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アメリカの脱炭素化戦略:脱炭素化の基礎知識4

脱炭素化の基礎知識

更新日:2021年8月25日(初回投稿)
著者:東京大学 教養学部 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

前回は、中国の脱炭素化戦略について解説しました。今回は、アメリカの脱炭素化戦略を紹介します。アメリカは、世界第2位の二酸化炭素排出国(中国の28.2%に次ぐ14.5%)です(第3回図1)。それでも、地球温暖化(気候変動)をはじめとする環境分野では、各種の先進的な技術開発や取り組みを進めています。ジョー・バイデン大統領は、2021年1月20日の就任初日、トランプ前政権が離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」復帰に関わる大統領令に署名し、2月19日には復帰を果たしています。さらに4月22、23日にアメリカが主催した「気候変動サミット(Leaders’ Summit on Climate)」では、2030年の温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出削減について、野心的な目標を打ち出しました。

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1. GHG排出量2040年までに50~52%削減(2005年比)

バイデン大統領(図1)は、気候変動サミットにおいて、2030年までにアメリカの温室効果ガス排出量を2005年の水準から50~52%削減すると宣言しました。オバマ元大統領が掲げていた公約は「2025年までに2005年比26~28%減」であり、それと比較しても大幅な削減目標のアップとなりました。バイデン政権は、地球温暖化対策を国家の最重要課題と位置付け、遅くとも2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指しています。

図1:ジョー・バイデン大統領

気候変動サミット1週間前の4月16日、バイデン大統領は菅首相とワシントンで日米首脳会談を行いました。そこで、日本とアメリカが目指す2030年の温室効果ガス排出削減に向けて、「気候変動に関するパートナーシップ協定(U.S-Japan Climate Partnership on Ambition, Decarbonization, and Clean Energy)」を締結しました。両国のイノベーション(技術革新)を促進し、再生可能エネルギー(再エネ)や水素、高性能蓄電池、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)、カーボンリサイクル(CO2排出量を減らすため、CO2を炭素資源として回収し、多様な炭素化合物として再利用すること)などの技術開発への協力を約束しています(参考:The White House, U.S-Japan Climate Partnership on Ambition, Decarbonization, and Clean Energy, April 2021)。

バイデン政権の主な脱炭素戦略として、以下の3つのことが挙げられます。バイデン大統領は、アメリカの技術イノベーション対策を強化し、地球温暖化対策で世界をリードしていくことを表明しています。

・2035年までに電力部門からCO2排出を実質ゼロ
・2035年までに建築物のCO2排出量を半減
・2030年までに新車(乗用車と小型トラック)の半数以上をEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)

アメリカで排出される温室効果ガス(GHG)のうち輸送部門が占める割合は28%で、そのうち乗用車と小型トラックの排出量が59%(2018年)を占めています。バイデン大統領は、8月5日、燃費の新たな基準値を制定することにより2030年までに新車の50%以上をEV、FCVとする大統領令を発令しました。大統領令による目標を達成すれば、2030年に販売される新車からのGHG排出量を2020年比60%以上削減できるとしています。

2. 電力部門は2035年CO2排出実質ゼロ

アメリカの発電電力量に占める電源割合(2018年)は、石炭火力28%、天然ガス火力34%、石油火力1%、原子力19%、水力7%、再エネ(水力以外)11%で、石炭や天然ガスなどの火力発電が約6割を占めています。EIA(エネルギー省エネルギー情報局)が発表した電源別の発電量の推移を見ると、1990年から2020年の30年間で風力発電と太陽光発電の発電量は増加しています(図2)。

図2:アメリカの電源別発電量の推移(1990-2020年)(参考:EIA/U.S. Energy Information Administrationのデータをもとに筆者加筆)

図2:アメリカの電源別発電量の推移(1990-2020年)(参考:EIA/U.S. Energy Information Administrationのデータをもとに筆者加筆)

また、2000年代以降、今まで困難であった頁岩(けつがん:シェール)層からの石油や天然ガスや石油の採掘が可能になったことで、アメリカのエネルギー産業や世界のエネルギー市場に大きな影響をもたらしました(シェール革命)。そのため、発電分野で石炭から天然ガスへの燃料シフト(転換)も進み、温室効果ガスの削減が見込まれています。しかし、2035年までに電力部門のCO2排出実質ゼロを目指すためには、さらに脱炭素化を加速する必要があります。

バイデン政権は、2035年までに発電を炭素フリーにするため、再エネや大型蓄電池といったエネルギー貯蔵技術の導入拡大を進める方針です。その一方で、化石燃料に対しては規制を強化していく見通しです。また、石油・ガス開発に使われる連邦所有地のリース契約を一時停止するなどの見直しを行っており、化石燃料への補助金の削減や化石燃料の使用に罰則を盛り込む法案も検討しています。

雇用回復を重視するバイデン大統領は、積極的なインフラ投資によって成長戦略を実現していきたい考えです。バイデン大統領は、5月28日、2022会計年度(21年10月~22年9月)の予算教書を公表し、歳出規模は戦後最大の6兆110億ドル(約660兆円)を連邦議会に求めました。8月10日には、総額1.2兆ドル(約130兆円)規模のインフラ投資計画法案が議会上院で賛成多数で可決しました。法案は、連邦予算から今後5年間で新規のインフラ投資に約5,500億円分が充てられます。道路や橋に1,100億ドル、旅客および貨物鉄道に660億ドル、電力供給網に650億ドル、高速インターネット網に650億ドル、EV(電気自動車)用充電設備に75億ドルの整備に投資します。

今回の法案は、バイデン大統領が3月末に発表した2兆ドル(約220兆円)規模のインフラ投資計画を修正したもので、調整に4カ月以上かかりました。上院は与野党の勢力が50議席ずつで伯仲していますが、野党共和党の一部議員が支持に回り、インフラ投資は実現に向けて前進しました。可決された法案では、気候変動関連のインフラ投資予算は当初案より減額され、老朽化した道路や橋などのインフラ整備への配分が大きくなっています。また、インフラ投資の財源として掲げていた法人税引き上げ案も除外されました。今後、与党民主党が過半数を占める下院での審議に移ります。下院でも可決して成立すれば、連邦政府のインフラ投資として過去数十年間で最大規模となります。

アメリカの労働省が発表した7月の雇用統計では、就業者数の伸びは事前の予想を上回り前月から94万3,000人増えました。失業率は5.4%と前月から0.5ポイント改善しました。新型コロナウイルスワクチンの普及による経済活動の再開で堅調な雇用回復となっています。上記のインフラ投資計画は、数百万人の雇用拡大を図り、急回復する経済を長期的な好景気につなげたいという思惑があります。

3. イノベーションへの積極的な支援

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