんなどの健康被害発生や懸念
アスベスト訴訟 
プラスチック高温焼却
アスベスト不使用 
ダイオキシン類対策特別措置法(1991年)

第二次世界大戦以前
日本において、大気汚染が社会的問題としてクローズアップされたのは、明治後半から大正(1890~1925年ごろ)にかけてです。金属産業などから、硫黄酸化物を含むガスが排出され、煙害が発生しました。当時の大気汚染対策は、今とは違い、問題が表面化してから、対策が講じられていました。具体的には、問題を発生させた事業者が、技術開発を行い、被害の補償をしました。

最も有名なのは、愛媛県別子銅山の煙害問題です。精錬能力を上げるために、別子山中から新居浜の沿岸部に移設された精錬所において、明治20年半ば(1890年ごろ)に亜硫酸ガスによる農作物の被害をめぐり、近隣農民との紛争が起きました。この時、精錬所の無人島移転や、賠償金の支払い、産銅量を制限する協定が結ばれました。また、昭和2年(1927年)にドイツから技術導入を行い、独自の開発も加えて、煙害対策の実用装置を完成させました。これにより、実害を伴う煙害は見られなくなりました。(参照:住友金属鉱山ウェブサイト環境再生保全機構ウェブサイト)また、茨城県日立鉱山でも煙害問題が発生し、企業は地元の人々へ補償を行うとともに、亜硫酸ガスを大気へ拡散させるため、156mの大煙突を325mの山の上に建てました。(参照:環境再生保全機構ウェブサイト)これらの事例は、企業が苦心し、自らの意志で大気環境問題に向き合ったことを示しています。

第二次世界大戦以降
第二次世界大戦以降(1945年以降)は、戦後復興と高度経済成長により、大気汚染の問題が深刻化しました。国会や政府、地方自治体が協力して法律を制定し、それに企業が対応することで、硫黄酸化物等固定排出源を中心とした大気汚染問題が次第に収まっていきました。ただ、光化学オキシダントや、微小粒子状物質(PM2.5)等移動発生源や、国を越えた問題と考えられる大気環境の問題は予断を許せない状況です。その状況を図1図2図3に示します。

図1:硫黄酸化物の年度平均値の推移

図1:硫黄酸化物の年度平均値の推移(環境庁環境統計集よりグラフ作成)

図2:光化学オキシダント注意報発令延日数の推移

図2:光化学オキシダント注意報発令延日数の推移(環境庁環境統計集よりグラフ作成)

図3:微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率

図3:微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率(環境庁環境統計集よりグラフ作成)

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2. 大気環境にまつわる法令

法規則における環境基準、排出基準
環境管理部門を除いた技術部門では、「排出基準」「構造・使用・管理基準」「作業基準」や「抑制基準」などを遵守しなければなりません。これらは、実施法である大気汚染防止法で規定されています。法体系としては、環境基本法で「人の健康を保護し、生活環境を保全する上で、維持されることが望ましい基準」として「環境基準」が設定されています。そして、「環境基準」を実現するための基準が「排出基準」などです。このような法体系のポイントを、物質ごとにまとめたものが図4になります。

図4:大気環境の環境基準や排出基準などの法規則体系

図4:大気環境の環境基準や排出基準などの法規則体系
二酸化硫黄SO2、硫黄酸化物SOx、一酸化炭素CO、浮遊粒子状物質SPM、NO2二酸化窒素、微小粒子状物質PM2.5、窒素酸化物NOx、揮発性有機化合物VOC

大気関係公害防止管理者の職務
大気関係公害防止管理者は、ばい煙発生施設などの運転や保全などの実務者で、公害防止に関する国家資格を必要とします。その業務は「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」において取り決められています。公害防止統括者の指揮統括の下で、燃料や原材料の硫黄分の検査、ばい煙発生施設の点検などの、公害防止に関する技術的業務を行います。具体的には次の業務です。

