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最新鋭機の連続墜落事故から何を学ぶのか :航空機の安全対策の基礎知識6

航空機の安全対策の基礎知識

更新日:2021年11月5日
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、航空機の複雑化するシステムの安全維持に対する取り組みを紹介しました。今回は最終回です。これまで、航空機の安全対策について、機械としての成熟度、人の判断や行動の課題、環境の影響、複雑化するシステム、および組織管理の視点から説明しました。しかし、これらの対策が進んだ現代においても、航空機の事故はゼロではありません。さらなる安全性を目指して、どのような取り組みが必要なのでしょうか? 今回は、国際的な安全制度のルール作りを解説します。

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1. ボーイング最新鋭機の連続墜落事故

ボーイング社の最新鋭機737MAXが、半年の間に2回の墜落事故を起こしたことは記憶に新しいと思います。1回目は、就航後17か月の2018年10月29日、インドネシアのジャワ海でライオン・エア610便が離陸後約10分で墜落し、乗客乗員189名全員が死亡しました(ライオン・エア610便墜落事故)。2回目は、その4か月半後の2019年3月10日です。エチオピアのアディスアベバ、ボレ国際空港より離陸したエチオピア航空302便が離陸後約6分で墜落し、乗客乗員157名全員が死亡しました(エチオピア航空302便墜落事故)。

2度の墜落事故により、各国から737MAXの運航停止命令が続きました。製造国であるアメリカは、2019年3月13日に運航停止を決定し、3月14日には300機を超える同型機が全世界で運航停止となりました。全世界で運航停止に至ったのは、2013年、バッテリトラブルによるボーイング787以来です。ただし、787は就航直後でした。

それに比較し、就航中の737MAXが300機以上運航停止になったことは、航空業界に大きな衝撃を与えました。なお、日本では、ANAが737MAXを導入する予定でした。しかし、引き渡しには至っていませんでした。

2. 737MAXはどんな機体

ボーイング737はボーイング社で最も製造機数が多く、1967年の初飛行以来、シリーズ全体で1万機以上が製造されました(図1)。民間旅客機史上のベストセラー機といえます。では、ボーイング737の最新鋭機だった737MAXとは、どのような機体なのでしょうか?

図1:ボーイング 737-9 MAX(2017年)

図1:ボーイング 737-9 MAX(2017年)

ボーイング社のライバルであるエアバス社は、737の対抗機としてA320を開発し、1987年に初飛行を成功させました。開発が20年も新しいA320は、スティックによる操縦方式を採用するなど意欲的な機体が特徴でした。筆者は、737とA320の訓練用フライトシミュレーターを乗り比べた経験があります。737のコックピットは武骨なジープ、A320は最新スポーツカーと、両者の印象はかなり異なっていたことを覚えています。

737とA320は、世界中のエアラインに対して激しい受注競争が行われました。その中で、エアバス社は2000年代半ばに、燃費性能を向上させるために、バイパス比の大きな新型ジェットエンジンLEAP-1A、またはPW1100G-JMへの載せ替えを検討しました。2014年9月には、A320neo(new engine option)として初飛行させ、2016年1月に就航が開始されました。バイパス比を高めるとは、ジェットエンジン前面のファンを大型化することで燃費のみならず騒音低減を実現する、ジェットエンジンメーカーが競って採用する技術です。

こうしたエアバス社の動向に、ボーイング社は対抗措置として、燃費向上のために新エンジンの採用を検討しました。結果的には、A320neoよりもバイパス比の低いLEAP-1Bが採用になりました。

737がA320と同じエンジンを採用できないのは、737の主翼と地面とのクリアランスがA320よりも短いためです。両機は共に、主翼にエンジンをつり下げる様式です。エンジンと地面とのクリアランスは、地上の落下物の吸い込み、および離着陸時に機体が傾いた場合のエンジンと地面の接触などにより規定されています。そのため、737は、1997年より製造が開始された737-300から始まる第2世代機においてバイパス比の大きなエンジンを採用する際に、エンジンナセルの下部を平たんにしたおむすび型エンジンナセルを採用しました(図2)。

図2:737-300の「おむすび型」エンジンナセル(出典:NASA)

図2:737-300の「おむすび型」エンジンナセル(出典:NASA)

737MAXの開発に当たり、エンジンナセルの工夫だけでは、もはやバイパス比の増加には対処できなくなりました。バイパス比とは、ターボファンエンジンにおける、バイパス流と燃焼室に流れる空気の比をいい、この数値が高いほど、ターボファンとしての特徴が顕著になります。ボーイング社は、脚を延長するとともに、エンジンナセルを主翼の前方に移動させ、地上高を確保する方針を採用しました。

このエンジン位置の変更により、機首を上げると、さらに機首上げの挙動を示すことが指摘されました。極端な機首上げは失速を招くので、避けなければなりません。そこで、機体に対する気流の角度(迎角)を検出する迎角センサを搭載し、大きな機首上げを検知した際に、水平安定板(水平尾翼)を機首下げ方向に自動で操作するMCAS(操縦性向上システム:Maneuvering Characteristics Augmentation System)を導入することになりました(図3)。こうして737MAXは、2016年1月に初飛行しました。初号機の納入は、A320neoより1年4か月遅れの2017年5月でした。

図3:737MAXのMCAS(操縦性向上システム)(ライオン・エア610便墜落事故の事故調査報告書に筆者が追記)

図3:737MAXのMCAS(操縦性向上システム)(ライオン・エア610便墜落事故の事故調査報告書に筆者が追記)

3. 737MAX事故はなぜ起きたー機体の安全認証との関係

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

4. 新たな安全認証制度への模索

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

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