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安全を保障する構造設計の考え方:航空機の安全対策の基礎知識1

航空機の安全対策の基礎知識

更新日:2021年3月18日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

航空機は高度な安全性が要求されるため、設計、開発、製造、運用の全ての段階で、細心の取り組みがなされます。しかし、それでも完全に事故をなくすことは困難です。1911年にイギリスで発行された航空雑誌「フライト」には、「友の不幸は人生最大の教訓という言葉があるが、不幸にも航空においてそれは事実である」と書かれています。事故から教訓を学ばなければならないのは、現在でも変わることがありません。本連載では6回にわたり、航空機の安全確保のための基礎知識を紹介します。今回は、世界初のジェット旅客機コメットの事故を例に、構造設計の考え方を説明します。

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1. ジェット旅客機コメットの悲劇

第2次世界大戦後、航空業界は、民間旅客輸送の本格的再開に向けて激しく競い合いました。ジェット時代の幕開けです。アメリカやヨーロッパがジェットエンジンによる音速飛行を競い合った様子は、映画「アラビアのロレンス」のデビッド・リーン監督による「超音ジェット機」(原題:The Sound Barrier)の題材にもなっています。映画では、ジェット機による超音速飛行に執念を燃やす航空機会社の社長と、夫を試験飛行中の事故で失う社長の娘との葛藤が描かれています。

映画には、光り輝く最新のジェット旅客機コメットも登場します(図1)。ジェットエンジンのパイオニアであるイギリスが、世界に先駆けて開発した最新鋭機です。イギリスのデハビランド社が、自社製のジェットエンジン、ゴーストを2基搭載して開発し、大気の乱れのない成層圏を高速で飛行しました(旅客機のため、音速を超える飛行はしません)。1949年、初飛行に成功し、1952年には就航を開始しています。南回りで、ヒースロー空港と羽田空港を結ぶ航路も存在しました。

図1:世界初のジェット旅客機コメット

図1:世界初のジェット旅客機コメット(引用:Wikipedia、https://commons.wikimedia.org/wiki/File:BOAC_Comet_1952_Entebbe.jpg)

ところが、就航開始から間もない1954年1月に、ローマの国際空港を離陸したコメット機が消息不明になりました。その後、地中海上空で空中分解により、海上に墜落したことが判明します(図2)。乗員乗客35名全員が死亡するという悲惨な事故になりました。コメット機は直ちに運航停止となり、イギリス海軍のサルベージ船により、機体部品の多くが回収され、原因調査が始まりました。決定的な原因は不明であったものの、燃料系統などに60もの対策がなされ、同年3月23日、イギリス当局は就航の再開を認めました。

図2:地中海から回収された部品で組み立てられたコメット

図2:地中海から回収された部品で組み立てられたコメット(引用:コメット事故調査報告書、1955)

しかし、再び悲劇が襲いました。その2週間後の4月8日に、同じローマの国際空港を離陸した南アフリカ航空のコメット機が、地中海上で謎の空中分解を起こし、乗員乗客21名が犠牲となりました。イギリス政府は、同機の型式証明をはく奪し、国の威信をかけ、本格的な事故調査に乗り出しました。

民間航空機は、機体の開発国が、国連の専門機関であるICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)が定めたシカゴ条約にのっとり、自国の企業が開発した機体に型式証明を発行します。また、その機体を運航する運航国も、導入時に型式証明を発行し、その型式の安全性を認めます。さらに、車検のように、個々の機体に耐空証明を発行した上で利用が可能となります。コメットも、当然そうした証明を受けてはいたものの、安全性が覆されたため、証明がはく奪されたのです。

2. 事故原因は?

コメットは、気圧の低い成層圏を飛行するため、巡航中は客席内が加圧され、離着陸時には加圧がなくなります。そのため、離着陸を繰り返すごとに加圧が繰り返され、胴体外板には金属疲労が発生します。デハビランド社は、そのための疲労試験も実施し、想定される飛行回数を超えた5万4千回の加圧でも、金属疲労による破壊が起きないことを確認していました。空中分解を起こした両機の離着陸回数は、3,060回と900回にすぎず、金属疲労が原因とは考えにくいものでした。

ただし、この試験は胴体全体ではなく、胴体一部のセクションで行われていました。そこで、胴体全体を水没させる巨大な水槽を建造し、胴体の内も外も水没させ、内部の水圧を増減する疲労試験が、急きょ行われました(図3)。

図3:コメットの水槽を用いた疲労試験

図3:コメットの水槽を用いた疲労試験(引用:コメット事故調査報告書、1955年)

短時間で加減圧を行う加速試験を日夜実施したところ、試験開始2週間半後の6月24日、1,830回目の加圧で、胴体窓枠から亀裂が発生しました。加圧中の亀裂は、胴体破壊をもたらしかねません。

