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細部に潜むのは神か悪魔か:航空機の安全対策の基礎知識4

航空機の安全対策の基礎知識

更新日:2021年7月1日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、自然の驚異に対する航空機の安全対策への考え方を紹介しました。今回は、わずかな部品の整備不足が航空機の操縦不能を引き起こし、太平洋に墜落した事故を取り上げ、安全を維持する基本的原則を検証します。100万点もの部品から成る航空機に対して、航空業界はどのようにして、高度な安全性や信頼性を実現しているのでしょうか?

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1. 操縦不能で急降下した航空機

パイロット役のデンゼル・ワシントンが熱演した2012年公開のハリウッド映画「フライト」を見たことがあるでしょうか? 映画は見ていなくても、反転した旅客機が地上すれすれで飛行する映画のテレビCMは記憶に残っているかもしれません。飛行中に操縦不能になった機体が急降下し、墜落寸前でパイロットが機体を反転させ、緊急に胴体着陸させるシーンが圧巻です。巧みな操縦で最悪の事態から多くの乗客を救ったパイロットはヒーローとなります。しかし、実は彼はコカイン中毒であることが判明し、事態が急変する・・・そんな映画でした。

この映画は、実際の航空機事故をヒントにしたといわれています。2000年1月31日、太平洋に墜落したアラスカ航空261便の事故です。マクドネル・ダグラスMD-83として運航していたアラスカ航空261便は、メキシコのプエルト・ヴァリャルタ国際空港を出発し、サンフランシスコ経由でシアトルに向かっていました。離陸上昇中から上昇降下の操縦を自動化するオートパイロットが不調であったものの、すぐに引き返すようにはマニュアルには設定されていませんでした。

離陸直後は搭載燃料が多く、重量が着陸重量を超過するため、海上で燃料を投下する装置が搭載されている機体もあります。しかし、この機体にはそうした装置がなく、乗員は手動操縦で飛行を継続することを選択しました。途中でオートパイロットが再び稼働し始めました。しかしながら、不調であることは明らかで、機長は調子を確認するために、再び手動操縦に切り替えることにしました。

MD-83型機はエンジンを胴体後部に持つため、水平尾翼は垂直尾翼の上部に備えられています(図1)。水平尾翼は、機体の姿勢角(ピッチ角)を変化させるために重要な尾翼です。これにより、機体を上昇降下させます。MD-83型機の場合、水平尾翼の後部にある昇降舵をパイロットが操縦輪で操作するとともに、水平尾翼全体の角度を電動モータにより自動、または手動で変化させ、尾翼にかかる揚力をコントロールすることでピッチ角を変化させます。

図1:MD-83型機の水平尾翼可動機構(参考:Aircraft Accident Report(事故調査報告書)P.13に加筆

図1:MD-83型機の水平尾翼可動機構
  (参考:Aircraft Accident Report(事故調査報告書)P.13に加筆

オートパイロットは、この電動モータをコンピュータの指令によって操作します。電動モータには、主と副の2系統があり、ジャッキスクリューを回転させることで、下部のナット部とのかみ合わせにより水平尾翼の前端を上下させます。アラスカ航空261便は、スクリューとナットのかみ合わせに問題があり、オートパイロットによる水平尾翼の角度変更がスムーズに行えませんでした。

スクリューとナットは、ついには固着してしまいます。手動で無理に主と副の電動モータを同時回転させた結果、スクリューの下端にある固定機構までが破損し、水平尾翼は前縁を大きく上げた位置まで動いてしまいました。この結果、水平尾翼に大きな揚力が発生することになり、機体は降下を開始します(図2)。そして、途中で裏返し姿勢となり、制御不能のまま午後4時21分頃、太平洋上に墜落しました。映画「フライト」とは異なり、乗員5名、乗客83名の計88名全員が犠牲になったのです。

図2:アラスカ航空261便の飛行再現アニメーション(引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Alaska_Airlines_Flight_261)

図2:アラスカ航空261便の飛行再現アニメーション
  (引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Alaska_Airlines_Flight_261

2. 事故の原因はスクリューの潤滑グリース切れ

アラスカ航空261便が太平洋上に墜落後、無人の捜索潜水艇が利用され、ブラックボックスと呼ばれるフライトデータレコーダーや、コックピットボイスレコーダーを含む機体の大部分が回収され、事故調査が開始されました。調査の結果、水平尾翼の角度を変更するためのジャッキスクリューに潤滑グリースが存在せず、スクリューとかみ合うナットが削り取られ、ワイヤ状にスクリューに絡みついているのが見つかりました(図3)。スクリューの潤滑がなくなり、ナットとのかみ合いが固くなった状態で、本来同時に使うことのない主と副の電動モータが同時にスクリューを回転させたため、スクリューの上昇を固定するストッパーまで破壊され、その結果、水平尾翼先端が大きく浮かび上がったのでした。

図3:回収された潤滑グリースがないジャッキスクリュー(引用:Aircraft Accident Report(事故調査報告書)P.60

図3:回収された潤滑グリースがないジャッキスクリュー
  (引用:Aircraft Accident Report(事故調査報告書)P.60

問題は、潤滑グリース切れがなぜ起きたかという点でした。アラスカ航空の整備点検作業において、潤滑グリースが十分に塗布されなかったのではと疑われました。実際、アラスカ航空は、この部分の整備点検期間を延長することを連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)に申請し、FAAもこれを認めていました。また、事故調査委員会は、整備にかけた時間が十分ではなかったことも突き止めました。さらには、アラスカ航空の整備士として働いていた者が、こうした整備の不備をFAAへ告発していた実態も明らかになりました。

こうしたずさんな整備の背景には、1990年代にアラスカ航空の経営が厳しくなり、整備にかける経費を切り詰めていたという問題がありました。このような安全に対する会社内部の管理に関しては別の機会に話題としたいと思います。ここでは純粋に、技術的な課題に関して話を進めます。

3. 信頼性を評価するルッサーの法則

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4. システムの信頼性を保証する設計ツールFTA、FMEA

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5. 日ごろの業務や生活でも心がけたいルッサーの法則

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