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燃費向上のための技術革新:カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)3

カーボンニュートラルの基礎知識(航空分野編)

更新日:2022年6月23日(初回投稿)
著者:東京大学名誉教授 未来ビジョンセンター 特任教授 鈴木 真二

前回は、航空機の燃費改善における基本的方針を説明しました。それは、軽量化、空力抵抗の削減、エンジンの燃費向上、無駄のない飛行方法など、自動車などの輸送機械と基本的には同様の設計技術、運行技術であり、さらにCO2排出の少ないジェット燃料も開発が進められています。今回は、これまでの航空技術の変遷を振り返ることで、燃費改善の主要な技術課題に関してより理解を深めることとしたいと思います。空を飛ぶという過酷な要求に応えるべく、その技術の発達はイノベーションの連鎖であったといえます。

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1. 第一の技術革新:翼型の発明

図1に、航空技術革新の変遷として、航空機の機体、エンジン、翼形状の変遷を示します。本文中に登場する航空技術は、図1に掲載されています。適宜参照してください。

図1:航空技術革新の変遷

図1:航空技術革新の変遷

第一の技術革新は、翼型の発明です。主に翼の厚さと形状の変化が挙げられます。

・薄い翼

初期の航空機は、ライト兄弟のフライヤー号のように、木製のフレームに布を張った薄い翼を用いていました。初期の技術者は鳥の翼を参考にしていたので、翼を薄くする必要があると考えていたためです。しかし、薄い翼は空気の圧力を受け、揚力が発生すると容易にたわんでしまいます。そのため、2枚の翼を上下に配置し、立体フレーム構造にする必要がありました。翼を1枚とした場合でさえ、胴体にポールを立て、針金で翼を支える必要がありました。2枚にした場合は、こうした支柱や針金は、さらなる空気抵抗の増加をもたらす障害となっていました。

・厚い翼

現在のような厚みのある翼は、第1次世界大戦中にドイツで生まれました。ゲッティンゲン翼型は厚みがあり、フォッカー戦闘機などに採用されました。

鳥が薄い翼を持つのに対して、航空機が厚みのある翼を用いるのは、飛行時のレイノルズ数の違いが関係しています。レイノルズ数とは、飛行速度と飛行体の寸法の積を流体の動粘性係数で割った値です。値が小さいほど、飛行体は流体の粘性効果を受けることになります。

航空機が大きくなり、飛行速度が増加するということは、鳥のように空気の粘性の影響を受けなくなることを意味します。粘性の影響を強く受ける昆虫や鳥は、薄い翼を用いた方が空気抵抗を小さくできます。しかし、航空機のように粘性の影響が弱い場合、薄い翼では、流れに対する角度(迎え角)を大きくすると、流れが翼から剥がれてしまい失速が起きやすくなります。失速が起きると、揚力は急に低下してしまいます。すると、航空機は急激に高度を失い、危険な状態になります。

厚い翼を採用すると、1枚の翼で揚力による荷重に耐えることができ、支柱や張線(ワイヤ)を必要とする複葉(主翼が上下に2枚)よりも機体の空気抵抗を軽減することができます。ドイツのユンカース社が1919年に初飛行させた世界初の全金属製旅客機F13は、厚みのある翼を採用することで、単翼の機体として近代的なスタイルを実現しました。

ユンカース社の創業者であるフーゴ・ユンカース(ドイツ:1859-1935)は、アーヘン工科大学の教授時代に、理想の航空機は、主翼だけで機体を構成する全翼機であると考え、図2のような特許を出願しました。彼は、主翼内部にエンジンや操縦席客席を収納すれば、尾翼や胴体をなくすことができ、軽量化と空気抵抗の軽減が可能であると主張しました。こうした機体を設計するには、当然、厚みのある翼型を使うことになります。ユンカースは、実際に風洞実験(人工的に風を発生させ、実際の流れ場を再現し観測すること)を行い、意外にも厚みのある翼が、薄い翼よりも優れた空力特性を持つことを発見しました。これが、厚みのある翼型の利用につながったと考えられます。

図2:ユンカースの全翼機特許

図2:ユンカースの全翼機特許(引用:Monash University ,Index of hargrave images

・層流翼の出現

1930年代後半から第2次世界大戦が勃発し、航空機の飛行速度は飛躍的に増加します。1940年代には、先端のとがった翼型が出現しました。空気抵抗は速度の2乗で増加するため、飛行速度が増加すると空気抵抗を減らすことがさらに重要になります。こうした背景から開発されたのが、先端のとがった層流翼と呼ばれる翼型です。

流れには、層流と乱流があります。たばこの煙を吐き出すと、最初、煙はまっすぐに上昇し、途中からもやもやと乱れます。前者が層流、後者が乱流です。層流の方が空気抵抗は小さく、流れがスムーズです。翼面上の流れを、できる限り長く層流に維持できれば、空気抵抗を小さくできます。このように、特殊な形状の翼型を持つ層流翼が、1940年代に開発されました。

層流翼は、先端がとがっていて、翼型の中ごろで厚みが最大になります。この形状は、マグロの胴体に似ています。高速回流魚であるマグロは、水の抵抗を最小化できる体型を自然に身に付けたのでしょう。航空研究者が、複雑な計算と綿密な実験の結果から求めた形が、マグロの体型だったというのは興味深いことです。

ただし、層流翼は、風洞試験では優秀な性能を示したものの、製造時に翼表面に突起ができ、また使用中に汚れが付着するなど、実際には能書きほどの性能は出ていなかったと考えられます。層流翼が威力を発揮したのは、飛行速度がさらに上昇し、音速に近づいた第2次世界大戦後のことです。音速に近づくと衝撃波が発生し、空気抵抗がさらに急増します。いわゆる音の壁の出現です。層流翼の独特な形状は、衝撃波の発生を弱める効果もあり、音速に近い速度で飛行する現代の旅客機にも採用されています。

2. 第二の技術革新:材料の革新

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

3. 第三の技術革新:ジェットエンジン

続きは、保管用PDFに掲載中。ぜひ、下記よりダウンロードして、ご覧ください。

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