8月12日には、サルベージにより回収された部品からも、金属疲労による空中分解を裏付ける結果が見つかりました。胴体上面のアンテナ取り付け用開口部に、金属疲労による亀裂があり、これが胴体の空中分解の原因として有力視されました。

3. 金属疲労が起きないことを保証するセーフライフ構造とは

セーフライフとは、目標の設計寿命以内において、疲労などにより致命的な故障が生じないようにする設計思想をいいます。金属が繰り返して荷重を受けると、強度が低下し破断に至ることが、金属疲労として知られています。鉄鋼系材料の場合、百万回から千万回、繰り返し荷重をかけたところで、破断応力が低下しなくなる疲労限界が存在します。そのため、十分に頑強な構造にすれば、疲労破壊を免れることができます。航空機の脚柱などには、そのようなセーフライフ(安全寿命)設計がなされています。

ところが、胴体外板など、主要な航空機部材には、ジュラルミンと呼ばれる軽量なアルミ合金が多用されます。アルミ合金には、疲労限界が存在せず、小さな応力でも繰り返しにより、必ず疲労破壊が発生します。そのため、セーフライフにするには、設計寿命を定め、その間の繰り返し負荷によって疲労破壊が起きないことを保証しなくてはなりません。

コメットの開発でも、当然そうした疲労試験は行われていました。しかし、試験方法に不備がありました。前述のように、胴体全体の試験でなかったことに加え、試験部位に、想定される2倍の内圧に耐えることを確認した後に、疲労試験が実施されました。このため、窓枠の周囲など大きな応力が受ける部分が伸びきってしまい(塑性変形)、疲労による破壊が起きなくなっていたのです。

コメットは世界初のジェット旅客機であり、当時は適切な試験方法が確立されていなかったといえます。現在でも、旅客機の開発では、胴体全体での疲労試験は実施されます。日本では、戦後初の旅客機YS-11(初飛行1962年)には水槽での試験が行われました。また、現在も開発中の三菱スペースジェット(初飛行2015年)には、不燃ガスでの加圧による試験が実施されています。

4. その後の対策「亀裂が入っても空中分解しない」フェールセーフ構造

フェールセーフとは、故障や誤作動時に安全に制御するという設計思想をいいます。コメットは徹底した設計変更を経て、1958年にコメット4型として生まれ変わりました。応力集中を極力避けるため、窓枠が丸くなったことで、旧型と見分けられます。コメット4型は、ロンドン、ニューヨーク間の定期運航にジェット旅客機として初就航し、面目を保ったものの、直後に就航を開始した、より大型のボーイング707や、ダグラスDC-8に市場を奪われることになりました。

コメットの事故は、旅客機の胴体設計にも大きな影響を与えました。たとえ、胴体に亀裂が入ったとしても、いきなり空中分解に至らないように、胴体壁には亀裂の進展を止める金属テープを接着する方式も考案されました。これは、フェールセーフの考え方で、部品が壊れても安全を維持する構造設計にも、フェールセーフという言葉は使われます。金属テープの効果を確認するために、胴体壁に斧(おの)を落下させても胴体が破壊しないことを確認するギロチン試験も考案されました(図4)。

図4:ギロチンテスト(NASA CP-3160)と外壁部の亀裂の進展を止める金属テープ(Tear Strap)

図4:ギロチンテスト(NASA CP-3160)と外壁部の亀裂の進展を止める金属テープ(Tear Strap)

5. 「亀裂を点検によって発見する」というダメージトレランス構造

ダメージトレランスとは、亀裂の存在を許容し、定期検査によって、構造の亀裂を発見、修理することをいいます。定期検査の期間内に、小さな亀裂が深刻な大きさにならないことを証明することが求められます。もちろん、定期検査が適切に実施されることが前提にあります。1970年代に長期間飛行したジェット機から、フェールセーフ構造であっても、亀裂が深刻に発生する事象が発見され、適切な検査によって亀裂の発生を検出する必要性が指摘されました。これを踏まえて、アメリカの連邦航空局は1978年に、損傷許容(ダメージトレランス)設計という考え方を制定しました。

いかがでしたか? 今回は、コメットの空中分解事故を契機に、構造設計の方法が確立されていく過程を紹介しました。また、セーフライフ、フェールセーフ、ダメージトレランスという構造設計の考え方を説明しました。これらは、構造設計だけではなく、設計における安全性確保の基本的な考え方でもあります。身近にも適用例があるか探してみてください。次回は、高度な自動操縦を備えた旅客機が、一つのランプ切れで墜落した謎めいた事故を取り上げます。お楽しみに!

参考文献
鈴木真二、落ちない飛行機への挑戦:航空機事故ゼロの未来へ、化学同人、2014
JAL、航空実用辞典、損傷許容設計、http://www.jal.com/ja/jiten/dict/p103.html

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