表2:大気関係公害防止管理者の業務
ばい煙発生施設設置工場 ・使用する燃料または原材料の検査
・ばい煙発生施設の点検
・ばい煙発生施設において発生するばい煙を処理するための施設、
 およびこれに付属する施設の操作、点検、補修
・ばい煙量、またばい煙濃度の測定の実施、結果の記録
・特定施設の事故時における応急の措置の実施
・ばい煙に係る緊急時、ばい煙量またばい煙濃度の減少、
 ばい煙発生施設の使用制限、必要な措置の実施
特定粉じん発生施設設置工場 ・使用する原材料の検査
・特定粉じん発生施設の点検
・特定粉じん発生施設から発生、または飛散する特定粉じんを処理するための施設、
 および付属する施設の操作、点検および補修
・特定粉じんの濃度測定の実施、および結果の記録
・測定機器の点検、および補修
一般粉じん発生施設設置工場 ・使用する原材料の検査
・一般粉じん発生施設の点検
・一般粉じん発生施設から発生し、また飛散する一般粉じんを処理するための施設、
 および付属施設の操作、点検および補修

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3. 大気汚染物質とその影響

大気環境問題の原因物質は、主に5種類あります。具体的には、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM2.5)、ダイオキシン類です。それぞれの人や環境に与える影響を説明します。

硫黄酸化物(SOx)
硫黄酸化物は、代表的な大気汚染物質です。主体は、二酸化硫黄SO2(亜硫酸ガス)と三酸化硫黄SO3(無水硫酸)です。人間が二酸化硫黄SO2を吸入すると、体内の水分と反応し硫酸となり、呼吸器疾患の原因になります。三酸化硫黄SO3は、硫酸ミストとも呼ばれ、有害な微小粒子状物質や酸性雨の主要な成分です。人の健康、農作物や森林などに大きな影響を与えます。

窒素酸化物(NOx)
窒素酸化物には一酸化窒素NOと二酸化窒素NO2があり、人体には、二酸化窒素NO2の方が悪影響を及ぼします。それは二酸化窒素NO2が人体の細胞膜を酸化させ、傷つけやすいからです。二酸化硫黄SO2に比べて、水に緩やかに溶けるため、気管支の末端から肺胞にかけて細胞膜を傷つけ、肺炎を起こしやすくなります。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編)

大気中の燃焼過程で、窒素が酸化し一酸化窒素NOが生成します。二酸化窒素NO2は、大気中の酸素により、一酸化窒素NOがさらに酸化され生成します。燃焼時に生成され、燃料に窒素を含む場合は、さらに多く生成されます。

また、二酸化窒素NO2は、不飽和の炭化水素など一緒に太陽光に当たると、光化学反応を起こし、オゾンO3やペルオキシアシルナイトレート(Peroxyacyl Nitrates、PAN)などの酸化力の強い物質、光化学オキシダントを生成します。

浮遊粒子状物質(SPM)
粒子径が10µm以下の粒子は、大気中でも浮遊することから、浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter、SPM)と呼ばれています。浮遊粒子状物質(SPM)は、人体の気道や肺胞に沈着することで、呼吸器系に健康影響を及ぼします。

微小粒子状物質(PM2.5)
大気中の粒子状物質(Particulate Matter、PM)の粒子分布は、2.0µmと0.1µm以下のところで、出現頻度の少なくなる3連の山形を示します。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編)疫学データが多く存在する2.5µm以下の微小粒子を、微小粒子状物質(PM2.5)と称し、浮遊粒子状物(SPM)と区別しています。

微小粒子状物質(PM2.5)には、硫酸塩や硝酸塩などが多く含まれています。これらは、自動車排気ガスなどに含まれる元素状炭素や金属化合物と、燃焼により発生したSO2やNO2が結合し、大気中で光化学反応を起こして生成されます。

PM2.5と心血管系への影響・死亡率との因果関係が、米国の調査で確認されています。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編)最近は中国からのPM2.5の飛来も観測されており、対策を講じるためには、国際的アプローチが重要といえます。

ダイオキシン類
ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(DL-PCB)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCB)の総称です。これらの物質の共通構造は、塩素で置換された2つのベンゼン環です。

ダイオキシン類の毒性は極めて強く、人体への影響は発がん性、生殖毒性、催奇形性、免疫毒性など多岐にわたります。(出典:公害防止の技術と法規編集委員会、新・公害防止の技術と法規 2016全編共通、大気編)ダイオキシン類は、塩素を含むプラスチックスの不完全燃焼で発生するケースが多く見られます。

今回は、大気環境問題の歴史、法令、大気汚染物質とその影響を解説しました。次回は、環境汚染対策のための技術について、詳しく見ていきます。お楽しみに!

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