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デジタルトランスフォーメーション(DX)とは:デジタルトランスフォーメーション(DX)の基礎知識1

デジタルトランスフォーメーション(DX)の基礎知識

更新日:2021年4月7日(初回投稿)
著者:一橋大学 イノベーション研究センター 教授 市川 類

近年、日本の国内外において、デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心が高まっています。本連載では、全6回にわたり、DXの基礎知識を解説します。第1回は、DXの定義、これまでのIT投資との違い、およびDXに関わる取り組みの必要性について解説します。

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1. DXの定義と推進の経緯

DXの概念は、2004年に、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したといわれています。ただし、当時の同氏によるDXの定義は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」こととしており、かなり曖昧なものでした。

その後、グローバルなIT系調査会社や、各国のコンサルティング企業などが、それぞれの観点から、独自にDXの定義を行い、推進を支援してきました。そのため、DXには、必ずしも明確な定義はありません。実際、識者によって、DXという用語が対象とする範囲は、若干異なるように見受けられます。

ただし、国内では、経済産業省が示した定義が広く共有されています。経産省は、2018年12月にまとめたDX推進ガイドラインにおいて、以下のように、DXを定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

この定義から読み取れるように、DXとは、データやデジタル技術を活用することによる、競争上の優位を確立するための活動の一つです。それだけではなく、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を前提とすること、また、業務そのもの、組織、プロセス、企業文化・風土の変革を求めていることも特徴に挙げられます。図1に、DXのポイントを整理して示します。

図1:デジタルトランスフォーメーション(DX)のポイント

図1:デジタルトランスフォーメーション(DX)のポイント

ここでいうビジネスモデルとは、製品やサービスによって顧客価値を創出、提供する仕組みのことです。それを継続的に実現するための一連の手続きや工程が、ビジネスプロセス(事業プロセス、業務プロセス)です。そのため、ビジネスモデルの変革には、ビジネスプロセスの変革を伴います。

本稿では、経産省の定義をベースとしつつ、ビジネスモデルの変革を引き起こすようなビジネスプロセス全体の変革を伴うものも、DXの対象として取り上げます。

2. 従来のIT投資との違いとDXに関心が高まっている背景

DXは、これまでのIT投資とは、何が異なるのでしょうか。企業においては、以前から、IT(情報技術)に多くの投資がなされてきました。ただし、これらのIT投資は、多くの場合、計算作業を含め、従来手作業で行っていた業務プロセスを、ITを活用することで、自動化、効率化することを目的としたものでした。

これに対して、DXにおいては、IT、あるいはデジタル技術を活用することにより、単に業務プロセスを自動化、効率化するだけではなく、前述の定義のとおり、新たな製品やサービスを創出すべく、ビジネスモデルの変革も求められます。

もちろん、IT投資により業務プロセスの効率化や、生産性の向上を図るには、既存のプロセスをそのままデジタル化するだけではなく、ビジネスプロセスの変革(BPR:Business Process Re-engineering)への取り組みも必要であることが、以前から指摘されていました。その意味で、DXの視点の必要性は、以前から指摘されているといえます。ただし、DXにおいては、単なる既存のビジネスプロセスの延長としてのIT投資ではなく、少なくとも、ビジネスモデルの変革につながるBPRを伴ったIT投資であることが求められます。

では、近年、DXへの関心が高まっているのは、なぜでしょうか。その背景には、20世紀半ばから始まったIT・デジタル技術の、継続的、かつ加速的な進展があります。従来は、ITを利用することで、PCなどから入力された数値データに基づいた計算や自動化を行い、業務プロセスの効率化や合理化を図るものが中心でした。これに対し、近年、インターネットやスマートフォン、クラウドはもちろんのこと、IoT技術、AI技術、ロボット技術など、新たなデジタル技術が、日に日に進展しています。その結果、これらの新たなデジタル技術を利用することによって、以前は想定できなかったような新たなビジネスモデルの構築や、ビジネスプロセスの改革が可能になっています。

このようなデジタル技術の加速的な進展によって、従来のITの活用(デジタイゼーション、デジタライゼーション)の範囲が拡充し、その結果、近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが可能になりました(図2)。デジタイゼーションは、デジタルを既存のビジネスプロセスの一部に取り入れて業務の効率化を図り、デジタライゼーションは、デジタル技術を活用しながらビジネスプロセスを改革することを指します。デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術を活用してビジネスプロセスの改革だけでなく、ビジネスモデルも改革し、新しいサービスを創出することを表しています。

図2:デジタル技術の進展によるDXの可能性の開拓

図2:デジタル技術の進展によるDXの可能性の開拓

3. DXの取り組みの必要性

DXへの関心が高まっているとして、企業はなぜ、DXに取り組む必要性があるのでしょうか。それは、デジタル技術の進展の中、DXは、全ての産業において、取り組みが求められるイノベーションの強力な手段となりつつあるためです。

いうまでもなく、各企業は市場の中で、既存の製品やサービスで競争するだけではなく、顧客に新たな付加価値を提供し、次なる競争優位を確保すべく、新製品やサービスの開発、既存ビジネスプロセスの効率化といったイノベーションに取り組み、競い合っています。逆にいえば、企業が競争優位を維持し続けるためには、他社に先んじて、常にイノベーションを起こし続けていくことが求められています。例えば、製造業においては、研究開発などを通じた新商品や、サービスの開発などが行われています。

このような中、前述のとおり、近年、デジタル技術は加速的に進展しており、単なるビジネスプロセスの自動化や効率化に利用されるだけでなく、各産業における新たなビジネスモデルの構築にも活用できるようになっています。また、デジタル技術は、インターネット系企業だけでなく、製造業を含む全ての産業が活用できる汎用技術です。そのため、全ての業界において、イノベーションを推進するための強力な手段になっています。その手段を活用するための取り組みが、DXなのです。

特に、デジタル技術によるイノベーションは、競争モデル自体をも変えつつあります。例えば、製造業の場合、これまではものを作って販売するというビジネスモデルが中心でした。しかし、今後は、デジタル技術を活用し、サービスを提供するというビジネスモデルが重要になります。同時に、インターネット系企業も参入するなど、産業構造や競争環境も激変するデジタルディスラプション(破壊・崩壊)の時代になってきます。

このように社会のデジタル化が進展する中で、企業が競争優位を維持し、生き残っていくためには、他社に先んじて、顧客に新たな付加価値を提供すべく、DXに取り組む必要があります。また、顧客に付加価値を提供していくということは、社会全体から見た場合、社会が抱える課題に対し、解決を提供するということとも表裏の関係にあります。企業においては、社会課題の解決に寄与するという観点からも、積極的にDXに取り組んでいくことが求められます(図3)。

図3:DXの取り組みの必要性(DXを巡る企業の競争・社会状況)

図3:DXの取り組みの必要性(DXを巡る企業の競争・社会状況)

いかがでしたか? 今回は、DXの経緯・定義から、これまでのIT投資との違い、DXへの取り組みの必要性を紹介しました。次回は、DXとイノベーションとの関係を整理するとともに、その分類を行い、分類ごとに内容を説明します。お楽しみに!

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